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53 してはいけないこと――今のままでいられないなら、がんばらねば
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「ぐあぁぁっ! ラルエル様っ! アンタ自分が何してるのかわかってるのかっ!!」
私・八重垣紫苑と堅砂くん――こほん、一くんの会話が一段落ついた瞬間。
コーソムさ―――コーソム―――コーソムさんが、ラルに地面に完全に抑え込まれた状態で叫んでおりました。
相当に痛いらしく、必死の形相です――いや、うん、あれは痛いだろうね。
だけど。
「―――それはこちらの台詞です、コーソム」
そんな彼よりも、ラルの方がずっとずっと悲痛な表情をしていた。
「貴方はっ! 貴方は! 自分が何をしたのか分かってるんですか?!
よりにもよって神聖な神殿で、神官を昏倒させた上、蘇生の間で生き返ったばかりの女性を襲ったんですよ――?!
それがどれほど罰当たりで愚かしく、何より人の道から外れた事だと分かっているんですか!?」
うん、言葉にして並べると相当にダメな行動だよね。
この神殿を預かってるラルが激怒するのも無理はない。
だけど、ラルの表情は怒りよりも悲しみに傾いてる気がする。
「お、襲ってない――!? ただ僕は、アイツを屈――試すつもりで!」
「未遂かどうか本気かどうかなど、今は問うていません!
現実に貴方が行った事の罪深さを語っているのです……!!」
「ぼ、僕は、領主の息子でっ――」
「領主の息子だから許される――?! そんなわけないでしょう!
領主の息子だからこそやってはいけない、許されない行為を、貴方はやってしまったんですよ!
貴方は裁かれます……そして、領主たるお父様の顔に公的な形で泥を塗る――そんな事も分からないで行動したんですか、貴方はっ!!?」
「――あ、あぁぁっ」
ラルに強く厳しく明確に指摘された事で、コーソムさんは自分の行動とその『結果』を直視したようだった。
おそらく彼は、あくまでこれまでの行動の延長線上で軽く考えていたんじゃないかな。
領主の息子の悪ふざけ、ぐらいで。
それゆえに、自分の行動は批判されても裁かれはしないと高をくくっていたんだと思う。
そして、それだけ必死だったんだろう――お父様との関係を繋ぐ事に。
だけど、違う。
どんな理由や思惑があれど、彼がやってきた事は領主様の息子としてするべきじゃないよね。
今日の事を抜きにしても、素行の悪さや領主の息子としての強権使用、それらは領主の威厳を失墜させる事に他ならないだろうし。
それをこれまでなあなあで済ませてきたがゆえに、決定的な一線を彼は間違えてしまったんだと思う。
「……何故ここに割く神官が少ないのだと思いますか?
蘇生する人々への配慮でもありますが、そもそもここで起こる事は全て水晶で記録されるがゆえです。
良からぬ行動を取ったものは全て筒抜けになることそのものが愚かな行為を抑止できるからです。
――貴方はいくらでも誤魔化せるとでも思っていたのかもしれませんが、私がこうして知った以上、絶対にそれはさせません」
「ぼ、僕はどうなるんだ――?」
「先程も言ったとおり、裁かれます。
公衆の面前で罪を読み上げられますし、これまでの行動についても言及されると思われます」
静かに告げられて、コーソムさんの顔が青白く染め上げられていく。
そんな彼に、ラルはひどく悲しそうに呟いた。
「こうなったのは、私達の責任でもあります。
あの二人の子供だからと、心の何処かで叱る事、悲しませる事に躊躇いを覚えていた結果がこれです――。
だから、せめて私は共に――」
「あの、いいかな、ラル」
ラルのそこから先の言葉を察して、私は声を上げた。
昔何があったのか、私には分からない。
だけど、ラルの様子から、彼が――コーソムさんがこうなるに至る責任をラルが感じているのは間違いないようだった。
そして――それゆえに一緒に責任を取るつもりでいるみたい。
でも、ラルにそれをさせるのは、ちょっとね。
単純に彼の行動の責任は彼自身にあり、ラルに――悪く言えば『巻き添え』になってほしくないというのもあるけれど。
私自身が彼に『今のままでいいのか?』と問い掛けたばかりだったから、という理由も小さくはなかった。
だから私は――こう尋ねていた。
「被害者が、裁きを望んでいない場合、この世界ではどうなるのかな」
と。
それから、時間は少し流れて。
「――よかった」
私は、ベッドに眠っている彼女――レーラちゃんの無事を確認して安堵の息を零した。
私が一度死んでから約半日が経っていた。
