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第二.五章 夏休み編
第一話 この夏、どうしよう
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「みんな、まずは一学期お疲れ様。期末テストの結果が良かった人も悪かった人も、明日からの夏休みで羽目をはずしすぎないように」
七月、体を突き刺すような強い日差しがボクらを襲う地獄の季節。すっかり夏服一色になった教室は、これから始まる夏休みのことで持ちきりだった。
家族で旅行だとか、彼女とデートをしまくるだとか、将来に向けて勉強を頑張るだとか。ここで話を小耳に挟むだけでも、十人十色の過ごし方をするようだ。
「不破君と黒崎君は夏休みどうするの? やっぱり二人でどっか遊びに行く感じ?」
先生がホームルームを終えた後の放課後、帰り支度を終えたであろう窓雪さんがカバンを片手に話しかけてきた。
普段はこんなことはないのだが、今日が終わればしばらく会えないからだろうか。こうして話しかけて来てくれるのは、素直に嬉しい。
……もう一人の話し相手である影人さんは、暑さでダレているのか机に伏したままだった。名画の如く芸術的な顔面は髪の毛と机と腕で隠されてしまい、拝むことができない。
ため息一つ聞こえてこないこの様子では、ボクと窓雪さんの話も聞いてるのか否かわからない。とりあえず、放っておこう。
「うーん、特にそう言った話はまだですね。窓雪さんは?」
「そうだなあ……パパとママの実家に行くとか、モモとリカと二人で色んなとこに遊びに行くとか、そんな感じ! 今月申し込んだ塾の夏季講習もあるから、そこまでは遊べなそうだけどね」
「へぇ、忙しそうですね」
窓雪さんの充実してそうな夏休みの過ごし方を聞き、感心する。約一ヶ月の長い休み、どう過ごそうかなんてそういえばまだ考えてなかった。
去年の夏休みは、基本的には叔父さんや叔母さんとどこかへ遊びに行くことが殆どで。あとは、たまに影人さんと遊んだり宿題していたり一人でフラフラしていたりと、そこまで充実はしてなかった……と、思う。
「ケイー、そろそろ行くよ!」
「あ、ごめんリカ! ……じゃあね、不破君。黒崎君にもよろしく!」
「はい、お気をつけて」
はつらつとした笑顔を浮かべ、手を振る窓雪さん。その後ろ姿を見送ったボクは影人さんの方を向き直し、つんつんと腕を突いた。
「……何、話終わったの?」
「終わりましたよ。まったく、せっかく窓雪さんがボクら二人のことを聞きにきてくれたというのに、なんで答えないんですか」
「いや、ちょっと面白そうだからそのままにしとこうかと思って……お前が女と会話してるのって、あんま無いし。ただ、さっきの窓なんとかとは普通に話せてるみたいだから、ちょっとつまんなかったけど……」
「何を期待してたんですかこの吸血鬼風味のイケメンクソ野郎」
この男……窓雪さんとボクが喋っている間ずっとだんまりだなとは思ってたけれど、そういうことか。
窓雪さんとだけは少し慣れてきたけれど、それ以外の女子とはまだぎこちなさがある。窓雪さん以外の女子が話しかけてくることはそうそう無いから、余計なのだが。
百戦錬磨の影人さんからしたら、そりゃあ面白いものだろう。少し失礼かもしれないが、下手な役者の演技を見るような気分……と、いえばいいのだろうか。
つまるところ、ボクからしたら高みの見物をされているようなものだ。ボクが彼女を作ったら覚悟しておけ……なんて、前も言ったような気がするけれど。
まぁ、窓雪さんも気にしている素振りはなさそうだったから多分大丈夫、……だろう、多分。窓雪さんも影人さんをちらっと見る様子はあったけれど、何も言わず笑顔でボクに目を向けていた。
なんだかんだ色々あったけれど、彼女はもう平気なのだろうか。
手紙を渡す時に顔を真っ赤にしていた窓雪さんが、今は影人さんを見ても平然としているのだ。あの時の気持ちはどこかへ行ってしまったのだろうか?
