やみーず

黒野ユウマ

文字の大きさ
上 下
5 / 7
シャドの話

最下層の暗闇、遠き地の太陽

しおりを挟む
『「こんなつまらんものに現を抜かしている暇があるなら、勉学に励み精神を鍛えろ、強靭な体を作れ」

 そんなつまらない言葉を頭でっかちな脳みそで考え、僕に向かって吐き出すつまらない男。
 僕が欲しいと思って手に入れたものを全部取り上げては捨てていく。つまらなくて不愉快な男。
 その男は僕の父と名乗り、親心という名の皮を被った戯言を吐いていく。

 親が持つべき愛情など、この男からは微塵も感じられない。
 僕が唯一この男を「親」と思えるのは、血の繋がりを証明した書類を見た時とこの男が僕と同じ苗字であることを確認した時のみ。
 それ以外では、「父」を語るつまらなくて不愉快な男だとしか思えなかった。

「お前は私達夫婦の唯一の子、絶対に私の跡を継いでもらわなければならないのだ」

 自分の望みは叶えて欲しいくせに、僕の欲しいものは全て取り上げていく。自分勝手だ。
 この男のせいで、僕にとって世界がつまらない廃墟になっていった。

 ある日僕は考えた。あの男の目の見えるところにあるから取り上げられるんだ。
 僕だけにしか手を出せない場所に、欲しいものを隠してしまおう。それならあの男も取り上げては来ないだろう。
 僕にしか触れられない場所に。誰にも足を踏み入れられない場所に。
 そっとそっと閉じ込めて、誰にも触れられない場所で僕の大切なものを愛でよう。



 毎日くだらない事で笑い合うつまらないバラエティ、穢れた世の中しか映さないニュース番組、大してためにならない教育番組。
 テレビはつまらない番組ばかりで溢れている。けれど、つけるのとつけないのでは部屋の静けさは大分違う。
 僕の静かな部屋も、少しは賑やかになることだろう。普段は自分から進んでつけないテレビを、気分でつけてみた。


『こーんにーちはー!! みんな、元気にしてたかなー? ハルカちゃんね、今日はみんなに会えて、とっても嬉しいよー!!』

 ――久しぶりに見たテレビに映っていたのは、まさに「太陽」とも言える少女だった。

 陽の光に照らされたように眩い笑顔、明るいトーンの声、可愛らしい容姿。この子を見たのは初めてだけれど、たった数秒で心を奪われた。
 影で生きる僕を照らす太陽。彼女はとても遠いところで歌を歌い、この世界を光で染め上げていく。

 音に合わせて舞い、歌を紡ぐ彼女はとても美しかった。約3分間の彼女のオンステージを、僕はずっと目に焼き付けていた。
 地の底で虚無と共に、這うように生きている僕。最下層で呼吸をしている愚かな僕は太陽を欲した。

 ――今みたいに、僕のためだけに僕の傍で歌を歌ってほしい。僕の世界を照らしてほしい。

 つまらない世界に太陽の歌を。何も見えない暗闇に光を。乾いた心に潤いを。
 彼女の存在を傍に置くことが出来たなら、きっと僕の退屈な人生が嘘のように変貌するかもしれない。

 僕のためだけに僕の傍で歌って、僕に向かってだけ笑顔を向けて。
 僕の傍から離れないで。僕の部屋の窓辺でだけ囀って。僕の手の届くところだけにいて。

 誰にも取られないように。僕だけが大切に、大切に、独り占め出来るように。』






 ――これは、シャドの生前の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小説家の日常

くじら
キャラ文芸
くじらと皐月涼夜の中の人が 小説を書くことにしました。 自分達の周囲で起こったこと、 Twitter、pixiv、テレビのニュース、 小説、絵本、純文学にアニメや漫画など…… オタクとヲタクのため、 今、生きている人みんなに読んでほしい漫画の 元ネタを小説にすることにしました。 お時間のあるときは、 是非!!!! 読んでいただきたいです。 一応……登場人物さえ分かれば どの話から読んでも理解できるようにしています。 (*´・ω・)(・ω・`*) 『アルファポリス』や『小説家になろう』などで 作品を投稿している方と繋がりたいです。 Twitterなどでおっしゃっていただければ、 この小説や漫画で宣伝したいと思います(。・ω・)ノ 何卒、よろしくお願いします。

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

あやかし古都の九重さん~京都木屋町通で神様の遣いに出会いました~

卯月みか
キャラ文芸
旧題:お狐様派遣します~京都木屋町通一之船入・人材派遣会社セカンドライフ~ 《ワケあり美青年に見初められ、お狐様の相談係になりました》 失恋を機に仕事を辞め、京都の実家に帰ってきた結月。仕事と新居を探していたある日、結月は謎めいた美青年と出会った。彼の名は、九重さん。小さな派遣事務所を営んでいるという。「仕事を探してはるんやったら、うちで働いてみませんか?」思わぬ好待遇に惹かれ、結月は彼のもとで働くことを決める。けれどその事務所を訪れるのは、人間界で暮らしたい悩める狐たちで――神使の美青年×お人好し女子のゆる甘あやかしファンタジー!

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

処理中です...