陰キャでも出来る!異世界召喚冒険譚!

渡士愉雨

文字の大きさ
上 下
90 / 145

87 決戦の日――赤竜、再び……いや『再び』されても困るんですががががが

しおりを挟む
「……ふ、ふふふふふふふふ!!! ―――見つけましたよ……!! !!!」
「え……?」

 私・八重垣やえがき紫苑しおんは、困惑の声を上げる。
 対立する事になったクラスメート達……その最後の一人である阿久夜あくやみおさんを心ならずも追い詰めていた……そんな時だった。

 阿久夜さんは突然笑い出したかと思うと俯き加減だった顔を上げた。

 その顔は――ひょええええ!?
 何と言いますか、その、凄絶としか言いようのない笑みが浮かんでいるんですががががが。

「わたくしの全身全霊を懸けて――――来なさい、いえ、来い! ドラゴン!!」

 そう叫んだ直後、何かが――見えない何かが阿久夜さんから解き放たれた。
 それは私達この世界出身でない人間だけが感知できるものだったようで、
 私達は何とも言えない感覚を受けて、思わず同時に顔を顰めてたんだけど
 ターグさんをはじめとする党団とうだん『酔い明けの日々』の皆さんはなんともなく、
 私達の様子に戸惑っておりました。

 いや、そんな事よりもドラゴンはもう倒したはずなんだけど――私でだけでなく誰もがそう思っていた。
 今、この瞬間までは。

「ちょ、だれか抑えるの手伝ってくれー!?」

 いきなりそう叫んだのは結界の中にいた夜汰やたけいくん。
 彼が懸命に抑え込もうとしていたその何かとは……。

「――し、神域結晶球!?」

 驚いて、思わず声に出して叫みましたとも。
 ドラゴンを倒した後、その内部から回収していた結界領域の要にして国宝級に重要な物。
 それがまるで意思を持っているかのように赤黒い光を放ちながら飛び立とうとしている……ようだった。

 夜汰くんはそれをなんとか抑えようとしていたけれど……。

「うわぁっ!?」

 想像以上の力だったのか、手伝って抑え込もうしていた周囲の人さえ弾き飛ばして、結界の外へと飛び出した。
 直後、神域結晶球が星のように、太陽のように強い光を一瞬放つ。

「なんだ――?! 一体何が起こってる……?」

 光が収まっていく中、珍しく困惑を露にする堅砂かたすなはじめくんに、いつの間にか私達から距離を取っていた阿久夜さんは口が裂けんばかりの笑みを浮かべる。

「分かるはず、ないじゃないですか――このわたくしの怒りも衝動も、唯一無二の私だけのモノなんですから――!!」

 その叫びめいた言葉と共に、少し離れた所から大きな音が響いた。
 そちらに何があったのか、阿久夜さんの言葉もあって私にはすぐに思い浮かんだ。

「ま、まま、まさか、ドラゴンの遺体……!?」

 その想像が正しかった事はすぐに分かった。
 何故なら音のした方向からドラゴンの身体――その肉片が繋ぎ合わさりながらこちらへと飛翔してきたからだ。
 そしてその行先は……神域結晶球。

 神域結晶球は赤黒い光を放っていたが、その奥で更に鼓動するように赤い光が瞬いていた。
 それが瞬く度に肉片が次々と繋ぎ合わさっていく……少しずつ元の姿に、ドラゴンの形に戻ろうとしていた。
 そして、いつしかその中心には心臓であるかのように神域結晶球が脈打ちながら据えられていく……!

「ど、どうなってんだよ!? あのドラゴンはさっき倒したはずじゃ――!」

 大きく動揺しながらの守尋もりひろくんのもっともな疑問……それについて私は、これまでの様々な情報を組み合わせる事で答を見つける事に成功していた。

「……う、うん、多分一人分は倒した――でも、もう一人があのドラゴンの中にいたんだよ……!!」
「そういう、ことか……!」

 私のその言葉だけで堅砂くんは全てを理解したようだった。

「あれは、まだ倒してないもう一人か……!!」

 そう。
 あのドラゴンは、元々赤竜王・エグザ様の転生先だった都合で、
 阿久夜さんの【かの豊穣神のようにチャーム・ドミネイト】は死者を操る――死んだドラゴンは二人だったゆえに、もう一人分操る余地があったのだ。

