17 / 49
第二章
第十七話 一歩一歩
しおりを挟む
「朝ごはんできたよ!」
ヘムカはイツキの声により目が覚めた。寝ぼけていたヘムカは一瞬物事が把握できず、見慣れぬ景色に困惑していたがすぐに昨日の出来事を思い出し納得した。
和室に広げられた布団を出ると、日光が差し込む濡れ縁を通りダイニングへとやってくる。ダイニングへ行く途中に通過したリビングの掛け時計を見る限り、現在時刻は八時。
椅子に座ると、テーブルの上にあったのは洋風の朝食。食パン、ソーセージ、ヨーグルトだ。そして、キッチンの方を見てみると食パンの袋、ソーセージの袋、ヨーグルトの袋で溢れかえっている。
ヘムカは箸でソーセージをつまみ、齧る。元いた世界では味わえない肉質と肉汁がたまらない。続いて、キッチンのコンロへと目を向ける。IHというわけでもなく、普通のガスコンロであった。ヘムカは目を凝らしてみるが、近くにフライパンは見当たらない。水切りカゴを見てもフライパンらしきものはない。シンクにあるのかと思い食べ進めるが、その食事中とは思えない異様な視線に気がついたイツキが興味深そうにこちらを見る。
「さっきからキッチンばっかり見てどうしたの?」
イツキは丁度咀嚼していたものを嚥下すると思い切ってヘムカに質問する。
「いや、このソーセージどうやって温めたのかなと」
ヘムカは真っ白な磁器の皿にあるソーセージを持ち上げる。
「そのソーセージは、電子レンジ調理可能だからね。僕みたいな料理できない人にとっては嬉しい限りだよ」
ヘムカがキッチンを見渡していた理由、それはどうやってソーセージを温めたのかだった。一応電子レンジの記憶もあるのだが、八年も別世界で暮らしていると焼くと茹でるぐらいしか咄嗟に調理方法が思い浮かばなくなる。ましてや、蒸したり揚げたりではなく電子レンジのような二十世紀に入ってやっと登場した調理方法など、昨晩見たにも関わらずすっかり記憶の彼方だった。
「ああ、なるほど」
ヘムカは悩みの種が無事に解消されると、ヨーグルトを一気に口へ掻き込み食べ朝食を終える。
「もしかして、電子レンジで温めた食べ物は絶対に食べない人だったりする?」
「別にそういうわけじゃないです。居候の身ですし、料理くらい作ろうかなと」
居候の身で、迂闊に外も出歩けない。そうなればずっと家にいることになるが、家でできることなどたかが知れている。せめてもの暇つぶしと思い、ヘムカは料理を作ることを提案したのだ。
「おお、いいね。助かるよ。でも食材ないから買い出しに行かないとだね」
冷凍食品やレトルト食品も、食品によっては面倒くさい加熱の仕方をするときもあるので決して全てが楽というわけではない。それに、健康面でも不安が大きいのも事実でイツキはヘムカの提案は喜んで受け入れた。
けれども、ヘムカの言うとおりにするには外で買う必要がある。イツキが買いに行くならまだしも、調理する人と買う人が別では買うものを間違えないかという不安が残る。
「ですね」
ヘムカも、イツキが暗に外出する必要があると言っているのはわかった。ヘムカとしても吝かではない。大きめフードを被ればギリギリ耳も首枷もしっぽも隠し通せるのだが、どうにも怪しい格好のためイマイチ積極的になれないという理由があった。
「そもそもの話、フライパンないし、お皿も足りないだろうし」
イツキの家にあるのは鍋と二個のコップ、二枚の皿だけである。二人分ということを考えるとどうにも数は少ない。
「それも買わないとね。じゃあ、支度しようか」
両方の物が同時に買える場所は総合スーパーか大型ディスカウントストア。この近くだと改装したばかりの大型ディスカウントストアが存在した。
イツキは朝食を食べ終わると、皿をシンクに入れてすぐに外出の身支度を始める。ヘムカはイツキの身支度を呆然と眺めていると、イツキからパーカーを渡される。
「はい、これ」
ヘムカはパーカーを渡され一瞬戸惑った。一応見せたくない部分は隠れるのだが、どうしても違和感は拭えない。職質も受けやすいだろう。けれども、期待されている状況で断るヘムカではない。パーカーを受け取ると、その長い袖に短い腕を通す。
「しっぽの部分どう? 窮屈じゃない? 昨日買った服みたいに穴開けていいけど」
ヘムカは昨晩、渡された服に穴を開けていた。このようにしないと、しっぽの部分が窮屈でしかたないのだ。
しかし、パーカーは大きめであるということが功を奏し、しっぽはそれほど窮屈ではない。とはいえ、少なからずパーカーを着ると尾骨辺りが妙に膨らんで見えるため、見知らぬ人が見た場合は違和感を覚えることだろう。
また、腕を伸ばしても指先ですら袖から見えることはない。いわゆる萌え袖という格好だ。首枷も無事に隠れて見える。
狐耳の場合は、無理やり押しつぶしフードを被れば特に問題はない。
全体的に見ればかなり違和感のある格好だが。
「じゃあ行くか……」
行こうと言ったのはイツキだが、改めてヘムカを見ると職質されそうだと感じる。懸念しながらもイツキは外へと出た。
