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42 襲撃者は顔なじみ――困るよね、身内相手って
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いよいよ訪れた領主様からの依頼決行当日。
聖導師長ラルエルことラルを伴い、許可証を見せて、私達――私・八重垣紫苑と堅砂一くん、そして守尋巧くん達冒険組の大半を合わせた、総勢十名は結界領域へと進んでいった。
外周を魔力効果を伴う塀に囲まれ、その内部はさらにちょっとした林に囲まれている領域。
私達の目的地はその中心部の一番開けた所であるらしい。
そこにかつては確実に存在していたドラゴン――その体内に呑み込ませた形で撃ち込んだという、結界の要たる神域結晶球。
その回収こそが私達の達成目標だ。
ドラゴンが呑み込んでいた結晶が回収できる=すなわちドラゴンの消滅であり、
ドラゴンがいないのであれば他の魔物の討伐は容易い、もしくはドラゴンさえも消え果てた結界に他の魔物が生き残っているはずはない――この領域は安全、という図式が成り立つからですね、ええ。
私的には少し暴論な気もしたけど、実際一番強い存在さえいなければどうにかなる公算が高いのも事実だろうし、うん。
もしも何かの理由で依頼の遂行が難しくても、期間内に遂行できれば問題ないから気を楽にするように――そんなラルの言葉もあって、当初の私達は程良い緊張感だったんじゃないかな。
だけど、その緊張感が緊迫感を伴った形へと変化する事にさして時間はかからなかった。
私達の前に少しずつ魔物が現れるようになっていったのだ。
しかもただの魔物ではなかった。
それはすでに死んでいると思しき魔物達だった。
ゴブリンやオーク、グリズリー、レッサーデーモンなどなど――この近辺で見かけた魔物達が種族関係なく一丸と襲ってくるそれが、結界の影響ではない、異常事態なのはラルの厳しい表情と言葉で理解できた。
『ここは、結界領域なのです。
魔の力を大きく減退させ、弱まれば弱まる程に浄化を促す空間――その中で、魔物の死体が意志を持つかのように歩き回るなんて……ありえないんです――!』
常識から外れている事柄――いつもの私ならホラー展開にビビってたかもしれませんね、ええ。
だけど、今回に限って私には心当たりがあったんだなぁ、これが。
そう。
神の権能の一端たる、私達が持つ『贈り物』であればそれはおそらく可能で、その持ち主は――。
だけど、それを伝えようにも襲い来る魔物達の波に圧されてままならなかった。
幸いに、と言うべきか。
死んでいる魔物達は、死に値する攻撃を繰り出す事で再び倒れ、起き上がる事はなくなるようでした。
だけど、ここで死んでいる魔物は尋常な数じゃなかったんだよね……困った事に。
動く死体らしくというべきか、その動きは生きていた頃よりも鈍い。
だが何故か振るう力は上がっていて、まともに当たれば大きなダメージになってしまうため、皆十二分な警戒・回避を行い、神経をすり減らしていった。
そうして追い立てられていく内に、最初こそ勢いよく倒していた守尋くんたちも徐々にその速度を落とし……いつしか私達は外壁まで追い詰められていた。
さらに押し寄せる軍勢の中、一際大きな影が見え――次の瞬間、私の視界がステータスの能力で真っ赤に染まった。
それで私達全員を覆いつくすほどの広範囲、かつ強力な攻撃が来る事を悟った私は、全力で魔力による障壁を展開したんだけど……黒い炎の奔流にあっけなく砕かれました。
