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第二章
番外編 間の話
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「なんでもないよ! じゃ、私はコレで!」
不破君と黒崎君、そして小野田先輩の喧嘩騒ぎが治まった後のこと。
戻ってきた不破君と少しばかり話をした私は、晴れ晴れとした気持ちを胸に保健室を出た。
太陽が照らしてくれる日中とは違い、夕暮れ時の学校は少し薄暗い。何となく不安を感じさせるような静けさも相まって、心臓が少しだけ早くなる。
ホラーの好きな友達ならこういうシチュエーションは喜んだかもしれないけれど、あいにく私は得意ではない。
とりあえず、早いところ家に帰ろう。お父さんも仕事から帰ってきている頃だろう。
スマホでお母さんに連絡を入れたところで、前方から見覚えのある姿がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(……黒崎君)
銀髪に赤い瞳、表情が読み取りづらいマスク姿。――かつて、私が恋をした男の子だった。
恋と言っても、憧れのような……一方的なものだったけれど。
きっと、指導の時間が終わったのだろう。スクールバッグを肩にかけ、気怠そうに歩いている。
黒崎君は、多分私をスルーしてこのままどこかへ行ってしまうかもしれない。
それはそれで良いのだけれど……このまま、ただすれ違うのは少しもったいない気がした。
「不破君、保健室にいるよ」
すれ違い様に声をかけてみる。私の声が届いたのだろう、黒崎君は少し歩みを止めた。
顔を向けてみれば、いつもと変わらない――私のことなど興味ないような、そんな目をしていて。
多分、不破君の名前を出したから足を止めてくれた……の、かもしれないけれど。
「……そう。あいつ、怪我でもしたの?」
「ううん、体は大丈夫そうだよ。黒崎君を待つのに使って良いぞって、三栗谷先生がね」
「……ふーん。まぁ、怪我が無いなら良いけどさ……」
無愛想な返事が返ってくる。不破君相手じゃないとなると、やはり大違いだ。
私がまだ黒崎君に恋をしていた時期であれば、ショックを受けていたかもしれない。
けれど、今は全くだ。ショックどころか、不思議なくらい何も無かったかのように彼と向き合える。
……他の男子と比べて格段にカッコいい顔を見つめるのは、まだ少し恥ずかしいけれど。
「黒崎君こそ、大丈夫?」
「……別に。痛いことは痛いけど、骨やられたわけじゃないし……」
「そっかぁ……でも、大きな怪我しなくて良かったよ。不破君も、貴方も」
仲良くしている二人を見ているのが楽しい。そんな私にとって、二人が少しでも元気でいてくれることは何より大切なことだった。
私の勝手な思い込みかもしれないけれど。
不破君も黒崎君も、どちらかが欠けてはいけない。お互いに、いつかそんな存在になるんじゃないかとさえ思ってしまっている。
お互いがお互いのために動いた、それを垣間見ているからこそ、そう思ってしまうのだ。
「……お前さ」
「ん?」
「最近、蛍と仲いいみたいだけど。……彼女?」
まあ別にいいんだけどさ、と付け加える黒崎君。
予想外の質問に呆気に取られ……数秒後、思わず噴き出してしまう。
「私と不破君が!? ないない!! 確かに他の男の子とよりは仲良い方だけどさ、不破君は純粋すぎるもん。彼氏にするにはちょっと子どもっぽすぎるかなぁ」
「……そう。まぁあいつもそう言われたって言ってたけどね」
「不破君からもやっぱ聞いてるんだ……まぁ、そういうことだよ。不破君のことは確かに好きだけど、それはお友達としてだし……ついでに言うと、黒崎君のことも今は気にしてないからね、私」
「……そうなんだ」
興味のなさそうな視線は変わらない。けれど、話はしてくれる。
普段はこうしてじっくり話す機会などないし、まずお互い近づくこともない。
せっかくの機会だ、今のうちに言いたいことを好き放題言ってやろう。
「……あ、ごめん。半分だけ嘘ついた」
「?」
「私、黒崎君のこと気にしてない……とは言ったけどさ。"男の子として"ってだけで、丸っきり気にしてないわけじゃないよ」
「あ、そう」なんて、そっけない返事が返ってくるかもしれない。それでも構わなかった。
かつて私の手紙を読まずに破った相手なのだ、お返しに訳のわからない言い逃げをしても許されると思いたい。
黒崎君から離れ、手近な曲がり角まで近づいたところで私は黒崎君に宣言した。
