175 / 190
短編集
やじうま
しおりを挟む
※「夜影の蛍火」連載前に書いた短編です。
いわばプロトタイプみたいなものなので、設定や関係性など本編と相違があります。
━━━━━━━━━━━━━━━
『お前に伝えたいことがあるんだ 放課後、校舎裏で待ってる』
そんな一文のみが書かれた手紙を受け取った夏休み前のこと。
差出人は不明。少し汚い筆跡、男子か……もしくは字の汚い女子か。まぁそんなことはどうでも良いのだが。
一体誰がボクに何を伝えたいんだろう。
気になるし行ってみるか、なんて軽い気持ちでボクは校舎裏に向かっていた。
そこに待っていたのは、同じクラスにはいれどあまり話したことのない男子生徒一人だけだった。
髪が長めの、少し洒落っけのある奴。友人が多い、ボクからしたら少しだけ遠い人物だったように思える。
「アナタですか? ボクを呼んだのは」
「おう、……来てくれてサンキューな」
「まぁアレだけじゃ何のことだか気になりますからね。なんです? ボクに伝えたいことって」
さっさと用件を言ってすっきりさせてほしい。ボクの中にある感情は、ただそれだけだった。
相手の顔を見ると、……何故だかはわからないが、仄かに頬が赤く染まっている……ように、見える。
照れている……のか? 可愛い女子がいるわけでもないだろうに、何を照れることがあるのだろうか。
「あのさ、……まぁ、その、俺もお前も男だし、気持ち悪がると思うけど」
「はい?」
「……俺さ……」
もじもじと、何かを恥ずかしがっているかのような素振りを見せるクラスメイト。
何を言おうとしているかは知らない。けれどそれだけ躊躇うということは、言いづらいことなのだろうか。
「早く言わないと帰りますよ」と言いながら暫く待ってみると、クラスメイトはきりっとした表情をボクに向けて口を開いた。
「不破のことが好きだ!!」
「……は!?」
「そ、そうなるよな! 普通そうだ、だって俺もお前も男なんだからさ! けど俺、不破のこと可愛いなって密かに思ってて、そこからずっと」
「いやいや、あの、大丈夫です? 血迷ってません? 彼女がいないからってボクに目向けるとかおかしくありません?」
こいつは何を言っているんだろう、としか思えなかった。
男から告白されたということに対して驚きももちろんあるけれど。まさか、自分がそんな感情を、しかも男から向けられるなんて思いもしなかったのだから。
悪戯か冗談か?とも思ったが。……けれど、悪戯や冗談にしては、照れすぎのように思えた。
余程演技上手出もない限り、男相手にここまで照れるっていうのもおかしい。……となると、やはり本気なのだろうか。
「確かに彼女いないけど、だからって血迷ったわけじゃないんだ、不破! 俺は本気で不破が……」
「わぁ! わ、わかりましたよ! だからちょっと手離してくださいなんか怖いんですけどォ!?」
勢いよくボクの手を取り、両手で握りしめるクラスメイト。温かいと言われているボクの手よりも、ずっと高い熱を帯びていた。
あ、これはガチなやつだ。察した。生まれて初めての告白が、まさか男とは……心の中で、ボクは乾いた笑いを浮かべていた。
しかし、ボクはこいつとそんな関係になる気はない。断らねば。早急に。断固として。
……そう思った矢先だった。
「ぶふぇぁっ!?」
クラスメイトが何か変な悲鳴を上げながら倒れる。
手から熱が離れ、突然のことに驚いたボクは言葉が出ずただ呆然としているだけだった。
強い風が吹いたわけでもない、何かが飛んできたわけでもない。だとすれば、恐らく人災だ。
人災って言い方はまぁ、流石に大げさだが。
何がなんだかわからず頭が追いついていないボクの耳に、聞き慣れた声が響く。
「……ねぇ蛍。こいつ、誰?」
「へ? ……え、影人さん? いつからここにいたんですか?」
「ちょっと前から。蛍が知らない奴とどっか行くのが見えたから……気になって」
「アナタはストーカーか何かですか……で? この人が倒れたのも」
「俺」
「えぇ……」
とりあえずクラスメイトが急に倒れたのは、銀髪赤目のボクの友人──影人さんが原因のようだった。
随分と勢いよく倒れてしまったけれど、相当強い力で蹴り飛ばしたのだろうか。怖い。めちゃくちゃおっかない。
「つか、何でついてきたんですか影人さん」
「………………」
「影人さーん?」
「……面白そうだったから……って言っとく」
「野次馬かよこの野郎!!」
最初のだんまりが少し気になったが、彼のキャラからしてまぁ「面白そうだったから」というのも何となく頷ける……気がする。
しかし、それよりも。先ほどの告白の返事をしなければ。ここではっきり断らねば、後々面倒なことになってしまう。
……と、思って倒れ込んだクラスメイトの顔を見るも。
気絶してるのかなんなのか、声をかけても肩を叩いても全くぴくりともしない。
「……そいつ死んでる?」
「勝手に殺すな!! ……生きてますけど、まぁしばらく起きないでしょうね……」
「うん。……そういえばあのゲーム、新曲入ったらしいけど」
「マジですか!? よっし、帰りにゲーセン寄りましょう!!」
とりあえず、返事は後日することにしよう……。
好きとかなんとか言われても、ボクにはまだピンと来ない。こうして、友達と遊んでいるのがちょうどいいくらいだ。
……友達といっても、ボクには影人さんしか付き合いのある友人はいませんけれどもね。
