Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

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エピローグ

エピローグ②

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「あれから十二年ですか……」

 ヘムカがイツキとの再会に胸を弾ませていた頃。
 ヘムカが生まれた世界において、ライベの邸宅に一人の男がいた。もちろんライベである。
 机の上には、読み尽くされてボロボロになった日本語の医学書が置かれておりその隣には訳された文章が綺麗に置かれていた。

「それにしても、まさか前回の実験は失敗でした。なにせ、世界に歪みが生じてしまうとはね。おかげで奴隷を失ってしまいました。せっかくあの亜人の村に間諜を置いて油断した寸隙を襲ったというのに。今度は歪を生じない程度に実験しませんとね……」

 十二年前に発生した歪の原因、言わずもがなライベの実験が原因だったのだ。多少後悔はしているものの、リターンも大きかったためそれほど後悔はしていない。
 そんなライベは独り言を呟きながら別の部屋へと移動する。そこには、少し老いた狐耳としっぽのある亜人が拘束されており、亜人は必死に抵抗するも拘束が固く微動だにしない。そして、ライベが入ってきた瞬間に不倶戴天の敵とばかりにライベを睨みつけた。
 
「それにしても、残念です。間諜を務めたあなたを実験することになるなんて」

 ライベが丁度村の皆が気の緩む宴を開く日に村を襲えた理由。それは、村に協力者がいたからに他ならない。

「怖いですね。そういえばあなた、当時は村で一番若い幹部だったらしいじゃないか」

 ライベは男を見る。その男は、宴の日ヘムカや、その父親と会話した紛れもない若い幹部だったのだ。

「そうだよ。で? 僕は騙されているとも知らず君の言いなりになってしまった」

 若い幹部は、幹部といえども若輩者だ。当然、幹部の中では発言力や影響力。ともに底辺だった。むしろ、幹部ではない高齢者の方が影響力や発言力の方が大きいことなどよくあった話だ。
 だからこそ、若い幹部は彼らを見返せるようなことを夢見てしまったのだ。
 そんな中、極秘裏に若い幹部とライベが接近。若い幹部は、他の幹部を蹴落とし村長になるため。ライベは村の情報を手に入れるため。協力協定を結び情報を横流ししていた。
 しかし、全ては騙されていた。
 とはいえ、若い幹部は最大の功労者なのだ。ライベは、若い幹部に衣食住の保証をした。
 しかし、若い幹部は堪えられなかったのだ。旧村人の中には、森に逃げ難を逃れた人もいる。彼らを頼ったのだ。

「あの時の君は本当に滑稽でしたね。私が警備を減らしたのは、旧村人と敢えて遭遇させるためにですよ。実際、一網打尽にできました。あなたには感謝しかありません」

 捕まってからの若い幹部の処遇はひどいものだった。旧村人に、最大の戦犯であることを伝えられるとことごとく嫌われた。旧村人は、皆実験体か奴隷市場に流す。
 若い幹部からしてみれば、せいぜい良心のある主人に拾われることを願うしかない。

「いっそ殺してくれよ」

 騙されて、自分の村を壊滅に追い込み村人から嫌われる。当然だが、亜人である以上人間との交流も難しいのだ。しかし、ライベは首を横に振った。

「嫌ですよ全く……。さて、実験を始めましょうか」



 若い幹部は、さんざん魔法の実験の的にされ醜い存在にされたまま放置され意識を失っていた。ライベは目もくれず、邸宅を出て庭に出た。

「全く。今回も歪が出てしまいましたか。困りましたね」

 ライベが向かおうとしているのは、発生したはずの歪である。前回は場所が特定できなかったためにヘムカに先を越された。だが、歪ができても場所が分かればどうとでもできる。無理にでも隠せば良い。

「ヘムカは元気ですかね……」

 十二年前に失った奴隷を偲びながら、かつて歪があった場所に向かう。

「おやおや……」

 しかし、歪はない。かつて歪があった場所に手を入れてみるが、全くその気配はない。歪の存在自体は確定しているので、この周辺にあるのだろう。

「まずいですね」

 近隣をくまなく探すが、どこにも見当たらない。
 疲れたのでふと空を眺めるたところ、かすかな違和感を覚える。

「ん?」

 目を凝らしてみると、ベランダに微かな歪み。歪が見つかりホッとしたのも束の間、ベランダに人影があった。若い幹部だった。血まみれになり、足を引きずりながらもその歪に向かっている。
 ライベは急いでベランダに向かうも、もう遅かった。若い幹部は歪の中だ。

「全く、どうして被験者は皆歪の場所がわかるのでしょうかね」

 ライベは苛立ちつつも、落ち着いて考える。
 歪に入ったとはいえ、すぐに取り返せば何の問題もない。
 そう思い、歪を確認せずに中に入った。

「おお……」

 ライベは感嘆のため息をついた。十二年を思い出しながらも、どこか違う町並み。そして、目の前の銃を持った人物たち。
 若い幹部は既に銃を持った人物に取り囲まれていた。
 だが、ゆっくりと状況を確認している場合ではない。
 後ろにいた銃を持つ男が、ライベに向かって銃を構えた。

「你到底是誰?」

「おやおや……」

 ライベは、命の危機を感じつつおとなしく両手を上げた。
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