その結果が、今現在である。
「――みんな、無事でよかった」
私が所持している『贈り物』――ステータスで全員の無事は確認できた。ダメージも極少ない。
いや、ホントよかった、うん。
展開した魔力の壁は無駄ではなかったけど、それよりもその直前に堅砂くんが氷の魔術で炎の威力を軽減、
さらにその際放った角度で絶妙に攻撃の方向を逸らしていたのが大きかった。
流石でございますね、ええ。
咄嗟に展開して不十分な強度の光壁でもどうにか最低限の壁の役割を果たせたのは、ひとえに堅砂くんのお陰――とだけ言いたかったんだけどね。
実際には少し違っていて、おそらくは手加減されたのだ。
だが、なんにせよ皆のダメージが最小限に収まったのは良い事だ。
堅砂くんが天才過ぎるのも変わらないしね、うん。
「八重垣――!」
「紫苑……!!」
堅砂くんとラルの声が重なる――2人共心配そうなので「大丈夫大丈夫」と笑っておく。
ただ、一番真正面にいた結果、大きく吹っ飛ばされた拍子に頭を打って、顔面が血塗れなので無事じゃなさそうに見えるだけ――あ、ちょっとクラッと来た。
「大丈夫――うふふふ、なんか、こう、なんでしょうねこの浮遊感、今にも天にも昇れそうな……」
「「「昇るなぁ!?」」」
「八重垣さんが一番大丈夫じゃないだろ……!! 廣音、早く回復を――!」
皆の見事に唱和した突っ込みの後、
守尋くんが慌てて伊馬廣音さんに回復を呼び掛けた……
その時、私達の眼前にソレが改めて舞い降りた。
「何故――――こんなこと、ありえない――――?!」
ラルがこれ以上ないほどの戸惑いの表情を浮かべ、私の側に駆け寄った堅砂くんが顔面を蒼白にし、皆ただ茫然と立ち尽くしていた。
そこにいる存在に、ただただ圧倒されていた。
「――ドラ、ゴン」
その威容の前に、私は思わず呟いていた。その存在の名前を。
私達、そして真っ赤に染まった私の視界の中、全身を腐敗させたドラゴンが咆哮を上げた。
その咆哮だけで、私達の身体がにビリビリと震える――そんな中。
「ははははははは! おいおい皆ビビってんなぁ! 情けねぇ!」
ドラゴンを挟んだ向こう側から聞き覚えのある声と共に、良く知っている面々が姿を現した。
私達から離脱して、領主様の息子さん・コーソムさんの所へと転がり込んだ、寺虎狩晴くん達だ。
彼らはドラゴンの存在を意に介さずに、いや、むしろ共に並び立ちながらボロボロの私達を眺めていた。
「――これは、一体どういうことですか?」
真っ先に声を上げたのはラルであった。
気圧されるほどの厳しい表情で問い掛ける様に、寺虎くんは少しバツが悪そうな声音を零した。
――そう言えばラルにすごくデレてたね、寺虎くん。
「いや、その、あれだ。アンタに迷惑をかけるつもりはなくてだな」
「現在進行形で迷惑になってるだろうが。取り繕うなよ、みっともねぇ」
不愉快そうにそう呟くのはスケバン風女子、正代静さん。
彼女は黒い木刀を肩に担ぎながら言葉を続けた――私達に向ける表情は、どこか申し訳なさげだった。
「悪い。うちらは――ある奴からの依頼でお前達を邪魔する事になってる。
世話になってる以上、義理があるからな」
「ある奴って、それ言ってるようなもんだろ。あの領主の息子なんだろ?!」
「ふふふ、そんな分かり切った事よりも、あなたたちは気になるべき事があるんじゃないですか?」
守尋くんの言葉を遮るように声を上げたのは、阿久夜澪さん。
いつものように上品なお嬢様めいた言葉で彼女は自慢げに高らかに語る。
「それはこのドラゴン! そしてついでの魔物の大軍勢!!
