私鬼戦記 禁断の魔方陣とカエルに変えらし者

京間 みずき

文字の大きさ
上 下
2 / 32

一話 吸鬼

しおりを挟む
 「かつて鬼才の式神師、幾多弦斎げんさい様が、描いた禁断の魔法陣」「複雑怪奇なこの紋様、面白い」

 幾多弦斎亡き後、彼の愛弟子のサイナメは今、暗く、狭い畳み二畳程の一人部屋で、ゆらめくロウソクの光を頼りに、禁断の魔法陣について記された、古い書物を手に持ち、不適な笑みを浮かべる。


 「実に面白い」「ヌハハハ」「考えただけで、この胸の中が、踊り始める」「この声すら、震えが止まらない」

 禁断の魔法陣の解放には、魔力を秘める者の生贄が必要と記されていた。
 
 「この左腕に、禁断の魔法陣を描いて見せる」「我が魔力と、左腕一本」

 サイナメは、仕事道具で使う千枚通しを右手に持ち、青白く揺らめくロウソクの光の中に、鋭くとがる千枚通しの先端を、おもむろに差し込む

 彼は、赤く焼けたその先端を見て、ニヤリと不気味に微笑む

複雑怪奇な禁断の魔法陣の紋様を、自分の左腕に、寸分違わぬ形に千枚通しで描き進める。

  圧倒的な精神力で、その痛みをこらえ、禁断の魔法陣を描き終える。

 すると、血でにじむ禁断の魔法陣のその紋様が、青黒く蠢くうごめき始める。
 「これだ、この力」「あふれんばかりのこの力」

 そして今、闇黒の扉が開かれる
「吸鬼よ我が身にまとえーー」

 
 
 こうしてサイナメは、圧倒的な魔力と、吸鬼きゅうきの力を身にまとう

 「さて、この力どう使うのが、一番面白い吸鬼よ」


 「文献人狩りなどいかがですか」「死ぬまで苦労する様な、、、」
 サイナメの耳元で、吸鬼の悪しき力がボソリとささやく、まるでそこに存在するかの様に


 「面白い、実に面白い提案だ、ヌハハハーー」




    ・・・・・





チリン、、、チリン

 「お母たま」「あの人達何者なの?」

 春の爽やかな風が吹き始めたある朝、狩人の郷の首領、桃花とうかは、娘二人を連れて、郷の近くの小高い丘の上で山菜採りながら、ゆっくりとした、時間の流を楽しむはずだった。

 この時までは、、、



 チリン、、、チリン、、、チリン

 桃花は丘の上より、眼下を歩く彼等の姿を見て、優しく末娘に話しかける。
 「ユリネちゃん」「あの人達は、修行中の山伏やまぶしよ」

 
 七歳になったばかりのユリネは、母親の桃花同様に、はかま姿で、弓を背負い、えびらには、五、六本の矢を入れ、物珍しそうな眼差しで、目を輝かせながら彼等をみつめる。

 「へーーあれが、ヤマブシなんだ」「お姉たま知ってた?」

 四つ年上の柚華ゆずかは、胸には、さらしを巻き、忍び服を身にまとい、お気に入りのマントをたなびかせる。
 妹にそのマントを引っ張られ、しぶしぶ眼下に目をやり、笑みをこぼす。

 「ヤマブシって強そうね」「フフフ」
 この時、柚華もユリネ同様に、目を輝かせていた。


 チリン、、チリン、チリン

 彼等が、近づいたその時、春の風が、桃花の頬をなでる。
 「この匂い」「吸鬼?」「間違え無い吸鬼だわ」「この腐った獣の様な匂い」

 桃花の眼光が、キリリと光る。

 桃花は、大声を上げ、柚華に向かい叫ぶ
 「柚華、ユリネを連れて、出来るだけ、遠くに」

 「早くしなさい」



 ただならぬ予感が、彼等の脳裏をよぎる。

 




 それは一瞬の事だった。

「いやーー母たまーー」

 彼等の悲痛叫びが、辺りの山々にぶつかりこだまする。
 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...