恋文筆弁士の最後の交換日記

京間 みずき

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二話 笹田の恋と、恋文筆弁士 後編

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ヤツメは、家庭訪問のその日、笹田の心に抱える闇を見抜き、自分の持つ力で、その闇を取り除く事を、決意する。

 「先生ちょと待ってて、用意するから」
 ヤツメは、そう言うと、布巾の上にすすりを置き、水を数滴垂らし、心を無にして、墨をすり始める。

 その所作は、とても綺麗で、何処か凛とした空気を、放っていた。

 一本の怪しげな模様が描かれた筆を、手に持つ、そして遂にその時が来る。

「一本の怪しげな模様が描かれた筆を、手に持つ、そして遂にその時が来る。

 ヤツメが持つ筆が、何かの音楽でも奏でるかの用に、滑り始める。
 力強い文字と、綺麗な紋様を描く

 「私ね、病気の事を知ったあの日に、涙は捨てたの」「もう絶対に、泣かない、そう心決めたの」

 ヤツメがいた文字には、力がある、目には見えないその力が、時として人の心を奪い去る。
 奪い去られたその心は、その文字のとりこになり、心に新たな光りを灯す。

「でもね、あの文字を目にして、涙が止まらなくなっちゃて、怖い位に溢れ出したの」
 彼女のこの涙は、当然過去の物とは違い、喜びの余りに、涙が出たのでたので有るが、これこそが、筆がもたらす文字の力で、笹田の心より霞みが取れる。

 霞み取れたその瞳を、ヤツメは覗き込む
 「へぇー」「先生立派な恋のつぼみが有るじゃないか」

 実は、彼女は幼い頃より、心に想う人が居たのだが、二十歳の翌日のあの夜より、心の奥底に秘め隠し、八年間過ごしていた。
 
 ヤツメはそう言うと、筆を再び手に取り、先程より優しい声を出し、丁寧な口調で発する。 「恋ギツネよ、我が筆に憑依してくれぬか」「この者の、恋のつぼみを華麗に咲かせくれ」

 彼が持つ筆に、まるで魂が宿るかの様に、スルスルと文字を書き進め、最後に華やかな絵を描く、優しくかれたその文字が、笹田の心を包み込み、勇気を与える。

「先生この恋文を、心に想う、その方に」

 恋文筆弁士ヤツメは、恋に悩む者達を、華麗に、しなやかに、そして優しく解決へと導く


  「あっ」
 「文華さん、ごめんなさい、凄く話しが、脱線したわね」「文華さんそのノートの文字ヤツメ君なら、必ず解かると思うわ」
「私には、キツネの姿を見る事は、、、」「叶わなかったけどね」「きっとキツネは居ると思う思うの」「あの恋文を手にした時にね、私言葉では、言い表わせ無い、何かを感じ取れたの、温もりと共にね」
 「明日、学校休みだから行って見なさい」

 文華は、笹田の話しが、終わると、チラッと左手の薬指を確認する。
 その指に、光る指輪を見て、微笑む
 
 そう彼女は、ヤツメの書いた恋文を、長い間心を寄せいた者に渡し、初恋を実らせていた。

 
 
 
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