「―― 今は、不破君と黒崎君のコンビに注目してるからね!」
不破君と黒崎君、そして小野田先輩の喧嘩騒ぎが治まった後のこと。
戻ってきた不破君と少しばかり話をした私は、晴れ晴れとした気持ちを胸に保健室を出た。
太陽が照らしてくれる日中とは違い、夕暮れ時の学校は少し薄暗い。何となく不安を感じさせるような静けさも相まって、心臓が少しだけ早くなる。
ホラーの好きな友達ならこういうシチュエーションは喜んだかもしれないけれど、あいにく私は得意ではない。
とりあえず、早いところ家に帰ろう。お父さんも仕事から帰ってきている頃だろう。
スマホでお母さんに連絡を入れたところで、前方から見覚えのある姿がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(……黒崎君)
銀髪に赤い瞳、表情が読み取りづらいマスク姿。――かつて、私が恋をした男の子だった。
恋と言っても、憧れのような……一方的なものだったけれど。
きっと、指導の時間が終わったのだろう。スクールバッグを肩にかけ、気怠そうに歩いている。
黒崎君は、多分私をスルーしてこのままどこかへ行ってしまうかもしれない。
それはそれで良いのだけれど……このまま、ただすれ違うのは少しもったいない気がした。
「不破君、保健室にいるよ」
すれ違い様に声をかけてみる。私の声が届いたのだろう、黒崎君は少し歩みを止めた。
顔を向けてみれば、いつもと変わらない――私のことなど興味ないような、そんな目をしていて。
多分、不破君の名前を出したから足を止めてくれた……の、かもしれないけれど。
「……そう。あいつ、怪我でもしたの?」
「ううん、体は大丈夫そうだよ。黒崎君を待つのに使って良いぞって、三栗谷先生がね」
「……ふーん。まぁ、怪我が無いなら良いけどさ……」
無愛想な返事が返ってくる。不破君相手じゃないとなると、やはり大違いだ。
私がまだ黒崎君に恋をしていた時期であれば、ショックを受けていたかもしれない。
けれど、今は全くだ。ショックどころか、不思議なくらい何も無かったかのように彼と向き合える。
……他の男子と比べて格段にカッコいい顔を見つめるのは、まだ少し恥ずかしいけれど。
「黒崎君こそ、大丈夫?」
「……別に。痛いことは痛いけど、骨やられたわけじゃないし……」
「そっかぁ……でも、大きな怪我しなくて良かったよ。不破君も、貴方も」
仲良くしている二人を見ているのが楽しい。そんな私にとって、二人が少しでも元気でいてくれることは何より大切なことだった。
私の勝手な思い込みかもしれないけれど。
不破君も黒崎君も、どちらかが欠けてはいけない。お互いに、いつかそんな存在になるんじゃないかとさえ思ってしまっている。
お互いがお互いのために動いた、それを垣間見ているからこそ、そう思ってしまうのだ。
「……お前さ」
「ん?」
「最近、蛍と仲いいみたいだけど。……彼女?」
まあ別にいいんだけどさ、と付け加える黒崎君。
予想外の質問に呆気に取られ……数秒後、思わず噴き出してしまう。
「私と不破君が!? ないない!! 確かに他の男の子とよりは仲良い方だけどさ、不破君は純粋すぎるもん。彼氏にするにはちょっと子どもっぽすぎるかなぁ」
「……そう。まぁあいつもそう言われたって言ってたけどね」
「不破君からもやっぱ聞いてるんだ……まぁ、そういうことだよ。不破君のことは確かに好きだけど、それはお友達としてだし……ついでに言うと、黒崎君のことも今は気にしてないからね、私」
「……そうなんだ」
興味のなさそうな視線は変わらない。けれど、話はしてくれる。
普段はこうしてじっくり話す機会などないし、まずお互い近づくこともない。
せっかくの機会だ、今のうちに言いたいことを好き放題言ってやろう。
「……あ、ごめん。半分だけ嘘ついた」
「?」
「私、黒崎君のこと気にしてない……とは言ったけどさ。"男の子として"ってだけで、丸っきり気にしてないわけじゃないよ」
「あ、そう」なんて、そっけない返事が返ってくるかもしれない。それでも構わなかった。
かつて私の手紙を読まずに破った相手なのだ、お返しに訳のわからない言い逃げをしても許されると思いたい。
黒崎君から離れ、手近な曲がり角まで近づいたところで私は黒崎君に宣言した。
「―― 今は、不破君と黒崎君のコンビに注目してるからね!」
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