……まぁ、窓雪さんのことはそのうち機会があれば聞くでもいいだろう。今は今だ。
ボクは影人さんと少し距離を詰め、「そういえば」と、話を切り出した。
「さっきも窓雪さんと話してましたけど、夏休みはどうしましょうか?」
「何が」
「何がじゃないですよ! せっかくの長期休みなんですよ、これを機会になんかやりましょうよ! 夏はイベント真っ盛りの季節なんですし、海とか遠出とか…」
「え、暑いからやだ」
「南半球に籠もれコンチクショウめ!」
無気力の三文字を具現化したような声色で返す影人さんの頭を、軽く平手で叩く。
クーラーのかかった涼しい部屋でもダレるような男なのだ、そんな風に言われるような気はしていたが。
去年どう過ごしていたか詳しくは知らないが、この様子だと精々部屋でゆるく過ごして終わってたのではないだろうか。あくまで想像だけれども。
「……あ、……そうだ、蛍」
「はい?」
「暇ならさ……俺んち泊まり来る?」
思わぬ提案に、「えっ」と漏らす。今までだったら、絶対に言うことのなかった言葉だ。
家に行こうとすれば、何かしらの理由で止められてたあの頃が懐かしくなる。
「泊まり……いいですね、そういうの。やりましょうお泊まり会! ふふふ」
「何ニヤけてんのお前」
「いや、なんか……まさに友達同士のやること、って感じで。他の人の話で「泊まりに行く」とかそういうの聞いてましたから、ボクもとうとうそこまで来たか~って、ちょっと」
今にも飛び跳ねそうなくらいの喜びを抑えて語る。きっと、影人さんの目には満面の笑みを浮かべたボクが映っていることだろう。
今までは、友達がいなかった――できなかったボクだから、生まれて17年目にしてようやくまともに友達と遊べることに、愉悦を感じてしまう。
「そう。……じゃ、明日荷物持ってきてね」
「明日!? ずいぶんと急ですね、まあいいですけど……」
帰り支度をしながら、明日から始まる夏休みに思いを馳せる。
友達とお泊まりができるというだけでも、ボクにとっては一歩前進だ。
―― 今年の夏休みは、充実したものになりそうな予感がする。
七月、体を突き刺すような強い日差しがボクらを襲う地獄の季節。すっかり夏服一色になった教室は、これから始まる夏休みのことで持ちきりだった。
家族で旅行だとか、彼女とデートをしまくるだとか、将来に向けて勉強を頑張るだとか。ここで話を小耳に挟むだけでも、十人十色の過ごし方をするようだ。
「不破君と黒崎君は夏休みどうするの? やっぱり二人でどっか遊びに行く感じ?」
先生がホームルームを終えた後の放課後、帰り支度を終えたであろう窓雪さんがカバンを片手に話しかけてきた。
普段はこんなことはないのだが、今日が終わればしばらく会えないからだろうか。こうして話しかけて来てくれるのは、素直に嬉しい。
……もう一人の話し相手である影人さんは、暑さでダレているのか机に伏したままだった。名画の如く芸術的な顔面は髪の毛と机と腕で隠されてしまい、拝むことができない。
ため息一つ聞こえてこないこの様子では、ボクと窓雪さんの話も聞いてるのか否かわからない。とりあえず、放っておこう。
「うーん、特にそう言った話はまだですね。窓雪さんは?」
「そうだなあ……パパとママの実家に行くとか、モモとリカと二人で色んなとこに遊びに行くとか、そんな感じ! 今月申し込んだ塾の夏季講習もあるから、そこまでは遊べなそうだけどね」
「へぇ、忙しそうですね」
窓雪さんの充実してそうな夏休みの過ごし方を聞き、感心する。約一ヶ月の長い休み、どう過ごそうかなんてそういえばまだ考えてなかった。
去年の夏休みは、基本的には叔父さんや叔母さんとどこかへ遊びに行くことが殆どで。あとは、たまに影人さんと遊んだり宿題していたり一人でフラフラしていたりと、そこまで充実はしてなかった……と、思う。
「ケイー、そろそろ行くよ!」
「あ、ごめんリカ! ……じゃあね、不破君。黒崎君にもよろしく!」