他でもない、これらは私、阿久夜澪の――」
「おいおいどうしたよ、堅砂ぁ! さっきから全然喋らねぇじゃないかよ、おい!」
「――ちょっと、今はわたくしが話してるんですよ?」
「まぁまぁ、ちょっと待ってくれよ。アイツがあんなに真っ青になってるの初めて見るもんでなぁ」
さっきラルに視線を向けられて委縮していたのが嘘のように、あるいはその分を埋めるかのように寺虎くんが気勢を上げる。
その先には顔を蒼白にして震える堅砂くんがいた。
確かにそうだろう。こんな堅砂くんは誰もが始めて見るはずだ。
「お前この前言ってたよなぁ? 俺とお前どっちが強いか嫌が応にでも思い知らせてやるって。
思い知らされてるのはどっちだよ、ああ?」
「――確かに、らしくないですね。堅砂くん」
少しガッカリしたような表情を向けつつ阿久夜さんが呟く。
自分のすぐそばにある、私達の5、6倍はありそうなドラゴンの腐りかけの皮膚を愛おし気に撫でながら。
――ちなみに、彼女達側の永近くん、翼くんは、それを見てちょっと引いていた。
「貴方は、この馬鹿な人達と同列に出来ない、私側の人だと思っていたのに……残念です。
この程度の出来事に怯え竦んで真っ青になるなんて――」
そうして彼女が溜息を吐いた時だった――堅砂くんが、静かに告げたのは。
「真っ青に見えていたか――そうでないと困るからな」
「――堅砂くん、ありがとう」
直後、私は顔面に滴る血を拭い去って立ち上がった。
もう私の、そして私達の身体にダメージはない。
ホント、流石堅砂くん、頼りになり過ぎる――ふふふ、私の相方なんですよ(ドヤァ。
……あ、はい、私の方は全然大したことないんですが、ええ(定期的ネガティブ)
「お陰様で全快できたよ。回復ありがとう」
「こっちも皆の傷を全部治療完了! 助かったわ!」
私に次いで伊馬さんが回復完了を知らせる。
それに伴い、私達全員が改めて戦闘態勢を取った。
そんな私達を見て寺虎くんは呆気に取られ、阿久夜さんはあからさまに舌打ちを零した。
「――回復の為の時間稼ぎでしたか」
「まぁそんなところだ。――ああ寒かった」
そう言って堅砂くんは自分に掛けていた冷気の魔法を解除した。
そう――堅砂くんが行っていたのは、私たち全員が態勢を整えるまでの時間稼ぎだった。
自分が無様を晒していれば、確実に寺虎くんが乗ってきて挑発してくる分回復が出来ると踏んで。
でも、普通の会話でも十分時間は稼げたと思うし、わざわざ冷気の魔法で『恐怖で震えている』演出までしなくてもよかったような。
『念には念だ。それにこの場の打開のための策を色々と考えておきたかった』
思考通話で堅砂くんが呟く。
こうして皆と相談の上で、堅砂くんは演技していたのである。
タイムラグなしに皆と相談できる思考通話の便利さを改めて理解した。
そして、それを複数同時進行できる堅砂くんの凄さも――いや、ホントすごいなぁ。
『さすが堅砂くん』
『余計な世辞は言わなくていい』
『本音なんだけどなぁ』
『――なら、賛辞と受け取っておこう』
少し面倒臭そうに思考通話での会話を終えて、あたたかな風の魔法で冷えた身体を回復した堅砂くんは、やれやれとばかりに肩を竦めて見せた。
「その為にそんな道化芝居を打つなんて――ますますらしくないですね、堅砂くん。
貴方はもっと――」
「前に言ったはずだぞ、阿久夜。
必要があれば戦い、勝つために手を尽くす、それだけだとな」
堅砂くんがそう言うと、彼女はあからさまに不愉快そうな表情を浮かべ――
「堅砂くんの変化……あなたのせいですね、八重垣紫苑――!!」
「……ふひゃっ!? わ、私ぃっ!?」
何故かその怒りを私にぶつけてきたのであった。
いや、ホントに何故に?
聖導師長ラルエルことラルを伴い、許可証を見せて、私達――私・八重垣紫苑と堅砂一くん、そして守尋巧くん達冒険組の大半を合わせた、総勢十名は結界領域へと進んでいった。
外周を魔力効果を伴う塀に囲まれ、その内部はさらにちょっとした林に囲まれている領域。
私達の目的地はその中心部の一番開けた所であるらしい。
そこにかつては確実に存在していたドラゴン――その体内に呑み込ませた形で撃ち込んだという、結界の要たる神域結晶球。
その回収こそが私達の達成目標だ。
