陰キャでも出来る!異世界召喚冒険譚!

渡士愉雨

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91 決戦の日――ゼロでないのなら何とかしてみせます!……多分

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 私・八重垣やえがき紫苑しおんやクラスメート達がそれぞれに身構えていく中。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは全身に力を漲らせ、翼を広げて咆哮した。
 うう、吠えただけでビリビリくるなぁ……相手のヤバさがこれ以上なく伝わってきますね、ええ。

『我を討ち滅ぼして見せよ――新世界の種たる外来種どもよ……!!』
「そこまで言ったからには、容赦せずにやらせてもらう――!」

 そう言って真っ先に動いたのは堅砂かたすなはじめくん。
 杖を地面に突き立てて、静かに呪文を発動させる。

領沼陣・迅ラド・ワンス・ルード・スード

 はじめくんがスカード師匠から譲り受けた杖は、
 所持者の魔力全般の基礎値、自然への干渉力を大幅にアップする代物だ。

 永近くんや様臣くんと戦った際の沼の複雑な魔術や魔物の群れに対しての大魔術を短時間で臨機応変に行使出来たのは、この杖の補助による所が大きいとの事です。
 杖がなくても使用は出来るけど、その場合より術の発動に時間が掛かり、状況に応じた術式は難しくなるんだって。

 その杖の力を借りて発動されるのは、対象の周辺の地面を泥化・沼化させる魔術。
 ――それを高速で実行させる術式も追加させている様子。

 ふふふ、はじめくんから簡単な追加術式を学んでいるので、それ位は分かるようになりましたとも。

 そうして発動した魔術により屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの身体があっという間に地面に沈んでいく。
 ドラゴンの重量も相当なものなので、その速度は人間が沈むよりも遥かに速いなぁ。 
 
「おおー! 早速姑息な魔術発動だな」
「流石堅砂汚い」
「なんとでも言えばいい。勝つ事こそが最重要だからな」

 改めて強化バフの魔法や魔術を準備中の守尋もりひろたくみくんや津朝つあさわたるくんの声に、憮然と反論する一くん。
 勝つ事が最重要なのはそのとおりだと思うので、はじめくんの取る戦法は私的に学ばせてもらう事が多いです。

 ……私個人は、ついつい真っ当な手段がないかを考え過ぎちゃうんだけどね。
 正義の味方は憧れだけど、拘り過ぎるのは良くないとは思うんですがががが。
 
 ともあれ、そうして身体の半分が沈んでいく屍赤竜リボーン・レッドドラゴンだったんだけど。

『だが、その強い言葉の割には半端だな』

 そう言って翼をはためかせた直後、その巨体からは想像出来ない速度で浮上、あっさり沼から脱出した。
 脱出しようとすればするほど、そのための力が強ければ強いほどに、脱出を困難にさせる魔術のはずなんだけど――
 やっぱり竜と人の違いなのか、あるいは生物としての格の差なのか……多分両方なんだろうなぁ。

『この程度で我を縛ろうなどと……片腹痛い』

 ――でもね。
 私はともかく、はじめくんは一筋縄じゃないかないですよー!

「縛るのが目的じゃないんでな。地結スア・コート

 そうして飛び立った屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの全身から滴る泥――そこに地面から魔術で操作した泥を連結。
 屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの上昇をほんの一瞬封じる。
 
「――氷水結・迅リーザ・ウータ・タイ・スード

 さらにその隙を狙い撃って空気中の水分からの直接凍結魔術が実行された。
 極寒の地に放たれた水のように屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの全身があっという間に凍り付く。

 先程は阿久夜あくやさんへの使用だったので弱めだったから効果が出なかったけど、今度は――

『縛っているではないか、嘘吐きめ』

 と思っていたのだが屍赤竜リボーン・レッドドラゴンはそうして全身を凍結させる氷を身体に力を入れただけで事も無げに弾き飛ばす。
 うーむ、流石ドラゴンすごいなぁ。

 ――でも、完全に取り払われたわけではなく、身体にはまだいくつもの氷塊がこびりついております。

 そして、それこそが一くんの狙いだったんですよねー!
 
「さっきも言ったが、縛るのが目的じゃあない――解水幅メト・ウータ・ブート
「――多重豪雷ルーマ・レグ・ラグトッ!」

 こびり付いた氷を水へと変換しつつその量を増幅させ、竜の全身を水で濡らした後。
 長時間の魔術言語構築で威力を高めた、志基しきやなぎくんの雷撃魔術がしたたかに屍赤竜リボーン・レッドドラゴンを打ち付けた。
 それによる響き渡る轟音は空気はおろか、地面さえも揺らすかのようで雷撃の威力の凄さが窺い知れるというものだった。

 これまでの一連の流れはこの雷撃魔術に繋げる為にあったのです。

 そうするに至った理由は、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの魔力属性だ。

 魔の力を操る者の大半には得意とする属性があって、その属性に類する魔術や魔法は扱い易く、かつ威力も向上する。
 だが、これには逆の側面――すなわち苦手とする属性も存在する、という事でもあるんだよね。

 屍赤竜リボーン・レッドドラゴン赤竜レッドドラゴン……炎を使うドラゴンなので火属性なのかと思いがちだろう。
 かく言う私も詳細を確認するまではそう思っておりましたとも。

 だけど、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの魔力属性は――土でした。
 これは一度死んで死者として活動しているゆえの属性変更みたいなんだよね、うん。

 そして土属性に対して有効なのは――木属性。
 どうやら私達の世界での五行……この場合五行相克がこの世界においても当て嵌まっているらしいのです。

 五行、こういう属性での有利不利について漫画やアニメで有名な属性の関係性。
 今回は木克土――木が土に克つが適合している。

 五行思想において雷は木気に該当しているので、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの苦手とする属性の攻撃魔術としてうってつけだった、という訳です。

 そこで属性が特に噛み合い、強力な雷撃魔術を所持していた志基くんの攻撃を当てるためにここまでの流れがあったのです。
 より攻撃を強力にする為に、雷を巨大な全身に伝導させる水で身体を濡らした上で。

 全身を水で濡らすだけならもっと楽な手段は幾つもあったんだけど、それをすると狙いが看破される恐れがあったため、今回は回りくどい手段を使ったそうだ。
 
 そうして繰り出した、苦手属性での攻撃魔術だったんだけど……。

『――なるほど。確かに誤認していた。
 我を縛る為ではなく、全ては理に適った攻撃の為か。しかし……』

 電光が収まった後、現れた屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは全身から煙を立ち昇らせてこそいた。
 だけど、ダメージらしいダメージを負った様子はない。

『圧倒的な力の差のある相手では属性の有利不利など、蟻の一噛み程度の違いに過ぎん』

 実際私の【ステータス】で確認できる屍赤竜リボーン・レッドドラゴンのHPは減ってこそいたが極僅か。
 全体の一割どころか一分以下のダメージ量である。

 ……だけど。

「だが、ダメージは負っている」

 空に浮かんだままの屍赤竜リボーン・レッドドラゴンを指さして、はじめくんはいつもの冷静さで言い切った。

『なに?』
「正直攻撃が全く通用しなかったらどうしようかと思っていたが……
 微量でもダメージを与えられるのなら勝てる見込みは十二分にある」

 そう、そのとおり。

 レベル300の屍赤竜リボーン・レッドドラゴン――流石にその能力値は強力、なんてものじゃなく、唯々凄まじい。

 だけど、ほんの一部、その高いレベルに見合わない数値の箇所があった。

 それは、防御力。
 物理的な防御、魔力的な防御、そのどちらもが他のステータスには大きく見劣りするものだった。
 
 それは元々阿久夜あくやさんが操っていた魔物達に共通していたもの。
 彼らは主に攻撃面では増強されていたが、元々が死体であったためか、防御についてはむしろ下がっている傾向にあった。

 それはこの屍赤竜リボーン・レッドドラゴンも例外ではなかった。

「アンタに俺達の世界のことわざを一つ教えてやろう。
 塵も積もれば山となる――塵のような攻撃でも積み重なれば山のようなアンタでも倒し得るって事だ。
 ――フーグ
 
 そうして交わしていた言葉の最後で、はじめくんは準備していた霧の魔術を発動させた。
 即座に辺り一帯が霧で覆われて、周囲の確認さえままならなくなる。

『小賢しい――!
 ならばこの塵を消し飛ばせばいいだけの事――この霧のようにな』

 言いながら屍赤竜リボーン・レッドドラゴンは全身から熱気を放つ。
 魔力により薄く赤く輝く身体からの熱は、魔力による霧を簡単に霧散させていった。

『それに視界を多少奪われた所で、我が眼が汝らを捉えるのに支障はない――!』

 直後、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンはその巨体から想像もつかない速度で飛翔。
 文字どおりあっという間に私との距離を詰め、刹那も経たずに私の眼前をその巨大な手が迫っていた。
 直撃すれば一瞬で肉塊となるその一撃もまた電光石火で、躱すのは不可能に近い。

 ――だけど!

『伝達!』

 それよりも速く、屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの動きがはじめくんを通じて伝えられる。

「にょ、わあああああああ!!?」

 だから私は、叩きつけられる屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの巨大な手を、爪を、跳躍して回避。
 そのまま、その手の上を一足飛びに駆け抜ける。

『――なに?!』
「な、ななな、なら! 私達は貴方が捉えた先を行くだけですっ――!」

 己を、皆を鼓舞するべくそう宣言した私は、握り締めたヴァレドリオンに魔力の刃を形成。
 全力を持って屍赤竜リボーン・レッドドラゴンの頭へと叩きつけた――!
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