38 / 49
第四章
第三十八話 片道切符
しおりを挟む
「間もなく安積、安積です」
そんな車内アナウンスが流れると、列車の速度が逓減し始める。
その違和感でようやく目を覚ましたヘムカたちは降りるべく席を立つと、開くドアの方へと向かう。安積駅で降りる人は多いらしく、列車が停車するなり列車のドア周辺はかなり込み合った。
人混みで一番避けるべきなのは、フードが取れてしまうことだ。周りに人が大勢いるため、ふとした拍子にフードが取れてしまう可能性がある。そのため、ヘムカはフードを前方を引っ張ると、イツキに腕を掴まれながらどうにか人混みを行く。
ヘムカは、まだ八歳という年齢を考慮しても背が低い。動く壁に押されているも同然で、周りの大人たちに合わせた早歩きをするのがやっとだった。
改札にたどり着くが、自動改札なため二人とも切符を挿入するだけで無事に終わる。一応改札口には駅員もいるが、切符を紛失したらしい老人の対処に当たっておりヘムカのことなどまるで気にしてもいない。
それでもイツキは万が一ヘムカが緊張してしまうかとも思ったが、羽黒鉄道の改札の時のような戸惑いは一切ない。緊張で一杯だった。
「ふぅ」
人混みから逃れられたヘムカ。春とはいえ人混みの熱気で汗ばんでしまい、思わずフードを取ろうとしてしまうがすぐに気が付き自制する。
「大丈夫? ヘムカ」
「うん。それにしても、ここの拘置所なんだよね」
まだ拘置所は見えないどころか駅構内である。とはいえ、ヘムカにとってもイツキにとっても拘置所へ訪れるということは人生に大きな影響を与えかねない行為に等しい。二人はすでに緊張していた。
手で扇ぎながらヘムカが辺りを見渡すと、街がよく見えるであろう巨大なガラスのを見つけた。
近くまで行ってみると、高さは駅構内の高さの半分ほどまで。長さは、階段と階段の間、複線を跨ぐほどに長い。
「ああ、きちんと調べた。羽黒市内にも拘置支所はあるが、別の不審者が脱獄を幇助する可能性があるから、あと多すぎて対処しきれないという理由で全員安積に移送されたそうだ」
イツキは話しながら近づいてくる。
仮にも指揮が取れた集団である。万が一ライベが部下の収容場所を発見したら、襲撃するだろう。その点でも、警察の判断は正しかった。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
イツキの後ろをついていき安積駅を出る。改めて振り返れば、その駅の大きさに驚いた。
羽黒市よりも都会である安積市は、県下最大の人口を誇るということもあり商業が非常に発達している。
羽黒市でしばらく暮らしてすっかり見慣れたと思っていた近代建築も、まだ序の口に過ぎない。しかし、無闇矢鱈に感嘆している暇もない。靴紐を固く結び直すと、駅前の交番に恐れ慄きながら道を進んでいく。
「やっぱり交番通る時って怖い?」
小声でイツキに聞いてみる。
「まあね。でも、一々交番の前で見つからないように行動するのも不審がられるから。西羽黒駅にも近くに交番あるし」
イツキは堂々と喋った。しかし、手に汗握っているため少しは緊張しているのだろう。それよりも、驚いたのは交番の位置だ。
「え? そうなの?」
「そうだよ。見えない位置にあったから仕方ないけどね」
直線上では見えなかったかもしれないが、交番が近くにあれば巡回している可能性が高い。万が一遭遇していたら職務質問されていたかもしれないのだ。無事に合わずに済んで良かったと胸をなでおろす。
その後も、しょうもない話を続けること十五分ほど。
「ここだな」
しかし、ヘムカは何かを喋ろうにも尻込みしてしまう。その厳つい外観に気圧されたのだ。
目の前にあるのは、何かの官公庁の施設かと思われる大きな施設と、それを取り囲む高いコンクリート壁。ここが安積拘置所である。
学校などの壁とは比べ物にならないほど壁は高く造られており、厳重な警備体制というのがわかる。
門扉で怖気づいていても仕方ないため、敷居を跨ごうと進む。しかし、すぐに警備員が二人の前に立ち塞がった。
「あのー。すみません。そちらのお子さん、ちょっとフードとってもらっても?」
いざ取ろうとするが、どれだけ覚悟を決めていたとしても本番になると思うようにはならないものだ。
「どうされました? 光線過敏症とかですか?」
「いいえ」
ヘムカは、ゆっくりとフードを取った。首輪を見られるとさらにややこしくなりそうなので、首輪は見えないようにしたが。
しかし、警備員は顔色を変えなかった。
今まで多くの起訴された人々を見てきた警備員にとって、狐耳が生えていたくらいでは別段驚くほどのものでもないのだろう。
「わかりました。ありがとうございます。ところでご用件は?」
「羽黒市の確保された言葉の通じない方々に面会に」
「……失礼、何の目的で面会に?」
警備員は訝しんだ。
不審者の行動は、一般常識から逸脱している。仮に日本人の知人がいたなら最低限の知識を得ていると考えたからだ。
また、記者のようにも思えない。ましてや、子連れなのだ。
すると、イツキはヘムカに視線を向けた。
「この子──ヘムカが、その人たちと同郷のもので言葉が通じる可能性があるんです」
さすがにこの発言には警備員も驚いたようで目を大きく見開きヘムカを凝視した。すると、ポケットから無線機を取り出し喋りだす。相手の会話が聞こえないため、ヘムカたちには何を言っているのかはわからない。しかし、警備員の発言から拘置所内部にいる人間と話しているということはわかった。
「とりあえず、受付の方へ」
警備員から、門扉から拘置所の受付までを教えてもらうと、ヘムカたちはその通りに拘置所の受付へと向かう。
そんな車内アナウンスが流れると、列車の速度が逓減し始める。
その違和感でようやく目を覚ましたヘムカたちは降りるべく席を立つと、開くドアの方へと向かう。安積駅で降りる人は多いらしく、列車が停車するなり列車のドア周辺はかなり込み合った。
人混みで一番避けるべきなのは、フードが取れてしまうことだ。周りに人が大勢いるため、ふとした拍子にフードが取れてしまう可能性がある。そのため、ヘムカはフードを前方を引っ張ると、イツキに腕を掴まれながらどうにか人混みを行く。
ヘムカは、まだ八歳という年齢を考慮しても背が低い。動く壁に押されているも同然で、周りの大人たちに合わせた早歩きをするのがやっとだった。
改札にたどり着くが、自動改札なため二人とも切符を挿入するだけで無事に終わる。一応改札口には駅員もいるが、切符を紛失したらしい老人の対処に当たっておりヘムカのことなどまるで気にしてもいない。
それでもイツキは万が一ヘムカが緊張してしまうかとも思ったが、羽黒鉄道の改札の時のような戸惑いは一切ない。緊張で一杯だった。
「ふぅ」
人混みから逃れられたヘムカ。春とはいえ人混みの熱気で汗ばんでしまい、思わずフードを取ろうとしてしまうがすぐに気が付き自制する。
「大丈夫? ヘムカ」
「うん。それにしても、ここの拘置所なんだよね」
まだ拘置所は見えないどころか駅構内である。とはいえ、ヘムカにとってもイツキにとっても拘置所へ訪れるということは人生に大きな影響を与えかねない行為に等しい。二人はすでに緊張していた。
手で扇ぎながらヘムカが辺りを見渡すと、街がよく見えるであろう巨大なガラスのを見つけた。
近くまで行ってみると、高さは駅構内の高さの半分ほどまで。長さは、階段と階段の間、複線を跨ぐほどに長い。
「ああ、きちんと調べた。羽黒市内にも拘置支所はあるが、別の不審者が脱獄を幇助する可能性があるから、あと多すぎて対処しきれないという理由で全員安積に移送されたそうだ」
イツキは話しながら近づいてくる。
仮にも指揮が取れた集団である。万が一ライベが部下の収容場所を発見したら、襲撃するだろう。その点でも、警察の判断は正しかった。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
イツキの後ろをついていき安積駅を出る。改めて振り返れば、その駅の大きさに驚いた。
羽黒市よりも都会である安積市は、県下最大の人口を誇るということもあり商業が非常に発達している。
羽黒市でしばらく暮らしてすっかり見慣れたと思っていた近代建築も、まだ序の口に過ぎない。しかし、無闇矢鱈に感嘆している暇もない。靴紐を固く結び直すと、駅前の交番に恐れ慄きながら道を進んでいく。
「やっぱり交番通る時って怖い?」
小声でイツキに聞いてみる。
「まあね。でも、一々交番の前で見つからないように行動するのも不審がられるから。西羽黒駅にも近くに交番あるし」
イツキは堂々と喋った。しかし、手に汗握っているため少しは緊張しているのだろう。それよりも、驚いたのは交番の位置だ。
「え? そうなの?」
「そうだよ。見えない位置にあったから仕方ないけどね」
直線上では見えなかったかもしれないが、交番が近くにあれば巡回している可能性が高い。万が一遭遇していたら職務質問されていたかもしれないのだ。無事に合わずに済んで良かったと胸をなでおろす。
その後も、しょうもない話を続けること十五分ほど。
「ここだな」
しかし、ヘムカは何かを喋ろうにも尻込みしてしまう。その厳つい外観に気圧されたのだ。
目の前にあるのは、何かの官公庁の施設かと思われる大きな施設と、それを取り囲む高いコンクリート壁。ここが安積拘置所である。
学校などの壁とは比べ物にならないほど壁は高く造られており、厳重な警備体制というのがわかる。
門扉で怖気づいていても仕方ないため、敷居を跨ごうと進む。しかし、すぐに警備員が二人の前に立ち塞がった。
「あのー。すみません。そちらのお子さん、ちょっとフードとってもらっても?」
いざ取ろうとするが、どれだけ覚悟を決めていたとしても本番になると思うようにはならないものだ。
「どうされました? 光線過敏症とかですか?」
「いいえ」
ヘムカは、ゆっくりとフードを取った。首輪を見られるとさらにややこしくなりそうなので、首輪は見えないようにしたが。
しかし、警備員は顔色を変えなかった。
今まで多くの起訴された人々を見てきた警備員にとって、狐耳が生えていたくらいでは別段驚くほどのものでもないのだろう。
「わかりました。ありがとうございます。ところでご用件は?」
「羽黒市の確保された言葉の通じない方々に面会に」
「……失礼、何の目的で面会に?」
警備員は訝しんだ。
不審者の行動は、一般常識から逸脱している。仮に日本人の知人がいたなら最低限の知識を得ていると考えたからだ。
また、記者のようにも思えない。ましてや、子連れなのだ。
すると、イツキはヘムカに視線を向けた。
「この子──ヘムカが、その人たちと同郷のもので言葉が通じる可能性があるんです」
さすがにこの発言には警備員も驚いたようで目を大きく見開きヘムカを凝視した。すると、ポケットから無線機を取り出し喋りだす。相手の会話が聞こえないため、ヘムカたちには何を言っているのかはわからない。しかし、警備員の発言から拘置所内部にいる人間と話しているということはわかった。
「とりあえず、受付の方へ」
警備員から、門扉から拘置所の受付までを教えてもらうと、ヘムカたちはその通りに拘置所の受付へと向かう。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる