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第二話
しおりを挟む「ごめんなさーい!! それ、投げたの私です~!!」
そう早くもない足取りで駆け寄ってくるのは、見たことのない制服の女子だった。
黒の三つ編みに緑色の丸い瞳、襟・袖・裾を灰色のラインでシンプルに飾った黒のセーター、紺色のスカートに胸元には赤いリボン。
……とりあえず、うちの学校の女子ではない。我が校の女子の制服は、茶色のブレザーに黒のスカートだ。
恐らくは別の学校の女子なのだろうが、一体どこの女子なのだろう。顔も声も、全く覚えがない。
「……これの持ち主か?」
「はい! 家に帰るまで適当に時間を潰そうと思って投げてたんです」
「そうか。誰かに向かってでなくとも、物を投げるときはきっちりコントロールしておくことだな」
そう返答をしながら、奇妙な折り紙?を返す。
僕の言い方が気に入らなかったのか、見知らぬ女子は唐突にぷくっと頬を膨らませ、
「コントロールしておけって、簡単に言わないでくださいよ~! 風向きとかで行き先が変わっちゃうから難しいんですって!」
と、少々声を張り上げた。怒っているつもり……なのだろうか。それにしたって全く怖くないのだが。
母さんや父さん、先生達はこんな威圧感一つない怒り方など絶対しない。寧ろ怒られている気がしなくて、気が抜けてしまうくらいだ。
「……というより、それはそもそも何なんだ。折り紙か?」
折り紙と思わしき二等辺三角形の物を指さして尋ねる。
純粋に疑問に思って言っただけなのだが……三つ編みの女子は怒り顔から一変――目を丸くしたかと思えば、
「ぷ、……あははっ!! 初めてされましたよ~そんな質問!! 本当に、これ知らないんですか?」
……何故か、大笑いされた。
「へそで茶を沸かす」と同意の笑いなのか、それとも純粋に僕が言ったことが面白かったのか……。
それは分からないが、どちらにしてもあまり良い気持ちはしない。自分でも顔が強張っているのが分かった。
「し、知らないから尋ねたんだろう! 恥ずかしいながら、僕はまともに折り紙なんてしたことがないんだ! 悪かったな!」
「あはは、ごめんなさい。大体の人はこれの存在くらいは知ってるものですから、びっくりしちゃいまして!」
未だに笑いを止めない、見知らぬ女子。ここまで笑われると、勉強ばかりしてきた自分がとてつもないくらい恥ずかしくなる。
腹がよじれてしまうんじゃないかというくらい、しばらく女子は笑い続けていたが――ひとしきり笑い終えると、笑いすぎで出たであろう涙を拭いながらにっこりと微笑んだ。
「せっかくですし、私がこれのこと教えてあげますよ! せっかくですし、一緒に遊びましょう!」
「い、いや、それは……僕はこれから家に帰って勉強が」
「え~、いいじゃないですか少しくらい!」
「僕は忙しいんだ! 今日受けた授業の総復習をしなければいけないというのに……」
「お兄さん……紙飛行機も知らないって事は相当ガリ勉なんですね? そんなの疲れちゃいますよ、ちょっと休みましょうよ!! ……そうそう、私、神無月エリっていいます!」
子どもが浮かべるような、無邪気な笑みを浮かべながら自己紹介をする女子――神無月エリ。
この調子だと、僕の話を聞く様子は無さそうだ。これはただの直感だが、言ったところで簡単には帰してくれなさそうな予感がする。
時計を見れば、かろうじて時間は16:10――少し過ぎても、急いで帰ればいつもの時間には間に合うだろう。
「……麗月 燐だ」
諦め半分、少しくらい付き合ってやるか――そう心の中で盛大なため息をつきながら、神無月エリに名を名乗った。
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