「はい、お気をつけて」
はつらつとした笑顔を浮かべ、手を振る窓雪さん。その後ろ姿を見送ったボクは影人さんの方を向き直し、つんつんと腕を突いた。
「……何、話終わったの?」
「終わりましたよ。まったく、せっかく窓雪さんがボクら二人のことを聞きにきてくれたというのに、なんで答えないんですか」
「いや、ちょっと面白そうだからそのままにしとこうかと思って……お前が女と会話してるのって、あんま無いし。ただ、さっきの窓なんとかとは普通に話せてるみたいだから、ちょっとつまんなかったけど……」
「何を期待してたんですかこの吸血鬼風味のイケメンクソ野郎」
この男……窓雪さんとボクが喋っている間ずっとだんまりだなとは思ってたけれど、そういうことか。
窓雪さんとだけは少し慣れてきたけれど、それ以外の女子とはまだぎこちなさがある。窓雪さん以外の女子が話しかけてくることはそうそう無いから、余計なのだが。
百戦錬磨の影人さんからしたら、そりゃあ面白いものだろう。少し失礼かもしれないが、下手な役者の演技を見るような気分……と、いえばいいのだろうか。
つまるところ、ボクからしたら高みの見物をされているようなものだ。ボクが彼女を作ったら覚悟しておけ……なんて、前も言ったような気がするけれど。
まぁ、窓雪さんも気にしている素振りはなさそうだったから多分大丈夫、……だろう、多分。窓雪さんも影人さんをちらっと見る様子はあったけれど、何も言わず笑顔でボクに目を向けていた。
なんだかんだ色々あったけれど、彼女はもう平気なのだろうか。
手紙を渡す時に顔を真っ赤にしていた窓雪さんが、今は影人さんを見ても平然としているのだ。あの時の気持ちはどこかへ行ってしまったのだろうか?
……まぁ、窓雪さんのことはそのうち機会があれば聞くでもいいだろう。今は今だ。
ボクは影人さんと少し距離を詰め、「そういえば」と、話を切り出した。
「さっきも窓雪さんと話してましたけど、夏休みはどうしましょうか?」
「何が」
「何がじゃないですよ! せっかくの長期休みなんですよ、これを機会になんかやりましょうよ! 夏はイベント真っ盛りの季節なんですし、海とか遠出とか…」
「え、暑いからやだ」
「南半球に籠もれコンチクショウめ!」
無気力の三文字を具現化したような声色で返す影人さんの頭を、軽く平手で叩く。
クーラーのかかった涼しい部屋でもダレるような男なのだ、そんな風に言われるような気はしていたが。
去年どう過ごしていたか詳しくは知らないが、この様子だと精々部屋でゆるく過ごして終わってたのではないだろうか。あくまで想像だけれども。
「……あ、……そうだ、蛍」
「はい?」
「暇ならさ……俺んち泊まり来る?」
思わぬ提案に、「えっ」と漏らす。今までだったら、絶対に言うことのなかった言葉だ。
家に行こうとすれば、何かしらの理由で止められてたあの頃が懐かしくなる。
「泊まり……いいですね、そういうの。やりましょうお泊まり会! ふふふ」
「何ニヤけてんのお前」
「いや、なんか……まさに友達同士のやること、って感じで。他の人の話で「泊まりに行く」とかそういうの聞いてましたから、ボクもとうとうそこまで来たか~って、ちょっと」
今にも飛び跳ねそうなくらいの喜びを抑えて語る。きっと、影人さんの目には満面の笑みを浮かべたボクが映っていることだろう。
今までは、友達がいなかった――できなかったボクだから、生まれて17年目にしてようやくまともに友達と遊べることに、愉悦を感じてしまう。
「そう。……じゃ、明日荷物持ってきてね」
「明日!? ずいぶんと急ですね、まあいいですけど……」
帰り支度をしながら、明日から始まる夏休みに思いを馳せる。
友達とお泊まりができるというだけでも、ボクにとっては一歩前進だ。
―― 今年の夏休みは、充実したものになりそうな予感がする。
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