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第六.五章 高校最後の夏休み
第二話 集、合……?
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晴れ渡った青い空。少し突き刺すような太陽の光。
まさに真夏日和だという今日……とうとう旅行の日がやってきた。
叔父さんの送迎で集合場所の駅まで向かえば、もう既にボク以外のメンバーは集まっている様子だった。
「んー、いい天気……すぎるけど、お出かけ日和だね!」
「そうね、雨が降るよりはマシってもんだわ」
ショートパンツ姿の黒葛原さんに、ミニスカート姿の窓雪さん。いつもより露出の多い服装に、ちょっとした夏らしさを感じる。
ボクの隣に来た影人さんは長袖捲りで少し暑そうだけれど……まあ、彼の場合は毎年のことだ。意地でも半袖を着た姿は見た事がない。
「うむ、まあ少し暑いくらいが夏らしくてよか」
「暑すぎて死ぬくらいなんだけど……。っていうかさ……
なんでそいつがちゃっかりついてきてんの?」」
眉間に皺を寄せ、完全に不機嫌モードの影人さんが三栗谷先生の隣を指さす。
影人さんの指先にいるのは、黒髪に金色の瞳の男――
「え~? 俺いちゃ駄目?」
……千万 光さんだった。
眉を下げてケラケラ笑う彼の表情を見て、影人さんの表情が一層不機嫌な色に染まる。
「どの面下げて俺らの中に入ってきたわけ? ……っていうか、お前も許可したの?」
「あぁ、影人と不破の友達と言うからの。高校生活最後の思い出作りに自分も一緒に行きたい、と言われたのじゃ」
優しそうな笑みを浮かべ、三栗谷先生が言う。……恐らくこの様子だと、影人さんと千万さんの関係を全く知らないのだろう。
もし、彼が影人さんと千万さんの間柄を知っているのなら、同行だって許可しないはずだ。
……とはいっても、そもそも彼には「先生」という立場がある。
生徒に対して公平であるべき立場で、そういった私情を挟むことは難しいかもしれない。
(まぁ、ボクら四人とプライベートでも付き合ってることがそもそも凄いとは思うんだけど……)
「窓雪と黒葛原も、いいかの?」
「う~ん……ま、まあ、私は大丈夫……かな? 美影ちゃんは?」
「あたしらの間を変に引っ掻き回さないなら」
「え? 君達二人もしかしてデキてるの? 大丈夫だよ~、俺は間に割り込むような悪い男じゃないから」
「そ、そういうことじゃないっつーの!!」
からかい調子で話す千万さんの言葉に、顔を赤くして怒鳴る黒葛原さん。勢い余って足を振り上げるも、華麗にかわされてしまった。
「あはは……げ、元気ですね黒葛原さん……」
「……よく言うよ、間に割り込まないとか」
その様子を苦笑しながら見ていると、隣で影人さんが1オクターブ低い声で言う。
あれから彼も影人さんへの嫌がらせはぱたりと止めたことだし、大丈夫……とは思うのだが。確かに不安がないわけではない。
(かといって、今更三栗谷先生に説明するのも大変なんだけど……)
……三栗谷先生も完全に彼を「ボクらの友達」と思い込んでいる。今さらまたあのことを蒸し返して、やっと平和になったこの状況を壊すのもどうなのだろうか。
しかも今は受験勉強真っ只中のクソ忙しい時期だ、これ以上変なトラブルを抱え込みたくはない。
「ね、ダメかな~? 蛍君?」
「……。まぁ、別にいいですけど……」
「はぁ? 蛍、本気で……」
「ふふ、ありがとうね~蛍君♪」
ボクが(半ば渋々)了承すると、千万さんが嬉しそうにボクの手を両手で包み込む。そんな様子を見ていた影人さんは眉間のシワをさらに深くした。
……気のせいだろうか……千万さんが、めちゃくちゃ楽しそうに笑って見えるのは……。
「ひとまずは、ここから新幹線に乗って現地まで向かう。千万の分もどうにか追加で席の予約が取れたから、二人ずつ座れるぞ」
「あ、それでね! 私、今日席のくじ引き作ってきたんだ~」
じゃん、と言いながら窓雪さんが鞄から出したのは、あみだくじが書かれた小さなメモ帳だった。選択肢は5本分あり、最後尾には「1」「2」「2」「1」「0」と書かれている。
「最初は五人の予定だったから、「0」を引いた人が一人席……って予定だったんだけど。今日は「0」を引いた人が千万君の隣ってことで」
「なるほどね~。窓雪さん、だっけ? 準備がいいね」
「ふふふ、ありがとう」
少し嬉しそうにお礼を言いつつ、窓雪さんが最後尾の部分を折りたたむ。窓雪さんからペンを渡された黒葛原さんや三栗谷先生が選択肢を選んでいく中、影人さんがぽそりと
「……これであいつと蛍が隣同士になったら一生呪う……」
……と、呟いているのを聞いてしまった。
あまりにも怖いので聞かなかったことにしたいが、ばっちり聞こえてしまったため脳内からは離れられそうにない……。
(まぁ、気持ちはわかりますけど……)
一生呪う、とまではいかずとも。ボクも影人さんと隣になれなかったら残念だな、くらいは思う。
そう思いつつ、余った選択肢に丸をつける。窓雪さんに手渡せば、「それじゃあ結果発表~」とにこにこ顔の彼女が紙を開いた。
「えーと……美影ちゃんと私が1!」
「本当!? やったわケイちゃん!」
「わっ……ふふ、私も美影ちゃんの隣で嬉しいよ~」
黒葛原さんが嬉しさのあまりか、ぎゅっと窓雪さんに抱きつく。少し恥ずかしそうにしつつも、窓雪さんも満更ではなさそう……に、見えた。
こうして見ると、本当に仲のいい友達同士になったんだなと思える。女子同士の間柄はよくわからないけれど、モモとリカと呼んでいたあの二人よりも黒葛原さんとの方がかなり距離が縮まっているんじゃないだろうか……。
「えーと、それから……先生と黒崎君が2、だね」
「おぉ……影人と隣同士か。それは嬉しいのう」
「は? 勘弁してほしいんだけど? ……っていうか、その結果だと蛍は……」
影人さんの不機嫌モードが一層深まっていく。
ペアが決まったのは窓雪さんと黒葛原さん、三栗谷先生と影人さんの四人だ。
その結果、余ったのはボク一人だ。……そうなると。
「あ、俺の隣もしかして蛍君? いや~、嬉しいなぁ」
「あ、あぁ……よ、よろしくお願いします……?」
光、という名前に相応しいほど輝かしい笑顔で千万さんが言う。そんなにボクの隣が嬉しい……の、だろうか?
恐る恐る、影人さんの方を振り向いてみれば……
「……窓なんとか、一生呪う……」
……と、また恐ろしいことを呟いているのが聞こえてしまった。さすがに冗談だと思いたいところだが、彼の目は本気と書いてマジだ……。
(この旅行、平穏無事に終わるかなぁ……)
――ほんの少し不安を抱えつつ、新幹線までは影人さんの隣を歩くことにした。
まさに真夏日和だという今日……とうとう旅行の日がやってきた。
叔父さんの送迎で集合場所の駅まで向かえば、もう既にボク以外のメンバーは集まっている様子だった。
「んー、いい天気……すぎるけど、お出かけ日和だね!」
「そうね、雨が降るよりはマシってもんだわ」
ショートパンツ姿の黒葛原さんに、ミニスカート姿の窓雪さん。いつもより露出の多い服装に、ちょっとした夏らしさを感じる。
ボクの隣に来た影人さんは長袖捲りで少し暑そうだけれど……まあ、彼の場合は毎年のことだ。意地でも半袖を着た姿は見た事がない。
「うむ、まあ少し暑いくらいが夏らしくてよか」
「暑すぎて死ぬくらいなんだけど……。っていうかさ……
なんでそいつがちゃっかりついてきてんの?」」
眉間に皺を寄せ、完全に不機嫌モードの影人さんが三栗谷先生の隣を指さす。
影人さんの指先にいるのは、黒髪に金色の瞳の男――
「え~? 俺いちゃ駄目?」
……千万 光さんだった。
眉を下げてケラケラ笑う彼の表情を見て、影人さんの表情が一層不機嫌な色に染まる。
「どの面下げて俺らの中に入ってきたわけ? ……っていうか、お前も許可したの?」
「あぁ、影人と不破の友達と言うからの。高校生活最後の思い出作りに自分も一緒に行きたい、と言われたのじゃ」
優しそうな笑みを浮かべ、三栗谷先生が言う。……恐らくこの様子だと、影人さんと千万さんの関係を全く知らないのだろう。
もし、彼が影人さんと千万さんの間柄を知っているのなら、同行だって許可しないはずだ。
……とはいっても、そもそも彼には「先生」という立場がある。
生徒に対して公平であるべき立場で、そういった私情を挟むことは難しいかもしれない。
(まぁ、ボクら四人とプライベートでも付き合ってることがそもそも凄いとは思うんだけど……)
「窓雪と黒葛原も、いいかの?」
「う~ん……ま、まあ、私は大丈夫……かな? 美影ちゃんは?」
「あたしらの間を変に引っ掻き回さないなら」
「え? 君達二人もしかしてデキてるの? 大丈夫だよ~、俺は間に割り込むような悪い男じゃないから」
