夜影の蛍火

黒野ユウマ

文字の大きさ
上 下
31 / 190
第二.五章 夏休み編

番外編 食堂にて

しおりを挟む
 湯上がりの火照った体をほどよく冷やしてくれるクーラーの風を感じつつ、足を踏み入れた食堂。
食券を購入し、出来上がった頃に取りに行く……という非常に効率的な注文形式で、影人さんも「飲食店、全部こうだったら楽なんだけど」とぼそりと呟いていた。

 カウンターで渡された小さな端末がテーブルの上で振動しながら音を鳴らす。【ご注文の品の準備ができました】という文字を確認したボクは、荷物番を影人さんに頼んで料理を取りに行った。
一つの膳に載せられていたのは、ボクが注文したとろろそばと……影人さんが注文したらしい、カツカレー。

「影人さん……こういうのも食うんですね……」
「……たまにはね」

 そんな会話を交わしながら、影人さんの目の前にカツカレーとスプーンを置く。
いつもの影人さんの食欲や食生活を知るボクからしたら、「もしかして今別の人格が入ってるんじゃないか?」なんて目を疑うくらいの光景だった。

 普段の影人さんは、栄養補助食品だけの時もあれば、パン一つと紙パックのドリンク……そんな、お手軽かつ腹に溜まらなそうなメニューばかりだったのだが、今の影人さんはどうだ。
白米がドーン、カレールーがドーン、その上に手の平サイズのカツがドーン……と、そんな効果音が聞こえてくるくらいに、中々ボリューミーなメニューが目の前にあるのだ。
 彼曰く、いつも食べない分ごくたまにこうやってドカ食いをすることがあるらしい。影人さんの胃袋は一体どういう仕組みをしているんだろうか。

「見るだけで胸焼けする……」
「そういうお前は、今日は控えめなんだね」
「お風呂上がりですからね、ちょっと冷たくてつるっといけるものがいいかと思って」

 いただきます、と両手を合わせてボクは箸を持った。
つるっと滑るように口の中に入るうどんの食感と丁度よい冷たさが、湯上がりの体によく染み渡る。つゆの味がよく染みこんだとろろやオクラも、ひとたび口に入ると舌触りの良い粘り気が食欲を煽る。
適度に冷えた部屋、冷たい食事……あぁ、これこそ夏だなぁ、なんてしみじみと感じるものだった。

 ある程度食べたところで、影人さんを見る。……驚愕するほかない、と言ったところだ。
あの小食を極めに極めまくったと言っても過言でないくらいの影人さんが、ボクだって滅多に食べないようなボリューミーなものを半分まで食している。普段だったら、叔母さんが作ったご飯でさえ(小盛りにしても)残すというのに。

 こうして見ている今も、スプーンを止めない影人さん。
叔母さんが見たら、色んな意味でショックを受けるだろうなあ……なんて思いながらボクも箸を進めていた。






----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

※「第五話 ぼくのわがまま」の間の話
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤバいフェロモンが出ている♡

明星イツキ
BL
未知のウイルスが流行した世界。 ウイルスに罹った男性は、同性を発情させるフェロモンを出してしまう。 このお話は見た目はごく普通なのに、ウイルスに感染してフェロモンを出すようになった高校生の話。 とにかく、色んな男から襲われて、あんあん喘いでいる。 ※ア〇ル内に放尿とかエロ激しめなので、苦手な方はご注意ください。 【※男子妊娠や近親相姦の表現が出てきます。ご注意ください。】

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

処理中です...