陰キャでも出来る!異世界召喚冒険譚!

渡士愉雨

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57 たまには女子らしい相談話――うん、多分そう(不安)

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「えと――やっぱり、堅砂くんと最近仲が良いから、なのかな」

 部屋に入ってもらって、レーラちゃんを起こさないよう、少し離れた所で木製の椅子に座り合い向き合って、私達は話していた。
 まずは私・八重垣やえがき紫苑しおんの話から、という事になり、改めて簡単に状況を説明すると酒高さけだかハルさんはそう言った。

「た、多分そうだと思う――確証はないんだけど」
「今日名前で呼んでたしね、1回だけだけど」
「……うう、やっぱり、気づく人は気づくんだね――」

 気をつけてたつもりだったんだけど、ポロッと『はじめくん』と口にしてしまっていたのは自覚しておりました。
 今日は正直色々な事があり過ぎて、自分で思っている以上に気分が高揚しているのかもしれないなぁ……一回死んじゃうって普通はない体験だもんね。

「えと、その、実際どうなのかな? 堅砂くんと付き合ってたり――」
「ななな、ないないないないない、ありません」

 私は全力で手を横に振って否定する。
 
「わ、わわわ、私はともかく、そんなのはじめくんに――失礼だからね、うん」

 普通に名前呼びをしてしまったが、今更だし酒高さんならいいだろうと私はそのまま言っちゃいました。
 酒高さんはそういうことを吹聴する人じゃないのは知っておりますから、ええ。

「私はともかく? 八重垣さんは付き合ってもいいって思ってるんだ」
「あ、いや、その、えと、その、言葉の綾でございます」

 なんとなく恥ずかしくなって、私は手で顔を隠す。
 そんな私に、酒高さんは珍しく意地悪げな笑みを向けた。

「えー? ホントに?」
「ほ、ホントです。
 ――わ、私はあんまり男の子が喜ぶような女子じゃないから、付き合わせるのは申し訳ないですし」
 
 偏見かもしれないけど、同世代の男子は、私の趣味であるヒーロー系の創作フィクションから一歩引いてる人が多い気がする。
 勿論好きな人はちゃんといるんだけど主流の流行りじゃないと思うし。
 さらに言えば、どうせ語るのなら楽しく話せる相手が良いに決まってるよねぇ。

 だから私のように暗めな女子だと敬遠されるだろう――そう思って言ったんだけど、何故か酒高さんは私の上から下までに視線を送った上で、何とも言えない表情を浮かべていた。

「う、うーん、イタズラした人達、多分八重垣さんのそういう所も引っかかるんだろうなぁ――」
「???」
「――あー、えっと。じゃあ、やっぱり2人付き合ってるわけじゃないんだ」
「う、うん。ただ、このマズい状況を良くする為に互いに協力し合おうって約束しただけだから。
 名前呼びにつきまして――まぁ、その、事情がありまして。
 でも、悪戯した人達が思ってるような理由じゃないのは間違いないから」

 約束については伏せているわけではないので躊躇わずに話した。
 酒高さんはそういう事を吹聴する人じゃないしね、うん(二回目)。

「そうなんだ――あれ、ってことは堅砂くんは名前の事了解してるんだよね?」
「うん。そういうのってやっぱりちゃんとしっかりバッチリ許可貰っとかないと」
「普通は名前呼びするのってそこまで硬い感じじゃないと思うんだけど――でも、そっか……が……なるほどぉ」

 そう呟くと酒高さんはなんだか楽しそうな笑みを零し――途中でハッとした様子で咳払いした。

「――ごほん。
 あー、えと、それで、どうするの? 誰がやったかを探してみる?
 もしよかったら手伝うけど――」
「あ、ありがとう。でも……その、ご、ごめんね。
 誰かを探すのは、いいかなって思ってる。
 今はただでさえドタバタな状況だから――放置しようとは思わないけど、ガス抜きになるんならそれもいいかなって」
「八重垣さんはそれでいいの?」

 ほんの少し強めの口調で尋ねる酒高さん。
 怒ってくれている――心配してくれている事に心の中で感謝しながら、私は言った。

「被害が私だけならそれでいいかなって思う。
 で、ででで、でも、他の誰か――レーラちゃんやこの部屋の両隣りの酒高さんや両里りょうざとさんを巻き込むんなら断固とした対応を取るよ」
「うーん、なんでその憤りとか行動力を自分には発揮しないかなぁ――」
「な、なんというか、こういう時、私自分の事はあんまり気にならないんだ。
 こんなだから、この間もはじめくんに怒られちゃったんだけど」
「……なるほど。ふふ」
「酒高さん?」

 私の言葉で何かに納得したらしい酒高さんは、小さく苦笑して見せた。

「えと、どうかした?」
「ううん、なんでもない。
 ただ――私が話を聴くって言っておいてなんだけど、この事は堅砂くんに相談するのが一番いいと思う」
「う、うーん、自分を好ましく思ってる女子のこういう行動を本人に話していいものかなぁ」
「それこそ、あの堅砂くんだから、冷静にかつ真剣に対応してくれるんじゃないかな」
「……それは確かに」

 もし私達の推測が当たっていて、今回の事がはじめくんに好意を向けている女子によるものなら――彼はそういう事を一番怒りを覚えるんじゃないかな。
 基本的に我関せずの彼だからこそ、自分を理由にして他の人に迷惑をかける事は許さないような、そんな気がした。 

 ただ、それはそれとして。

「じゃあ、いよいよとなったらちゃんと堅砂くんに相談してね?」

 酒高さんがなんというか、どことなく、小さな子の初めてのお使いを見守っているご両親的な視線をこちらに向けているような気がががが。
 いや、まぁ確かに良い解決策の一つも浮かばなかった私なので、見られてしまうのは当然ではある、のかもしれないですね、ええ。

 ただ、それ一くんへの相談が一番良いだろう事、そして酒高さんが私を心配してくれているのは思いっきり伝わっております。
 うう、私なんぞの事をこんなに心配してくれるなんて……酒高さん良い人過ぎです、ええ。

 だから私はコクコクと素直に頷いてから言った。

「……うん、そ、そうさせてもらおうかな。ありがとう、酒高さん」
「どういたしまして」
「じゃ、じゃあ、次は酒高さんの番だね。訊きたい事って何かな」

 そう問い掛けると、酒高さんは先程までの明るさから、ほんの少し光量を落としたような調子でこう言った。

「さっきの皆での話し合いの中で――八重垣さんはどうして、私の事を話さなかったの?
 私が、皆の必要としてる『贈り物』を持ってるんだって」
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