Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

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エピローグ

エピローグ①

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 イツキが逮捕された。
 親殺し、無免許。そして羽黒市に発生した不審者集団との関連性。逮捕された直後は、メディアが挙って報道した。
 親から教育虐待を受けていたという事実や、羽黒市では八歳の少女と共に暮らしていたことも露見されネタに尽きることはなかった。
 しかし、八歳の少女と暮らしたという事実は掴めても、その少女にたどり着けたメディアは誰もいなかった。旗峰知事と内閣の連携により、安積警察署に徹底的な箝口令が敷かれたのだ。
 羽黒市内で一回露見したことがあったが、一瞬であり近くの人からすればせいぜいコスプレ程度にしか思われていない。作り物の精巧さに驚いた市民もいるかもしれないが、まさか本物の猫耳だとは微塵も思われていないだろう。
 結局、メディアは少女の情報を掴むことはできず別の話題へと移っていった。


 イツキが逮捕されてから十二年が経った。
 安積県から遠く離れた所にある刑務所を、一人の男が敷地外へと出た。イツキであった。映画やドラマで見るような、「戻ってくるなよ」の声がかけられるのかと思いきや実際にはかからなかったが落胆するほどのことでもない。
 そもそもの話、イツキはこんな余計なことを考えている余裕などなかった。
 イツキが逮捕されてからも月二回程度はヘムカからの手紙が届いたのだが、最近は手紙が来ず最後に来たのは三ヶ月も前。

「ヘムカ、来てくれるのかな……」

 思い出すのは、イツキがヘムカに自分自身の過去を全て打ち明けた時にした約束。出所したら迎えに来るというものだった。
 期待半分不安半分で塀の外へと出たものの、近くに人の姿は見当たらない。
 大きくため息をつき、仕方なく握りしめている作業賞与金で帰路に就こうと歩き始めた。
 しかし、突如として黒い高級車が反対側から走ってきた。そして、イツキの近くの路肩に停車する。
 何事かと思いイツキはその車を不審そうに見るが、その中からフードを深く被った人物が現れる。身長は百五十センチ後半。薄っすらとフードの隙間から見えた顔も、黒いサングラスにマスクでよく見えない。怪しさ満点だ。

「誰ですかあなた……?」

 イツキは思わず声をかけた。

「大丈夫?」

 イツキが警戒態勢をとっているのは全て目の前の人物が原因だ。そんな事言われる筋合いなどない。
 しかし、その声は聞き覚えがあった。

「まさか……?」

 イツキがとある可能性を思い描くと、マスクの上からでもわかるような笑みを浮かべる。

「ああ、そうだよ」

 フードの人物がそう言うと、サングラスを取り、マスクを取り、最後にフードを取った。

「待ってたよ。佐藤さん」

 フードの人物、ヘムカはイツキの顔を下から覗き込み小悪魔的な笑みを浮かべる。そして、首元には枷はない。

「ヘムカ……ヘムカなのか……?」

 イツキは涙を浮かべ嬉々としながら確認する。

「そうだよ。ずっと待ってたんだよ。とりあえず、車に乗って」

 ヘムカはイツキの腕を掴むと強引に高級車の助手席に乗せた。

「この車、ヘムカの?」

 イツキからしてみれば、あのヘムカがこんな高級車を乗り回しているとは思えなかった。

「レンタカーだよ。さすがにそんなお金はないからね。じゃ、シートベルトしてね。じゃないと、道交法違反だから」

「ヘムカ、それは僕に対する嫌味かい?」

 イツキは嬉々として答え、おとなしくシートベルトをつける。

「……何年待たされたと思ってるの? いいでしょ、そのくらい」

 ヘムカは十二年間、ずっと待っていたのだ。不服そうな表情になる。
 その思いを考慮すれば、イツキも何も言えなかった。

「そうだったな。ところで免許いつ取ったんだ?」

「この前取ったよ。ほら」

 ヘムカは財布の中から自動車運転免許証を取り出し、イツキへと渡す。
 ヘムカの言った通り、免許証の左下にある取得日時には先日の日付が書かれていた。

「証明写真も狐耳なんだな……。旗峰?」

 イツキがヘムカの免許証を感慨深く眺めているが、氏名欄を見て思わず声を出してしまう。
 そこには、氏名:旗峰ヘムカと書かれていた。

「旗峰ヘムカか……。名字はどうやって?」

 どのように名字が決まったのか。そんな思いからイツキはヘムカに聞いてみる。

「旗峰家に養子に入ったんだ。元県知事の」

 その言葉を受けて、ヘムカと以前交わした約束を思い出す。そう、結婚の約束であった。
 結婚をするためには、元県知事に対して直談判しなければならない。そう思うと、愕然として震える他なかった。

「……そうか。そういえば、今からどこに行くんだ?」

 とりあえず元県知事のことを忘れようと、話を変える。

「どこってそりゃ、私の家。つまり、旗峰家だよ?」

「……元県知事と会うのか」

 イツキは軽く絶望しながら頭を抱える。

「大丈夫だって、私が養子になってすぐに選挙で落ちやがったからね。僅差じゃないよ? ダブルスコアだよ? その影響でだいぶ謙虚になってるから大丈夫だよ」

 養子とはいえ親の落選を笑いながらヘムカ。そこまでいうのであればそうなのだろうと、イツキの気はだいぶ楽になった。

「ヘムカがそういうなら」

 イツキが了承すると、ヘムカの車は勢いよく走り出した。
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