36 / 49
第四章
第三十六話 道を照らそう
しおりを挟む
ヘムカたちが家に帰ってきたのは、丁度真昼間だった。しかし、激しい雨が続いていたせいか、昼とは思えないほどには暗い。
朝イツキが買い物で買ってきた食材で作った料理を済ませると、二人はダイニングテーブルで向かい合った。
「さて、拘置所に向かうってことだけど。どこにあるの?」
イツキは羽黒市に来てから月日はそれほど経っていない。しかし、質問を投げかけているヘムカはもっと羽黒市の公共建築物について疎い。
「さあ? どこだろう」
拘置所というのは、テレビで報道されていたことだが今現在も拘置所に入っているとは限らない。仮に今でも入っているのだとしても、どこの拘置所なのかは皆目検討がつかない。
一応、羽黒市には拘置支所がある。だが、規模が小さく外国人の受け入れ準備など整っておらず可能性は低い。
「調べたほうがいいよね……」
電話で直接警察や拘置所に問い合わせるなり、インターネットで調べれば出るのかも知れないが生憎どちらもできない。
「あ、そういえば」
何かをイツキは思い出した。
「西羽黒駅の近くに、確かインターネットカフェがあったな……」
しかし、問題はある。二人とも、インターネットカフェに関する知識は乏しかった。片や教育虐待を受け親から行動制限を受けていた者、片や中学一年生で異世界に転生した者。両者の知識が乏しいのは仕方のないことだ。
「じゃあ行くか。ヘムカはどうする?」
「私も行く」
その後すぐにヘムカたちは、羽黒鉄道で西羽黒駅まで向かうと近くのインターネットカフェへと向かった。
「ここか」
西羽黒駅から少し離れた場所にある雑居ビル。その一階にインターネットカフェはあった。
二人で店内に入ると、早速受付へと向かう。
会員登録は身分証明書が必須なので危うく詰みかけたが、幸いにも一日利用であれば不要とのことだった。二人用の個室を選択しその部屋へと向かった。
部屋に入り、PCを起動する。
イツキは家でPCに触ったことなど殆どなかったが、高校時代には情報科の授業で触ったことを思い出し拙い動作でPCを操作する。
『羽黒市 不審者』
検索フォームに入力し、早速調べてみると早速大量の情報に出くわした。新聞記事はもちろんとして、著名人の発言、そして匿名であることを理由に過激な発言をしている者もいる。
不審者たちの正体を探る者も現れており、『羽黒市に行ってみた』なる動画を投稿しているものもいた。
「とりあえず、行き先を確認しよう」
キーボードを使い、『羽黒市 不審者 移送先』と入力して検索してみる。市長や県知事、警察本部長の会見を切り取ったものが表示されたためそれらを流し見る。だが、肝心の移送先についてはどこにも出てこない。
「中々出てこないな……」
イツキが頭を掻きむしりながら検索結果の下のページまで確認する。
「私飲み物取ってくる。何がいい?」
ヘムカは先程からイツキが悪戦苦闘する様子をただ横から眺めることしかできない。そのため、席を離れた方がいいだろうと思い飲みたいものを聞いた。
「烏龍茶頼む」
「わかった」
二つ返事で了承するなり、すぐに個室を開けてドリンクサーバーへと向かう。イツキが飲みたい烏龍茶とヘムカが飲む林檎ジュースを注いだ。お盆の上に二つのグラスを載せると、ゆっくりとイツキのいる部屋へと向かう。
「ねぇ、聞いた? 最初の殺人事件のこと」
イツキがいる部屋の前。丁度大量の漫画が陳列されている棚の近くで、ヘムカはそんな声を耳にして足を止めた。
声の様子からすると、おそらく若い女性の声だろう。
「ああ、聞いたよ。遺体わかったんだってね」
「そうそう、確か県外に住む女性。で、殺人犯は息子。名前は確か……佐藤なんとか」
佐藤なんとかというのが、間違いなくイツキを指しているのはヘムカでもわかった。
これ以上聞いていられない。
グラスに注がれた飲み物のことを全く考慮していないといえるような速歩きで、今にも烏龍茶と林檎ジュースで零れそうな位揺れている状態でイツキのいる部屋へと入った。
「ああ、お帰り……ってどうかしたか?」
先程同様に、掻き毟っている様子は全くない。欲しい情報が見つかったのか、随分と呑気に画面を眺めていたイツキはヘムカの方へと振り返る。しかし、気まずそうな顔をしているヘムカを見て、言葉を一瞬つまらせた。
「ううん。何にもない。ところで、情報見つかった?」
イツキと別れる時が確実に近づいている。そのことを理解しているヘムカはいつもどおりの表情へと戻すなり、イツキの側まで駆け寄り烏龍茶を手渡す。
「ああ、ありがと。なんか安積にある拘置所に移送されたらしい」
早速烏龍茶を飲みながらヘムカにも見つけたページをよく見せる。
それは、県が公表した文書で全体に渡って堅苦しい日本語で書かれておりヘムカにはよくわからない。
「何とか見つかったな」
イツキは無事に情報が見つかって気が緩んだのか、烏龍茶を口につけた。
だが、ヘムカの心境は複雑だ。
PCの下部に表示されている現在時刻を見る。
簡単な調べ物だけのため。
そんな考えから一時間のプランを選んだのだが、両者ともにPCに疎いため結果としてかなり時間が掛かってしまっている。そのため、退出時刻までもう時間がなかった。
朝イツキが買い物で買ってきた食材で作った料理を済ませると、二人はダイニングテーブルで向かい合った。
「さて、拘置所に向かうってことだけど。どこにあるの?」
イツキは羽黒市に来てから月日はそれほど経っていない。しかし、質問を投げかけているヘムカはもっと羽黒市の公共建築物について疎い。
「さあ? どこだろう」
拘置所というのは、テレビで報道されていたことだが今現在も拘置所に入っているとは限らない。仮に今でも入っているのだとしても、どこの拘置所なのかは皆目検討がつかない。
一応、羽黒市には拘置支所がある。だが、規模が小さく外国人の受け入れ準備など整っておらず可能性は低い。
「調べたほうがいいよね……」
電話で直接警察や拘置所に問い合わせるなり、インターネットで調べれば出るのかも知れないが生憎どちらもできない。
「あ、そういえば」
何かをイツキは思い出した。
「西羽黒駅の近くに、確かインターネットカフェがあったな……」
しかし、問題はある。二人とも、インターネットカフェに関する知識は乏しかった。片や教育虐待を受け親から行動制限を受けていた者、片や中学一年生で異世界に転生した者。両者の知識が乏しいのは仕方のないことだ。
「じゃあ行くか。ヘムカはどうする?」
「私も行く」
その後すぐにヘムカたちは、羽黒鉄道で西羽黒駅まで向かうと近くのインターネットカフェへと向かった。
「ここか」
西羽黒駅から少し離れた場所にある雑居ビル。その一階にインターネットカフェはあった。
二人で店内に入ると、早速受付へと向かう。
会員登録は身分証明書が必須なので危うく詰みかけたが、幸いにも一日利用であれば不要とのことだった。二人用の個室を選択しその部屋へと向かった。
部屋に入り、PCを起動する。
イツキは家でPCに触ったことなど殆どなかったが、高校時代には情報科の授業で触ったことを思い出し拙い動作でPCを操作する。
『羽黒市 不審者』
検索フォームに入力し、早速調べてみると早速大量の情報に出くわした。新聞記事はもちろんとして、著名人の発言、そして匿名であることを理由に過激な発言をしている者もいる。
不審者たちの正体を探る者も現れており、『羽黒市に行ってみた』なる動画を投稿しているものもいた。
「とりあえず、行き先を確認しよう」
キーボードを使い、『羽黒市 不審者 移送先』と入力して検索してみる。市長や県知事、警察本部長の会見を切り取ったものが表示されたためそれらを流し見る。だが、肝心の移送先についてはどこにも出てこない。
「中々出てこないな……」
イツキが頭を掻きむしりながら検索結果の下のページまで確認する。
「私飲み物取ってくる。何がいい?」
ヘムカは先程からイツキが悪戦苦闘する様子をただ横から眺めることしかできない。そのため、席を離れた方がいいだろうと思い飲みたいものを聞いた。
「烏龍茶頼む」
「わかった」
二つ返事で了承するなり、すぐに個室を開けてドリンクサーバーへと向かう。イツキが飲みたい烏龍茶とヘムカが飲む林檎ジュースを注いだ。お盆の上に二つのグラスを載せると、ゆっくりとイツキのいる部屋へと向かう。
「ねぇ、聞いた? 最初の殺人事件のこと」
イツキがいる部屋の前。丁度大量の漫画が陳列されている棚の近くで、ヘムカはそんな声を耳にして足を止めた。
声の様子からすると、おそらく若い女性の声だろう。
「ああ、聞いたよ。遺体わかったんだってね」
「そうそう、確か県外に住む女性。で、殺人犯は息子。名前は確か……佐藤なんとか」
佐藤なんとかというのが、間違いなくイツキを指しているのはヘムカでもわかった。
これ以上聞いていられない。
グラスに注がれた飲み物のことを全く考慮していないといえるような速歩きで、今にも烏龍茶と林檎ジュースで零れそうな位揺れている状態でイツキのいる部屋へと入った。
「ああ、お帰り……ってどうかしたか?」
先程同様に、掻き毟っている様子は全くない。欲しい情報が見つかったのか、随分と呑気に画面を眺めていたイツキはヘムカの方へと振り返る。しかし、気まずそうな顔をしているヘムカを見て、言葉を一瞬つまらせた。
「ううん。何にもない。ところで、情報見つかった?」
イツキと別れる時が確実に近づいている。そのことを理解しているヘムカはいつもどおりの表情へと戻すなり、イツキの側まで駆け寄り烏龍茶を手渡す。
「ああ、ありがと。なんか安積にある拘置所に移送されたらしい」
早速烏龍茶を飲みながらヘムカにも見つけたページをよく見せる。
それは、県が公表した文書で全体に渡って堅苦しい日本語で書かれておりヘムカにはよくわからない。
「何とか見つかったな」
イツキは無事に情報が見つかって気が緩んだのか、烏龍茶を口につけた。
だが、ヘムカの心境は複雑だ。
PCの下部に表示されている現在時刻を見る。
簡単な調べ物だけのため。
そんな考えから一時間のプランを選んだのだが、両者ともにPCに疎いため結果としてかなり時間が掛かってしまっている。そのため、退出時刻までもう時間がなかった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
TS女子高生いつきくんの受難 R18
スーメル伯爵
恋愛
橘いつきは、何処にでもいる男子高校生。
人並みに性に対する興味もあるし、女の子にも興味深々だ。
だからこそ、少しでも、モテたいと考えるのが、男の常である。
ある日、いつきは、ネットで怪しげな薬を購入する。
それが、ことの発端、その薬の効果で女体化してしまった、いつき。
それは、それは、美少女へと変貌を遂げたのだった。
やがて、いつきは、その容姿の所為もあってか、幼馴染に犯されて……そこから始まる性の物語。
TS 女体化してしまった、いつきくんの運命はいかに?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる