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シャドの話
最下層の暗闇、遠き地の太陽
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『「こんなつまらんものに現を抜かしている暇があるなら、勉学に励み精神を鍛えろ、強靭な体を作れ」
そんなつまらない言葉を頭でっかちな脳みそで考え、僕に向かって吐き出すつまらない男。
僕が欲しいと思って手に入れたものを全部取り上げては捨てていく。つまらなくて不愉快な男。
その男は僕の父と名乗り、親心という名の皮を被った戯言を吐いていく。
親が持つべき愛情など、この男からは微塵も感じられない。
僕が唯一この男を「親」と思えるのは、血の繋がりを証明した書類を見た時とこの男が僕と同じ苗字であることを確認した時のみ。
それ以外では、「父」を語るつまらなくて不愉快な男だとしか思えなかった。
「お前は私達夫婦の唯一の子、絶対に私の跡を継いでもらわなければならないのだ」
自分の望みは叶えて欲しいくせに、僕の欲しいものは全て取り上げていく。自分勝手だ。
この男のせいで、僕にとって世界がつまらない廃墟になっていった。
ある日僕は考えた。あの男の目の見えるところにあるから取り上げられるんだ。
僕だけにしか手を出せない場所に、欲しいものを隠してしまおう。それならあの男も取り上げては来ないだろう。
僕にしか触れられない場所に。誰にも足を踏み入れられない場所に。
そっとそっと閉じ込めて、誰にも触れられない場所で僕の大切なものを愛でよう。
毎日くだらない事で笑い合うつまらないバラエティ、穢れた世の中しか映さないニュース番組、大してためにならない教育番組。
テレビはつまらない番組ばかりで溢れている。けれど、つけるのとつけないのでは部屋の静けさは大分違う。
僕の静かな部屋も、少しは賑やかになることだろう。普段は自分から進んでつけないテレビを、気分でつけてみた。
『こーんにーちはー!! みんな、元気にしてたかなー? ハルカちゃんね、今日はみんなに会えて、とっても嬉しいよー!!』
――久しぶりに見たテレビに映っていたのは、まさに「太陽」とも言える少女だった。
陽の光に照らされたように眩い笑顔、明るいトーンの声、可愛らしい容姿。この子を見たのは初めてだけれど、たった数秒で心を奪われた。
影で生きる僕を照らす太陽。彼女はとても遠いところで歌を歌い、この世界を光で染め上げていく。
音に合わせて舞い、歌を紡ぐ彼女はとても美しかった。約3分間の彼女のオンステージを、僕はずっと目に焼き付けていた。
地の底で虚無と共に、這うように生きている僕。最下層で呼吸をしている愚かな僕は太陽を欲した。
――今みたいに、僕のためだけに僕の傍で歌を歌ってほしい。僕の世界を照らしてほしい。
つまらない世界に太陽の歌を。何も見えない暗闇に光を。乾いた心に潤いを。
彼女の存在を傍に置くことが出来たなら、きっと僕の退屈な人生が嘘のように変貌するかもしれない。
僕のためだけに僕の傍で歌って、僕に向かってだけ笑顔を向けて。
僕の傍から離れないで。僕の部屋の窓辺でだけ囀って。僕の手の届くところだけにいて。
誰にも取られないように。僕だけが大切に、大切に、独り占め出来るように。』
――これは、シャドの生前の話である。
そんなつまらない言葉を頭でっかちな脳みそで考え、僕に向かって吐き出すつまらない男。
僕が欲しいと思って手に入れたものを全部取り上げては捨てていく。つまらなくて不愉快な男。
その男は僕の父と名乗り、親心という名の皮を被った戯言を吐いていく。
親が持つべき愛情など、この男からは微塵も感じられない。
僕が唯一この男を「親」と思えるのは、血の繋がりを証明した書類を見た時とこの男が僕と同じ苗字であることを確認した時のみ。
それ以外では、「父」を語るつまらなくて不愉快な男だとしか思えなかった。
「お前は私達夫婦の唯一の子、絶対に私の跡を継いでもらわなければならないのだ」
自分の望みは叶えて欲しいくせに、僕の欲しいものは全て取り上げていく。自分勝手だ。
この男のせいで、僕にとって世界がつまらない廃墟になっていった。
ある日僕は考えた。あの男の目の見えるところにあるから取り上げられるんだ。
僕だけにしか手を出せない場所に、欲しいものを隠してしまおう。それならあの男も取り上げては来ないだろう。
僕にしか触れられない場所に。誰にも足を踏み入れられない場所に。
そっとそっと閉じ込めて、誰にも触れられない場所で僕の大切なものを愛でよう。
毎日くだらない事で笑い合うつまらないバラエティ、穢れた世の中しか映さないニュース番組、大してためにならない教育番組。
テレビはつまらない番組ばかりで溢れている。けれど、つけるのとつけないのでは部屋の静けさは大分違う。
僕の静かな部屋も、少しは賑やかになることだろう。普段は自分から進んでつけないテレビを、気分でつけてみた。
『こーんにーちはー!! みんな、元気にしてたかなー? ハルカちゃんね、今日はみんなに会えて、とっても嬉しいよー!!』
――久しぶりに見たテレビに映っていたのは、まさに「太陽」とも言える少女だった。
陽の光に照らされたように眩い笑顔、明るいトーンの声、可愛らしい容姿。この子を見たのは初めてだけれど、たった数秒で心を奪われた。
影で生きる僕を照らす太陽。彼女はとても遠いところで歌を歌い、この世界を光で染め上げていく。
音に合わせて舞い、歌を紡ぐ彼女はとても美しかった。約3分間の彼女のオンステージを、僕はずっと目に焼き付けていた。
地の底で虚無と共に、這うように生きている僕。最下層で呼吸をしている愚かな僕は太陽を欲した。
――今みたいに、僕のためだけに僕の傍で歌を歌ってほしい。僕の世界を照らしてほしい。
つまらない世界に太陽の歌を。何も見えない暗闇に光を。乾いた心に潤いを。
彼女の存在を傍に置くことが出来たなら、きっと僕の退屈な人生が嘘のように変貌するかもしれない。
僕のためだけに僕の傍で歌って、僕に向かってだけ笑顔を向けて。
僕の傍から離れないで。僕の部屋の窓辺でだけ囀って。僕の手の届くところだけにいて。
誰にも取られないように。僕だけが大切に、大切に、独り占め出来るように。』
――これは、シャドの生前の話である。
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