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短編集
顔の話
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自分でもその時はどうかしてたのかもしれない。
ボクの部屋でのんびりと音楽を聴きながらお菓子をつまみ、ジュースを飲み、他愛ない会話をし。そう、何でもない日常の一コマを過ごしていたはずだった。
ふと、影人さんの顔を見る。たまにお菓子をつまんだりするからかマスクを外しているけれど、あらわになった素顔はイケメンなんて四文字で片付けられるほどのものではなかった。
キリッとした目元に長いまつげ、整った目鼻立ちに形の良い薄い唇。
どちらかといえば細いけれど、かといってガリガリでもない程よい肉付き。
雪のように綺麗な銀髪に、ルビーを思わせる赤い瞳。
彼を創造した神様がもしいるとするなら、、きっと神様は最高傑作だと言って自慢して回るかもしれない。
それほどに、彼の顔はいい。顔というか、全体的に見た目がいい。大体の女子は見惚れてしまうだろう。
――あまりにも、顔が良すぎる。
そう思った時、気づいたらボクの両手は影人さんの頬を摘んでいた。
むにむに、と適度な柔らかさ。肉体がある。当たり前の話だが。
「…………何」
「あっ、……いや、その。あまりにも顔が良すぎるので、フィクションかなとか思っちゃって」
「残念だけど現実だよ」
「チクショウ! ボクもこういうイケメンに産まれたかった!!」
「ははは」
今更言ったところで、ボクの顔面はどうしようもないのだが。羨望のあまり、摘む手に少しだけ力が入ってしまう。
そんなボクに、影人さんは特にアクションは起こさずじっとボクに目を向けるだけだった。
「……そう言う蛍も、顔はいいと思うけどね」
「はい? 今なんて?」
……カッコイイなんて一度も言われたことないし、女子に褒められたことだってない。
寧ろ、ボクはいつだって誰かに注目されたことなどなかった。
そんなボクの顔がいいだなんて、影人さんは何を考えているのだろう。
「蛍の顔、俺はいいと思ってるって言ったんだけど。……聞こえなかった?」
「……。……はは、本当面白い冗談を。しかも、世界遺産ばりに顔のいいアナタに言われるなんてね……ボクの顔なんて普通ですよ、普通。隣にカッコイイ人がいれば、霞むくらいね」
……顔に関しては、少しばかり嫌な思い出がある。自分の顔が普通であるゆえに。
だから、ボクも影人さんのようにカッコイイ顔になりたかった。何度、そう思ったことがあるだろう。
そうしたら、こんな気持ちを抱くこともなかったのに――……
……あぁ、ここまで考えるつもりなどなかったのに。
影人さんの頬から手を離し、俯く。すると、ボクの両頬に影人さんの手の温もりを感じた。
一体全体、これは何なのか。驚いたボクは顔を上げ、影人さんの顔を見る。
「……蛍は分かってないね」
「何がです?」
「俺の顔、確かにいいかもしれないけど……毎日、ああやって上辺だけの奴らに集られるのは鬱陶しいよ。純粋な蛍だったら、もっと病むかもね」
じぃ、とボクの顔を見ながら語りかける影人さん。
顔がいいのはいいなりに、苦労というのもあるのだろう。現に、今の彼は見た目だけで寄ってくる女子に囲まれててウンザリしているのだ。
「隣の芝生は青い」という言葉があるが、そういうことなのかもしれない。少し、申し訳なくなってしまった。
……飽きたら離れていく、確かにそういう奴らが毎日寄ってくるのはボクも心を病ませるかもしれない。今だけなんだろう、と思えばそれまでで。
「蛍は自分の顔にもっと自信持っていいと思うよ、俺がいいって言ってるんだからさ。良くも悪くもない丁度いい顔、俺は好きだよ」
「はは……なんですか、その褒め方。要は普通ってことじゃないですか……。……でも、なんだろう」
変な褒め方だなぁ、と思わず笑ってしまう。
影人さんが特殊なのか、それとも周りが影人さんのような見方をできていないだけなのか、分からないけれど。
―― ただ、悪くはなかった。
心の中に小さな火が灯るような、仄かな温かさを感じる。
「人からそんな風に言われたの、初めてです。……ありがとうございます」
生まれ持った顔を「友達」に褒めてもらえるのは、嬉しい。
お返し、になるかは分からないが、精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