「つまりさっき倒したのはそのどちらかだけで、もう一人を阿久夜さんが改めて操ろうしてるってことか……!」

 二人の存在については皆に話していたので守尋くんも状況をすぐさま理解したようだ。

「じゃあなんで神域結晶球まで動いてるのよ……?!」

 結界を維持したままの伊馬いま廣音ひろねさんが叫ぶ。
 それに答えたのは、結界の中でずっと状況を見守っていたレートヴァ教・聖導師長ラルエルことラルだった。

「おそらく阿久夜様の『贈り物』で操ろうとしているもう一人と、神域結晶球が強く結びついていたからです」

 ラルの表情は酷く苦しげであり鋭くもあり――怒りと悲しみが入り混じっていた。

「この結界領域を維持する為の赤竜王様と神域結晶球の結びつきが、よもやこのような形で悪用されるとは――!」
「というかずるくない?! 融合してたんなら一人分でしょ?!」

 伊馬さんの怒りの籠った叫びはごもっともだ。
 だけど、そうなっていない事情を私は知っている。

「そ、その時はまだ融合が完全じゃなかった……だから二人分なんだよ……ズルいとは私もすごく思うけど、うん」

 それでも本来ならば発動はしなかったはずだ。
 こうなっているのは、おそらく阿久夜さんの強烈な呼びかけ――それが起きるはずのないものを起こしてしまったから、なんじゃないかと思う。
 先程の阿久夜さんの鬼気迫る様子は、そうなっても不思議ではない――そう納得出来るだけの気迫があったしね。

「――と、というか、ズルいのはそれだけじゃないみたいなんですけどぉ……!?」
「ああ、身体が全く動かない――おそらく先程の強い光の所為だろう」

 おそらくはじめくんの言葉どおりだと思う。
 さっきから私は全力で融合妨害か阿久夜さんの拘束かを行おうとしているんだけど、まるで動けなかった。
 どういう訳か、いつぞやのゴブリン戦で使用した魔力による強引な身体駆動もままならない。

「【ステータス】ではどうなってる?」
「反転結界による一時的な麻痺効果って表示されてる……! そして解除まで後30秒……!!」
「なるほど――アイツの復活までの時間って訳か」

 一《はじめ》くんの言葉に、皆が頭上で復元していくドラゴンへと視線を送る。
 うぐぐ、口惜しいんだけど、今の私達にはそれしか出来る事がないなぁ……!

「ふふふふ――! いい顔ですよ、貴方達!! 
 さっきまでの調子は何処へ行ったんですか? あはははは!」

 そんな私達を嘲笑う阿久夜さん――そのテンションは、先程までの追い詰められていた状況からの反動なんだろうか?
 表情や感情が強過ぎるような気がして――なんというか、見ていて心配になる。

「あ、阿久夜さん、えーと、その……なんと言ったらいいか……だ、大丈夫なの……?!
 お、お酒でも飲んだの?」
「――この期に及んで何を頓珍漢な事を……! 貴方がすべきなのは自分達の心配でしょうに――!!」

 そんな言葉と共に凄い怖い表情で睨まれる私。
 いや、飲んでないのは分かってたんだけど、そうでもないと説明が難しいテンションだったんですYO!?
 
 でも、同時に……それだけ鬼気迫る様子がどこか辛そうにも見えてしまうのだ。

 ……そう、あの夜の、私を殺しかけた赤竜さんのように。
 もしかしたら『贈り物』を掛けた影響で、阿久夜さんもドラゴン側の影響を受けている……?

 その疑問を声に出そうとした瞬間だった――麻痺効果が解除されたのは。
 
氷結弾連リーザ・タイ……!」

 すぐさまはじめくんが魔術を阿久夜さんへと解き放つ。
 私や守尋くん、津朝つあさくんも彼女を拘束すべく動こうとするが――出来なかった。

 放った魔術は呆気なく、砕け散る。
 そして動き出そうとした私達は、目の前の威容に、威厳に、圧倒的存在感に足を踏み出せなかった。

 そこには、最早腐ってすらいない、《《完全な形の赤竜レッドドラゴン》》が降り立っていた。

「――」

 喉がひりつくような、乾くような、悲鳴すら上げられない感覚。
 それが全身を覆っているかのような存在だ。
 
 うわぁ……うわぁ……これ絶対ヤバい。
 
 私の視界に展開された屍赤竜リボーン・レッドドラゴンのステータス、そのレベルは――――

 私が知る最高レベルの存在、スカード師匠すら大きく上回る、規格外の存在でございました……いや、これどうしましょう――?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです

砂糖流
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。 それはある人と話すことだ。 「おはよう、優翔くん」 「おはよう、涼香さん」 「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」 「昨日ちょっと寝れなくてさ」 「何かあったら私に相談してね?」 「うん、絶対する」 この時間がずっと続けばいいと思った。 だけどそれが続くことはなかった。 ある日、学校の行き道で彼女を見つける。 見ていると横からトラックが走ってくる。 俺はそれを見た瞬間に走り出した。 大切な人を守れるなら後悔などない。 神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

処理中です...