Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

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第二章

第二十話 内と外

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「おお……」

 ヘムカたちはエスカレーターで二階へと上がるなり、ヘムカは思わず感嘆した。視界に入った物量に圧倒されたのだ。
 衣料品売り場へと向かい、物色を始める。服は最低限持っているとはいえ、やはり自分で見たほうがよいものを選べるからだ。
 そこにあるのは大量に陳列された色とりどりの服。地味なものから誰が着るんだと言わんばかりの際物まである。なお、しっぽのために穴の空いたものはない。
 前世では元々服に無頓着であり、かつ今世でも素材感丸出しの貫頭衣を着ていたヘムカにが際物など手に取るはずもない。無難に無地の物を手に取った。

「やっぱりそういう系に落ち着くのか」

 隣にいるイツキはヘムカが手に取った服を見ながら呟いた。二人はわざわざ衣料品売り場にまでやってきたが、ヘムカが無地の物を選ぶあたりイツキが買ってきたものでも充分だった。
 迷路のような服売り場を探索するも、やはりヘムカの琴線に触れそうな服はない。今あるもので充分すぎた。

「どうする? 買い物して帰る?」

 イツキが服選びに辟易したのか、ヘムカを唆す。この様子では、目ぼしいものは見つからない。自分自身がつまらないというのもあるが、ヘムカだって人の目に晒されるのは嫌だろうという計らいもあった。

「うん、そうする」

 服を定位置に戻すと、そのまま一階へと降り食品売り場へと向かう。
 食器や服売り場とは比べ物にならないほど人の数が多く、どこか眩しく感じられた。

「で、何買うの?」

 イツキの家には、生鮮食品などまるでなく塩胡椒すらない。ヘムカは頭の中で料理を思い描くなり、必要な材料を告げていき適宜場所を移動する。
 やがて、必要な野菜やら調味料やらを籠の中へ入れ精肉コーナーへとやってきた。冷凍ショーケースの中には、大量の豚肉、牛肉、鶏肉が所狭しと並んでいる。片隅には、鴨肉なんかも売っていた。

「ここでは何買うんだ?」

 イツキがヘムカの返事を待っていると、ヘムカは答えた。

「ウサギ肉ある?」

「ウサギ肉……? あるかなぁ?」

 てっきり豚か鶏、牛のどれかだと思っていたイツキは思わず度肝を抜かす。
 鴨肉が売っていた場所へと向かい、鴨肉を退けて探してみるもウサギ肉は見つからない。そんな様子を見ていたヘムカが、「ああ」と納得した。

「日本ではウサギは食べないのか……」

 一応現在でも山間部の一部の地域では食べられているらしいが、少なくとも一般的ではない。
 日本ではウサギを食べないことを思い出すと、他の肉にしようと考え直す。

「じゃ、じゃあ豚にしよう。豚ロースね」

 イツキは大々的に積まれている安価な豚ロース肉を手に取り籠へと入れた。必要な物を全て買い揃え、後はレジに行くだけ。そう思い二人がレジの近くまでやってくると、レジの直ぐ側に大量のチョコ菓子が山のように積まれていることに気がついた。

「そういえば、お菓子とか食べるの?」

 イツキは必要な食べ物しか買わず、菓子も食べないのだがたまには買ったほうがいいのかと思案しながらヘムカへと聞いた。

「うーん。どうだろ……」

 前世の頃には甘いものを沢山食べていた記憶があった。けれども、今は別の体。性別が変わったことも相まって、前世と好きなものが同じとは考えにくい。

「一応木の実とかは食べてたよ?」

「木の実……栗とか?」

 食べ物の話ではあまり使わない木の実という単語に困惑しながらも、イツキなりに具体例を探し出す。

「栗はなかったよ。胡桃とか」

「そうなのか……」

 胡桃はあったのに栗はない。その奇妙さに、イツキは頭を抱えるも菓子売り場へと到着する。甘い菓子が多いが、ヘムカは自然な味やしょっぱい菓子が並んでいる場所まで移動する。

「じゃあ、これ」

 海老煎餅を棚から取るなりイツキの持っている籠へと入れる。そこでヘムカは気がついたが、いつのまにか買い物籠は満杯になり食器類も持っているイツキは随分と重そうにしていた。

「大丈夫?」

 この言葉はいつもイツキがヘムカにかけていた言葉だ。ヘムカがイツキに言うのは、どこか緊張してしまった。
「大丈夫だよ。筋力あればよかったんだけどね」

 イツキは自嘲気味に笑う。
 ヘムカがイツキを改めて見ると、色白で華奢な体をしている。同年代と比べてもかなり貧相な体と言えた。

「部活とかしてなかったの?」

 ヘムカは興味本位でイツキに聞いてみるが、イツキは何と答えようか迷っていた。

「うん……帰宅部だったんだ。中高ずっとね」

 詳らかに説明することなく、簡潔にイツキは答えた。

「そうなんだ。入ろうとは思わなかったの?」

「思ったよ。でも、いろいろあってね」

 言い方から、聞かれたくないというのは理解できた。
 ヘムカも、これ以上何も聞こうとは思わず二人揃ってレジへと並ぶ。見えているわけではないが、後ろに並んでいる客から見られているような視線を感じた。
 精算を終え、ディスカウントストアから出た後も二人の間に発生した重たい空気は淀んだままだった。
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