夜影の蛍火

黒野ユウマ

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第二.五章 夏休み編

番外編 食堂にて

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 湯上がりの火照った体をほどよく冷やしてくれるクーラーの風を感じつつ、足を踏み入れた食堂。
食券を購入し、出来上がった頃に取りに行く……という非常に効率的な注文形式で、影人さんも「飲食店、全部こうだったら楽なんだけど」とぼそりと呟いていた。

 カウンターで渡された小さな端末がテーブルの上で振動しながら音を鳴らす。【ご注文の品の準備ができました】という文字を確認したボクは、荷物番を影人さんに頼んで料理を取りに行った。
一つの膳に載せられていたのは、ボクが注文したとろろそばと……影人さんが注文したらしい、カツカレー。

「影人さん……こういうのも食うんですね……」
「……たまにはね」

 そんな会話を交わしながら、影人さんの目の前にカツカレーとスプーンを置く。
いつもの影人さんの食欲や食生活を知るボクからしたら、「もしかして今別の人格が入ってるんじゃないか?」なんて目を疑うくらいの光景だった。

 普段の影人さんは、栄養補助食品だけの時もあれば、パン一つと紙パックのドリンク……そんな、お手軽かつ腹に溜まらなそうなメニューばかりだったのだが、今の影人さんはどうだ。
白米がドーン、カレールーがドーン、その上に手の平サイズのカツがドーン……と、そんな効果音が聞こえてくるくらいに、中々ボリューミーなメニューが目の前にあるのだ。
 彼曰く、いつも食べない分ごくたまにこうやってドカ食いをすることがあるらしい。影人さんの胃袋は一体どういう仕組みをしているんだろうか。

「見るだけで胸焼けする……」
「そういうお前は、今日は控えめなんだね」
「お風呂上がりですからね、ちょっと冷たくてつるっといけるものがいいかと思って」

 いただきます、と両手を合わせてボクは箸を持った。
つるっと滑るように口の中に入るうどんの食感と丁度よい冷たさが、湯上がりの体によく染み渡る。つゆの味がよく染みこんだとろろやオクラも、ひとたび口に入ると舌触りの良い粘り気が食欲を煽る。
適度に冷えた部屋、冷たい食事……あぁ、これこそ夏だなぁ、なんてしみじみと感じるものだった。

 ある程度食べたところで、影人さんを見る。……驚愕するほかない、と言ったところだ。
あの小食を極めに極めまくったと言っても過言でないくらいの影人さんが、ボクだって滅多に食べないようなボリューミーなものを半分まで食している。普段だったら、叔母さんが作ったご飯でさえ(小盛りにしても)残すというのに。

 こうして見ている今も、スプーンを止めない影人さん。
叔母さんが見たら、色んな意味でショックを受けるだろうなあ……なんて思いながらボクも箸を進めていた。






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※「第五話 ぼくのわがまま」の間の話
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