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第三章
第二十八話 それはざわめき出した
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ヘムカは、徹夜したというのに全く眠くなかった。否、寝付けないという方が正しいか。
イツキが己の立案した作戦を、ただ危ないの一点張りで拒否した。ろくに取り合ってもくれず、なぜ理解してくれないのかと思えば思うほどに頭が冴えて眠くなくなるのだ。
イツキのいない部屋でソファに座り呆然と過ごす他ない。なんとなくソファに置いてあったテレビのリモコンを手に取ると、テレビをつける。画面上部に映った時刻は五時半だった。
先程イツキは買い物に行くと言ったが、こんな朝早くに空いているところなどせいぜいコンビニくらいなものだ。イツキは、最初から買い物をする気など全くなくただヘムカからの要求をはねのけるために買い物という口実を使ったのだ。さすがのヘムカでもそんなことはわかりきっている。
画面上部から中央部に視線を移すと、ニュースキャスターがニュースを読んでいる。朝のニュース番組だ。当然だが、扱っている内容は案の定羽黒市内の悪いニュースばかりだ。
「次のニュースです。本日未明、羽黒市内にて槍を持った男がコンビニに侵入し食べ物を奪う強盗事件が発生しました」
テレビに映し出されたのはコンビニの防犯カメラの映像。
現代のあらゆる技術が濃縮されたコンビニに、現代では全く見なくなった槍を持った男が侵入する。槍を持った男は、コンビニに入ると次々と食料品を手に取ると立ち去っていく。
その異常さ故、被害にあったコンビニのオーナーや店員には悪いが滑稽とすら思えなかった。
「また、同時刻。羽黒市内の別の場所では槍を持った男に襲われ死亡する殺人事件も発生しました。警察は、事態を重く受け止めパトロールを強化するため機動隊の導入を決定いたしました」
テレビに映し出されていた場面が変わる。
規制線が張られ大量の警察官がいる民家が映されたと思ったら、テレビに映されている画面は安積県庁舎に変わった。
やがて、記者会見場の映像が映され一人の男性が登壇した。多くのシャッター音とフラッシュが焚かれ、映像にはフラッシュの点滅にご注意くださいのテロップが入る。
男性が演台の前に立つと、『旗峰知事』というテロップが表示された。知事は何ら動揺することなく会見を始めた。
「羽黒市を中心とした大規模な不審者の出没および不審者による犯罪が相次いでいます。県としましては、安積県警察を動員しパトロールの強化。そのため、県警本部と調整して機動隊を派遣するつもりです」
多くのマスメディアのカメラに映され、フラッシュにも一切動じない本部長は、画面の前の市民に向けて懸命に訴えかけていた。
続いて、場面は総理官邸へと変わる。
「羽黒市内で起こっている事件について、総理も憂慮しており場合によっては治安出動も厭わないとしています」
総理の映像こそ映らなかったが、総理が懸念するほどに事態が深刻になってきているということだ。
実際、機動隊はすでに派遣されているようであり武装した機動隊の隊員が羽黒市内で警備活動を行う映像が紹介されていた。
ヘムカは、思わずテレビのチャンネルを変えた。まだこの時間は全ての局でニュース番組をやっているわけではない。しかし、今ニュース番組を放映しているどこのチャンネルに変えても同じ様なことを扱っていた。ニュース番組以外もあるが、ヘムカにとっては何の面白みもなくテレビの電源を消した。
理由はなぜか。
簡単である。テレビを見ていると、テレビに映っている出来事が全て自分のせいであると批判されているような気がしていたたまれなくなりおかしくなりそうなのだ。
テレビを消し、心の安寧を図ろうとソファにもたれ掛かり全身の力を抜いた。徐々に眠たくなってくることを期待したが、残念なことに雑音が聞こえてくる。その音は徐々に近づき、大きくなっていた。音に敏感なヘムカならなおさらのことである。
近くで工事でもしているのかと思い濡れ縁に出てみると、頭上にはなぜかヘリコプターが飛んでいた。警察ヘリであった。
警察ヘリの音がうるさくかき消されていたが、耳をすませば近くには大量のパトカーが停まっている。そして、パトカーから降りた警察官は隣の渡辺の家にどんどん入っていった。