ヘムカはイツキの声により目が覚めた。寝ぼけていたヘムカは一瞬物事が把握できず、見慣れぬ景色に困惑していたがすぐに昨日の出来事を思い出し納得した。
和室に広げられた布団を出ると、日光が差し込む濡れ縁を通りダイニングへとやってくる。ダイニングへ行く途中に通過したリビングの掛け時計を見る限り、現在時刻は八時。
椅子に座ると、テーブルの上にあったのは洋風の朝食。食パン、ソーセージ、ヨーグルトだ。そして、キッチンの方を見てみると食パンの袋、ソーセージの袋、ヨーグルトの袋で溢れかえっている。
ヘムカは箸でソーセージをつまみ、齧る。元いた世界では味わえない肉質と肉汁がたまらない。続いて、キッチンのコンロへと目を向ける。IHというわけでもなく、普通のガスコンロであった。ヘムカは目を凝らしてみるが、近くにフライパンは見当たらない。水切りカゴを見てもフライパンらしきものはない。シンクにあるのかと思い食べ進めるが、その食事中とは思えない異様な視線に気がついたイツキが興味深そうにこちらを見る。
「さっきからキッチンばっかり見てどうしたの?」
イツキは丁度咀嚼していたものを嚥下すると思い切ってヘムカに質問する。
「いや、このソーセージどうやって温めたのかなと」
ヘムカは真っ白な磁器の皿にあるソーセージを持ち上げる。
「そのソーセージは、電子レンジ調理可能だからね。僕みたいな料理できない人にとっては嬉しい限りだよ」
ヘムカがキッチンを見渡していた理由、それはどうやってソーセージを温めたのかだった。一応電子レンジの記憶もあるのだが、八年も別世界で暮らしていると焼くと茹でるぐらいしか咄嗟に調理方法が思い浮かばなくなる。ましてや、蒸したり揚げたりではなく電子レンジのような二十世紀に入ってやっと登場した調理方法など、昨晩見たにも関わらずすっかり記憶の彼方だった。
「ああ、なるほど」
ヘムカは悩みの種が無事に解消されると、ヨーグルトを一気に口へ掻き込み食べ朝食を終える。
「もしかして、電子レンジで温めた食べ物は絶対に食べない人だったりする?」
「別にそういうわけじゃないです。居候の身ですし、料理くらい作ろうかなと」
居候の身で、迂闊に外も出歩けない。そうなればずっと家にいることになるが、家でできることなどたかが知れている。せめてもの暇つぶしと思い、ヘムカは料理を作ることを提案したのだ。
「おお、いいね。助かるよ。でも食材ないから買い出しに行かないとだね」
冷凍食品やレトルト食品も、食品によっては面倒くさい加熱の仕方をするときもあるので決して全てが楽というわけではない。それに、健康面でも不安が大きいのも事実でイツキはヘムカの提案は喜んで受け入れた。
けれども、ヘムカの言うとおりにするには外で買う必要がある。イツキが買いに行くならまだしも、調理する人と買う人が別では買うものを間違えないかという不安が残る。
「ですね」
ヘムカも、イツキが暗に外出する必要があると言っているのはわかった。ヘムカとしても吝かではない。大きめフードを被ればギリギリ耳も首枷もしっぽも隠し通せるのだが、どうにも怪しい格好のためイマイチ積極的になれないという理由があった。
「そもそもの話、フライパンないし、お皿も足りないだろうし」
イツキの家にあるのは鍋と二個のコップ、二枚の皿だけである。二人分ということを考えるとどうにも数は少ない。
「それも買わないとね。じゃあ、支度しようか」
両方の物が同時に買える場所は総合スーパーか大型ディスカウントストア。この近くだと改装したばかりの大型ディスカウントストアが存在した。
イツキは朝食を食べ終わると、皿をシンクに入れてすぐに外出の身支度を始める。ヘムカはイツキの身支度を呆然と眺めていると、イツキからパーカーを渡される。
「はい、これ」
ヘムカはパーカーを渡され一瞬戸惑った。一応見せたくない部分は隠れるのだが、どうしても違和感は拭えない。職質も受けやすいだろう。けれども、期待されている状況で断るヘムカではない。パーカーを受け取ると、その長い袖に短い腕を通す。
「しっぽの部分どう? 窮屈じゃない? 昨日買った服みたいに穴開けていいけど」
ヘムカは昨晩、渡された服に穴を開けていた。このようにしないと、しっぽの部分が窮屈でしかたないのだ。
しかし、パーカーは大きめであるということが功を奏し、しっぽはそれほど窮屈ではない。とはいえ、少なからずパーカーを着ると尾骨辺りが妙に膨らんで見えるため、見知らぬ人が見た場合は違和感を覚えることだろう。
また、腕を伸ばしても指先ですら袖から見えることはない。いわゆる萌え袖という格好だ。首枷も無事に隠れて見える。
狐耳の場合は、無理やり押しつぶしフードを被れば特に問題はない。
全体的に見ればかなり違和感のある格好だが。
「じゃあ行くか……」
行こうと言ったのはイツキだが、改めてヘムカを見ると職質されそうだと感じる。懸念しながらもイツキは外へと出た。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる