Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

文字の大きさ
上 下
42 / 49
第四章

第四十二話 忍従

しおりを挟む
 ヘムカが連れてこられたのは、無機質で中央に机のある部屋だ。そして、ヘムカの隣には女性警察官がおり人を待っている。

「いい? 正直に訳してね」

「はい」

 女性警察官は、改めてヘムカに念押しする。年齢も考慮してのことだろう。
 それに、契約書にも書かれていた。通訳としての仕事を求められた場合には大人しく従うこと。
 通訳の際、改竄しないこと。
 ヘムカとしても、破って何ら得はない。大人しく遂行するつもりだ。

「あ、来たわ」

 女性警察官が足音に気づき扉を見ると、一人の男が手錠をされ警察官に拘束されながら部屋にやってきた。
 男は警察官に椅子に座らされると、ヘムカに付き添った女性警察官去っていき代わりに場数を踏んできたであろう強面の女性警察官が入ってきて男の反対側の椅子に。そして、ヘムカは丁度二人から見て真横の椅子に座った。

「それでは、取り調べを開始します。あなたの名前は?」

 そこからは、ただ言葉を機械的に翻訳していく時間だった。ヘムカである必要はどこにもない、ただ翻訳できるのがヘムカだったからという理由で長時間に渡って取り調べの手伝いをしていた。

「貴国で兵士の権限がいかに保証されていようとも、我が国の現行法では関係ありません。明確な銃刀法違反です」

 警察官が男に対し、自国の兵士の権限が通用しないことを告げる。
 しかし、ヘムカは新たな問題に直面した。途中、難しい言葉が出てきた場合には何と訳していいのかわからないのだ。

「現行法……ってなんて訳すんだ?」

 文明化されていない小さな村に住んでいたヘムカからしてみれば、現行法の訳に相当する言葉など聞いたこともなければ考えたことすらない。小声で唸りながら考えるも、女性警察官は脚を揺らすなどして急かす。とはいえ、脚を揺らしただけで一応本人の口からは何も言ってこず黙って男を威圧するのみだ。
 ヘムカは通訳のために教育を受けたわけでもないのだ。そしてなおかつ、両者に共通の常識がないこともますますヘムカの神経をすり減らしていた。

「魔法? こっちは真剣に話をしているんですよ!」

 女性警察官は魔法などの概念はわからないし、兵士は全てが法で管理される法治国家の概念を知らない。両者の話し合いをスムーズに行うために、前提知識を伝えた結果かなりの予定された時間を大幅に超えた。実に十二時間通訳しっぱなしであった。

「お疲れ様。また明日もよろしくね」

 感情など籠もっていなさそうな、合成音声ですら言えそうな挨拶を受けると設けられた部屋へと向かう。
 食事はすっかり冷めきった留置所と一緒の仕立て屋の食事。夜遅くに食べる分、普通に留置所に入っていた方がマシだとすら思えた。それに衣食住が保証されたといっても、警察署内の一室。雑に改造された簡素な部屋だ。プライバシーなどあったものではない。死んだように寝るも、不審者が騒ぎを起こしたとかで真夜中の三時に通訳として駆り出された。
 未熟な子どもであるヘムカが心身ともに疲弊するまで二日かからなかった。

「あれ? なんで泣いて……?」

 気がつくと、ヘムカは泣いていた。時計を見ると、深夜十二時。意識しないままに仕事を終えて寝てしまったのだろう。布団を見ると、涙ですっかり濡れてしまっていた。
 布団が汚れたことよりも、頭に浮かぶのはイツキのことだった。

「大丈夫かな……?」

 本の僅かな短い期間しかともにしていないが、現時点でヘムカが最も信頼しているのはイツキだった。たとえ犯罪者であろうとも、変わりはない。
 暫く布団を上で起きたまま何も考えずに身を任せていたが、尿意を感じ立ち上がった。

「トイレ行こう」

 部屋を出て、深夜の警察署を徘徊する。とはいえ、深夜とて犯罪がないわけではないためどこかしら明かりはついている。

「あったあった」

 トイレを見つけ、近くにある部屋を通り過ぎようとしたとき部屋の中から甲高い声が聞こえ思わず尿意を忘れ聞き耳を立てた。

「取り調べもいいですけど、あの子のことも考えてやって下さいよ。あの子、さっき確認しましたが眠りながら泣いてたんですよ?」

 最初に出会った女性警察官の声だった。ある程度はヘムカのことを気遣ってくれていたらしい。

「その理屈だと、どんな大罪を犯した重罪人でも泣けば泣くほど罪が軽くなるぞ」

 その言葉に、女性警察官は何も反論できないとか唸り声を上げるほかない。

「それはそうと、明日……じゃなくて本日。安積県知事が視察にいらっしゃる。準備をしっかりな」

「……わかりました」

 女性警察官は部屋を出ようとしていたため、ヘムカはすぐにトイレの中に入り隠れた。何かいいことがあればと思い聞いていたが、結局徒労であった。
 トイレをしたあとは、すぐにまた布団の中に入り少ない自由時間を全て睡眠に当てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...