死んで、身体が神殿で再構成されて蘇生するまでに大体30分程だったんだって。
蘇生までの時間には個人差があって、なんでも死への耐性や精神力が高いものほど蘇生までの時間を短縮できるそうだ。
レートヴァ教聖導師長ラルエルこと、ラル――少し年上だと本人は語っていたがファージ様との話しぶりから察するに、私の想像より少し……いややめておこう――がそう語っていた。
ちなみに、私の蘇生は相当に早かったらしく、多くの蘇生を見てきたラルが知る中でも5本の指に入るらしいですよ、ええ。
『紫苑は、やっぱり強い子ね。あぁぁ、そういうところも素敵っ!』
前半は穏やかに、後半は興奮気味に語って抱き着いてきたラルを思い出す。
死んだ事で心配をかけてしまっていて、改めて話した際は涙を浮かべてくれた事も。
――私なんかにはもったいないなぁと思いながらも、すごく嬉しかった。
しかし私が(精神的に)強いかどうかは正直怪しいんじゃないですかね。
多分、何か死への抵抗値が高かったとか、陰キャゆえのネガティブ思考が少なからずいい方向に作用したとかそういう偶然だろうね。
なんせ精神的にはある意味毎日ギリギリだからNE☆
――いや、自慢できることじゃないんですが……やはり私に存在価値はないのでは?(定期的ネガティブ)
とは言え、蘇生が早かったのはありがたかった。
ここで時間はあまり無駄に出来ない――なんせやるべき事は山のようにあるしねぇ。
そうして、神殿での様々な出来事を終えて、外で待っていた守尋くん達と合流したのだが、これまた大いに心配の言葉を掛けてもらったんだよね。
特に守尋くんは尋常じゃない位慌てた様子で、こちらが申し訳なかった。
人が良い彼らの中で特に人が良い彼なので多分しんがりを引き受けさせてしまった、と思っているのだろう。
なので心配してくれた事への謝罪と感謝を伝えつつ、自分が望んだ事だから、と気に病まないでほしい旨もどうにか説明した。
――彼の幼馴染の伊馬さんの視線が少し怖いというか痛かったですね、はい。
ともあれ、そうして皆揃った私達は使わせてもらっている寮へと帰った訳なんだけど――そこで私は、レーラちゃんが体調を崩していた事を聴いた。
実の所、朝頃から調子が悪かったとの事だったが、今日は大事な日だからとレーラちゃんが伝えないでほしいと懇願していたらしい。
それを面倒を見てくれていた酒高《さけだか》ハルさんから聴いて、私は自分が思った以上にいっぱいいっぱいになっていたのだと反省した。
「そういう君だからこそ黙っていたんだろう。
一応言っておくが、必要以上に謝ったりしないようにな」
「うん、その方がいいよ。
レーラちゃん、貴方の事大好きだから、悲しい顔は逆に悲しませると思うよ」
私の表情から思い詰めていると感じたのか、
一《はじめ》くんと酒高さんに優しく釘を刺してもらった。
つくづく私は周囲に、素敵な縁に恵まれていると感じた。
うう、私なんかには勿体なさ過ぎる……でも、正直めちゃ嬉しいです、ええ。
私もその素敵さを周囲に広げられる一助になりたいなぁ。
もっとがんばらねば、という決意を込めながらレーラちゃんの頭を撫でる。
熱はもうないようだし、苦しげな様子もない――ひとまず安心。
ずっと看てくれていた酒高さんにただただ感謝です。
そして良い子過ぎるレーラちゃんにも……今度お詫びになんでも言う事聞いてあげたいなぁ――うふふふふ。
出来ればこのまま目が覚めるまで一緒にいたいんだけど、皆との話し合いをしなくちゃなんだよね。
なので、以前街を一緒に歩いていた時に購入したぬいぐるみを傍に置いておく。
その下に、この世界の文字で『今話し合いをしてるから寂しくなったら来てね』と書いたメモも添えて。
――レーラちゃんは記憶を喪失こそしているが、読み書きはしっかりできるみたい。
その辺りの情報も含めてレートヴァ教の方々に家族の捜索を頼んでいるが難航しているようだった。
正直厳しい状況だとは分かってるけど……見つかってほしいな、うん。
そうしてレーラちゃんの無事をギリギリまで確認し、しっかり布団を掛けた上で、私は皆が集まれる食堂へと足を向けたのでした。
さて、これからどうしたものやら……私は私にできることをがんばろう、うん。
私・八重垣紫苑と堅砂くん――こほん、一くんの会話が一段落ついた瞬間。
コーソムさ―――コーソム―――コーソムさんが、ラルに地面に完全に抑え込まれた状態で叫んでおりました。
相当に痛いらしく、必死の形相です――いや、うん、あれは痛いだろうね。
だけど。
「―――それはこちらの台詞です、コーソム」
そんな彼よりも、ラルの方がずっとずっと悲痛な表情をしていた。
「貴方はっ! 貴方は! 自分が何をしたのか分かってるんですか?!
