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第三章
第二十七話 葛藤の末
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「ってことなんだけど……。どうかした?」
ヘムカが前世における死の直前を語る。けれども、イツキの様子がおかしい。何か信じられないことを聞いて呆然としているよう、そんな表情だ。
ヘムカは思わず首を傾げた。
イツキはヘムカから目を逸らし、天井にある照明を仰ぎ見ながら額や目を隠すように手を置いた。何か信じられないことがあって困惑しているようだ。
「いや、なんでもない。……ヘムカの言ったこと。信じるよ」
少し間を置くとイツキは一転してヘムカの主張を全面的に認めた。
「え? 信じてくれるの?」
ヘムカは驚いた。なぜ一転して認めるようになったのかはわからないが、あまり探りを入れることでもない。大人しく受け入れることにした。
「ああ、信じるよ。確認だが、ヘムカの前世の名前は煌だったんだよな? そして、その友人の名前は?」
イツキはヘムカに確認をする。
「そうだよ。網代煌。中学一年生だった。その友人だけど、あまり覚えていないんだ。八年も前だしね」
前世の記憶があると気づいた頃だったらまだ覚えていたかもしれないが、世界を生きていく上では不必要。思い出すこともあまりなく、すっかり忘れてしまっていた。ヘムカはあまり悲観しておらず一応は思い出そうとしてみるが徒労に終わる。対するイツキは随分と悲観しているようで「そうか」と嘆いている。
「で、本題だけど」
「ああ」
イツキは他のことを考えていたらしく、ヘムカがイツキの思考対象を本題へと戻す。
「この方法はあんまり使いたくない。目立っちゃうから。でもね、私。安心して一緒に暮らしたいから──ってどうしたの!?」
イツキは啜り泣いていた。
一体どこに泣く要素があったというのか。ヘムカには理解できなかった。
「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」
イツキはヘムカに話を続けるように言っているが、イツキは先程よりも涙を流していた。必死で袖で涙を拭い、目元は真っ赤である。とてもじゃないが話を続けることなんでできそうにない。
しばらく時間が経った後、ようやくイツキは落ち着きを取り戻した。呆然と虚空を見上げ、話し始めて大丈夫なのかとヘムカが思っていると、イツキの視線がヘムカの方へと向く。
「続けて」
本人が言うのであれば仕方がないと思い、ヘムカは改めて説明を始めた。
「テレビでやってたんだけど、捕まった不審者はみんな拘置所にいるっていってた。言葉が通じないから取り調べもできないんだって。そこで、私が通訳する。送り返すことを条件に」
話を聞いている最中のイツキは、あまりヘムカの話に耳を傾けているのかと疑わしいほどに呆然としていた。しかし、ヘムカが拘置所という単語を口にした瞬間にイツキの目の色が変わった。ヘムカの話を血眼になって聞くために飛び起きるかのようにヘムカの方へと体を前のめりにした。そして、ヘムカの言ったことを一つ一つ咀嚼するように聞いている。ヘムカが言い終わるとイツキはゆっくりと前のめりにしていた体を背凭れへと信じられないとばかりに放心していた。
「……それって拘置所に向かうのか?」
肉は動物から取れるのかと同じような質問だ。ここまで普通のことをなぜ聞くのだろうと思い、ヘムカは少し答えるのを躊躇った。
「拘置所にいるわけなんだし、そりゃそうでしょう……」
逮捕された人物が向かうのは留置場、拘置所、刑務所のいずれかだ。しかし、刑務所は裁判により刑期が確定したものが移送される場所であり、留置所は逮捕されて二十二日以内の被告人が収容される場所である。
それに対して、拘置所は二十三日以上の被告人または死刑囚だ。意思疎通できず碌に取り調べが進んでいない被告人が唯一入れる場所であった。
もちろん、そんなことイツキには理解できているのだ。そして、イツキはすぐに結論に達した。
「駄目だ」
「え?」
ヘムカは思わず聞き返してしまった。一体どこに問題点があるのかというのか。仮に問題点があったとしても、羽黒市民を救う方法はこれしかないのである。否が応でも認めさせなければと思っていたし、イツキなら承諾してくれるとヘムカも思っていた。
「駄目なものは駄目だ。危ない」
ヘムカの意見を一蹴すると、イツキは立ち上がって買い物に向かうための準備に着々と取り掛かる。
だが、ヘムカからすればそんな悠長なことしていられない。すぐにイツキの元へと駆け寄った。
「この方法に問題点あった? どこなの?」
しつこく聞いてもイツキは頑なに耳を貸そうとはせずマイバッグと財布を確認する。
「このままだと、羽黒市民が危険に晒されるの。特に、私たち二人は特に!」
命が危ない。そんなことをヘムカは必死に訴える。しかし、なぜかイツキは絶対に耳を貸さないのだ。マイバッグを肩にかけている。
「じゃ、買い物行ってくる」
何もなかったかのように、イツキは立ち尽くすしかないヘムカに向かって行き先を告げるとそのまま外へと出てしまった。
「どうして……」
ヘムカにその場に座り込むと頭を抱え、沈痛な面持ちで涙ぐみ呟いた。
