僕と私と紙飛行機

黒野ユウマ

文字の大きさ
上 下
2 / 4

第二話

しおりを挟む

「ごめんなさーい!! それ、投げたの私です~!!」

 そう早くもない足取りで駆け寄ってくるのは、見たことのない制服の女子だった。

 黒の三つ編みに緑色の丸い瞳、襟・袖・裾を灰色のラインでシンプルに飾った黒のセーター、紺色のスカートに胸元には赤いリボン。
……とりあえず、うちの学校の女子ではない。我が校の女子の制服は、茶色のブレザーに黒のスカートだ。
恐らくは別の学校の女子なのだろうが、一体どこの女子なのだろう。顔も声も、全く覚えがない。

「……これの持ち主か?」
「はい! 家に帰るまで適当に時間を潰そうと思って投げてたんです」
「そうか。誰かに向かってでなくとも、物を投げるときはきっちりコントロールしておくことだな」

 そう返答をしながら、奇妙な折り紙?を返す。
僕の言い方が気に入らなかったのか、見知らぬ女子は唐突にぷくっと頬を膨らませ、

「コントロールしておけって、簡単に言わないでくださいよ~! 風向きとかで行き先が変わっちゃうから難しいんですって!」

 と、少々声を張り上げた。怒っているつもり……なのだろうか。それにしたって全く怖くないのだが。
母さんや父さん、先生達はこんな威圧感一つない怒り方など絶対しない。寧ろ怒られている気がしなくて、気が抜けてしまうくらいだ。

「……というより、それはそもそも何なんだ。折り紙か?」

 折り紙と思わしき二等辺三角形の物を指さして尋ねる。
純粋に疑問に思って言っただけなのだが……三つ編みの女子は怒り顔から一変――目を丸くしたかと思えば、

「ぷ、……あははっ!! 初めてされましたよ~そんな質問!! 本当に、これ知らないんですか?」

 ……何故か、大笑いされた。
「へそで茶を沸かす」と同意の笑いなのか、それとも純粋に僕が言ったことが面白かったのか……。
それは分からないが、どちらにしてもあまり良い気持ちはしない。自分でも顔が強張っているのが分かった。

「し、知らないから尋ねたんだろう! 恥ずかしいながら、僕はまともに折り紙なんてしたことがないんだ! 悪かったな!」
「あはは、ごめんなさい。大体の人はこれの存在くらいは知ってるものですから、びっくりしちゃいまして!」

 未だに笑いを止めない、見知らぬ女子。ここまで笑われると、勉強ばかりしてきた自分がとてつもないくらい恥ずかしくなる。
 腹がよじれてしまうんじゃないかというくらい、しばらく女子は笑い続けていたが――ひとしきり笑い終えると、笑いすぎで出たであろう涙を拭いながらにっこりと微笑んだ。

「せっかくですし、私がこれのこと教えてあげますよ! せっかくですし、一緒に遊びましょう!」
「い、いや、それは……僕はこれから家に帰って勉強が」
「え~、いいじゃないですか少しくらい!」
「僕は忙しいんだ! 今日受けた授業の総復習をしなければいけないというのに……」
「お兄さん……紙飛行機も知らないって事は相当ガリ勉なんですね? そんなの疲れちゃいますよ、ちょっと休みましょうよ!! ……そうそう、私、神無月エリっていいます!」

 子どもが浮かべるような、無邪気な笑みを浮かべながら自己紹介をする女子――神無月エリ。
この調子だと、僕の話を聞く様子は無さそうだ。これはただの直感だが、言ったところで簡単には帰してくれなさそうな予感がする。
時計を見れば、かろうじて時間は16:10――少し過ぎても、急いで帰ればいつもの時間には間に合うだろう。


「……麗月 燐だ」

 諦め半分、少しくらい付き合ってやるか――そう心の中で盛大なため息をつきながら、神無月エリに名を名乗った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美術室のあの子

まちよ
青春
中学2年の石田瑞樹は人と話すのが得意ではなかった。 しかし彼はある人に惹かれていた。まだあったことのない美術室のあの子に。 瑞樹の恋はどうなるのか。

フツリアイな相合傘

月ヶ瀬 杏
青春
幼少期の雨の日のトラウマから、雨が苦手な和紗。 雨の日はなるべく人を避けて早く家に帰りたいのに、あるできごとをキッカケに同じクラスの佐尾が関わってくるようになった。 佐尾が声をかけてくるのは、決まって雨の日の放課後。 初めはそんな佐尾のことが苦手だったけれど……

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

あの虹をもう一度 ~アカシック・ギフト・ストーリー~

花房こはる
青春
「アカシック・ギフト・ストーリー」シリーズ第8弾。 これは、実際の人の過去世(前世)を一つのストーリーとして綴った物語です。 多忙の父母の代わりに連は乳母に育てられた。その乳母も怪我がもとで田舎に帰ってしまう。 数年後、学校の長期休みを期に乳母の田舎へと向かう。 そこで出会った少年ジオと共に今まで経験したことのないたくさんのことを学ぶ。 歳月は流れ、いつしかそのジオとも連絡がつかなくなり・・・。

土俵の華〜女子相撲譚〜

葉月空
青春
土俵の華は女子相撲を題材にした青春群像劇です。 相撲が好きな美月が女子大相撲の横綱になるまでの物語 でも美月は体が弱く母親には相撲を辞める様に言われるが美月は母の反対を押し切ってまで相撲を続けてる。何故、彼女は母親の意見を押し切ってまで相撲も続けるのか そして、美月は横綱になれるのか? ご意見や感想もお待ちしております。

処理中です...