恋文筆弁士の最後の交換日記

京間 みずき

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二十七話 さくらんぼの絵

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ヤツメは、寝る間も惜しみ、お香に文字を書き入れ、満足気にニッコリとほほえみ、自信に満ち溢れた声を出す。

 「ヨシ、これで準備は、万全だ」
 
 「眠い、しばらく寝るとするか」

「ミコト悪いが、お客様が来たら起こしてくれないか」

 ミコトは優しくうなずくと、その仕草を見たヤツメは、安心したのか、寝室に向かう事無く、座ったまま作業部屋の机の上に、うつ伏せの状態で、頭を乗せ、ウトウトと眠りについて仕舞う

 ミコトは、疲れきったヤツメの寝顔を見ながら、厳しそうな表情で、独り言を呟き始める。

 「ヤツメ様、貴方の努力は分かりますよ」

 「でもね」

 「さすがに今回計りは、ちょっと無理が有りますね、ヤツメ様」「亡くなったお方に、手紙を渡す事は、出来ない」

 

 「ミコトは、九歳の女の子相手に、何処まで子供だましが、通用するか」

 「心配でなりません」「もし、失敗してしまったら」


 「彼女の心に、裏切りと心の悲痛と言う名の大きな溝が、、、」

 

 その日の夕暮れ時、ヤツメは目を覚まし、ミコトの心配をよそに、いつにも増して、怪し気な着物を身にまとい、女の子と、その父親を待ってると、間も無く彼等は、ヤツメの家を訪れる。

 実は、女の子がここを訪れたその日、ヤツメは、彼女を家まで送り、父親に娘から相談をもらった事をつげ、 奥様の命日に、娘さんと一緒に家に来ていただきたいのですがと、頼んでいた。

 父親は、怪し気な商売をするヤツメの事を、余り良く思っていなかったのだが、娘が書いた母親への手紙を読み、心を打たれ、わずかな望みを心に秘め、ここに来ていた。

 「ヤツメさん、無理を承知で、娘のワガママを、受け入れて頂き、ありがとう」

 「結果はどうあれ、先に礼を言って置きます」

 当然彼女の父親も、ミコトと同様に、亡くなった妻に、手紙を送る事など出来ないと、思っていた。



  この時までは



 「さてと始めますよ」
 
 ヤツメはそう言うと、家中の窓を閉め、更に電気を消し、お香に火を付ける。

すると蒸し暑い部屋は、暗闇に包まれ、幻想的に煙が、立ち上がる。

 ヤツメは、紋様を刻んだペンを右手に持ち、澄んだ声で、恋ギツネに話しかける。
 「恋ギツネよ、この者の亡き母へ、文字と、その想いを伝えてくれないか」

 「我がペンに憑依しろ」

 ヤツメは、そう言うと、左手に女の子が書いた手紙を手に取り、心を込め音読を始める。
 これと同時に、煙に向かってペンを走らせる。

するとその煙は、窓のわずかな隙間を見つけ出し、外にこぼれ出始める。
 
 まるでこの時を、待っていたのかの様に、怪し気に、ゆっくりと、こぼれ出る。


 当然の事ながら、煙に文字を書き入れる事など、出来る筈など無いのだが、この時、ここに居た全ての者に、はっきりと、その文字が目えたと言う

 何故は、誰にもわからない、暗闇と煙とお香の臭い、女の子が書いた手紙の内容が、彼等の心に染み渡る。

 そしてお香の火が、全て消えたその時、ありがとうとの文字と共に、身内しか知らない筈の、さくらんぼの絵が、お香に浮き上がる。

 すると彼女の瞳より、涙が、ポロポロとこぼれ出る。

 彼女が、火が消えた、文字お香を手に取ると、さくらんぼの絵が、ほのかに赤みを帯びる。

 本当に、天国母親が色付けたかの様に


 恋文筆弁士ヤツメは、華麗にしなやかに、そして優しく解決へと導く




 彼女は、幼稚園の時、さくらんぼ組だったのだが、母親は彼女の持ち物全てに、さくらんぼの絵を描いていた。
 それは、小学生になっても母親は、喜ぶ彼女の為に、描いていたと言う




 「ヤツメ様、もしかして、さくらんぼの事、文華ちゃんに、聞いていたの?」

 「当然だ、ミコト」

 「だが、不思議事が一つ有る」「さくらんぼが、赤みを帯びたのは、俺が仕掛けた物じゃない」

 もしかすると、煙りに書いた文字が、窓からより溢れ出し、天国にいる母親に届いたのかも知れない
 


 
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