恋文筆弁士の最後の交換日記

京間 みずき

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三十二話 希望の光と、感謝

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 「ヤツメさん」「こんなにまぶたって、、、」

 「重たかったのね」

 「ごめんなさい、目をつぶってていい?」

 これは、近頃の文華の口癖だった。

彼女は、病のせいで、まぶたの重みを知り、大切な人と会話すら、苦痛に思うそのな日々をここ十日程前からすごしていた。

 しかしミコトが、ヤツメの前から姿を消した翌日
 ヤツメが、病院を訪れると、文華の頬が、少し赤みを帯びていた。

 ヤツメは、ニッコリと文華を見つめ、彼女の左手を掴み持ち、ゆっくりした口調で、優しく話しかける。

 「今日も、可愛い顔を見に来たよ」
 
 「文華ちゃん、今日凄く調子良さそうだね」「顔色凄く良くなったね」

 数日前、まぶたが重いと、なげいたあの日が、まるで嘘の様に、文華はヤツメの顔を見て、ニッコリと微笑み「うん、今日は、調子が良いの」と言い再び微笑む

 彼女の瞳には、潤いが戻り、その笑顔には、わずかだが、余裕すらうかがい知る事が出来たのだが、担当医師は、一時的な回復の可能性が高いと言う。
 
 「そんな、バカな」「なぜだ」「ミコトが、今回も俺を救ってくれる」「そう思っていたのに」


 ヤツメの両親は、五歳の誕生日祝いのおもちゃを買い求める為におもちゃに足を運んだと言う

 その道中で、有ろう事か、大型トラックに跳ねられ、その命を奪われたと言う

 ヤツメ一人を残し


 幼いヤツメは、余りにもショックで、引き取られた祖母の家で、幾日も狂う様に泣いていたその時、ヤツメの心を救ったのがミコトだったと言う

 「ミコトは何故、自分の前から姿を消したのか」「こんな時に、どこに行った」

 ヤツメは必死でミコトを探したが、ミコトは姿を現わす事は無かった。

 書物からヒントをもらい事も叶わず、ミコトの姿を消した今、何か決意した顔立ちになり、ヤツメは、何故か健一の所に、足を運び、頭を下げて、何かを頼み込む

 健一は、にこやかに笑い、ヤツメの願いを快く受け入れる。
 「当然協力しますよ」「当日は、出来るだけ、多くの人で、押しかけますよ」

 「ヤツメさん、成功を祈ってます」


 ヤツメはその足で、病院の多くの関係者にも頭を下げて、協力を求める。

 「この病院内で、文華と結婚式を、挙げたい」「彼女の意識がはっきりとしている今」「今しか無いいんだ」「俺たちに、残された時間は」

 当然の事ながら、ヤツメは文華の両親にも計画を話し、説得する。

 彼女の両親は、涙を流し、喜んだと言う

 「よし全て、そろった」「後は、文華ちゃんに了解を得る必要が、、、」
 「文華ちゃんの性格上、素直に了解してくれるとは」「限らない」

 「今俺が、考える事の出来る最良の恋文を書いて、文華ちゃんを説得する」

 恋文筆弁士ヤツメは、すずりに数滴水を垂らし、墨をする。
 「この色だ」

 「恋ギツネよ、病みで苦しんでる文華に、心に希望の光と、多くの人の感謝の気持ちをもたらせ」

 「俺に力を、貸してくれ」「この筆に憑依しろ」


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