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シャドの話
僕の結末
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気がついたら僕は死んでいたのさ。不思議だろう?
覚えがないわけではないんだ。そう、少し気づくのが遅かっただけ。
聞きたいかい? 僕という人間の結末を。
あぁ、わかってる。君の顔が物語っているよ。聞きたくなど、ないだろうね。
何故ならこれは、僕の勝手な独白。物好きでなければ聞こうとも思わない、ほんの僅かな死への瞬間。
それでも、少しくらいは話させてよ。とてもとても退屈なんだ。
あの日は、溶かされそうなほどに眩しい晴天の日だった。僕の大嫌いな天気の日。
僕は珍しい場所に来ていたんだ。なんて言うんだっけ。
あぁ、「学校」だ。
周り中馬鹿みたいな話題で、ゲラゲラと気が狂ったように笑う喧噪の中で息をするのがとても苦しかった僕にとって、地獄のような場所で。だから、あまり頻繁には寄りついていなかった。
それなのに、その日は何故僕がその場所にいたのかって?
勉強しにきた? 違うよ、そんなものは家でも出来る。
かといって、周りと馴れ合いに来たわけでもなければ「先生」とやらに媚びを売りに来たわけでもない。
「い、嫌…来ないで!! こっちに来ないで!!」
潤んだ瞳で僕を見つめる同い年の少女。そう、わざわざ地獄のような「学校」に来た目的は、彼女にあった。
何故なら、彼女は僕にとってたった一人の「太陽」であり、唯一の「希望」だ。真っ暗闇の中にあった僕の人生に、光を差してくれた大切な大切な存在。
普段は「仕事」で忙しい彼女が、今日は珍しく「学校」に来ると風の噂で聞いたんだ。
そうと聞いたら、会わずにはいられないだろう?
だから僕は、地獄にも勇気を出して飛び込んだ。ただ、彼女に会うためだけに。
ちっぽけな勇気を出した甲斐もあったというものだ。
会いに来て、本当に良かった。
だってほら、見てごらんよ。
あんなにも涙を滲ませて、とても嬉しそうじゃないか。
きっと彼女も僕に会えて嬉しいんだ!
あぁ、どうして逃げるんだい? どうして僕から離れようとするんだい?
分かっているよ、きっと照れているんだね?
大丈夫、僕は分かっているからね。
本当の、君の気持ちを。
「ふふ、あはは。会いたかった。僕の、たった1人の太陽」
一歩、一歩、彼女と距離を縮めていく。そう、彼女が離れていくなら僕が近づけばいいんだ。
彼女の目はどんどん涙を滲ませていく。嫌だなぁ、そんなに喜ばれるとどうしたらいいかわからないじゃないか。
可愛いなぁ、こんなに愛らしい少女が存在してくれることをどうして僕はもっと早く気づかなかったのだろう!勿体無い!
「来ないでって言ってるでしょ!」
「来ないで? あはは、おかしなことを言うんだね」
僕から逃げる彼女、彼女を追いかける僕。楽しい楽しい追いかけっこはしばらく続いた。
周りの奴らは案外とお利口さんなんだろうね。僕と彼女の追いかけっこを微笑ましそうに見守ってくれているよ。
そう、邪魔だってさせないよ。何故なら僕と彼女は心を通わせているからさ!
彼女も僕の愛をわかってくれているはずだ。
彼女への愛をしたためた文を数え切れないくらい送り続けたし、会った日の教室では何度も目が合った。時には彼女に花を贈ったりもしたからね!
「君も、僕の愛がどれだけ深いものか分かってくれてるはずだよ。この世界でただ一人、僕は君だけを愛しているんだ。大事にしていたものを全て捨てられ、何もかもに絶望しかけた僕に、希望の光を見せてくれた君という存在を!」
追いかけっこが終わりを告げる。
真上には僕と彼女を照らす太陽が在る、青空。真下には、僕らを支える頑丈な床。遠くでは、知らない奴らがゲラゲラ笑う声がする。
ほんの少し冷たい風が、僕と彼女の肌を撫でる。
「一目見たときから、僕から君が離れなかった。僕にとって、君が大切な存在になった。掛け替えのない、生涯傍に置きたい存在になった! 君が画面越しに見せてくれる笑顔を、世に響かせる歌声を、僕だけのものにしたいって! 一日が過ぎれば過ぎるほど、僕は君への想いを募らせた! 何より君が欲しくなった!」
文では書ききれないほどに募り続けた想い。
君が欲しい。君の歌をいっまでも聴いていたい。ただ、ただ、「君を傍に置きたい」。
彼女への愛が溢れて、心臓が今にも破裂しそうだ。情けないな、男らしくないなんて笑われてしまうじゃないか!
僕の言葉を聞いた彼女は、涙を滲ませたまま下を向いてしまう。
何も、何も言い返してこない。あぁ、そうだね。きっと、そうなんだ。
嬉しすぎて、言葉も出てこなくなったんだね。逃げたり来ないでと言ったりしたと思えば今度はだんまりだなんて、可愛いなぁ!
「……よ」
「え?」
「いい加減にしてよ! あたしを追いかけ回して、そんなに楽しいの!?」
キッ、と僕を睨むような目つきをする彼女。あれ?
僕は怒らせてしまった……?
何故だろう。僕との追いかけっこは、つまらなかったのだろうか。それとも、僕の告白に何か問題でもあったのだろうか。
「あんたがあたしを「好き」だの「愛してる」だの言ったり、太陽だとか言って褒めちぎってきたりするたび、気持ち悪くて堪らない! 何でかわかる?気持ち悪いからよ! 久しぶりに友達に会えると思ってワクワクしながら登校したら、いつだって下駄箱も机の中もあんたからの気持ち悪い大量のラブレターばっかり! 学校にいる間中だってずっと視線を感じて嫌悪感しかなかった、花なんて置かれてた日にはどんな嫌がらせだよって正直憎たらしい気持ちしかなかった!」
あはは、彼女は何を言っているのかな。
気持ち悪いと照れ隠しだよね。照れ隠しなんだよね?あぁ、きっとそうに違いないんだ。
けれど、なんでこんなに心臓が押し潰されそうなんだろう。どうして、どうして、こんなに力が抜けていく感覚に襲われる?
「やだなあ、何言ってるの」
「あんたがあたしに対してどういう解釈をしてどう考えてるかなんて、あたしは知らない。けど、こればっかりは変な解釈しないで言葉通りに聞いて欲しいわ」
「あたしは、あんたを一度も好きだと思ったことなんてない。"この世で一番憎くて大っ嫌い“ !」
このよで、いちばん、にくくて、だいきらい。
おかしいな。どうしてかな。世界が反転していくようだ。一番聞いていたい彼女の声なのに。何より残したい「彼女の言葉」なのに。
彼女の言葉が僕の世界をぐちゃぐちゃにしていく。思考を奪っていく。
嘘だ、嘘だ。彼女が僕を嫌いだなんて。彼女が僕を憎いだなんて。
だって、だって、僕は彼女をこんなに愛しているんだよ? なのにどうして!何故!
理解できない頭、目の前がぐるぐると回るような感覚に襲われた僕。その足は、誰かに引っ張られているかのように後ろへ後ろへと下がっていく。
僕は全く理解していなかった。自分が今、どうなっているかなんて。彼女の顔も、段々と見えなくなって。
気がつけば、僕の体は逆さまになって、地に引っ張られていた。
最後に覚えているのは、自分の体が思い切り叩き付けられたような激しい痛みだけ――。
覚えがないわけではないんだ。そう、少し気づくのが遅かっただけ。
聞きたいかい? 僕という人間の結末を。
あぁ、わかってる。君の顔が物語っているよ。聞きたくなど、ないだろうね。
何故ならこれは、僕の勝手な独白。物好きでなければ聞こうとも思わない、ほんの僅かな死への瞬間。
それでも、少しくらいは話させてよ。とてもとても退屈なんだ。
あの日は、溶かされそうなほどに眩しい晴天の日だった。僕の大嫌いな天気の日。
僕は珍しい場所に来ていたんだ。なんて言うんだっけ。
あぁ、「学校」だ。
周り中馬鹿みたいな話題で、ゲラゲラと気が狂ったように笑う喧噪の中で息をするのがとても苦しかった僕にとって、地獄のような場所で。だから、あまり頻繁には寄りついていなかった。
それなのに、その日は何故僕がその場所にいたのかって?
勉強しにきた? 違うよ、そんなものは家でも出来る。
かといって、周りと馴れ合いに来たわけでもなければ「先生」とやらに媚びを売りに来たわけでもない。
「い、嫌…来ないで!! こっちに来ないで!!」
潤んだ瞳で僕を見つめる同い年の少女。そう、わざわざ地獄のような「学校」に来た目的は、彼女にあった。
何故なら、彼女は僕にとってたった一人の「太陽」であり、唯一の「希望」だ。真っ暗闇の中にあった僕の人生に、光を差してくれた大切な大切な存在。
普段は「仕事」で忙しい彼女が、今日は珍しく「学校」に来ると風の噂で聞いたんだ。
そうと聞いたら、会わずにはいられないだろう?
だから僕は、地獄にも勇気を出して飛び込んだ。ただ、彼女に会うためだけに。
ちっぽけな勇気を出した甲斐もあったというものだ。
会いに来て、本当に良かった。
だってほら、見てごらんよ。
あんなにも涙を滲ませて、とても嬉しそうじゃないか。
きっと彼女も僕に会えて嬉しいんだ!
あぁ、どうして逃げるんだい? どうして僕から離れようとするんだい?
分かっているよ、きっと照れているんだね?
大丈夫、僕は分かっているからね。
本当の、君の気持ちを。
「ふふ、あはは。会いたかった。僕の、たった1人の太陽」
一歩、一歩、彼女と距離を縮めていく。そう、彼女が離れていくなら僕が近づけばいいんだ。
彼女の目はどんどん涙を滲ませていく。嫌だなぁ、そんなに喜ばれるとどうしたらいいかわからないじゃないか。
可愛いなぁ、こんなに愛らしい少女が存在してくれることをどうして僕はもっと早く気づかなかったのだろう!勿体無い!
「来ないでって言ってるでしょ!」
「来ないで? あはは、おかしなことを言うんだね」
僕から逃げる彼女、彼女を追いかける僕。楽しい楽しい追いかけっこはしばらく続いた。
周りの奴らは案外とお利口さんなんだろうね。僕と彼女の追いかけっこを微笑ましそうに見守ってくれているよ。
そう、邪魔だってさせないよ。何故なら僕と彼女は心を通わせているからさ!
彼女も僕の愛をわかってくれているはずだ。
彼女への愛をしたためた文を数え切れないくらい送り続けたし、会った日の教室では何度も目が合った。時には彼女に花を贈ったりもしたからね!
「君も、僕の愛がどれだけ深いものか分かってくれてるはずだよ。この世界でただ一人、僕は君だけを愛しているんだ。大事にしていたものを全て捨てられ、何もかもに絶望しかけた僕に、希望の光を見せてくれた君という存在を!」
追いかけっこが終わりを告げる。
真上には僕と彼女を照らす太陽が在る、青空。真下には、僕らを支える頑丈な床。遠くでは、知らない奴らがゲラゲラ笑う声がする。
ほんの少し冷たい風が、僕と彼女の肌を撫でる。
「一目見たときから、僕から君が離れなかった。僕にとって、君が大切な存在になった。掛け替えのない、生涯傍に置きたい存在になった! 君が画面越しに見せてくれる笑顔を、世に響かせる歌声を、僕だけのものにしたいって! 一日が過ぎれば過ぎるほど、僕は君への想いを募らせた! 何より君が欲しくなった!」
文では書ききれないほどに募り続けた想い。
君が欲しい。君の歌をいっまでも聴いていたい。ただ、ただ、「君を傍に置きたい」。
彼女への愛が溢れて、心臓が今にも破裂しそうだ。情けないな、男らしくないなんて笑われてしまうじゃないか!
僕の言葉を聞いた彼女は、涙を滲ませたまま下を向いてしまう。
何も、何も言い返してこない。あぁ、そうだね。きっと、そうなんだ。
嬉しすぎて、言葉も出てこなくなったんだね。逃げたり来ないでと言ったりしたと思えば今度はだんまりだなんて、可愛いなぁ!
「……よ」
「え?」
「いい加減にしてよ! あたしを追いかけ回して、そんなに楽しいの!?」
キッ、と僕を睨むような目つきをする彼女。あれ?
僕は怒らせてしまった……?
何故だろう。僕との追いかけっこは、つまらなかったのだろうか。それとも、僕の告白に何か問題でもあったのだろうか。
「あんたがあたしを「好き」だの「愛してる」だの言ったり、太陽だとか言って褒めちぎってきたりするたび、気持ち悪くて堪らない! 何でかわかる?気持ち悪いからよ! 久しぶりに友達に会えると思ってワクワクしながら登校したら、いつだって下駄箱も机の中もあんたからの気持ち悪い大量のラブレターばっかり! 学校にいる間中だってずっと視線を感じて嫌悪感しかなかった、花なんて置かれてた日にはどんな嫌がらせだよって正直憎たらしい気持ちしかなかった!」
あはは、彼女は何を言っているのかな。
気持ち悪いと照れ隠しだよね。照れ隠しなんだよね?あぁ、きっとそうに違いないんだ。
けれど、なんでこんなに心臓が押し潰されそうなんだろう。どうして、どうして、こんなに力が抜けていく感覚に襲われる?
「やだなあ、何言ってるの」
「あんたがあたしに対してどういう解釈をしてどう考えてるかなんて、あたしは知らない。けど、こればっかりは変な解釈しないで言葉通りに聞いて欲しいわ」
「あたしは、あんたを一度も好きだと思ったことなんてない。"この世で一番憎くて大っ嫌い“ !」
このよで、いちばん、にくくて、だいきらい。
おかしいな。どうしてかな。世界が反転していくようだ。一番聞いていたい彼女の声なのに。何より残したい「彼女の言葉」なのに。
彼女の言葉が僕の世界をぐちゃぐちゃにしていく。思考を奪っていく。
嘘だ、嘘だ。彼女が僕を嫌いだなんて。彼女が僕を憎いだなんて。
だって、だって、僕は彼女をこんなに愛しているんだよ? なのにどうして!何故!
理解できない頭、目の前がぐるぐると回るような感覚に襲われた僕。その足は、誰かに引っ張られているかのように後ろへ後ろへと下がっていく。
僕は全く理解していなかった。自分が今、どうなっているかなんて。彼女の顔も、段々と見えなくなって。
気がつけば、僕の体は逆さまになって、地に引っ張られていた。
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