……じっと見る影人さんの目に映るボクは、どんな風に笑っているだろうか。
ボクの部屋でのんびりと音楽を聴きながらお菓子をつまみ、ジュースを飲み、他愛ない会話をし。そう、何でもない日常の一コマを過ごしていたはずだった。
ふと、影人さんの顔を見る。たまにお菓子をつまんだりするからかマスクを外しているけれど、あらわになった素顔はイケメンなんて四文字で片付けられるほどのものではなかった。
キリッとした目元に長いまつげ、整った目鼻立ちに形の良い薄い唇。
どちらかといえば細いけれど、かといってガリガリでもない程よい肉付き。
雪のように綺麗な銀髪に、ルビーを思わせる赤い瞳。
彼を創造した神様がもしいるとするなら、、きっと神様は最高傑作だと言って自慢して回るかもしれない。
それほどに、彼の顔はいい。顔というか、全体的に見た目がいい。大体の女子は見惚れてしまうだろう。
――あまりにも、顔が良すぎる。
そう思った時、気づいたらボクの両手は影人さんの頬を摘んでいた。
むにむに、と適度な柔らかさ。肉体がある。当たり前の話だが。
「…………何」
「あっ、……いや、その。あまりにも顔が良すぎるので、フィクションかなとか思っちゃって」
「残念だけど現実だよ」
「チクショウ! ボクもこういうイケメンに産まれたかった!!」
「ははは」
今更言ったところで、ボクの顔面はどうしようもないのだが。羨望のあまり、摘む手に少しだけ力が入ってしまう。
そんなボクに、影人さんは特にアクションは起こさずじっとボクに目を向けるだけだった。
「……そう言う蛍も、顔はいいと思うけどね」
「はい? 今なんて?」
……カッコイイなんて一度も言われたことないし、女子に褒められたことだってない。
寧ろ、ボクはいつだって誰かに注目されたことなどなかった。
そんなボクの顔がいいだなんて、影人さんは何を考えているのだろう。
「蛍の顔、俺はいいと思ってるって言ったんだけど。……聞こえなかった?」
「……。……はは、本当面白い冗談を。しかも、世界遺産ばりに顔のいいアナタに言われるなんてね……ボクの顔なんて普通ですよ、普通。隣にカッコイイ人がいれば、霞むくらいね」
……顔に関しては、少しばかり嫌な思い出がある。自分の顔が普通であるゆえに。
だから、ボクも影人さんのようにカッコイイ顔になりたかった。何度、そう思ったことがあるだろう。
そうしたら、こんな気持ちを抱くこともなかったのに――……
……あぁ、ここまで考えるつもりなどなかったのに。
影人さんの頬から手を離し、俯く。すると、ボクの両頬に影人さんの手の温もりを感じた。
一体全体、これは何なのか。驚いたボクは顔を上げ、影人さんの顔を見る。
「……蛍は分かってないね」
「何がです?」
「俺の顔、確かにいいかもしれないけど……毎日、ああやって上辺だけの奴らに集られるのは鬱陶しいよ。純粋な蛍だったら、もっと病むかもね」
じぃ、とボクの顔を見ながら語りかける影人さん。
顔がいいのはいいなりに、苦労というのもあるのだろう。現に、今の彼は見た目だけで寄ってくる女子に囲まれててウンザリしているのだ。
「隣の芝生は青い」という言葉があるが、そういうことなのかもしれない。少し、申し訳なくなってしまった。
……飽きたら離れていく、確かにそういう奴らが毎日寄ってくるのはボクも心を病ませるかもしれない。今だけなんだろう、と思えばそれまでで。
「蛍は自分の顔にもっと自信持っていいと思うよ、俺がいいって言ってるんだからさ。良くも悪くもない丁度いい顔、俺は好きだよ」
「はは……なんですか、その褒め方。要は普通ってことじゃないですか……。……でも、なんだろう」
変な褒め方だなぁ、と思わず笑ってしまう。
影人さんが特殊なのか、それとも周りが影人さんのような見方をできていないだけなのか、分からないけれど。
―― ただ、悪くはなかった。
心の中に小さな火が灯るような、仄かな温かさを感じる。
「人からそんな風に言われたの、初めてです。……ありがとうございます」
生まれ持った顔を「友達」に褒めてもらえるのは、嬉しい。
お返し、になるかは分からないが、精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
……じっと見る影人さんの目に映るボクは、どんな風に笑っているだろうか。
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