「そ、そういうことじゃないっつーの!!」
からかい調子で話す千万さんの言葉に、顔を赤くして怒鳴る黒葛原さん。勢い余って足を振り上げるも、華麗にかわされてしまった。
「あはは……げ、元気ですね黒葛原さん……」
「……よく言うよ、間に割り込まないとか」
その様子を苦笑しながら見ていると、隣で影人さんが1オクターブ低い声で言う。
あれから彼も影人さんへの嫌がらせはぱたりと止めたことだし、大丈夫……とは思うのだが。確かに不安がないわけではない。
(かといって、今更三栗谷先生に説明するのも大変なんだけど……)
……三栗谷先生も完全に彼を「ボクらの友達」と思い込んでいる。今さらまたあのことを蒸し返して、やっと平和になったこの状況を壊すのもどうなのだろうか。
しかも今は受験勉強真っ只中のクソ忙しい時期だ、これ以上変なトラブルを抱え込みたくはない。
「ね、ダメかな~? 蛍君?」
「……。まぁ、別にいいですけど……」
「はぁ? 蛍、本気で……」
「ふふ、ありがとうね~蛍君♪」
ボクが(半ば渋々)了承すると、千万さんが嬉しそうにボクの手を両手で包み込む。そんな様子を見ていた影人さんは眉間のシワをさらに深くした。
……気のせいだろうか……千万さんが、めちゃくちゃ楽しそうに笑って見えるのは……。
「ひとまずは、ここから新幹線に乗って現地まで向かう。千万の分もどうにか追加で席の予約が取れたから、二人ずつ座れるぞ」
「あ、それでね! 私、今日席のくじ引き作ってきたんだ~」
じゃん、と言いながら窓雪さんが鞄から出したのは、あみだくじが書かれた小さなメモ帳だった。選択肢は5本分あり、最後尾には「1」「2」「2」「1」「0」と書かれている。
「最初は五人の予定だったから、「0」を引いた人が一人席……って予定だったんだけど。今日は「0」を引いた人が千万君の隣ってことで」
「なるほどね~。窓雪さん、だっけ? 準備がいいね」
「ふふふ、ありがとう」
少し嬉しそうにお礼を言いつつ、窓雪さんが最後尾の部分を折りたたむ。窓雪さんからペンを渡された黒葛原さんや三栗谷先生が選択肢を選んでいく中、影人さんがぽそりと
「……これであいつと蛍が隣同士になったら一生呪う……」
……と、呟いているのを聞いてしまった。
あまりにも怖いので聞かなかったことにしたいが、ばっちり聞こえてしまったため脳内からは離れられそうにない……。
(まぁ、気持ちはわかりますけど……)
一生呪う、とまではいかずとも。ボクも影人さんと隣になれなかったら残念だな、くらいは思う。
そう思いつつ、余った選択肢に丸をつける。窓雪さんに手渡せば、「それじゃあ結果発表~」とにこにこ顔の彼女が紙を開いた。
「えーと……美影ちゃんと私が1!」
「本当!? やったわケイちゃん!」
「わっ……ふふ、私も美影ちゃんの隣で嬉しいよ~」
黒葛原さんが嬉しさのあまりか、ぎゅっと窓雪さんに抱きつく。少し恥ずかしそうにしつつも、窓雪さんも満更ではなさそう……に、見えた。
こうして見ると、本当に仲のいい友達同士になったんだなと思える。女子同士の間柄はよくわからないけれど、モモとリカと呼んでいたあの二人よりも黒葛原さんとの方がかなり距離が縮まっているんじゃないだろうか……。
「えーと、それから……先生と黒崎君が2、だね」
「おぉ……影人と隣同士か。それは嬉しいのう」
「は? 勘弁してほしいんだけど? ……っていうか、その結果だと蛍は……」
影人さんの不機嫌モードが一層深まっていく。
ペアが決まったのは窓雪さんと黒葛原さん、三栗谷先生と影人さんの四人だ。
その結果、余ったのはボク一人だ。……そうなると。
「あ、俺の隣もしかして蛍君? いや~、嬉しいなぁ」
「あ、あぁ……よ、よろしくお願いします……?」
光、という名前に相応しいほど輝かしい笑顔で千万さんが言う。そんなにボクの隣が嬉しい……の、だろうか?
恐る恐る、影人さんの方を振り向いてみれば……
「……窓なんとか、一生呪う……」
……と、また恐ろしいことを呟いているのが聞こえてしまった。さすがに冗談だと思いたいところだが、彼の目は本気と書いてマジだ……。
(この旅行、平穏無事に終わるかなぁ……)
――ほんの少し不安を抱えつつ、新幹線までは影人さんの隣を歩くことにした。
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