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第二章
第二十一話 木枯らし
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ヘムカたちは駅までの帰路についた。その間も、二人は一言も交わすことはない。この重苦しい空気をどうにかしようと、口を開けるが何か言葉が飛び出るわけではない。ヘムカは時折、イツキの顔を見てはイツキから何か話しかけてくれないかと期待しる。だからこそヘムカは前面の注意がそれてしまった。
二人が丁度道を真っ直ぐ進んでいると、丁度ヘムカたちは路地へと差し掛かる。駅まで真っ直ぐ帰る二人は見向きもしなかったが、丁度路地には大通りのあるヘムカたちの方向へと走ってくる育ち盛りの少年が居た。小学生低学年ほどの少年であり、その手にはサッカーボールを携えている。イツキが道路側でヘムカが路地側にいたこともあり、ヘムカと少年はぶつかってしまう。
「ひゃっ」
全く警戒していなかったヘムカは少年とぶつかりその場に尻もちをつく。少年も同様であり、痛がりながらも立ち上がった。
「ごめんなさ……」
少年は、尻もちをついたヘムカを見て固まっていた。
ヘムカはすぐにその理由に気がついた。ヘムカと少年がぶつかった際にフードが外れてしまったのだ。元々パーカーはしっぽまで隠せるように大きめに作られておりフードの紐も緩かったのだ。
ヘムカを見ていた人物はもちろん、偶然ヘムカが視界に入っていた人もヘムカを凝視せざるを得ない。
朽葉色の髪の毛はどうにかなる。茶色と似ているし、茶髪と言い張れる。何より、髪を染めたといえばどうにでもなるからだ。
橙色の瞳もどうにかなる。
髪を染め、かつカラーコンタクトをしていると言えば誤魔化せないことはないだろう。
しかし、問題は頭頂部から生えている狐耳である。コスプレをしているにしても、違和感が少なすぎて逆に違和感がある。髪の色と完全に同調しているからだ。ウィッグと一体化しているにしても自然な仕上がりだ。
フードを被って目立たないようにしているが、そもそもの話コスプレを止めれば目立つことはない。
ヘムカの姿は、異常極まりないのだ。
イツキは急いでヘムカにフードを被らせるとそのまま強引に腕を掴み引きずるように駅までの道を急いだ。ヘムカの容姿に驚いていた通行人は、歯を食いしばって歩道の中央を小走りで急ぐイツキに気圧され思わず道を開ける。
なんとか駅へと到着した二人。幸いにも追っかけてくるような人はいなかったため、駅に入ってもヘムカの容姿を見られたものは一人もいなかった。
尤も、走って息を切らしている若い男がフードを被り顔が見えない子どもを連れ回している様子は決して怪訝な目で見られないわけではなかった。
駅で膝に手を乗せ呼吸を整えたイツキは、ヘムカの方を振り向いた。
「まずいな」
ヘムカ自体あまり見られたくないとは考えていたが、一瞬見た程度ならコスプレだったと言い張れると思っていた。
しかし、イツキの目はそんな楽観的な目ではなかった。
「撮られてなければいいが……」
イツキが一番気にしていたのは、ネット上での拡散だ。
「あっ……」
それを聞いてヘムカも前世で見知った文明の利器を思い出す。何分、前世ではあまり使う機会もなく、現世ではテレビの単語でたまに聞くだけですっかり頭の中になかったのだ。
「当分出ないほうがいいな」
人の噂も七十五日とはいうが、そんな幻想はインターネットの登場でとっくに崩れている。
人の記憶は自然に消えていくが、インターネットは確実に消えない。万が一インターネット上に流出すれば外出などとてもじゃないができなくなる。子どもであるため、マスメディアも配慮してくれるとは思うが匿名を利用したインターネットユーザーの手にかかれば拡散など容易である。
「そうだよね……」
ヘムカは、悲嘆する。だが、諦めの気持ちもあった。
