夜影の蛍火

黒野ユウマ

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わからないこと

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 ボクには「それ」の美味しさは分からない。匂いだけでも、子どもが飲むようなものでは無いのはわかる。

 ツンと鼻の奥を刺すような、きつい薬品に似た匂い。きっと味もボクの舌には合わないものなのだろう「それ」を彼は平然と飲んでいるわけだが。
彼の舌は「それ」の味をどんな風に捉えているのだろう。

「今日もお酒飲んでるんですか」
「蛍も飲む?」
「いや、いいです……」

 ボクの知らない世界を、彼はきっと知り尽くしている。
男女間のことも「それ」のことも、大人同士の付き合いも知っているのかもしれない。本来なら高校生のうちに口にするべきではない煙草の味も、家では普通に味わっているのだ。

(いつから嗜むようになったんだろう……)

 世間一般ボクらはまだ子どもの年齢だけれど、実際彼はその一歩先を歩いている。
何だかんだあった彼が抱く心は、とうに大人になっているのかもしれない。

 いつだって彼はすぐ隣にいるのに、たまに何だか遠いような気がしてしまうのだ。
純粋だね、なんて言われるたびにその言葉は突き刺さる。

 身も心も、彼から見たらボクは子供っぽく見えることなのだろう。
同い年でありながら一歩先を歩く彼に、ボクはいつになったら追いつくのだろうか。

 早く、大人になれたらいいのにな。

「ちょっとトイレ」
「あぁ、はい」

 すっ、と席を立つ彼。
その場に残されたボクの目に入ったのは──プルタブの空いた150mlの缶。

(……これを美味しいと感じられたら、近付けたりして)

 ──まさかね。
 なんてバカなことを考えながら、彼がいない隙に「それ」を一口含んでみた。
口の中に広がる後を引くような未知の苦味、つっかえるような喉越し。本能的に受け付けようとしないボクの体は、舌を濡らす程度の量が精一杯だった。

(……やっぱ、不味い)

 まだまだ、味覚が子どもなのだろうか。
ボクにはまだ、「それ」には踏み込めそうにない。
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