何が起こっているのか気になるが、万が一ヘリコプターが映像を撮影していた場合ヘムカの姿が映ることになる。この姿のまま外には出られまい。フードをかぶろうとも、それはそれで怪しいのだ。ただでさえ羽黒市の警察は不審者に敏感になってきている。ヘムカが様子を見る方法などなかったのだ。
「あ、そうだ……」
ヘムカが聞き取った雑踏の話し声の中には、警察のものではないマスメディアの声もあった。恐怖しながら再びテレビの電源をつけた。
「速報です、本日羽黒市にて槍を持った男複数人が男性宅に侵入する事件がありました。この事件で、家の住人である渡辺さんが死亡しました。犯人は未だなお立てこもりを続けています」
映し出されたのはこの近くの映像だ。そして、画面には隣人である渡辺の顔写真が表示されていた。
「警察は説得を試みていますが、言語が通じていない可能性が高いとのことです」
現場にいるリポーターが状況を説明する中、後ろでは槍を持った男が外に出て警察官を威嚇している。
拳銃を構え同じく威嚇する警察官たち、しかし拳銃を銃だと認識していないのか男は笑みすら浮かべている。勝てるとでも思っているのだろう。そして、気が緩んだのか何かを喋っている。
さすがに遠すぎて何を言っているのかはわからない。
すぐに警察がなんとかしてくれるだろうと思い、安堵した瞬間だった。
一人の槍を持った男が叫んだ。
「ヘムカはどこだ!」
もちろん、その言葉は向こうの世界での言葉だった。当然だが日本人には何と言っているのかわからない。
しかし、ヘムカはその言葉を聞いてしまった。槍を持った男たちは、間違いなくライベの指揮下にある。
そして、渡辺の家まで侵入してきている。ヘムカが見つけられるのは、目前に迫っているのだと。
「まずい、まずい、まずい……」
ヘムカは、考えるよりも早く家を飛び出した。
目の前の道は、丁度朝日が差し込んでおり警察官やらマスメディアやら野次馬やらで多くの人が密集している。
この中に飛び込んでいけばフードを深くかぶろうとも、不審者に見えることは明白。けれども、現在は一刻を争う事態だ。
建物の影に隠れるように外に飛び出ると、そのまま例の歪がある場所へと向かった。
幸い、野次馬は全員隣の家にしか注目しておらずヘムカが注目されることはなかった。
イツキが己の立案した作戦を、ただ危ないの一点張りで拒否した。ろくに取り合ってもくれず、なぜ理解してくれないのかと思えば思うほどに頭が冴えて眠くなくなるのだ。
イツキのいない部屋でソファに座り呆然と過ごす他ない。なんとなくソファに置いてあったテレビのリモコンを手に取ると、テレビをつける。画面上部に映った時刻は五時半だった。
先程イツキは買い物に行くと言ったが、こんな朝早くに空いているところなどせいぜいコンビニくらいなものだ。イツキは、最初から買い物をする気など全くなくただヘムカからの要求をはねのけるために買い物という口実を使ったのだ。さすがのヘムカでもそんなことはわかりきっている。
画面上部から中央部に視線を移すと、ニュースキャスターがニュースを読んでいる。朝のニュース番組だ。当然だが、扱っている内容は案の定羽黒市内の悪いニュースばかりだ。
「次のニュースです。本日未明、羽黒市内にて槍を持った男がコンビニに侵入し食べ物を奪う強盗事件が発生しました」
テレビに映し出されたのはコンビニの防犯カメラの映像。
現代のあらゆる技術が濃縮されたコンビニに、現代では全く見なくなった槍を持った男が侵入する。槍を持った男は、コンビニに入ると次々と食料品を手に取ると立ち去っていく。
その異常さ故、被害にあったコンビニのオーナーや店員には悪いが滑稽とすら思えなかった。
「また、同時刻。羽黒市内の別の場所では槍を持った男に襲われ死亡する殺人事件も発生しました。警察は、事態を重く受け止めパトロールを強化するため機動隊の導入を決定いたしました」
テレビに映し出されていた場面が変わる。
規制線が張られ大量の警察官がいる民家が映されたと思ったら、テレビに映されている画面は安積県庁舎に変わった。
やがて、記者会見場の映像が映され一人の男性が登壇した。多くのシャッター音とフラッシュが焚かれ、映像にはフラッシュの点滅にご注意くださいのテロップが入る。
男性が演台の前に立つと、『旗峰知事』というテロップが表示された。知事は何ら動揺することなく会見を始めた。
