恋文筆弁士の最後の交換日記

京間 みずき

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三十一話 幼い頃のミコトとの約束

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春の柔らかい日差しが、サクラの花のを照らす。
 そして、そのサクラ満開に咲き乱れ、徐々に散り始めたある日、文華は、卒業の日を迎える。

 一人寂しく、病院のベッドの上で、、、

 実は、文華はヤツメと、結婚の約束をした クリスマスのあの日の帰り道、再び吐血し、病院に運ばれていた。

 「文華ちゃん、大丈夫か」「誰か」「誰か、救急車を呼んでくれないか」
 携帯電話を持たない、ヤツメは必死に周りにいる人に声をかけ、足早に家路に帰ろうとする者の手を掴み、なんとか救急車を呼んで貰っていた。

 救急車のサイレンが、ヤツメの耳に聞こえたその時には、文華はすでに、意識がなかった。

 その後、彼女は一週間程、意識不明の状態で、生死の境をさまよっていた。
 病名は、医学の進歩を遂げた現在でも、解明出来ないと言う

 ただ一つ分かっている事は、余り長く持ちそうに無いと言う事だった。

 意識失ったあの日より、途絶える事の無かった交換日記は、ここで途絶え

 ヤツメは、結婚の約束をしたクリスマスのあの日より、ほぼ寝ずに、古い本や、書物を読み解いていた。

 「文華の瞳に潜む、悪しき力を持つもののけを、消し去る方法が無いか」

 「これもダメか、、、」

 彼はとにかく必死になって、ヒントだけでも掴みたいと、来る日も、来る日もあきらめる事なく紐解いていた。

 今ヤツメは、頬がやつれ、痩せ細っている。

 「ヤツメ様、お体をご自愛ください」と
 ミコトは何度と無く、この様な言葉をかけるが、ヤツメは文華事を愛しく思う余りに

 その耳には届く事など無い

 ミコトは、どこか寂しそうに、呟きはじめる。

 「もう何日まともに、寝てないの」「嗚呼、見るに耐えがたいわ」

 「仕方が有りませんね」

 「一度で良い、ヤツメ様から、私宛てに、恋文を書いてもらいたかったな、、、」

 実はヤツメは、幼い頃ミコトと、一つの約束をしていた。




 「ヤツメ君、貴方には特別な力が有るのよ」「だからねいつまでも、メソメソ泣かないのよ」

 「ヒック、とく、特別な力?」

 「亡くなった、お父さんとお母さんはね、恋文を繰り返し交わし」
「結ばれたのよ」「知ってた?」

 「ん、知ってる」

 「恋悩む人に、恋文を書いてあげなさい」

 「僕に出来るかな」

 「私達、キツネ達が、手伝ってあげるから」「大丈夫よ」

 「僕、大きくなった、みんなの為に、恋文を書いてあげる」

 「その時は、ミコトにも、書いてくれる?」

 「当然だよ」「とっておきの、恋文を書いてあげる」

 「約束ね」

 「ん、約束」

 そんな事を思い出しながら、ミコトは、その場より姿を消す。
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