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第一話
しおりを挟むこの世はつまらないことばかりだと、何度思ったことだろう。
「理想的な人生」「理想的な大人」「理想的な息子」それらを会得するために、僕は勉強ばかりさせられる。
良い大学に行けるようにと進学校に入学させられた僕は毎日勉強漬けで、学校にいても家にいても変わらない毎日を送っていた。
教科書と文具とノートが友達だといわんばかり、きっと今の僕にとって妻となっているのは教科書の中の数式かもしれない。
毎日勉強をすることに対しては、嫌だの好きだだのというよりも──もう、「慣れ」「諦め」しかない。ただの単純作業だ。
小学校でも中学校でも基礎はしっかり抑えてきた、そのおかげで学校の勉強も難なくついていけている。
テストでは毎回満点、成績の順位も一位を死守している。親にも教師にも褒め称えられ、この調子でいけば有名大学も夢じゃないと拍手までされたくらいだ。
「やっぱり燐はお父さんに似て優秀ね。学力も体育も文句無しの高成績、お母さんも鼻が高いわ」
「……ありがとう、母さん」
……順調、なのだろう。「理想的な大人」を目指すのであれば。
けれど、何か満たされない。どれだけ周りに褒められても、心の中はどこか空っぽだ。
勉強漬けの毎日に、飽き飽きしているのだろうか。
周りは友達同士で遊んでいたり、彼女がいたり。毎日楽しそうに笑っているというのに、僕の顔はいつも同じで。
……きっと、表情筋が死んでいるかもしれない。
帰路を辿る時間と眠りにつく時間には、虚無感ばかりが襲いかかってきて。つまらない、と心の中で繰り返して一日が過ぎていくばかりだった。
(今日もいつも通り終わったな)
早めに登校して、授業を受けて、昼休みに午前中の授業の復習をして、放課後は図書室で午後の授業の復習をして。
ペンとノートを手放さない一日が、夕暮れとともに終えていく。オレンジと赤の空が、虚しさを抱く僕を淡く照らしていた。
(本当に、このままでいいんだろうか)
理想的な人生を歩めるなら、それに越したことはないのかもしれない。
就職して安定した収入を得て、良き妻を娶り、子どもを立派に育て、安定した老後を送る。山や谷はあれど、そうして生きていくのが一般的な理想だ、母や父もよく言っている。
けれど、この虚しさは何なのだろう。
今の生活に、疑問を感じてばかりだ。勉強しかまともにしてこなかったのが仇になってしまっている……。
(かといって、何をすればいいんだろう)
今更、他にやりたいことも思い浮かばない。どう探したらいいのかもわからない。
勉強漬けの毎日の中で、友達というものすらいたことがない僕だ。他人に尋ねようにも、どう尋ねれば正解なのだろう。
なかなか答えの出ない数式を解かされているかのような、ぐるぐるとした疑問と感情。解を出せないまま、時間だけが過ぎていく。
「っ……。 ……何だ、これは?」
夕日の光に照らされた静かな土手を歩いている最中、僕の頭に小さく尖った"何か"が軽くぶつかった。
尖っている、とはいえど刃物のように鋭利なものではない。ひらひらと落ちたそれを拾ってみれば、破られた真っ白なノートを折って作られた二等変三角形の何かだった。
(折り紙、というやつか?)
繰り返すが、僕は勉強以外のものをまともに長くやったことは一度もない。故に、これが何なのかもわからない。
変わった形に折られたノートの紙を広げ、折り目を観察していると──
「ごめんなさーい!! それ、投げたの私です~!!」
──見たことない制服の女子が一人、僕の元へと向かっていた。
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