「羽黒市を中心とした大規模な不審者の出没および不審者による犯罪が相次いでいます。県としましては、安積県警察を動員しパトロールの強化。そのため、県警本部と調整して機動隊を派遣するつもりです」
多くのマスメディアのカメラに映され、フラッシュにも一切動じない本部長は、画面の前の市民に向けて懸命に訴えかけていた。
続いて、場面は総理官邸へと変わる。
「羽黒市内で起こっている事件について、総理も憂慮しており場合によっては治安出動も厭わないとしています」
総理の映像こそ映らなかったが、総理が懸念するほどに事態が深刻になってきているということだ。
実際、機動隊はすでに派遣されているようであり武装した機動隊の隊員が羽黒市内で警備活動を行う映像が紹介されていた。
ヘムカは、思わずテレビのチャンネルを変えた。まだこの時間は全ての局でニュース番組をやっているわけではない。しかし、今ニュース番組を放映しているどこのチャンネルに変えても同じ様なことを扱っていた。ニュース番組以外もあるが、ヘムカにとっては何の面白みもなくテレビの電源を消した。
理由はなぜか。
簡単である。テレビを見ていると、テレビに映っている出来事が全て自分のせいであると批判されているような気がしていたたまれなくなりおかしくなりそうなのだ。
テレビを消し、心の安寧を図ろうとソファにもたれ掛かり全身の力を抜いた。徐々に眠たくなってくることを期待したが、残念なことに雑音が聞こえてくる。その音は徐々に近づき、大きくなっていた。音に敏感なヘムカならなおさらのことである。
近くで工事でもしているのかと思い濡れ縁に出てみると、頭上にはなぜかヘリコプターが飛んでいた。警察ヘリであった。
警察ヘリの音がうるさくかき消されていたが、耳をすませば近くには大量のパトカーが停まっている。そして、パトカーから降りた警察官は隣の渡辺の家にどんどん入っていった。
何が起こっているのか気になるが、万が一ヘリコプターが映像を撮影していた場合ヘムカの姿が映ることになる。この姿のまま外には出られまい。フードをかぶろうとも、それはそれで怪しいのだ。ただでさえ羽黒市の警察は不審者に敏感になってきている。ヘムカが様子を見る方法などなかったのだ。
「あ、そうだ……」
ヘムカが聞き取った雑踏の話し声の中には、警察のものではないマスメディアの声もあった。恐怖しながら再びテレビの電源をつけた。
「速報です、本日羽黒市にて槍を持った男複数人が男性宅に侵入する事件がありました。この事件で、家の住人である渡辺さんが死亡しました。犯人は未だなお立てこもりを続けています」
映し出されたのはこの近くの映像だ。そして、画面には隣人である渡辺の顔写真が表示されていた。
「警察は説得を試みていますが、言語が通じていない可能性が高いとのことです」
現場にいるリポーターが状況を説明する中、後ろでは槍を持った男が外に出て警察官を威嚇している。
拳銃を構え同じく威嚇する警察官たち、しかし拳銃を銃だと認識していないのか男は笑みすら浮かべている。勝てるとでも思っているのだろう。そして、気が緩んだのか何かを喋っている。
さすがに遠すぎて何を言っているのかはわからない。
すぐに警察がなんとかしてくれるだろうと思い、安堵した瞬間だった。
一人の槍を持った男が叫んだ。
「ヘムカはどこだ!」
もちろん、その言葉は向こうの世界での言葉だった。当然だが日本人には何と言っているのかわからない。
しかし、ヘムカはその言葉を聞いてしまった。槍を持った男たちは、間違いなくライベの指揮下にある。
そして、渡辺の家まで侵入してきている。ヘムカが見つけられるのは、目前に迫っているのだと。
「まずい、まずい、まずい……」
ヘムカは、考えるよりも早く家を飛び出した。
目の前の道は、丁度朝日が差し込んでおり警察官やらマスメディアやら野次馬やらで多くの人が密集している。
この中に飛び込んでいけばフードを深くかぶろうとも、不審者に見えることは明白。けれども、現在は一刻を争う事態だ。
建物の影に隠れるように外に飛び出ると、そのまま例の歪がある場所へと向かった。
幸い、野次馬は全員隣の家にしか注目しておらずヘムカが注目されることはなかった。
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