よりにもよって神聖な神殿で、神官を昏倒させた上、蘇生の間で生き返ったばかりの女性を襲ったんですよ――?!
それがどれほど罰当たりで愚かしく、何より人の道から外れた事だと分かっているんですか!?」
うん、言葉にして並べると相当にダメな行動だよね。
この神殿を預かってるラルが激怒するのも無理はない。
だけど、ラルの表情は怒りよりも悲しみに傾いてる気がする。
「お、襲ってない――!? ただ僕は、アイツを屈――試すつもりで!」
「未遂かどうか本気かどうかなど、今は問うていません!
現実に貴方が行った事の罪深さを語っているのです……!!」
「ぼ、僕は、領主の息子でっ――」
「領主の息子だから許される――?! そんなわけないでしょう!
領主の息子だからこそやってはいけない、許されない行為を、貴方はやってしまったんですよ!
貴方は裁かれます……そして、領主たるお父様の顔に公的な形で泥を塗る――そんな事も分からないで行動したんですか、貴方はっ!!?」
「――あ、あぁぁっ」
ラルに強く厳しく明確に指摘された事で、コーソムさんは自分の行動とその『結果』を直視したようだった。
おそらく彼は、あくまでこれまでの行動の延長線上で軽く考えていたんじゃないかな。
領主の息子の悪ふざけ、ぐらいで。
それゆえに、自分の行動は批判されても裁かれはしないと高をくくっていたんだと思う。
そして、それだけ必死だったんだろう――お父様との関係を繋ぐ事に。
だけど、違う。
どんな理由や思惑があれど、彼がやってきた事は領主様の息子としてするべきじゃないよね。
今日の事を抜きにしても、素行の悪さや領主の息子としての強権使用、それらは領主の威厳を失墜させる事に他ならないだろうし。
それをこれまでなあなあで済ませてきたがゆえに、決定的な一線を彼は間違えてしまったんだと思う。
「……何故ここに割く神官が少ないのだと思いますか?
蘇生する人々への配慮でもありますが、そもそもここで起こる事は全て水晶で記録されるがゆえです。
良からぬ行動を取ったものは全て筒抜けになることそのものが愚かな行為を抑止できるからです。
――貴方はいくらでも誤魔化せるとでも思っていたのかもしれませんが、私がこうして知った以上、絶対にそれはさせません」
「ぼ、僕はどうなるんだ――?」
「先程も言ったとおり、裁かれます。
公衆の面前で罪を読み上げられますし、これまでの行動についても言及されると思われます」
静かに告げられて、コーソムさんの顔が青白く染め上げられていく。
そんな彼に、ラルはひどく悲しそうに呟いた。
「こうなったのは、私達の責任でもあります。
あの二人の子供だからと、心の何処かで叱る事、悲しませる事に躊躇いを覚えていた結果がこれです――。
だから、せめて私は共に――」
「あの、いいかな、ラル」
ラルのそこから先の言葉を察して、私は声を上げた。
昔何があったのか、私には分からない。
だけど、ラルの様子から、彼が――コーソムさんがこうなるに至る責任をラルが感じているのは間違いないようだった。
そして――それゆえに一緒に責任を取るつもりでいるみたい。
でも、ラルにそれをさせるのは、ちょっとね。
単純に彼の行動の責任は彼自身にあり、ラルに――悪く言えば『巻き添え』になってほしくないというのもあるけれど。
私自身が彼に『今のままでいいのか?』と問い掛けたばかりだったから、という理由も小さくはなかった。
だから私は――こう尋ねていた。
「被害者が、裁きを望んでいない場合、この世界ではどうなるのかな」
と。
それから、時間は少し流れて。
「――よかった」
私は、ベッドに眠っている彼女――レーラちゃんの無事を確認して安堵の息を零した。
私が一度死んでから約半日が経っていた。
死んで、身体が神殿で再構成されて蘇生するまでに大体30分程だったんだって。
蘇生までの時間には個人差があって、なんでも死への耐性や精神力が高いものほど蘇生までの時間を短縮できるそうだ。
レートヴァ教聖導師長ラルエルこと、ラル――少し年上だと本人は語っていたがファージ様との話しぶりから察するに、私の想像より少し……いややめておこう――がそう語っていた。
ちなみに、私の蘇生は相当に早かったらしく、多くの蘇生を見てきたラルが知る中でも5本の指に入るらしいですよ、ええ。
『紫苑は、やっぱり強い子ね。あぁぁ、そういうところも素敵っ!』
前半は穏やかに、後半は興奮気味に語って抱き着いてきたラルを思い出す。
死んだ事で心配をかけてしまっていて、改めて話した際は涙を浮かべてくれた事も。
――私なんかにはもったいないなぁと思いながらも、すごく嬉しかった。
しかし私が(精神的に)強いかどうかは正直怪しいんじゃないですかね。
多分、何か死への抵抗値が高かったとか、陰キャゆえのネガティブ思考が少なからずいい方向に作用したとかそういう偶然だろうね。
なんせ精神的にはある意味毎日ギリギリだからNE☆
――いや、自慢できることじゃないんですが……やはり私に存在価値はないのでは?(定期的ネガティブ)
とは言え、蘇生が早かったのはありがたかった。
ここで時間はあまり無駄に出来ない――なんせやるべき事は山のようにあるしねぇ。
そうして、神殿での様々な出来事を終えて、外で待っていた守尋くん達と合流したのだが、これまた大いに心配の言葉を掛けてもらったんだよね。
特に守尋くんは尋常じゃない位慌てた様子で、こちらが申し訳なかった。
人が良い彼らの中で特に人が良い彼なので多分しんがりを引き受けさせてしまった、と思っているのだろう。
なので心配してくれた事への謝罪と感謝を伝えつつ、自分が望んだ事だから、と気に病まないでほしい旨もどうにか説明した。
――彼の幼馴染の伊馬さんの視線が少し怖いというか痛かったですね、はい。
ともあれ、そうして皆揃った私達は使わせてもらっている寮へと帰った訳なんだけど――そこで私は、レーラちゃんが体調を崩していた事を聴いた。
実の所、朝頃から調子が悪かったとの事だったが、今日は大事な日だからとレーラちゃんが伝えないでほしいと懇願していたらしい。
それを面倒を見てくれていた酒高《さけだか》ハルさんから聴いて、私は自分が思った以上にいっぱいいっぱいになっていたのだと反省した。
「そういう君だからこそ黙っていたんだろう。
一応言っておくが、必要以上に謝ったりしないようにな」
「うん、その方がいいよ。
レーラちゃん、貴方の事大好きだから、悲しい顔は逆に悲しませると思うよ」
私の表情から思い詰めていると感じたのか、
一《はじめ》くんと酒高さんに優しく釘を刺してもらった。
つくづく私は周囲に、素敵な縁に恵まれていると感じた。
うう、私なんかには勿体なさ過ぎる……でも、正直めちゃ嬉しいです、ええ。
私もその素敵さを周囲に広げられる一助になりたいなぁ。
もっとがんばらねば、という決意を込めながらレーラちゃんの頭を撫でる。
熱はもうないようだし、苦しげな様子もない――ひとまず安心。
ずっと看てくれていた酒高さんにただただ感謝です。
そして良い子過ぎるレーラちゃんにも……今度お詫びになんでも言う事聞いてあげたいなぁ――うふふふふ。
出来ればこのまま目が覚めるまで一緒にいたいんだけど、皆との話し合いをしなくちゃなんだよね。
なので、以前街を一緒に歩いていた時に購入したぬいぐるみを傍に置いておく。
その下に、この世界の文字で『今話し合いをしてるから寂しくなったら来てね』と書いたメモも添えて。
――レーラちゃんは記憶を喪失こそしているが、読み書きはしっかりできるみたい。
その辺りの情報も含めてレートヴァ教の方々に家族の捜索を頼んでいるが難航しているようだった。
正直厳しい状況だとは分かってるけど……見つかってほしいな、うん。
そうしてレーラちゃんの無事をギリギリまで確認し、しっかり布団を掛けた上で、私は皆が集まれる食堂へと足を向けたのでした。
さて、これからどうしたものやら……私は私にできることをがんばろう、うん。
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