わからなかった。イツキがどうしてあんなにも作戦に協力してくれないのかと。
ヘムカが前世における死の直前を語る。けれども、イツキの様子がおかしい。何か信じられないことを聞いて呆然としているよう、そんな表情だ。
ヘムカは思わず首を傾げた。
イツキはヘムカから目を逸らし、天井にある照明を仰ぎ見ながら額や目を隠すように手を置いた。何か信じられないことがあって困惑しているようだ。
「いや、なんでもない。……ヘムカの言ったこと。信じるよ」
少し間を置くとイツキは一転してヘムカの主張を全面的に認めた。
「え? 信じてくれるの?」
ヘムカは驚いた。なぜ一転して認めるようになったのかはわからないが、あまり探りを入れることでもない。大人しく受け入れることにした。
「ああ、信じるよ。確認だが、ヘムカの前世の名前は煌だったんだよな? そして、その友人の名前は?」
イツキはヘムカに確認をする。
「そうだよ。網代煌。中学一年生だった。その友人だけど、あまり覚えていないんだ。八年も前だしね」
前世の記憶があると気づいた頃だったらまだ覚えていたかもしれないが、世界を生きていく上では不必要。思い出すこともあまりなく、すっかり忘れてしまっていた。ヘムカはあまり悲観しておらず一応は思い出そうとしてみるが徒労に終わる。対するイツキは随分と悲観しているようで「そうか」と嘆いている。
「で、本題だけど」
「ああ」
イツキは他のことを考えていたらしく、ヘムカがイツキの思考対象を本題へと戻す。
「この方法はあんまり使いたくない。目立っちゃうから。でもね、私。安心して一緒に暮らしたいから──ってどうしたの!?」
イツキは啜り泣いていた。
一体どこに泣く要素があったというのか。ヘムカには理解できなかった。
「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」
イツキはヘムカに話を続けるように言っているが、イツキは先程よりも涙を流していた。必死で袖で涙を拭い、目元は真っ赤である。とてもじゃないが話を続けることなんでできそうにない。
しばらく時間が経った後、ようやくイツキは落ち着きを取り戻した。呆然と虚空を見上げ、話し始めて大丈夫なのかとヘムカが思っていると、イツキの視線がヘムカの方へと向く。
「続けて」
本人が言うのであれば仕方がないと思い、ヘムカは改めて説明を始めた。
「テレビでやってたんだけど、捕まった不審者はみんな拘置所にいるっていってた。言葉が通じないから取り調べもできないんだって。そこで、私が通訳する。送り返すことを条件に」
話を聞いている最中のイツキは、あまりヘムカの話に耳を傾けているのかと疑わしいほどに呆然としていた。しかし、ヘムカが拘置所という単語を口にした瞬間にイツキの目の色が変わった。ヘムカの話を血眼になって聞くために飛び起きるかのようにヘムカの方へと体を前のめりにした。そして、ヘムカの言ったことを一つ一つ咀嚼するように聞いている。ヘムカが言い終わるとイツキはゆっくりと前のめりにしていた体を背凭れへと信じられないとばかりに放心していた。
「……それって拘置所に向かうのか?」
肉は動物から取れるのかと同じような質問だ。ここまで普通のことをなぜ聞くのだろうと思い、ヘムカは少し答えるのを躊躇った。
「拘置所にいるわけなんだし、そりゃそうでしょう……」
逮捕された人物が向かうのは留置場、拘置所、刑務所のいずれかだ。しかし、刑務所は裁判により刑期が確定したものが移送される場所であり、留置所は逮捕されて二十二日以内の被告人が収容される場所である。
それに対して、拘置所は二十三日以上の被告人または死刑囚だ。意思疎通できず碌に取り調べが進んでいない被告人が唯一入れる場所であった。
もちろん、そんなことイツキには理解できているのだ。そして、イツキはすぐに結論に達した。
「駄目だ」
「え?」
ヘムカは思わず聞き返してしまった。一体どこに問題点があるのかというのか。仮に問題点があったとしても、羽黒市民を救う方法はこれしかないのである。否が応でも認めさせなければと思っていたし、イツキなら承諾してくれるとヘムカも思っていた。
「駄目なものは駄目だ。危ない」
ヘムカの意見を一蹴すると、イツキは立ち上がって買い物に向かうための準備に着々と取り掛かる。
だが、ヘムカからすればそんな悠長なことしていられない。すぐにイツキの元へと駆け寄った。
「この方法に問題点あった? どこなの?」
しつこく聞いてもイツキは頑なに耳を貸そうとはせずマイバッグと財布を確認する。
「このままだと、羽黒市民が危険に晒されるの。特に、私たち二人は特に!」
命が危ない。そんなことをヘムカは必死に訴える。しかし、なぜかイツキは絶対に耳を貸さないのだ。マイバッグを肩にかけている。
「じゃ、買い物行ってくる」
何もなかったかのように、イツキは立ち尽くすしかないヘムカに向かって行き先を告げるとそのまま外へと出てしまった。
「どうして……」
ヘムカにその場に座り込むと頭を抱え、沈痛な面持ちで涙ぐみ呟いた。
わからなかった。イツキがどうしてあんなにも作戦に協力してくれないのかと。
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