いわばプロトタイプみたいなものなので、設定や関係性など本編と相違があります。
━━━━━━━━━━━━━━━
『お前に伝えたいことがあるんだ 放課後、校舎裏で待ってる』
そんな一文のみが書かれた手紙を受け取った夏休み前のこと。
差出人は不明。少し汚い筆跡、男子か……もしくは字の汚い女子か。まぁそんなことはどうでも良いのだが。
一体誰がボクに何を伝えたいんだろう。
気になるし行ってみるか、なんて軽い気持ちでボクは校舎裏に向かっていた。
そこに待っていたのは、同じクラスにはいれどあまり話したことのない男子生徒一人だけだった。
髪が長めの、少し洒落っけのある奴。友人が多い、ボクからしたら少しだけ遠い人物だったように思える。
「アナタですか? ボクを呼んだのは」
「おう、……来てくれてサンキューな」
「まぁアレだけじゃ何のことだか気になりますからね。なんです? ボクに伝えたいことって」
さっさと用件を言ってすっきりさせてほしい。ボクの中にある感情は、ただそれだけだった。
相手の顔を見ると、……何故だかはわからないが、仄かに頬が赤く染まっている……ように、見える。
照れている……のか? 可愛い女子がいるわけでもないだろうに、何を照れることがあるのだろうか。
「あのさ、……まぁ、その、俺もお前も男だし、気持ち悪がると思うけど」
「はい?」
「……俺さ……」
もじもじと、何かを恥ずかしがっているかのような素振りを見せるクラスメイト。
何を言おうとしているかは知らない。けれどそれだけ躊躇うということは、言いづらいことなのだろうか。
「早く言わないと帰りますよ」と言いながら暫く待ってみると、クラスメイトはきりっとした表情をボクに向けて口を開いた。
「不破のことが好きだ!!」
「……は!?」
「そ、そうなるよな! 普通そうだ、だって俺もお前も男なんだからさ! けど俺、不破のこと可愛いなって密かに思ってて、そこからずっと」
「いやいや、あの、大丈夫です? 血迷ってません? 彼女がいないからってボクに目向けるとかおかしくありません?」
こいつは何を言っているんだろう、としか思えなかった。
男から告白されたということに対して驚きももちろんあるけれど。まさか、自分がそんな感情を、しかも男から向けられるなんて思いもしなかったのだから。
悪戯か冗談か?とも思ったが。……けれど、悪戯や冗談にしては、照れすぎのように思えた。
余程演技上手出もない限り、男相手にここまで照れるっていうのもおかしい。……となると、やはり本気なのだろうか。
「確かに彼女いないけど、だからって血迷ったわけじゃないんだ、不破! 俺は本気で不破が……」
「わぁ! わ、わかりましたよ! だからちょっと手離してくださいなんか怖いんですけどォ!?」
勢いよくボクの手を取り、両手で握りしめるクラスメイト。温かいと言われているボクの手よりも、ずっと高い熱を帯びていた。
あ、これはガチなやつだ。察した。生まれて初めての告白が、まさか男とは……心の中で、ボクは乾いた笑いを浮かべていた。
しかし、ボクはこいつとそんな関係になる気はない。断らねば。早急に。断固として。
……そう思った矢先だった。
「ぶふぇぁっ!?」
クラスメイトが何か変な悲鳴を上げながら倒れる。
手から熱が離れ、突然のことに驚いたボクは言葉が出ずただ呆然としているだけだった。
強い風が吹いたわけでもない、何かが飛んできたわけでもない。だとすれば、恐らく人災だ。
人災って言い方はまぁ、流石に大げさだが。
何がなんだかわからず頭が追いついていないボクの耳に、聞き慣れた声が響く。
「……ねぇ蛍。こいつ、誰?」
「へ? ……え、影人さん? いつからここにいたんですか?」
「ちょっと前から。蛍が知らない奴とどっか行くのが見えたから……気になって」
「アナタはストーカーか何かですか……で? この人が倒れたのも」
「俺」
「えぇ……」
とりあえずクラスメイトが急に倒れたのは、銀髪赤目のボクの友人──影人さんが原因のようだった。
随分と勢いよく倒れてしまったけれど、相当強い力で蹴り飛ばしたのだろうか。怖い。めちゃくちゃおっかない。
「つか、何でついてきたんですか影人さん」
「………………」
「影人さーん?」
「……面白そうだったから……って言っとく」
「野次馬かよこの野郎!!」
最初のだんまりが少し気になったが、彼のキャラからしてまぁ「面白そうだったから」というのも何となく頷ける……気がする。
しかし、それよりも。先ほどの告白の返事をしなければ。ここではっきり断らねば、後々面倒なことになってしまう。
……と、思って倒れ込んだクラスメイトの顔を見るも。
気絶してるのかなんなのか、声をかけても肩を叩いても全くぴくりともしない。
「……そいつ死んでる?」
「勝手に殺すな!! ……生きてますけど、まぁしばらく起きないでしょうね……」
「うん。……そういえばあのゲーム、新曲入ったらしいけど」
「マジですか!? よっし、帰りにゲーセン寄りましょう!!」
とりあえず、返事は後日することにしよう……。
好きとかなんとか言われても、ボクにはまだピンと来ない。こうして、友達と遊んでいるのがちょうどいいくらいだ。
……友達といっても、ボクには影人さんしか付き合いのある友人はいませんけれどもね。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる