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第四.五章 クリスマス編
番外編 解けない謎
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クリスマスパーティー後のこと。
窓雪さんたちにもらったプレゼントをテーブルに並べ、楽しかった時間に思いを馳せていた。
(他の人も、あんな風にたくさんの友達と遊んでたりするのかなぁ)
他人と、学校の行事以外でわいわいと過ごす賑やかな時間。影人さんと出会うまで、長いことぼっちだったボクには分からない世界だ。
昔のボクなら絶対考えられないような時間を、今日は初めて経験した。
慣れてないボクにとってはちょっとした気疲れもあるけれど、実りのある時間だった。
世の中の「陽キャ」というやつは、きっと頻繁にああいった会合を開いているのだろう。
あれだけ手馴れていたのだ、もしかしたら、窓雪さんや黒葛原さんは何度か経験したことがあるのかもしれないが。
「とりあえず、プレゼント開けてみるか」
テーブルの上に広げていたプレゼントを順々に開封──俗に言う「開封の儀」を始めた。
まずは、窓雪さんからのプレゼントを開けてみる。
ピンク色の可愛らしいラッピングから顔を出したのは、クローバーやスペードのワンポイントがついたフェイスタオル三枚組だった。
「わぁ、コレよく見たら有名ブランドのタオルじゃないですか。すごいふわふわ……」
タオルによくあるごわごわとした感触は一切なく、なめらかで触り心地のいい風合い。
安物のタオルではそうそう味わえないような、触った瞬間優しく包み込んでくれるような感触がここにある。
こんな上等なタオル、値段もそこそこ張るもの。普段ならとても手が伸びない、消えものというにはもったいないほどに質のいいタオルだ。
使うのは勿体ないが、明日から洗顔後に使ってみようか。洗濯も気をつけなきゃなと思いつつ、次は三栗谷先生からのプレゼントに手をかけた。
「あれ、これって……」
紺色に金色のリボンと、少し大人びた色合いのラッピングから出てきたのは、影人さんと同じマフラーだった。
普通のと比べたら少し艶のある、高級感満点のマフラー。そっくりそのままの緑青色で、肌触りもなめらか。
タグについている店の名前を見てみれば、「River 小鳥遊屋支店」と書かれている。
そういえば、三栗谷先生から影人さんへのマフラーも小鳥遊屋で買ったって言ってたっけ……。
『三栗谷(アレ)に至ってはなんか念がこもってそうなやつだし……』
──少し苦虫を噛み潰したような顔をして、そう言っていたのを思い出す。
嫌いな身内である三栗谷先生からのプレゼントだからだろう、あまりいい気持ちはしないのかもしれない。
けれど、ボクの気持ちは正反対だった。
「お揃い、になるよね……これ……」
影人さんの誕生日にヘアピンを送った時のことを、ふと思い出す。
『そういえばさ……お揃いってやつじゃん、これ』
友達とお揃いのものを持つ──そんなことすら初めてだったボクには新鮮で、気持ちが浮き立つほど嬉しかったのを覚えている。
同じものを持つ、それだけで親近感が湧くような……今までよりもっと距離が近づいたような、そんな気がして。
「もし影人さんもこのマフラーをつけてくれたら、またお揃いが増えるんだよな……」
── そうしたら、また少し彼に近づくのだろうか?
ふっとそんな考えが過ぎっては、期待をするかのように胸が鳴る。
いや、これは三栗谷先生からの贈り物だ。影人さんがつけてくるとは思えない。
その日は永遠に来ることはないだろうな……と心に蓋をし、次のプレゼントを開封した。
残るは黒葛原さんからのプレゼントだ。
手のひらに収まるくらいの、小さな白のラッピングから出てきたのは──
「……ほ?」
「氷咲神社」と古印体で書かれた平袋。
それをまた開けて中を見ると、ピンク色のお守りが目に入る。
手に取って見てみれば、そのお守りには大きく漢字四文字が書かれていた。
「……れ、……恋愛成就……?」
恋愛成就──意中の相手への恋が実るだとか、とりあえず恋愛に関する願い事が叶うこと。
一体全体、黒葛原さんは何を考えてボクにコレをあげようと考えたのだろう。
恋愛成就のお守りって、恋する乙女とかそういう……好きな人がいる、って人に必要なんじゃないか。
ボクは好きな女の子なんていないし、恋に悩んでる気もない。
寧ろ、恋なんてしたところでボクなんかが相手にされるわけない──そうとまで考えてしまってるくらいで。
黒葛原さん、もしかしてコレあげる相手間違えたんじゃないだろうか……そんなことを思いながら平袋を見ると、もう一つ何かが入っているのが透けて見えた。
(何か入ってる?)
その「もう一つ」は、四つ折りにされた小さなメモ紙。本屋や百円ショップでも売られているような、女の子向けの可愛らしいメモ帳の切れ端だ。
そこには黒葛原さんの見た目からはあまり想像し得ない、行書体のような丁寧な文字で文章が書かれていた。
【自覚してんだかどうだか分かんないけど、とっととどうにかなんなさいよ 美影より】
「……え?」
「自覚してんだかどうだか分かんないけど」──その言葉が、何だか引っかかる。
ボクは、恋なんてしていない。昔より女子とは話せるようになってきたけれど、「あの子と付き合いたい」とまでは考えたことはない。
窓雪さんとは長いこと仲良くしてもらっているけれど、そういう気持ちはない。向こうも「彼氏としてはね……」なんて苦笑してきたくらいなのだ。
かといって、黒葛原さんという線もない。そもそも、もしボクが黒葛原さんを好きなら彼女がこうしてお守りを送ることすら有り得ないだろう。
……その前に、彼女とは色々あったのだ。彼女を女性として意識することも、この先無いだろう。
「……黒葛原さん、僕か誰かに恋をしているように見えてるのかな……」
考えど考えど、答えは出ない。
窓雪さんや黒葛原さん以外の女子とはまず関わりもそんなに無いし……でも、黒葛原さんはボクに好きな人がいるかのような文を投げてきているし……と、思考は堂々巡りするばかり。
ボクは誰が好きなんだ? そもそも、ボクは、漫画や小説であるような「恋」というものをしているんだろうか……?
解けない謎が生まれたボクの心の中を、もやもやとした何かが包みこもうとしていた。
窓雪さんたちにもらったプレゼントをテーブルに並べ、楽しかった時間に思いを馳せていた。
(他の人も、あんな風にたくさんの友達と遊んでたりするのかなぁ)
他人と、学校の行事以外でわいわいと過ごす賑やかな時間。影人さんと出会うまで、長いことぼっちだったボクには分からない世界だ。
昔のボクなら絶対考えられないような時間を、今日は初めて経験した。
慣れてないボクにとってはちょっとした気疲れもあるけれど、実りのある時間だった。
世の中の「陽キャ」というやつは、きっと頻繁にああいった会合を開いているのだろう。
あれだけ手馴れていたのだ、もしかしたら、窓雪さんや黒葛原さんは何度か経験したことがあるのかもしれないが。
「とりあえず、プレゼント開けてみるか」
テーブルの上に広げていたプレゼントを順々に開封──俗に言う「開封の儀」を始めた。
まずは、窓雪さんからのプレゼントを開けてみる。
ピンク色の可愛らしいラッピングから顔を出したのは、クローバーやスペードのワンポイントがついたフェイスタオル三枚組だった。
「わぁ、コレよく見たら有名ブランドのタオルじゃないですか。すごいふわふわ……」
タオルによくあるごわごわとした感触は一切なく、なめらかで触り心地のいい風合い。
安物のタオルではそうそう味わえないような、触った瞬間優しく包み込んでくれるような感触がここにある。
こんな上等なタオル、値段もそこそこ張るもの。普段ならとても手が伸びない、消えものというにはもったいないほどに質のいいタオルだ。
使うのは勿体ないが、明日から洗顔後に使ってみようか。洗濯も気をつけなきゃなと思いつつ、次は三栗谷先生からのプレゼントに手をかけた。
「あれ、これって……」
紺色に金色のリボンと、少し大人びた色合いのラッピングから出てきたのは、影人さんと同じマフラーだった。
普通のと比べたら少し艶のある、高級感満点のマフラー。そっくりそのままの緑青色で、肌触りもなめらか。
タグについている店の名前を見てみれば、「River 小鳥遊屋支店」と書かれている。
そういえば、三栗谷先生から影人さんへのマフラーも小鳥遊屋で買ったって言ってたっけ……。
『三栗谷(アレ)に至ってはなんか念がこもってそうなやつだし……』
──少し苦虫を噛み潰したような顔をして、そう言っていたのを思い出す。
嫌いな身内である三栗谷先生からのプレゼントだからだろう、あまりいい気持ちはしないのかもしれない。
けれど、ボクの気持ちは正反対だった。
「お揃い、になるよね……これ……」
影人さんの誕生日にヘアピンを送った時のことを、ふと思い出す。
『そういえばさ……お揃いってやつじゃん、これ』
友達とお揃いのものを持つ──そんなことすら初めてだったボクには新鮮で、気持ちが浮き立つほど嬉しかったのを覚えている。
同じものを持つ、それだけで親近感が湧くような……今までよりもっと距離が近づいたような、そんな気がして。
「もし影人さんもこのマフラーをつけてくれたら、またお揃いが増えるんだよな……」
── そうしたら、また少し彼に近づくのだろうか?
ふっとそんな考えが過ぎっては、期待をするかのように胸が鳴る。
いや、これは三栗谷先生からの贈り物だ。影人さんがつけてくるとは思えない。
その日は永遠に来ることはないだろうな……と心に蓋をし、次のプレゼントを開封した。
残るは黒葛原さんからのプレゼントだ。
手のひらに収まるくらいの、小さな白のラッピングから出てきたのは──
「……ほ?」
「氷咲神社」と古印体で書かれた平袋。
それをまた開けて中を見ると、ピンク色のお守りが目に入る。
手に取って見てみれば、そのお守りには大きく漢字四文字が書かれていた。
「……れ、……恋愛成就……?」
恋愛成就──意中の相手への恋が実るだとか、とりあえず恋愛に関する願い事が叶うこと。
一体全体、黒葛原さんは何を考えてボクにコレをあげようと考えたのだろう。
恋愛成就のお守りって、恋する乙女とかそういう……好きな人がいる、って人に必要なんじゃないか。
ボクは好きな女の子なんていないし、恋に悩んでる気もない。
寧ろ、恋なんてしたところでボクなんかが相手にされるわけない──そうとまで考えてしまってるくらいで。
黒葛原さん、もしかしてコレあげる相手間違えたんじゃないだろうか……そんなことを思いながら平袋を見ると、もう一つ何かが入っているのが透けて見えた。
(何か入ってる?)
その「もう一つ」は、四つ折りにされた小さなメモ紙。本屋や百円ショップでも売られているような、女の子向けの可愛らしいメモ帳の切れ端だ。
そこには黒葛原さんの見た目からはあまり想像し得ない、行書体のような丁寧な文字で文章が書かれていた。
【自覚してんだかどうだか分かんないけど、とっととどうにかなんなさいよ 美影より】
「……え?」
「自覚してんだかどうだか分かんないけど」──その言葉が、何だか引っかかる。
ボクは、恋なんてしていない。昔より女子とは話せるようになってきたけれど、「あの子と付き合いたい」とまでは考えたことはない。
窓雪さんとは長いこと仲良くしてもらっているけれど、そういう気持ちはない。向こうも「彼氏としてはね……」なんて苦笑してきたくらいなのだ。
かといって、黒葛原さんという線もない。そもそも、もしボクが黒葛原さんを好きなら彼女がこうしてお守りを送ることすら有り得ないだろう。
……その前に、彼女とは色々あったのだ。彼女を女性として意識することも、この先無いだろう。
「……黒葛原さん、僕か誰かに恋をしているように見えてるのかな……」
考えど考えど、答えは出ない。
窓雪さんや黒葛原さん以外の女子とはまず関わりもそんなに無いし……でも、黒葛原さんはボクに好きな人がいるかのような文を投げてきているし……と、思考は堂々巡りするばかり。
ボクは誰が好きなんだ? そもそも、ボクは、漫画や小説であるような「恋」というものをしているんだろうか……?
解けない謎が生まれたボクの心の中を、もやもやとした何かが包みこもうとしていた。
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