陰キャでも出来る!異世界召喚冒険譚!

渡士愉雨

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112 後片付けまでが冒険です・1

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 正直、光に包まれた時はすごく焦りましたよ、マジで。。
 神域結晶球の破壊に失敗してしまったんじゃないかと思って。

 でも、私・八重垣やえがき紫苑しおんの【ステータス】には表示されていた。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンのHP――――ゼロと。
 名前の表記も敵対を示す赤色表示ではなくなっていた。
 そしてこの場にいた全員の生存もしっかりと確認できていた。

 それに、光には攻撃判定はないみたい――私の視界が赤く染まってないしね。

 多分溜め込んだ魔力を操作していた屍赤竜リボーン・レッドドラゴンからの意志が途絶えた事で、組み上げかけていたものが霧散したんじゃないかな。
 爆発させる、なんて事は神域結晶球の機能から離れているので当然と言えば当然だと思う。
 最後の起爆剤となる魔力が届かなかった……それより一瞬早く私がどうにか破壊出来たのも影響ある――のかもしれない。

 ともあれ安堵の中、光が収まっていき、地響きと共に屍赤竜リボーン・レッドドラゴンが崩れ落ち――って、ちょっ?!

「ひょっ、わわわわわっ!?」

 四つん這いの状態だった屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは力を失って倒れていく。
 当然私に襲い掛からんとしていた頭も力を失って――私へと真っ逆さま。

 ホントに最後の最後で全身全霊を使い切っていた私は、倒した確信を得て地面に座り込んでいた。
 さらに言えば回避の体力ももう全く残っていない。

「うう、これはもうだめですね……さらば二度目の人生……短かったなぁ……とほほ」

 なので、これはもう避けようがないなぁと少し涙目になる私。
 でも、まぁ、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは倒せたんだからいいかな。
 後始末を皆に任せる事になるのは心苦しいけど――如何ともしようがない。
 いや、本当に全部使い切ってるんで。
 蘇生できたら謝ろう、うん。

 そうして私が目を閉じた瞬間だった。

「やれやれ――花嵐ワーフ・ウィード
「にょ、わぷっ!?」

 はじめくんの声が聞こえた直後、強い風が横合いから浴びせかけられ私は宙を舞う。
 そうしてちょっと空中を泳いだ後、若干乱暴に地面に着地&転がって、私は大いに泥に塗れる事になりましたとさ。

 でも、そのお陰で屍赤竜リボーン・レッドドラゴンに潰される事はなくなりました。感謝です。

「――ぁ」

 そうして仰向けに転がった泥の上、私はこの無防備な状況でも攻撃が来ない事、こちらから攻撃する必要がなくなった事で改めて実感する。
 【ステータス】で頭は確認していたけど、さっきまで戦闘状態だった身体はまだ呑み込めていなかったんだなぁ。

 でも、そうして息を吐いて、青空を見上げると――実感する。
 
 私達は――屍赤竜リボーン・レッドドラゴンに勝利したんだ、と。
 被害を最小限にした上で皆生き残る事が出来たんだ、と。

「――――っ」

 体力は使い切っていたはずなのに、込み上げるものを形にしたかったからか、皆に終わった事を教えたかったからか、私の身体は自然に――それでもゆっくりとフラフラだったけど動いた。
 身体は倒れ込んだまま、右腕をゆっくり持ち上げて――親指を立てたサムズアップ

 みんな私を心配して反応を待ってくれていたのか、あるいは、ちょうど皆にも倒した実感が涌いたタイミングだったのかも。

 直後、皆から大きな大きな歓声が巻き起こった。
 みんな疲れ切っているだろうに、そうとは思えないほどの喜びに満ちた声――私はそれを聞いて、何度目かの実感を得た。

 時間にしては短いかもだけど、私達にとってはとんでもなく長く感じられる戦いが、ようやく終わったんだ――。

 そうして倒れたまま、うんうん、と感慨に耽っている私の顔に影が差す。
 先程私を助けてくれたはじめくんの顔がそこにはあった。
 彼は側にしゃがみ込みながら、呆れた様子の表情で溜息を吐きつつ言った。

「まったく。君はどうして変な所が頑固で、変な所が素直なんだ。
 あそこはもう少しちゃんと死なないように抗ってくれ」
「――いや、その、出来ればそうしようとは思ったんだよ、うん。
 もうホントありったけ使い切っちゃって動けなくて。
 それにドラゴンさん倒したんだし、私が死んでも別に問題ないかなぁって」

 言い訳がましいと思いながらも、そうとしか言いようがなく私は思う所そのままをはじめくんに伝える。
 すると、はじめくんは再度溜息を――今度はより深く深く深く吐いた。

「阿呆か、君は。いや阿呆だ、君は」
「うぐっ」
「折角勝てたとしても君が死体となったすぐ側で俺達に大喜びしろとでも?
 ようやくの勝利に水を差さないでほしいとそう言ってるんだが?」
「うぐぐっ、ごもっともでございます」

 すみませんすみません、その辺りの配慮に欠けておりました。
 やはり私に存在価値はないのでは?(定期的ネガティブ)
 
「――――なぁに言ってるんだか」

 そうして言葉を交わしていると、いつの間にか伊馬いまさんが私達の側にやってきた。
 いや、伊馬さんだけじゃなく――守尋もりひろくんや津朝つあさくん……クラスの皆の大半がそこには立っております。
 うんうん、やっぱりみんな無事で嬉しいなぁ……うふふふふ。

「心配したって言えばいいじゃないの。
 やっぱり素直じゃないのよね、堅砂かたすなは」
「――――言わなくても分かるだろ、そんな事は」
「あ、地味にデレてるぞコイツ」
「八重垣さんの優しさが頑なな堅砂の心を溶かしたんだろうなぁ」
「い、いやいやいや、私は優しくないと思うよ、うん」
「……君はもう少し自分を客観視できるようになるべき――いや、もういい加減なってくれ、マジで」
「何故そんなに呆れ果てた顔をっ?!」
「――ともあれ、そろそろ立てるんじゃないのか?
 あのドラゴンを倒した事でおそらく俺達はレベルアップできるだろうし、その影響で少なからず体力は戻ってくるはずだ」
「あ……うん、確かに、楽になってきたかな。
 皆様、心配おかけしました」

 なにせ相手はあのとんでもない――レベル300の屍赤竜リボーン・レッドドラゴン
 今回の戦いで私達は大きくマナを消耗し――その分取り込んでいるはず。

 そうしてマナの循環が行われた事で、私達の身体はマナの貯蔵量の限界を越えたと思われるので、それに対応できるよう身体も作り変えられるだろう。
 マナを取り込むというレベルアップの工程上、その際私達はゲームのようにレベルアップごとに全快とはいかないけれど、それなりに回復するんだよね。

 そのお陰か、体力気力魔力全部使い切っていた私も、どうにか動く事が出来るまでに回復しているみたい。
 レベルアップの数値は――気になるけど後で確認しよう。
 ひとまず私は長らく開いたままだった【ステータス】の表示を閉じた。

 基本的に常在戦場な心意気でないと駄目だろうけど、今はもうこの辺り一帯の魔物は倒しきってるはずなので大丈夫のはず。
 開きっぱなしの情報過多状態から解放されて、思わず安堵の息を吐きましたとさ。 

 ――そう言えば、あの時……屍赤竜リボーン・レッドドラゴンと互いにあと一歩の状況になっていた際、先程同様に使? 
 所謂火事場の馬鹿力が発揮されていた、のだろうか。
 あの時屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは何かを言っていたような気もするんだけど……。

 色々考えながら立ち上がる――すると。

「いやぁ! やったな!! 八重垣さん、お疲れ――!」
「ホントにね、紫苑お疲れ様」
「大変だったな、八重垣」
「色々気になる所はあるけど、よくもまぁ大暴れできたもんだよ、八重垣さんは」
「すごかったよ、八重垣さん――!」
「このこの――! 心配かけてからに」

 テンションが上がった守尋くん、伊馬さん、津朝くん、志基しきくん、網家あみいえさん――そしてクラスの皆に労いの言葉をもらいながら、肩を叩かれたり手を握ってぶんぶん振られたりで頬をぐりぐりされたりで私はもみくちゃ状態となった。
 いや、その、すごく嬉しいんですが!
 基本陰キャ――寄り、うん、意識改善しようとは思っておりますが、陰キャ寄りの私的に、陽キャ的なノリは乗っかるのが難しいと言いますか。
 わたくし、絶賛リアクションに困っております。

「あ、いや、その、ありがと、でもこういう時ってどんな顔したらいいか――うひ、うひふへほ……!?」
「いや、どんなリアクションなんだそれは」
「――――しぃおぉぉぉぉぉぉんっ!?」
「ら、ラルっ!? ひょわぁぁぁぁっ!?」

 そうして戸惑っていた私に、一体どうやったのか周囲の人ごみを意に介さず一気にラルが飛び込んでくる&同時に抱き着き頬擦りしてくる。
 うーむ、なんだか久しぶり。
 
「よくぞ、よくぞやってのけました――!! 何度乱入しようかと、手を貸そうかと思った事かっ!!」

 ラルが手を出せば領主様からの依頼を達成した事にはならない――であるがゆえに、ラルは手を出さなかった。出さないでいてくれたのです。

 危険な状況を見守るしかない……想像する事しかできないけれど、それは相当に辛い事だったよね。
 でも、私達を信じてラルは手出しを堪えてくれたのだ――それを改めて理解して、嬉しさと一緒に感謝の気持ちが私の中で湧き出てくる。

 ……なので、すごくラルの望むままに、されたいようにされております。
 いや、その、こうされる事は、なんというか求められてる感覚がすごく嬉しいんだけど――周囲のなんともいえない視線がですね、うん。
 さっきまでのテンションの高さはどこへやら、こちらを眺める皆が若干遠く感じます。
 あと、私は良いんだけどラルの立場、威厳的に良いのかなぁ、と心配です。

「う、うん、我慢してくれてありがとう、ラル。お陰で私達だけでなんとか出来たから。でも、えっと――ひうぅっ!?」
「ああ、紫苑っ! ホントに生きていてくれてなにより――! 本当に本当によかったっ!!」

 そうして私の心配はラルの熱意の前に呑み込まれ。
 私は皆からのあたたかな視線を受けながら、暫くの間ラルの思うがまま抱擁される事となりました――。

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