15 / 49
第二章
第十五話 井蛙たちは
しおりを挟む
「そ、その……。不躾な質問なんですけど、耳としっぽって……本物?」
寝床を確保して安堵しきっていたヘムカに対し、イツキはヘムカの狐耳やしっぽに対して訝しげな視線と質問を投げかけた。
日本なのだから、耳やしっぽの生えている亜人を見たことがないのは当然の反応だ。侮辱されたわけでもないので、この際にしっかり紹介しておくことにする。
「本物ですよ、ほら」
ヘムカは狐耳を動かしてみる。力を抜いて見たり、入れてみたり。とてもじゃないがコスプレグッズでどうにかできるものではなかった。同様に、しっぽも動かす。
けれども、初めて見る耳としっぽにイツキは未だ信じられないというような目線をしている。
「もしかして、ご家族とかも?」
「ええ、まあ。普通の人間たちからは亜人って呼ばれていましたね」
家族は普通の人間と嘘をつこうとも思った。とはいえ、家族が普通の人間なのに自分だけ狐耳やしっぽが生えているというのは支離滅裂で遺伝子操作の様な悪印象を与えかねないな話である。そのため、一応は認めることにした。
しかし、家族も同様ということは亜人という人種が世界にはいることを言っているのも同じで、イツキを混乱させていないかとヘムカは不安だった。
だが、イツキは混乱しているどころかヘムカを興味深そうに眺めている。
「触ってもいい?」
単純な知的好奇心だった。
「だ、駄目です。その……ダニとかついているかもですし」
ヘムカは否が応でも触らせたくないため、必死に断る。
しかし肝心のイツキは、ダニがついているのであれば触った後によく洗えばいいだけの話。などと高をくくっていた。
それどころか、そこまで頑なに断る理由があるのかとイツキの知的好奇心は却って擽られた。どうにかして触ってみたい。そんな感情がイツキの中で渦巻く。
「わかったよ」
イツキはヘムカを安心させるべく了承の旨を伝えると、テーブルの上に広がるプラスチックのトレーやら割り箸やらを回収する。立ち上がり、トレーを持ち、ヘムカの分も回収しヘムカの後ろへと回る。その瞬間を見計らい、自然な動作でヘムカのしっぽを掴んだ。
「ひゃいっ……」
ヘムカは嬌声を出し電撃でも食らったかのようにびくついた。その勢いでヘムカは膝をテーブルにぶつけてしまい、木を金槌で叩いたような音が響き渡った。
「あっ……うっ……」
ヘムカは膝を抱え、痛みに悶ていた。膝頭には擦り跡が見える。
さすがのイツキもここまでのものだとは思っていなかったため、一瞬どうしていいのかわからなかった。ただ、申し訳ないという気持ちはある。
「あ、あの? ヘムカさん?」
イツキはさすがにやりすぎたと反省し、謝罪しようとヘムカを刺激しないように声をかける。しかし、ヘムカは体操座りで膝を大切に抱えたままゆっくりとイツキの方を向く。その目は、悲傷的な目だった。
「ヘムカ……さん? その、ごめんね……」
再度呼んでも、謝ってもヘムカは口を噤んだまま何も言う気はない。
「本当に、その、悪かったよ。もう二度としないから……」
手をすり合わせ、跪き非礼を詫びるがヘムカの様子は決して芳しくない。ただ、両者ともに何も言わず重たい静寂の時間が訪れた。
「と、とりあえずお風呂入る?」
話をどうにか続かせようと、イツキはふと思い立ったことを提案する。
「わかった……」
ヘムカも渋々ながらに承諾する。イツキは風呂場へと向かいお湯を張り始めながらその後のことを考えた。
今回ばかりはイツキが悪いと自分でもわかっているため、ヘムカの入浴後に真っ先に真摯に謝ろうと考える。そして、別に考えたのは服のことだ。ヘムカが着ている服は貫頭衣であり、替えの服などない。ましてや、イツキは大人の男性。ヘムカに合う服など持っているわけもない。もう一度あの貫頭衣を着させることも考えたが、血まみれの服をもう一度着させることになると考えるとどうしてもいい気はしない。
「買いに行くか……」
子どもに着させる服を買うと言えば別に怪しくはないのだろうが、仮にも少女。ヘムカのような少女がどのような服を着るのかもわからないが、何より下着だ。こればかりは、服以上にわからない。
ただでさえ怒らせているのに、下着なんて聞けない。その場で考えようとも考えてみるが、子供服売り場の少女用下着を吟味する自分自身。最悪通報されかねない光景である。
「駄目だ……わからん……。インターネット契約しようかな……」
イツキが考えたのは、ネットショッピング。しかし、イツキはこういったものには疎い。それに、わざわざ契約するくらいなら直接買いに行ったほうがいい気もしてくる。
止めどない悩みに混乱しているイツキは上縁面に肘を付き、手で額を支える。ふと浴槽内を見てみると、栓がされておらず蛇口から浴槽に注ぎ込まれているお湯が底面を通り渦を巻きながら排水口へと流れていった。
「はぁ」
落胆したように深いため息をつき、体を乗り出すと栓を閉める。ようやく底面に水が溜まり始める。
「ま、最後にはこういうのもありか……」
そう風呂場で呟くと、脱衣所にバスタオルを用意しダイニングへと戻り財布を取る。そしてそのまま外へと出た。
寝床を確保して安堵しきっていたヘムカに対し、イツキはヘムカの狐耳やしっぽに対して訝しげな視線と質問を投げかけた。
日本なのだから、耳やしっぽの生えている亜人を見たことがないのは当然の反応だ。侮辱されたわけでもないので、この際にしっかり紹介しておくことにする。
「本物ですよ、ほら」
ヘムカは狐耳を動かしてみる。力を抜いて見たり、入れてみたり。とてもじゃないがコスプレグッズでどうにかできるものではなかった。同様に、しっぽも動かす。
けれども、初めて見る耳としっぽにイツキは未だ信じられないというような目線をしている。
「もしかして、ご家族とかも?」
「ええ、まあ。普通の人間たちからは亜人って呼ばれていましたね」
家族は普通の人間と嘘をつこうとも思った。とはいえ、家族が普通の人間なのに自分だけ狐耳やしっぽが生えているというのは支離滅裂で遺伝子操作の様な悪印象を与えかねないな話である。そのため、一応は認めることにした。
しかし、家族も同様ということは亜人という人種が世界にはいることを言っているのも同じで、イツキを混乱させていないかとヘムカは不安だった。
だが、イツキは混乱しているどころかヘムカを興味深そうに眺めている。
「触ってもいい?」
単純な知的好奇心だった。
「だ、駄目です。その……ダニとかついているかもですし」
ヘムカは否が応でも触らせたくないため、必死に断る。
しかし肝心のイツキは、ダニがついているのであれば触った後によく洗えばいいだけの話。などと高をくくっていた。
それどころか、そこまで頑なに断る理由があるのかとイツキの知的好奇心は却って擽られた。どうにかして触ってみたい。そんな感情がイツキの中で渦巻く。
「わかったよ」
イツキはヘムカを安心させるべく了承の旨を伝えると、テーブルの上に広がるプラスチックのトレーやら割り箸やらを回収する。立ち上がり、トレーを持ち、ヘムカの分も回収しヘムカの後ろへと回る。その瞬間を見計らい、自然な動作でヘムカのしっぽを掴んだ。
「ひゃいっ……」
ヘムカは嬌声を出し電撃でも食らったかのようにびくついた。その勢いでヘムカは膝をテーブルにぶつけてしまい、木を金槌で叩いたような音が響き渡った。
「あっ……うっ……」
ヘムカは膝を抱え、痛みに悶ていた。膝頭には擦り跡が見える。
さすがのイツキもここまでのものだとは思っていなかったため、一瞬どうしていいのかわからなかった。ただ、申し訳ないという気持ちはある。
「あ、あの? ヘムカさん?」
イツキはさすがにやりすぎたと反省し、謝罪しようとヘムカを刺激しないように声をかける。しかし、ヘムカは体操座りで膝を大切に抱えたままゆっくりとイツキの方を向く。その目は、悲傷的な目だった。
「ヘムカ……さん? その、ごめんね……」
再度呼んでも、謝ってもヘムカは口を噤んだまま何も言う気はない。
「本当に、その、悪かったよ。もう二度としないから……」
手をすり合わせ、跪き非礼を詫びるがヘムカの様子は決して芳しくない。ただ、両者ともに何も言わず重たい静寂の時間が訪れた。
「と、とりあえずお風呂入る?」
話をどうにか続かせようと、イツキはふと思い立ったことを提案する。
「わかった……」
ヘムカも渋々ながらに承諾する。イツキは風呂場へと向かいお湯を張り始めながらその後のことを考えた。
今回ばかりはイツキが悪いと自分でもわかっているため、ヘムカの入浴後に真っ先に真摯に謝ろうと考える。そして、別に考えたのは服のことだ。ヘムカが着ている服は貫頭衣であり、替えの服などない。ましてや、イツキは大人の男性。ヘムカに合う服など持っているわけもない。もう一度あの貫頭衣を着させることも考えたが、血まみれの服をもう一度着させることになると考えるとどうしてもいい気はしない。
「買いに行くか……」
子どもに着させる服を買うと言えば別に怪しくはないのだろうが、仮にも少女。ヘムカのような少女がどのような服を着るのかもわからないが、何より下着だ。こればかりは、服以上にわからない。
ただでさえ怒らせているのに、下着なんて聞けない。その場で考えようとも考えてみるが、子供服売り場の少女用下着を吟味する自分自身。最悪通報されかねない光景である。
「駄目だ……わからん……。インターネット契約しようかな……」
イツキが考えたのは、ネットショッピング。しかし、イツキはこういったものには疎い。それに、わざわざ契約するくらいなら直接買いに行ったほうがいい気もしてくる。
止めどない悩みに混乱しているイツキは上縁面に肘を付き、手で額を支える。ふと浴槽内を見てみると、栓がされておらず蛇口から浴槽に注ぎ込まれているお湯が底面を通り渦を巻きながら排水口へと流れていった。
「はぁ」
落胆したように深いため息をつき、体を乗り出すと栓を閉める。ようやく底面に水が溜まり始める。
「ま、最後にはこういうのもありか……」
そう風呂場で呟くと、脱衣所にバスタオルを用意しダイニングへと戻り財布を取る。そしてそのまま外へと出た。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる