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第三.五章 文化祭編
第三話 嫌ですって言いたいんですけど
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文化祭の準備を始めてから数日──内装に使う飾りの道具が徐々に揃いつつあり種類も充実してきた。
ボクと影人さんで必死に作った花飾り、他の人が作った折り紙の輪飾り、女装男装喫茶の手作りチラシ。当日黒板に書く予定のメニュー表のラフ、壁紙にするために模様が描かれた模造紙、同じく模造紙に描かれた看板(教室の外用)。
準備中、影人さんが時々軽音部の練習で抜ける以外にクラスメイトが欠けることは滅多になく……まさに「クラス一丸」となって進めていったおかげだろう。
クラスのみんなに一度見せてもらった設計図と見比べる限り、ボクの目では八割がた揃っている状態だ。
ここまで来ると、少しだけ当日が楽しみになってくるというものだ。完成予定図は知っているとしても、きっと実物を見たらまたテンションが違うだろう。
(……まぁ、女装っていう時点ではテンション下がりますけど……)
──そう。「女装をしなければならない」という点を除けば、本当に楽しみなのだ。
「みんな~! 衣装届いたよ~!!」
ある日の放課後、窓雪さんと黒葛原さんの明るい声教室内に響きわたる。
台車に乗せられて来たのは、衣装が入っているであろう段ボール。段ボールには「女子用」「男子用」と油性マジックで大きく書かれている。
「……「キラリステージ」? 聞いたことない会社名ですね。どっかのブランドですか?」
「不破君知らなくて当然っすよ! なんつったって、それはアタシがよく利用してるコスプレ衣装の制作会社なんで!」
クラスメイトの一人、ベリーショートの女子が胸を張って自信たっぷりに語る。アタシがよく利用している、という以前に……このクラスに、コスプレしてるらしい人がいることすら初耳だったのだが。
「さっすがコヨリ~」
「コスプレ衣装の店ならコスプレイヤー! やっぱ餅は餅屋ってやつやんね!」
クラスの女子達はコヨリさん? とやらのことを知っていたのか、一同揃って大絶賛。我がクラス内では、それなりに名が知られているコスプレイヤーなのかもしれない。
影人さんとばっかり深く付き合っていたものだから、ボクはクラスメイトのことをあまり知らない。これから、こうやって色々知ることが出来るのだろうか……。
「よし、開封の儀始めますか~!!」
カッターを手にした窓雪さんが意気揚々と段ボールに切り込みを入れていく。ボクと影人さんを含めたクラス一同、その様子をじっ……と見守っていた。
途中、影人さんが小声で「早く帰りたい」と呟きかけたが、とりあえず軽く肘鉄を入れて止めておいた。この場でテンション下がるようなこと言ったら、それこそまたクラス中から敵意の目を向けられかねない。
……まぁ影人さんは元々面倒くさがりな人だ、そう言いたくなる気持ちもわかるのだが。後でたっぷり愚痴を聞いてやろう。
「……おぉ」
「本格的~!! 流石コヨリ御用達のコスプレ衣装店って感じ!!」
「つかクオリティ高くね?」
段ボールを開ける度に見えてくる、男装女装の衣装。男装用の段ボールからはリボンタイをつけたウェイターの服、女装用の段ボールには二種類のメイド服が出てきた。
メイド服はご丁寧にロングスカートタイプとミニスカートタイプが容易されており、長さがなかなかに二極化している。ロングは足首までありそうなくらい丈が長く、ミニは……目測だが、多分膝上10センチくらいだろうか。
窓雪さんの友達がよくスカートを折るだの切るだのしているようだが、丁度そのスカートの丈くらい……かもしれない。
(あ~~~せめて着るならロングがいいなぁ~~~!!!!!)
……せめて足が隠れてくれればいい。ちょっとでも隠れてくれれば、まだ傷は浅い。
当日着せられるであろう衣装に向かって、心の中でそっと祈る。
「よし、ちょっと合わせてみない? せっかくだし……看板娘予定の黒崎君と不破君! どうかな?」
ロングスカートタイプとミニスカートタイプのメイド服を手に、これまた夢見る少女のように爛々と目を輝かせる窓雪さん。
その言葉に、クラス中が「おぉ!」「めっちゃ見てみたーい!」と、期待の声が上がる。
血の気が引くような恐怖心がボクを襲った。当日だけだと思っていたのに、まさかこんなに早く機会が来てしまうとは。
ただ、影人さんが一緒に着てくれるならまだ何とか……
「ちょっと黒崎君、どこ行くの?」
「帰る」
「待てっつーの!」
……なんて思ったボクが馬鹿だったのか、影人さんは逃げる気満々だった。
期待に目を思いきり輝かせるクラスメイトに背を向け、スタスタと扉へ向かって歩いていこうとする影人さん。その肩を掴んで止めたのは黒葛原さんだった。
中学時代のクラスメイト且つ何だかんだあった間柄ゆえか、黒葛原さんは影人さんには色んな意味で違う顔を見せている。多分、良くも悪くも。
……影人さん自体は、ちょっと不愉快そうに眉を顰めているけれど。
ただ、この状況はちょっと使えるかもしれない。
「ほら、影人さんめっちゃ嫌がってますし……ちょっと厳しいかもしれませんけど、合わせは当日のお楽しみってことでどうですか? ね?」
ボクだって逃げたくなる気持ちは分かる。文化祭当日だけならまだしも、こんなにも早くみんなの前で恥をさらすような真似はしたくない。
これに乗じて、ボクも逃げられたりしないだろうか……ほんの僅かな期待を込めて、黒葛原さんの返答を待つ。
「うーん、そうだね。こいつに無理強いして当日バックれられても面倒だし……」
顎に人差し指を当て、考え込む仕草をする黒葛原さん。良かった、事前の合わせはこれで防げるだろうか。
一日耐えれば終わりそうなところを、二度も体験はしたくない。神様、どうかこのまま何事もなく一日を終わらせてください。
心の中で、必死に祈るボク。しかし、それを見透かしてか黒葛原さんはニッコリと微笑み――
「よし! なら不破君だけちょっとやってみよっか! 」
―― 見事に、ボクの期待は打ち砕かれたのだった。
ボクと影人さんで必死に作った花飾り、他の人が作った折り紙の輪飾り、女装男装喫茶の手作りチラシ。当日黒板に書く予定のメニュー表のラフ、壁紙にするために模様が描かれた模造紙、同じく模造紙に描かれた看板(教室の外用)。
準備中、影人さんが時々軽音部の練習で抜ける以外にクラスメイトが欠けることは滅多になく……まさに「クラス一丸」となって進めていったおかげだろう。
クラスのみんなに一度見せてもらった設計図と見比べる限り、ボクの目では八割がた揃っている状態だ。
ここまで来ると、少しだけ当日が楽しみになってくるというものだ。完成予定図は知っているとしても、きっと実物を見たらまたテンションが違うだろう。
(……まぁ、女装っていう時点ではテンション下がりますけど……)
──そう。「女装をしなければならない」という点を除けば、本当に楽しみなのだ。
「みんな~! 衣装届いたよ~!!」
ある日の放課後、窓雪さんと黒葛原さんの明るい声教室内に響きわたる。
台車に乗せられて来たのは、衣装が入っているであろう段ボール。段ボールには「女子用」「男子用」と油性マジックで大きく書かれている。
「……「キラリステージ」? 聞いたことない会社名ですね。どっかのブランドですか?」
「不破君知らなくて当然っすよ! なんつったって、それはアタシがよく利用してるコスプレ衣装の制作会社なんで!」
クラスメイトの一人、ベリーショートの女子が胸を張って自信たっぷりに語る。アタシがよく利用している、という以前に……このクラスに、コスプレしてるらしい人がいることすら初耳だったのだが。
「さっすがコヨリ~」
「コスプレ衣装の店ならコスプレイヤー! やっぱ餅は餅屋ってやつやんね!」
