夜影の蛍火

黒野ユウマ

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夜影の蛍火 姫始め2022(※)

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※ムーンライトノベルズ様の「姫初め2022」企画に投稿させていただいたものです。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「影人さーん」
「んー……」
「影人さんってば」


 ── 1月2日、年が明けてから1日経った朝。
世間は活動を始める頃だと言うのに、彼は未だ夢と現の狭間をさ迷っている。
揺すれど揺すれど、変わった反応を示すことはない。むにゃむにゃと、寝言のような何かを口にするだけ。

「もう朝ですよ、起きてください」
「眠い……」
「今日くらい初詣行きましょうよ。ほら、こんなにもいい天気ですよ」
「んん……」

 カーテンを開けて、光を浴びせてみるも……こりゃダメだ。初詣に行くどころか、また寝正月を過ごそうとしているに違いない。
年明け初日の昨日もそうだった。初詣に行こうと提案したら「眠い」「絶対混んでるでしょ、無理」の二言で即撃沈。
結局昨日は大人しく家でお雑煮を食べて、のんびりゆったり家で過ごして一日を終えた。

 ……彼と一緒なのでもちろん悪くはなかったが、さすがに二日連続寝正月はいかがなものだろうか。

「三が日過ぎる前に行きましょうよ、お正月の一大イベントですよ」
「んー……」
「三が日過ぎたら、お互い仕事が始まっちゃうんですから。……影人さんとちゃんとお正月気分を味わいたいんですよ、ボクは」

 そう言ってベッドの端に手をつく。彼を見下ろすように座っていると、影人さんが寝返りを打ち、ボクの手を握る。
そしてそのまま、抱き枕のように引き寄せられ──

(……へ?)

 ──その拍子でボクの顔は彼の胸元に押し付けられるような形になった。

少し身動ぎして顔を上げると、彼の表情が見える。

「か……影人さん?」


 まだ半分以上夢の中といった感じで、目はとろんと半開きになっていた。
それでもボクを抱き締めたまま離さない。それどころか、より強く引き寄せられてしまった。
まるで逃がすまいとするかのように。

「……初詣以外にもあるじゃん……やること」
「え? ……な、何かありましたっけ。お雑煮はもう食べましたし……」

 はて、なんだっただろうか。イベントごとには一番疎そうな影人さんに尋ねられて分からないというのも、なんだか癪ではある。
けれど真面目な話、本当に分からない。ボクの頭が固すぎるのだろうか。

 影人さんはたまに斜め上の答えを出す人だから、もしかしたらろくでもない答えが返ってくるかもしれないが。
そんなことを考えている間にも、影人さんの手が後頭部に回り──


「……んっ!?」


 引き寄せられるまま顔を近づけられ、唇が重なる。離れようと力を入れるが、抑え込まれてるかのように動けない。
眠たい体のどこからそんな力が出てきているのかと思うほど強い力で押さえつけられ、抵抗する間もなく舌まで入れられてしまう。

「ふぁ……」
「ん……」

 ちゅっと音を立てて一度離れても、またすぐに口付けてくる。
何度も角度を変えて、執拗に求められた。息継ぎのために口を開けた瞬間、すかさず舌を入れてきて絡め取られる。
キスなんて初めてではないはずなのに、どうしようもなく気持ちよくて思考がぼやけてきてしまう。

「ちょ……かげひとさ……んぅ……!」
「……うるさい」

 ようやく解放された頃には力が抜けてしまい、完全に彼に体重をかける形になってしまった。
それが嬉しいらしく、彼は満足げに微笑んでいる。……やっぱりこの人はずるい。

「いきなり何するんですか!!」
「何って……お正月らしいことしようとしてるんだけど」
「どこが!? き、……キス、なんて、いつもしてる事じゃないですか……」
「……マジで知らないの?」

 何を言っているんだろう、この人は。
今やってる事のどこがお正月らしいことなのか、皆目見当もつかない。
そんなボクを見て、影人さんが何故かにやにやと笑みを浮かべ始める。嫌な予感しか覚えなかった。

「……ちゃんと言葉としてあるんだよ? 新年早々、こうやってセックスすること」
「……へ? な、なんて言うんです?」

「姫始め」

 ……なんて? 聞いたこともない言葉に、思考が一瞬停止する。
聞き間違いだろうか。影人さんはしれっとした顔で嘘をつくこともよくあるから、どちらとも判断がつきかねる。

「ま、まっさかぁ……そんなの、あるわけ」
「あるよ……ほら」

 影人さんが慣れた手つきでスマホをいじり始める。そうして差し出された画面には、辞書サイトが表示されていた。

 【姫始め】──新年に男女が初めて交わること。

「まあ、蛍と俺は男同士だけど……」
「どうしてアナタはいつもそうやって変な知識ばかり蓄えてくるんですか!」

 信じられないけれど、本当の話。いやらしいことばかり覚えて肝心の勉強は疎かにしていたり、間違っていたりするくせにこういうところだけしっかりしているのだ。


「別にいいでしょ、お前も俺とセックスするの好きそうだし……」
「そ、それとこれとは話が別です! ……というかなんで知ってるんですか、こんな事……」
「そんなの今更でしょ。……ほら、ちゃんと見て」

