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十六話 サイナメの話

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洞窟内から、怪しげな足音と、会話が徐々に柚華達に向かって来る。
 「おそらく、その人数は五人」
 「ん?聞き覚えの有る声」
 
 「サイナメ」「間違えない、サイナメの声」
 そうこの時、サイナメは四人の手練れ達を連れ、この地に、足を踏み入れていた。
 
 燃え盛るたいまつを手に持ち、サイナメが柚華達に向かい、笑みを浮かべて、穏やかな口調で話しかける。
 「おいおい、カエルとうかよ、そう驚く顔をする事はないだろう」

 「あの日別れ際に、お前が言っただろう、自分の尻拭いは自分でしろと」

 確かにカエルとうかは、あの日がっくりと肩を落とし、地面ばかりを見つめるサイナメに「サイナメもしかすると、死するつもりか、その勇気がまだあるのなら」「自分の尻拭いは自分でしろ」「よいな」そう言い放ち飛び去っていた。

「ずいぶんと考えさせられたよ、俺は」「俺は決めた、己れの未熟な力で生み出した禁断の魔法陣を、己の手で封印するとな」「その前に、やらねばならぬことを思い出し、この地を訪れたと言うわけだ」「だが少し遅かったみたいだ・・・


 「アカツキ様と、イツキ様はもうこの世には、いない」


 「ケロ」「それは、真実か」

 「残念ながらな」「この松明たいまつをくれてやる。 この先に進み自分の目で確かめてくればいい」
 
 今のサイナメからは、悪しき力はいっさい感じ取れなく、その瞳は真っ直ぐで、嘘などついていないと、直ぐにわかった。
 「ケロ」「サイナメよこの先、どのように動くつもりだ」


 「これから、少し考えを練り直さなければならないが、しかし必ずやこの俺が、禁断の魔方陣を封印する」

 「吸鬼が、完全なる禁断の魔方陣を完成させる前にな」

 「ケロ」「完全なる禁断の魔方陣?」「どういうことだ ! 教えろ」


 「俺が描いた禁断の魔方陣は、未熟なる魔力で描いている」
 「おそらく、奴は魔力を秘める者達を求め、そしてその魔力吸い取り、完全なる禁断の魔方陣を完成させるつもりだ」


 「吸鬼キビが次に向かうのは、おそらくモミシ様が居られた場所」


 「ケロ、洸夜こうやの秘境」

 「ご名答だ、流石だな」「何人たりとも足を踏み入れる事を、拒むそう言われて来た」「翼なき者は、踏み入れることなど出来ないとも言われる」「秘境の中の秘境」「今あそこに、乾親子が住み着ている」

 「糸切りの里、二代目忍びの国頭、乾の力ならば、そう易々やすやすとは、やられる事など無いだろうがな」

 「柚華よ、お前の能力を持ってすれば、たやすく行けるだろ、気になるならば、いちど行ってみたらどうだ」「警戒しろと伝えるだけでは構わない」

 「我らは、一旦江戸に帰り、全てを練りなおす」
 サイナメは、言いたい事だけ言い放ち、蛇骨の洞窟を後にする。

 
 柚華達、松明を片手に、洞窟の行き止まりで、立ち尽くす。「ありえない」
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