クラスの女子達はコヨリさん? とやらのことを知っていたのか、一同揃って大絶賛。我がクラス内では、それなりに名が知られているコスプレイヤーなのかもしれない。
影人さんとばっかり深く付き合っていたものだから、ボクはクラスメイトのことをあまり知らない。これから、こうやって色々知ることが出来るのだろうか……。
「よし、開封の儀始めますか~!!」
カッターを手にした窓雪さんが意気揚々と段ボールに切り込みを入れていく。ボクと影人さんを含めたクラス一同、その様子をじっ……と見守っていた。
途中、影人さんが小声で「早く帰りたい」と呟きかけたが、とりあえず軽く肘鉄を入れて止めておいた。この場でテンション下がるようなこと言ったら、それこそまたクラス中から敵意の目を向けられかねない。
……まぁ影人さんは元々面倒くさがりな人だ、そう言いたくなる気持ちもわかるのだが。後でたっぷり愚痴を聞いてやろう。
「……おぉ」
「本格的~!! 流石コヨリ御用達のコスプレ衣装店って感じ!!」
「つかクオリティ高くね?」
段ボールを開ける度に見えてくる、男装女装の衣装。男装用の段ボールからはリボンタイをつけたウェイターの服、女装用の段ボールには二種類のメイド服が出てきた。
メイド服はご丁寧にロングスカートタイプとミニスカートタイプが容易されており、長さがなかなかに二極化している。ロングは足首までありそうなくらい丈が長く、ミニは……目測だが、多分膝上10センチくらいだろうか。
窓雪さんの友達がよくスカートを折るだの切るだのしているようだが、丁度そのスカートの丈くらい……かもしれない。
(あ~~~せめて着るならロングがいいなぁ~~~!!!!!)
……せめて足が隠れてくれればいい。ちょっとでも隠れてくれれば、まだ傷は浅い。
当日着せられるであろう衣装に向かって、心の中でそっと祈る。
「よし、ちょっと合わせてみない? せっかくだし……看板娘予定の黒崎君と不破君! どうかな?」
ロングスカートタイプとミニスカートタイプのメイド服を手に、これまた夢見る少女のように爛々と目を輝かせる窓雪さん。
その言葉に、クラス中が「おぉ!」「めっちゃ見てみたーい!」と、期待の声が上がる。
血の気が引くような恐怖心がボクを襲った。当日だけだと思っていたのに、まさかこんなに早く機会が来てしまうとは。
ただ、影人さんが一緒に着てくれるならまだ何とか……
「ちょっと黒崎君、どこ行くの?」
「帰る」
「待てっつーの!」
……なんて思ったボクが馬鹿だったのか、影人さんは逃げる気満々だった。
期待に目を思いきり輝かせるクラスメイトに背を向け、スタスタと扉へ向かって歩いていこうとする影人さん。その肩を掴んで止めたのは黒葛原さんだった。
中学時代のクラスメイト且つ何だかんだあった間柄ゆえか、黒葛原さんは影人さんには色んな意味で違う顔を見せている。多分、良くも悪くも。
……影人さん自体は、ちょっと不愉快そうに眉を顰めているけれど。
ただ、この状況はちょっと使えるかもしれない。
「ほら、影人さんめっちゃ嫌がってますし……ちょっと厳しいかもしれませんけど、合わせは当日のお楽しみってことでどうですか? ね?」
ボクだって逃げたくなる気持ちは分かる。文化祭当日だけならまだしも、こんなにも早くみんなの前で恥をさらすような真似はしたくない。
これに乗じて、ボクも逃げられたりしないだろうか……ほんの僅かな期待を込めて、黒葛原さんの返答を待つ。
「うーん、そうだね。こいつに無理強いして当日バックれられても面倒だし……」
顎に人差し指を当て、考え込む仕草をする黒葛原さん。良かった、事前の合わせはこれで防げるだろうか。
一日耐えれば終わりそうなところを、二度も体験はしたくない。神様、どうかこのまま何事もなく一日を終わらせてください。
心の中で、必死に祈るボク。しかし、それを見透かしてか黒葛原さんはニッコリと微笑み――
「よし! なら不破君だけちょっとやってみよっか! 」
―― 見事に、ボクの期待は打ち砕かれたのだった。
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