ヘムカは、こんな見た目ながらも外出できることが嬉しかった。けれども、それは間違っていたと悟る。改めてヘムカは人間ではない、異分子なのだと実感させられる。
「帰ろうか」
駅の時刻表を見るが、丁度数分後に発車となる。
自動券売機はなく対面販売しかないため、切符をイツキは二人分購入しヘムカに手渡すとそのまま改札を通りプラットフォームへと降りた。
プラットフォームでも駅の外から見えない位置にあるベンチに腰を下ろすなり先程自分のことを見た人がいないかと、ヘムカは疑心暗鬼になりプラットフォームを見渡す。
もちろんヘムカの姿を見た人物全員は覚えていないのだが、そうしたい気分だった。
幸いにもヘムカの姿を見た人物らしき人物は見当たらず、列車がやってくるなり列車へと乗り込んだ。同じ駅から乗った人物は二人しかおらず、相変わらず列車内は人が少なかった。
列車の中なら外から見ても早すぎてよく見えないし、中にはほとんど人がいない。ヘムカにとっては心が落ち着ける場所だった。
その後の列車の旅も相変わらず人が乗ってくる様子はなく無事にヘムカが乗った駅へと到着すると難なく下車できた。
そのまま無事に家までたどり着けるのだと思っていると寂声が聞こえてきて思わず体を震わせてしまった。
「佐藤さん、こんにちは」
イツキに声をかけたのは隣の家に住む渡辺である。今日も元気に自宅の庭にある木の枝打ちをしていた。
「あ、どうも。渡辺さん」
イツキは軽く会釈する。そんな中、ヘムカに渡辺の視線が移る。
「そちらの子は?」
ヘムカは自分が話題になったことを聞くとイツキの後ろに隠れた。
「ああ、親戚の子で人見知りなんですよ。名前はヘムカっていうんですよ……」
イツキは適当に思いついた嘘で取り繕う。名前を言う必要はなかったが、長話が大好きなご年齢。名前を聞かれるのは目に見えていた。
「おや、外国の親戚かい? 日本も随分と国際化してきたね」
渡辺はイツキの嘘を鵜呑みにすると、勝手に外国人の親戚だと見事に思い込んでくれた。
「それではどうも……」
何も疑う様子はなく、このまま引き下がろうと挨拶を述べると二人は家へと帰った。買ってきたものを棚に入れたり、冷蔵庫に閉まったり。それが最後まで終わるとヘムカはソファに勢いよく飛び込み「疲れた……」とため息をついた。
二人が丁度道を真っ直ぐ進んでいると、丁度ヘムカたちは路地へと差し掛かる。駅まで真っ直ぐ帰る二人は見向きもしなかったが、丁度路地には大通りのあるヘムカたちの方向へと走ってくる育ち盛りの少年が居た。小学生低学年ほどの少年であり、その手にはサッカーボールを携えている。イツキが道路側でヘムカが路地側にいたこともあり、ヘムカと少年はぶつかってしまう。
「ひゃっ」
全く警戒していなかったヘムカは少年とぶつかりその場に尻もちをつく。少年も同様であり、痛がりながらも立ち上がった。
「ごめんなさ……」
少年は、尻もちをついたヘムカを見て固まっていた。
ヘムカはすぐにその理由に気がついた。ヘムカと少年がぶつかった際にフードが外れてしまったのだ。元々パーカーはしっぽまで隠せるように大きめに作られておりフードの紐も緩かったのだ。
ヘムカを見ていた人物はもちろん、偶然ヘムカが視界に入っていた人もヘムカを凝視せざるを得ない。
朽葉色の髪の毛はどうにかなる。茶色と似ているし、茶髪と言い張れる。何より、髪を染めたといえばどうにでもなるからだ。
橙色の瞳もどうにかなる。
髪を染め、かつカラーコンタクトをしていると言えば誤魔化せないことはないだろう。
しかし、問題は頭頂部から生えている狐耳である。コスプレをしているにしても、違和感が少なすぎて逆に違和感がある。髪の色と完全に同調しているからだ。ウィッグと一体化しているにしても自然な仕上がりだ。
フードを被って目立たないようにしているが、そもそもの話コスプレを止めれば目立つことはない。
ヘムカの姿は、異常極まりないのだ。
イツキは急いでヘムカにフードを被らせるとそのまま強引に腕を掴み引きずるように駅までの道を急いだ。ヘムカの容姿に驚いていた通行人は、歯を食いしばって歩道の中央を小走りで急ぐイツキに気圧され思わず道を開ける。
なんとか駅へと到着した二人。幸いにも追っかけてくるような人はいなかったため、駅に入ってもヘムカの容姿を見られたものは一人もいなかった。
尤も、走って息を切らしている若い男がフードを被り顔が見えない子どもを連れ回している様子は決して怪訝な目で見られないわけではなかった。
駅で膝に手を乗せ呼吸を整えたイツキは、ヘムカの方を振り向いた。
「まずいな」
ヘムカ自体あまり見られたくないとは考えていたが、一瞬見た程度ならコスプレだったと言い張れると思っていた。
しかし、イツキの目はそんな楽観的な目ではなかった。
「撮られてなければいいが……」
イツキが一番気にしていたのは、ネット上での拡散だ。
「あっ……」
それを聞いてヘムカも前世で見知った文明の利器を思い出す。何分、前世ではあまり使う機会もなく、現世ではテレビの単語でたまに聞くだけですっかり頭の中になかったのだ。
「当分出ないほうがいいな」
人の噂も七十五日とはいうが、そんな幻想はインターネットの登場でとっくに崩れている。
人の記憶は自然に消えていくが、インターネットは確実に消えない。万が一インターネット上に流出すれば外出などとてもじゃないができなくなる。子どもであるため、マスメディアも配慮してくれるとは思うが匿名を利用したインターネットユーザーの手にかかれば拡散など容易である。
「そうだよね……」
ヘムカは、悲嘆する。だが、諦めの気持ちもあった。
ヘムカは、こんな見た目ながらも外出できることが嬉しかった。けれども、それは間違っていたと悟る。改めてヘムカは人間ではない、異分子なのだと実感させられる。
「帰ろうか」
駅の時刻表を見るが、丁度数分後に発車となる。
自動券売機はなく対面販売しかないため、切符をイツキは二人分購入しヘムカに手渡すとそのまま改札を通りプラットフォームへと降りた。
プラットフォームでも駅の外から見えない位置にあるベンチに腰を下ろすなり先程自分のことを見た人がいないかと、ヘムカは疑心暗鬼になりプラットフォームを見渡す。
もちろんヘムカの姿を見た人物全員は覚えていないのだが、そうしたい気分だった。
幸いにもヘムカの姿を見た人物らしき人物は見当たらず、列車がやってくるなり列車へと乗り込んだ。同じ駅から乗った人物は二人しかおらず、相変わらず列車内は人が少なかった。
列車の中なら外から見ても早すぎてよく見えないし、中にはほとんど人がいない。ヘムカにとっては心が落ち着ける場所だった。
その後の列車の旅も相変わらず人が乗ってくる様子はなく無事にヘムカが乗った駅へと到着すると難なく下車できた。
そのまま無事に家までたどり着けるのだと思っていると寂声が聞こえてきて思わず体を震わせてしまった。
「佐藤さん、こんにちは」
イツキに声をかけたのは隣の家に住む渡辺である。今日も元気に自宅の庭にある木の枝打ちをしていた。
「あ、どうも。渡辺さん」
イツキは軽く会釈する。そんな中、ヘムカに渡辺の視線が移る。
「そちらの子は?」
ヘムカは自分が話題になったことを聞くとイツキの後ろに隠れた。
「ああ、親戚の子で人見知りなんですよ。名前はヘムカっていうんですよ……」
イツキは適当に思いついた嘘で取り繕う。名前を言う必要はなかったが、長話が大好きなご年齢。名前を聞かれるのは目に見えていた。
「おや、外国の親戚かい? 日本も随分と国際化してきたね」
渡辺はイツキの嘘を鵜呑みにすると、勝手に外国人の親戚だと見事に思い込んでくれた。
「それではどうも……」
何も疑う様子はなく、このまま引き下がろうと挨拶を述べると二人は家へと帰った。買ってきたものを棚に入れたり、冷蔵庫に閉まったり。それが最後まで終わるとヘムカはソファに勢いよく飛び込み「疲れた……」とため息をついた。
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