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短編集
やじうま
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※「夜影の蛍火」連載前に書いた短編です。
いわばプロトタイプみたいなものなので、設定や関係性など本編と相違があります。
━━━━━━━━━━━━━━━
『お前に伝えたいことがあるんだ 放課後、校舎裏で待ってる』
そんな一文のみが書かれた手紙を受け取った夏休み前のこと。
差出人は不明。少し汚い筆跡、男子か……もしくは字の汚い女子か。まぁそんなことはどうでも良いのだが。
一体誰がボクに何を伝えたいんだろう。
気になるし行ってみるか、なんて軽い気持ちでボクは校舎裏に向かっていた。
そこに待っていたのは、同じクラスにはいれどあまり話したことのない男子生徒一人だけだった。
髪が長めの、少し洒落っけのある奴。友人が多い、ボクからしたら少しだけ遠い人物だったように思える。
「アナタですか? ボクを呼んだのは」
「おう、……来てくれてサンキューな」
「まぁアレだけじゃ何のことだか気になりますからね。なんです? ボクに伝えたいことって」
さっさと用件を言ってすっきりさせてほしい。ボクの中にある感情は、ただそれだけだった。
相手の顔を見ると、……何故だかはわからないが、仄かに頬が赤く染まっている……ように、見える。
照れている……のか? 可愛い女子がいるわけでもないだろうに、何を照れることがあるのだろうか。
「あのさ、……まぁ、その、俺もお前も男だし、気持ち悪がると思うけど」
「はい?」
「……俺さ……」
もじもじと、何かを恥ずかしがっているかのような素振りを見せるクラスメイト。
何を言おうとしているかは知らない。けれどそれだけ躊躇うということは、言いづらいことなのだろうか。
「早く言わないと帰りますよ」と言いながら暫く待ってみると、クラスメイトはきりっとした表情をボクに向けて口を開いた。
「不破のことが好きだ!!」
「……は!?」
「そ、そうなるよな! 普通そうだ、だって俺もお前も男なんだからさ! けど俺、不破のこと可愛いなって密かに思ってて、そこからずっと」
「いやいや、あの、大丈夫です? 血迷ってません? 彼女がいないからってボクに目向けるとかおかしくありません?」
こいつは何を言っているんだろう、としか思えなかった。
男から告白されたということに対して驚きももちろんあるけれど。まさか、自分がそんな感情を、しかも男から向けられるなんて思いもしなかったのだから。
悪戯か冗談か?とも思ったが。……けれど、悪戯や冗談にしては、照れすぎのように思えた。
余程演技上手出もない限り、男相手にここまで照れるっていうのもおかしい。……となると、やはり本気なのだろうか。
「確かに彼女いないけど、だからって血迷ったわけじゃないんだ、不破! 俺は本気で不破が……」
「わぁ! わ、わかりましたよ! だからちょっと手離してくださいなんか怖いんですけどォ!?」
勢いよくボクの手を取り、両手で握りしめるクラスメイト。温かいと言われているボクの手よりも、ずっと高い熱を帯びていた。
あ、これはガチなやつだ。察した。生まれて初めての告白が、まさか男とは……心の中で、ボクは乾いた笑いを浮かべていた。
しかし、ボクはこいつとそんな関係になる気はない。断らねば。早急に。断固として。
……そう思った矢先だった。
「ぶふぇぁっ!?」
クラスメイトが何か変な悲鳴を上げながら倒れる。
手から熱が離れ、突然のことに驚いたボクは言葉が出ずただ呆然としているだけだった。
強い風が吹いたわけでもない、何かが飛んできたわけでもない。だとすれば、恐らく人災だ。
人災って言い方はまぁ、流石に大げさだが。
何がなんだかわからず頭が追いついていないボクの耳に、聞き慣れた声が響く。
「……ねぇ蛍。こいつ、誰?」
「へ? ……え、影人さん? いつからここにいたんですか?」
「ちょっと前から。蛍が知らない奴とどっか行くのが見えたから……気になって」
「アナタはストーカーか何かですか……で? この人が倒れたのも」
「俺」
「えぇ……」
とりあえずクラスメイトが急に倒れたのは、銀髪赤目のボクの友人──影人さんが原因のようだった。
随分と勢いよく倒れてしまったけれど、相当強い力で蹴り飛ばしたのだろうか。怖い。めちゃくちゃおっかない。
「つか、何でついてきたんですか影人さん」
「………………」
「影人さーん?」
「……面白そうだったから……って言っとく」
「野次馬かよこの野郎!!」
最初のだんまりが少し気になったが、彼のキャラからしてまぁ「面白そうだったから」というのも何となく頷ける……気がする。
しかし、それよりも。先ほどの告白の返事をしなければ。ここではっきり断らねば、後々面倒なことになってしまう。
……と、思って倒れ込んだクラスメイトの顔を見るも。
気絶してるのかなんなのか、声をかけても肩を叩いても全くぴくりともしない。
「……そいつ死んでる?」
「勝手に殺すな!! ……生きてますけど、まぁしばらく起きないでしょうね……」
「うん。……そういえばあのゲーム、新曲入ったらしいけど」
「マジですか!? よっし、帰りにゲーセン寄りましょう!!」
とりあえず、返事は後日することにしよう……。
好きとかなんとか言われても、ボクにはまだピンと来ない。こうして、友達と遊んでいるのがちょうどいいくらいだ。
……友達といっても、ボクには影人さんしか付き合いのある友人はいませんけれどもね。
いわばプロトタイプみたいなものなので、設定や関係性など本編と相違があります。
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『お前に伝えたいことがあるんだ 放課後、校舎裏で待ってる』
そんな一文のみが書かれた手紙を受け取った夏休み前のこと。
差出人は不明。少し汚い筆跡、男子か……もしくは字の汚い女子か。まぁそんなことはどうでも良いのだが。
一体誰がボクに何を伝えたいんだろう。
気になるし行ってみるか、なんて軽い気持ちでボクは校舎裏に向かっていた。
そこに待っていたのは、同じクラスにはいれどあまり話したことのない男子生徒一人だけだった。
髪が長めの、少し洒落っけのある奴。友人が多い、ボクからしたら少しだけ遠い人物だったように思える。
「アナタですか? ボクを呼んだのは」
「おう、……来てくれてサンキューな」
「まぁアレだけじゃ何のことだか気になりますからね。なんです? ボクに伝えたいことって」
さっさと用件を言ってすっきりさせてほしい。ボクの中にある感情は、ただそれだけだった。
相手の顔を見ると、……何故だかはわからないが、仄かに頬が赤く染まっている……ように、見える。
照れている……のか? 可愛い女子がいるわけでもないだろうに、何を照れることがあるのだろうか。
「あのさ、……まぁ、その、俺もお前も男だし、気持ち悪がると思うけど」
「はい?」
「……俺さ……」
もじもじと、何かを恥ずかしがっているかのような素振りを見せるクラスメイト。
何を言おうとしているかは知らない。けれどそれだけ躊躇うということは、言いづらいことなのだろうか。
「早く言わないと帰りますよ」と言いながら暫く待ってみると、クラスメイトはきりっとした表情をボクに向けて口を開いた。
「不破のことが好きだ!!」
「……は!?」
「そ、そうなるよな! 普通そうだ、だって俺もお前も男なんだからさ! けど俺、不破のこと可愛いなって密かに思ってて、そこからずっと」
「いやいや、あの、大丈夫です? 血迷ってません? 彼女がいないからってボクに目向けるとかおかしくありません?」
こいつは何を言っているんだろう、としか思えなかった。
男から告白されたということに対して驚きももちろんあるけれど。まさか、自分がそんな感情を、しかも男から向けられるなんて思いもしなかったのだから。
悪戯か冗談か?とも思ったが。……けれど、悪戯や冗談にしては、照れすぎのように思えた。
余程演技上手出もない限り、男相手にここまで照れるっていうのもおかしい。……となると、やはり本気なのだろうか。
「確かに彼女いないけど、だからって血迷ったわけじゃないんだ、不破! 俺は本気で不破が……」
「わぁ! わ、わかりましたよ! だからちょっと手離してくださいなんか怖いんですけどォ!?」
勢いよくボクの手を取り、両手で握りしめるクラスメイト。温かいと言われているボクの手よりも、ずっと高い熱を帯びていた。
あ、これはガチなやつだ。察した。生まれて初めての告白が、まさか男とは……心の中で、ボクは乾いた笑いを浮かべていた。
しかし、ボクはこいつとそんな関係になる気はない。断らねば。早急に。断固として。
……そう思った矢先だった。
「ぶふぇぁっ!?」
クラスメイトが何か変な悲鳴を上げながら倒れる。
手から熱が離れ、突然のことに驚いたボクは言葉が出ずただ呆然としているだけだった。
強い風が吹いたわけでもない、何かが飛んできたわけでもない。だとすれば、恐らく人災だ。
人災って言い方はまぁ、流石に大げさだが。
何がなんだかわからず頭が追いついていないボクの耳に、聞き慣れた声が響く。
「……ねぇ蛍。こいつ、誰?」
「へ? ……え、影人さん? いつからここにいたんですか?」
「ちょっと前から。蛍が知らない奴とどっか行くのが見えたから……気になって」
「アナタはストーカーか何かですか……で? この人が倒れたのも」
「俺」
「えぇ……」
とりあえずクラスメイトが急に倒れたのは、銀髪赤目のボクの友人──影人さんが原因のようだった。
随分と勢いよく倒れてしまったけれど、相当強い力で蹴り飛ばしたのだろうか。怖い。めちゃくちゃおっかない。
「つか、何でついてきたんですか影人さん」
「………………」
「影人さーん?」
「……面白そうだったから……って言っとく」
「野次馬かよこの野郎!!」
最初のだんまりが少し気になったが、彼のキャラからしてまぁ「面白そうだったから」というのも何となく頷ける……気がする。
しかし、それよりも。先ほどの告白の返事をしなければ。ここではっきり断らねば、後々面倒なことになってしまう。
……と、思って倒れ込んだクラスメイトの顔を見るも。
気絶してるのかなんなのか、声をかけても肩を叩いても全くぴくりともしない。
「……そいつ死んでる?」
「勝手に殺すな!! ……生きてますけど、まぁしばらく起きないでしょうね……」
「うん。……そういえばあのゲーム、新曲入ったらしいけど」
「マジですか!? よっし、帰りにゲーセン寄りましょう!!」
とりあえず、返事は後日することにしよう……。
好きとかなんとか言われても、ボクにはまだピンと来ない。こうして、友達と遊んでいるのがちょうどいいくらいだ。
……友達といっても、ボクには影人さんしか付き合いのある友人はいませんけれどもね。
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