Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

文字の大きさ
上 下
23 / 49
第二章

第二十三話 近づく足音

しおりを挟む
「ん?」

 ヘムカはふとおかしな物音に気が付き目を覚ました。最初は気にしなかったが、継続的に物音がするためソファから起き上がると音のする玄関の方を見る。しかし、誰もいない。

「帰ってきたの?」

 ヘムカはイツキが帰ってきたのかと思ったが、ニュースで見た不審者や出かける前にイツキが言った言葉がふと気になり足を止める。
 再び物音が玄関方面からすると、途端に体を震わせた。謎の物音に怖気づきながらも、玄関へと向かう。イツキの靴は玄関にはないため、まだ外出中であることがわかった。
 そうなると、音の原因は外にある可能性が高いわけだがイツキに釘を刺されているヘムカは迂闊に動くことができない。
 この近くで殺人事件が今週だけで三件発生している。同じ羽黒市であり、郊外にあるこのヘムカたちの家にもその殺人鬼がやってくるという可能性を否定できなかった。

「ま、まさかね。……おとなしくしてれば帰るよね」

 まさかとは思ったが、異世界転生し再び元いた世界に戻ってきたヘムカにとって極僅かな可能性という言葉の中にある安全性は全く信用できない。
 ヘムカは中に人がいると悟られないように、音を立てないようにリビングへと戻る。けれども、安心はできない。この家にはブロック塀があるが、ブロック塀を乗り越えさえすれば玄関ドアに鍵をかけようとも濡れ縁から入り放題である。
 ヘムカはおとなしくソファへと戻り安静にしておく。しかし、数分経とうとも謎の音は消えない。それどころか、明らかに近づいており家の敷地内から音がしているような気がするのだ。

「大丈夫、大丈夫だから……」

 自己暗示をかけ震えを取り除こうとするも、体の震えは止まらない。そんな中、敷地内へと侵入した音は濡れ縁へと近づき、終いには濡れ縁から音がする。明らかな人の足音だった。

「そうだ、警察呼ぼう」

 前世の記憶が曖昧だとはいえ、さすがに警察への緊急通報の番号は覚えていた。急いでヘムカは固定電話を探した。

「えっと……。どこだ?」

 ただでさえ濡れ縁に足音が来てしまっている以上、下手に探して音を出しバレたら元も子もない。ヘムカはリビング中を探してみるも固定電話が一向に見当たらない。
 リビングを出てダイニングへと向かうも、ここでも電話が見当たらない。

「なんでこんな時に……」

 電話の位置を確認しなかった過去の自分を責めながらもヘムカは探し続ける。やがて音は一時的に遠ざかった後、どこか渋みのある蛮声が響いた。

「こらぁ! 人んちの庭でなにやってんだ!」

 一瞬誰の声かわからなかったが、少なくともヘムカはその声を聞いたことがあった。事態がうまく飲み込めず動揺していると、近くで金属音がしきりに響く。
 少なくとも、敷地内ではなかった。寝室の和室へと向かい、障子戸をわずかに開けて覗き見る。
 しかし、庭には誰もいなかった。庭の安全を確認しつつブロック塀に掴まり顔を覗かせてみるが、そこには見知らぬ男と隣人の渡辺で戦っている光景があった。
 見知らぬ男は短剣を使い、渡辺は鉈を使い六十八とは思えないほどの俊敏な動きで見知らぬ男と戦っていた。

「昭和五十四年安積県キックボクシング大会優勝のこの私に楯突こうとはな……」

 渡辺は襲われているというのに、どこか生き生きとした表情を見せている。
 現代日本とは思えない光景に思わず困惑してしまう。そんなことよりも通報したいところだが、少なくともヘムカが探した場所には固定電話はなかった。
 もし渡辺が負けたら次に狙われるのはヘムカ。どうすればいいのか、逃げようかと迷っているとパトカーのサイレン音が近づいてきた。
 これで助かると思ったヘムカは、思わず手をブロック塀から離し庭に倒れ込んだ。一息ついたのも束の間、ブロック塀の向こう側は信じられないことになっていた。

「警察だ! そこ! 武器を捨てて投降しろ!」

 拳銃を構えた警察官が男に投降を促し男へと近づいていく。しかし、勝てると思ったのか男は渡辺から警察官をターゲットへと変え短剣を持ち警察官へと突撃する。

「やめろ!」

 警察官の叫び声の後、発砲音が炸裂し男がその場に倒れた。撃たれた場所が悪かったのだろう、倒れた男は一分もしないうちに微塵も動かなくなっておりただ現場には重たい空気のみがのさばっていた。
 ヘムカはブロック塀に背中を合わせながら、大人しく聞いており思わず冷や汗を書いた。

「ヘムカ! 大丈夫か?」

 そんな中、慌てて帰ってきたイツキがヘムカの元へとやってくる。

「良かった。無事か……」

 ヘムカの無事を確認すると、買い物袋に卵が入っているにも関わらず手から脱力したのかレジ袋を落として安堵した。
 ヘムカとしても、イツキの姿を見られたことに安心できため息をつく。そして、イツキの方へと振り返ると、イツキも何か話があると察してくれたようで目と目が合う。

「ねぇ、電話ってどこにあるの?」

 家に来たことがない訪問客が言いそうな、ありふれた言葉。けれども、その言葉を受けイツキは口を固く閉ざす。
 電話の場所を聞いているだけでなぜここまで口を閉ざすのか、ヘムカには理解できなかった。そして、イツキが閉ざした口が開くのには数秒を要した。

「ごめん、電話は契約していないから持っていないんだ」

 イツキはヘムカに頭を下げたまま話を続ける。

「そして、契約は……したくない。もちろん、携帯電話も……」

 これがお金の問題でないことくらいはヘムカにもわかった。ウランガラスを勧めるような人が電話代をケチりはしない。

「理由を聞いても?」

 過去に電話回線業者の対応がひどかったから。過去に迷惑電話が沢山かかってきた。どれも違うような気がして聞いてみる。
 けれども、イツキはまたしても口を噤んだまま何も話そうとしない。

「言えないんだね」

 ヘムカの言葉に小さくイツキは頭を縦に振った。
 ヘムカとて、人に言えない秘密を沢山抱えている。他人に秘密を話すことを強要はしたくなかった。
 悲鳴を上げればきっと誰かが通報してくれるだろうと、ヘムカは対策を練る。その後は、二人とも何も話さないまま一日が過ぎていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...