僕と私と紙飛行機

黒野ユウマ

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第三話

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 帰り道の土手で出会った、変な二等辺三角形の物体を作った女──神無月 エリ。
家に帰った後も勉学に勤しむ予定だった、そんな僕に神無月は「一緒に遊びましょうよ~!」とうるさくせがんでいた。

 ……いくら反論しても聞かなそうなこの女に、僕は諦めをつけ、今はノートを破った紙を一枚手にこの女の遊びに付き合っている。

「まずは紙を半分に折って……」
「……こうか?」
「はい!」

 目の前で実演をしながら、変な二等辺三角形の物体の作り方を解説する神無月。元々何事にも手を抜くことのない僕は、こういう時も他人の解説を一言一句聞き漏らさぬよう耳を傾け、そして動かす手をじっと見て確認しながらゆっくりと手を動かしている。
 クソ真面目な奴、とよく他人には言われたものだが──不誠実、不真面目、自堕落よりはマシだと思いたい。


「……で、最後にここを平らにしたら……」
「……これで完成か?」
「はい! お見事です!!」

 神無月の指導のおかげで、五分とかからず僕は二等辺三角形の物体を作り上げることができた。
紙を折るだけで出来る、手軽な玩具といったところだろうか。紙を折って作って、飛ばして遊ぶ。ただそれしか出来ないものだろうが、今時の玩具を買うのに手が出ない子どもには良いかもしれない。

「ちなみに、これはなんて言うやつなんだ」
「これは、"紙飛行機"って言うんですよ。さっき私がやったように、前に向かって投げてぴゅーんって飛ばして遊ぶやつなんですよ」
「……それが楽しいのか?」
「燐さんもやってみれば分かりますよ!」

 早く早くと言わんばかりに、わくわくした様子で僕の手元を見る神無月。
今のご時世、(僕はよく知らないが)遊びなんてそこかしこに溢れているだろうに……折り紙で遊ぶ高校生など、僕は見たことがない。
特に女子は、友達同士で遊びに行ったりスマホをいじって何か見ていたり、そういう奴が多く見られる。

 ……珍しいタイプなのだろうか、神無月エリという女は。女子のことなど、僕はよく知らないが。
とりあえず、言われた通りに紙飛行機を前に投げて飛ばしてみることにした。

「……。」
「あら~」

 ひょいっ、と投げた直後……すぐに墜落した、紙飛行機。
三歩先くらいのところで落ちてしまった紙飛行機を拾い上げ、もう一度投げ飛ばしてみる。
理想としては、3秒でも長く宙に浮いててほしいものなのだが──現実はそうもいかず、1秒ちょっとですぐ墜落してしまう。

「……なかなか上手くいかないな」
「ふふっ、結構難しいでしょう? だから面白いんですよ! どうやったら長く飛べるようになるんだろうなぁって考えながら何度も飛ばしてチャレンジして……少しでも長く飛べたら、万々歳! これが楽しくて、高校入ってからはずーっとコレで遊んでます、私」

 まるで無邪気な子どものような、爛々と輝く瞳で語る神無月。つまるところ、こいつは紙飛行機を飛ばしながらトライ&エラーをも楽しんでいるということになるのだろうか。

 失敗したら、またチャレンジして。成功したら、大きく喜んで。
勉強、勉強、勉強……勉強漬けで失敗も許されない僕とは正反対で、尚且つ僕の知る女子とも全くタイプが違う気がする、どこか珍しさのある女。
今までの人生で感じたことのなかった刺激を、今ここで受けている──そんな気が、している。

 紙飛行機という未知の物体に、神無月エリという初めての存在。
初めて受けた二つの刺激に少し戸惑いを感じながら、僕は神無月と共に紙飛行機をずっと飛ばし続けていた。
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