 ボクが持っていたスマホを取り上げ、画面をスクロールしていく。
そしてとある項目に行き着いた時、ボクは思わず目を逸らしてしまった。

「……ここ」
「…………」
「……『恋人同士の場合』」

 そこには、確かにそう書かれていた。
つまり影人さんはボクとそういう事をしたいと思っていて、その下準備として色々検索していたということだ。

「……ばか……」
「なんで?」
「……ボクも、その……一緒にいる間、シたいなって思ってはいました、けど……」
「じゃあいいでしょ。……おいで」


 布団の中に引きずり込まれ、再び抱きしめられる。
ボクもその背中に腕を回しながら、彼の胸に顔を埋めた。

 顔を上げれば、すぐ近くに端正な顔つきが映る。お互いに見つめあって数秒、どちらからともなく引き寄せられるように唇を重ねた。

「んっ……ふ……」
「……蛍……」

名前を呼ぶ声が耳元で聞こえたかと思うと、首筋を強く吸われる感覚が走る。
少し痛くて身を捩ると、逃さないと言わんばかりに強く抱き寄せられた。

「ちょっと、痕つけないでくださいよ……三が日明けたらボク仕事なんですよ」
「大丈夫、見えないところにつけるから。……それに、正月休みの間中、ずっと家に居てくれるんでしょ?」
「……仕方ないですね……あっ」

 言いながら、服の中へと手が入ってくる。胸の突起を指先で撫でられ、小さく喘ぎが漏れた。それを合図にするかのように、影人さんの唇が鎖骨から徐々に下がっていく。

「んっ……あ……」


 ちゅっと音を立てながら、口付けていく場所を変えていく。やがて辿り着いたのは、左の突起だった。ゆっくりと焦らすような動きで円を描き、時折舌先を尖らせて刺激される。
それだけでも充分すぎるくらい気持ちよかったけれど、それでは物足りなかった。
もっと強く、激しい快感が欲しくて、無意識のうちに体が揺れてしまう。

「蛍はほんとやらしいよね」
「う、るさ……い」

 わかっているなら早く触れてほしい。そんな思いを込めて睨むと、彼は楽しげに微笑みながら手を下に這わせてきた。
ズボンの上から、性器の形を確かめるようにしてなぞっていく。

「もうこんなに勃ってんの?」
「ひぁっ……ちがっ……!」

 否定の言葉は、布越しに自身を握りこまれたことで意味のない叫びに変わった。
そのまま何度か上下に扱かれ、すぐに硬度を増してしまう。

 先端からはじわりと蜜が溢れ出し、下着に染みを作っていた。

「やだ、やめてくださ……あっ」
「濡れてるね……直接触ってほしい?」

 こくりと無言のまま首を縦に振ると、影人さんがズボンとパンツを脱がしてくれる。
露わになったそこは、既に上を向いて透明な液を流していた。

「すごいね、糸引いてる」
「い、言わなくていいですから!……だから……」
「……だから?」

「……触るなら、直接、お願いします……」

 消え入りそうな声で懇願すると、影人さんが笑った気配がした。
そして、彼自身の手で大きく足を開かされ、中心部分をまじまじと見られる。恥ずかしすぎて死にそうだったが、今更止めることもできない。


「……蛍はどうしてほしいの? このまま扱いて欲しい? それとも……」
「あぁっ……!」


 突然襲ってきた強い刺激に、悲鳴のような声が出る。
見れば、影人さんはぱくりとボクのものをくわえていた。熱い粘膜に包まれ、ぬめりとした唾液に絡みつかれる。

「だめぇっ……! そ、れ……すぐイっちゃ……ああッ!!」
「ん……」

 ボクの言葉など無視して、影人さんは口内でボク自身を弄ぶ。
竿の部分だけでなく裏筋にも舌を這わし、カリをぐるっと舐められると、呆気なく果ててしまった。

「──っ!!」

 びゅくびゅくと勢いよく吐き出された精は、全て影人さんによって飲み干されてしまう。
「……濃い」なんて言われても嬉しくないし、そもそも自分でも処理していなかったせいか量が多かった気がする。

「ごめんなさい、ボクだけ先に……」
「別にいいよ」


 影人さんはそう言ってボクの上に覆い被さってくると、自分のシャツに手をかけた。
ボタンを外し、上半身をあらわにしていく。相も変わらず傷や痣だらけの白い肌は痛々しくはあるものの……影人さんの体としてはもう見慣れてしまっていて、もはやそれすらも美しく見えてしまうほどの芸術に見えていた。

 思わず見惚れていると、ボクの両脚を抱え上げてくる。


「ちょっと待っ……」
「無理」
「あっ……」

 ずぷっと音をたてて、後孔に何かが押し入ってきた。それが彼の指だとわかるまで、さほど時間はかからなかった。

「痛かったら言うんだよ」
「んっ……はい……」

 ゆっくりと抜き差ししながら、中に埋め込まれた二本の指がボクの中を掻き回す。痛みは全くない。むしろその逆で、あまりの気持ち良さに腰が浮いていた。

「蛍のここ、俺の指を美味しいって食べてくれてるよ。ほら」
「あっ……!」

 ぐりっと中を探られ、ある一点を掠めた瞬間、今までとは比べものにならないくらいの快感が全身を襲った。
なんだこれ、頭がおかしくなりそうだ……。


「やっ……そこ……へんっ……」
「変じゃない。これが蛍の気持ち良いところだよ」
「んっ……あっ……ひぁ……!」

 ぐちゅぐちゅという卑猥な音が耳を犯し、脳までも侵されていく。
いつの間にか指は三本にまで増えていて、それぞればらばらと動かされると、もう何も考えられなくなっていた。

「すごいね、蛍の中とろっとろ。……ねぇ、もう入れたい」
「え……、……あ……」

 ぼんやりとした頭で影人さんの顔を見上げると、彼は熱っぽい瞳をしていた。
まるで獲物を目の前にした肉食獣のように、口元には笑みを浮かべている。

「もう我慢できないんだよね。蛍が感じてる顔、いつ見てもたまんないほどエロくてさ……」
「ふぁっ……!」

 ずるりと指が引き抜かれ、代わりに影人さんのものがあてられる。
先走りと影人さんが解してくれたおかげで滑りが良くなったそこに、一気に奥まで突き立てられた。

「ひあっ……あああっ……!!」

 衝撃に仰け反ると同時に、性器の先端からは白濁が飛び出していた。情けないことに、入れられただけで達してしまったのだ。


 ……でもまだ、足りない。


 もっと、もっと欲しい。




「かげ、と、さ……」
「……何?」
「……動いて……」
「……了解」

 懇願するように言うと、影人さんは小さく笑って抽挿を開始した。最初はゆっくりだった動きが徐々に速くなっていき、やがて激しさを増していく。

「やっ、あんっ!  はげし……いっ……!」
「蛍が悪いんでしょ。こんなに締め付けて……」
「そんなこと……ああッ……!」

 激しく出し入れされる度に、前立腺を擦られて堪らない気分になる。
そしてそれは同時に射精欲を高めていき、ボクは再び絶頂へと上り詰めていった。

「またイっちゃ……うぅっ……!」
「いいよ、イって……」
「ああぁっ!!」

 ボクが果てるのとほぼ同時に、影人さんもボクの中に精を放ったようだった。お腹の奥に温かいものが広がっていく感覚に身震いする。

「は……っ……は……」

 荒くなった息を整えながら、影人さんはボクの顔を見下ろす。その目は未だ興奮冷めやらぬといった様子だ。

「……もう一回」
「へ? ちょっ……まっ……!」

 再び律動が開始され、一度萎えたはずのモノが再び硬度を取り戻していく。
影人さんが満足するまでこの行為は続いた。




◇ ◇ ◇





 結局あれから数回求められ、最後はボクの方も意識を手放してそのまま眠ってしまった。
時計を見ると、17:18──既に夜に差し掛かっており、もはや初詣どころではなかった。


「……ま、また初詣行けなかった……!!!」
「いいじゃん、姫始めできたし。年の初めにあんなに気持ちよくなったんだから、厄も落とせたんじゃ」
「んなアホ言ってる場合か!!」


 しれっとした顔でほざく影人さんの頭に、軽く手刀をくらわせる。
「痛いよ」と言いながらも表情は嬉しげに見えるのが憎たらしい。

「……もう、本当に最悪です」
「…………」

 拗ねるボクに、影人さんは頭を撫でてくる。こんなことされたってごまかされは……と言いたいところだが、心と体はその感触を心地よく感じてしまっている。

 こんなだから、結局なんだかんだで影人さんに甘いんだろうな……と、嫌でも痛感してしまうのだ。



「蛍」


 耳元で名前を呼ばれ、鼓動が高鳴る。こういう時に限って声が良いのは反則だと思う。

「好きだよ」

 そう言われてしまえば、ボクは何も言えなくなってしまうじゃないか……。
恥ずかしいけど、それでもやっぱり嬉しいと思ってしまう自分がいるのだった。

「……ボクも……好きです」


 ……初詣はもう、今月中に行ければいいか。
心の中で少し諦めをつけて、ボクはそっと唇を重ねた。
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