ドラゴンが呑み込んでいた結晶が回収できる=すなわちドラゴンの消滅であり、
ドラゴンがいないのであれば他の魔物の討伐は容易い、もしくはドラゴンさえも消え果てた結界に他の魔物が生き残っているはずはない――この領域は安全、という図式が成り立つからですね、ええ。
私的には少し暴論な気もしたけど、実際一番強い存在さえいなければどうにかなる公算が高いのも事実だろうし、うん。
もしも何かの理由で依頼の遂行が難しくても、期間内に遂行できれば問題ないから気を楽にするように――そんなラルの言葉もあって、当初の私達は程良い緊張感だったんじゃないかな。
だけど、その緊張感が緊迫感を伴った形へと変化する事にさして時間はかからなかった。
私達の前に少しずつ魔物が現れるようになっていったのだ。
しかもただの魔物ではなかった。
それはすでに死んでいると思しき魔物達だった。
ゴブリンやオーク、グリズリー、レッサーデーモンなどなど――この近辺で見かけた魔物達が種族関係なく一丸と襲ってくるそれが、結界の影響ではない、異常事態なのはラルの厳しい表情と言葉で理解できた。
『ここは、結界領域なのです。
魔の力を大きく減退させ、弱まれば弱まる程に浄化を促す空間――その中で、魔物の死体が意志を持つかのように歩き回るなんて……ありえないんです――!』
常識から外れている事柄――いつもの私ならホラー展開にビビってたかもしれませんね、ええ。
だけど、今回に限って私には心当たりがあったんだなぁ、これが。
そう。
神の権能の一端たる、私達が持つ『贈り物』であればそれはおそらく可能で、その持ち主は――。
だけど、それを伝えようにも襲い来る魔物達の波に圧されてままならなかった。
幸いに、と言うべきか。
死んでいる魔物達は、死に値する攻撃を繰り出す事で再び倒れ、起き上がる事はなくなるようでした。
だけど、ここで死んでいる魔物は尋常な数じゃなかったんだよね……困った事に。
動く死体らしくというべきか、その動きは生きていた頃よりも鈍い。
だが何故か振るう力は上がっていて、まともに当たれば大きなダメージになってしまうため、皆十二分な警戒・回避を行い、神経をすり減らしていった。
そうして追い立てられていく内に、最初こそ勢いよく倒していた守尋くんたちも徐々にその速度を落とし……いつしか私達は外壁まで追い詰められていた。
さらに押し寄せる軍勢の中、一際大きな影が見え――次の瞬間、私の視界がステータスの能力で真っ赤に染まった。
それで私達全員を覆いつくすほどの広範囲、かつ強力な攻撃が来る事を悟った私は、全力で魔力による障壁を展開したんだけど……黒い炎の奔流にあっけなく砕かれました。
その結果が、今現在である。
「――みんな、無事でよかった」
私が所持している『贈り物』――ステータスで全員の無事は確認できた。ダメージも極少ない。
いや、ホントよかった、うん。
展開した魔力の壁は無駄ではなかったけど、それよりもその直前に堅砂くんが氷の魔術で炎の威力を軽減、
さらにその際放った角度で絶妙に攻撃の方向を逸らしていたのが大きかった。
流石でございますね、ええ。
咄嗟に展開して不十分な強度の光壁でもどうにか最低限の壁の役割を果たせたのは、ひとえに堅砂くんのお陰――とだけ言いたかったんだけどね。
実際には少し違っていて、おそらくは手加減されたのだ。
だが、なんにせよ皆のダメージが最小限に収まったのは良い事だ。
堅砂くんが天才過ぎるのも変わらないしね、うん。
「八重垣――!」
「紫苑……!!」
堅砂くんとラルの声が重なる――2人共心配そうなので「大丈夫大丈夫」と笑っておく。
ただ、一番真正面にいた結果、大きく吹っ飛ばされた拍子に頭を打って、顔面が血塗れなので無事じゃなさそうに見えるだけ――あ、ちょっとクラッと来た。
「大丈夫――うふふふ、なんか、こう、なんでしょうねこの浮遊感、今にも天にも昇れそうな……」
「「「昇るなぁ!?」」」
「八重垣さんが一番大丈夫じゃないだろ……!! 廣音、早く回復を――!」
皆の見事に唱和した突っ込みの後、
守尋くんが慌てて伊馬廣音さんに回復を呼び掛けた……
その時、私達の眼前にソレが改めて舞い降りた。
「何故――――こんなこと、ありえない――――?!」
ラルがこれ以上ないほどの戸惑いの表情を浮かべ、私の側に駆け寄った堅砂くんが顔面を蒼白にし、皆ただ茫然と立ち尽くしていた。
そこにいる存在に、ただただ圧倒されていた。
「――ドラ、ゴン」
その威容の前に、私は思わず呟いていた。その存在の名前を。
私達、そして真っ赤に染まった私の視界の中、全身を腐敗させたドラゴンが咆哮を上げた。
その咆哮だけで、私達の身体がにビリビリと震える――そんな中。
「ははははははは! おいおい皆ビビってんなぁ! 情けねぇ!」
ドラゴンを挟んだ向こう側から聞き覚えのある声と共に、良く知っている面々が姿を現した。
私達から離脱して、領主様の息子さん・コーソムさんの所へと転がり込んだ、寺虎狩晴くん達だ。
彼らはドラゴンの存在を意に介さずに、いや、むしろ共に並び立ちながらボロボロの私達を眺めていた。
「――これは、一体どういうことですか?」
真っ先に声を上げたのはラルであった。
気圧されるほどの厳しい表情で問い掛ける様に、寺虎くんは少しバツが悪そうな声音を零した。
――そう言えばラルにすごくデレてたね、寺虎くん。
「いや、その、あれだ。アンタに迷惑をかけるつもりはなくてだな」
「現在進行形で迷惑になってるだろうが。取り繕うなよ、みっともねぇ」
不愉快そうにそう呟くのはスケバン風女子、正代静さん。
彼女は黒い木刀を肩に担ぎながら言葉を続けた――私達に向ける表情は、どこか申し訳なさげだった。
「悪い。うちらは――ある奴からの依頼でお前達を邪魔する事になってる。
世話になってる以上、義理があるからな」
「ある奴って、それ言ってるようなもんだろ。あの領主の息子なんだろ?!」
「ふふふ、そんな分かり切った事よりも、あなたたちは気になるべき事があるんじゃないですか?」
守尋くんの言葉を遮るように声を上げたのは、阿久夜澪さん。
いつものように上品なお嬢様めいた言葉で彼女は自慢げに高らかに語る。
「それはこのドラゴン! そしてついでの魔物の大軍勢!!
他でもない、これらは私、阿久夜澪の――」
「おいおいどうしたよ、堅砂ぁ! さっきから全然喋らねぇじゃないかよ、おい!」
「――ちょっと、今はわたくしが話してるんですよ?」
「まぁまぁ、ちょっと待ってくれよ。アイツがあんなに真っ青になってるの初めて見るもんでなぁ」
さっきラルに視線を向けられて委縮していたのが嘘のように、あるいはその分を埋めるかのように寺虎くんが気勢を上げる。
その先には顔を蒼白にして震える堅砂くんがいた。
確かにそうだろう。こんな堅砂くんは誰もが始めて見るはずだ。
「お前この前言ってたよなぁ? 俺とお前どっちが強いか嫌が応にでも思い知らせてやるって。
思い知らされてるのはどっちだよ、ああ?」
「――確かに、らしくないですね。堅砂くん」
少しガッカリしたような表情を向けつつ阿久夜さんが呟く。
自分のすぐそばにある、私達の5、6倍はありそうなドラゴンの腐りかけの皮膚を愛おし気に撫でながら。
――ちなみに、彼女達側の永近くん、翼くんは、それを見てちょっと引いていた。
「貴方は、この馬鹿な人達と同列に出来ない、私側の人だと思っていたのに……残念です。
この程度の出来事に怯え竦んで真っ青になるなんて――」
そうして彼女が溜息を吐いた時だった――堅砂くんが、静かに告げたのは。
「真っ青に見えていたか――そうでないと困るからな」
「――堅砂くん、ありがとう」
直後、私は顔面に滴る血を拭い去って立ち上がった。
もう私の、そして私達の身体にダメージはない。
ホント、流石堅砂くん、頼りになり過ぎる――ふふふ、私の相方なんですよ(ドヤァ。
……あ、はい、私の方は全然大したことないんですが、ええ(定期的ネガティブ)
「お陰様で全快できたよ。回復ありがとう」
「こっちも皆の傷を全部治療完了! 助かったわ!」
私に次いで伊馬さんが回復完了を知らせる。
それに伴い、私達全員が改めて戦闘態勢を取った。
そんな私達を見て寺虎くんは呆気に取られ、阿久夜さんはあからさまに舌打ちを零した。
「――回復の為の時間稼ぎでしたか」
「まぁそんなところだ。――ああ寒かった」
そう言って堅砂くんは自分に掛けていた冷気の魔法を解除した。
そう――堅砂くんが行っていたのは、私たち全員が態勢を整えるまでの時間稼ぎだった。
自分が無様を晒していれば、確実に寺虎くんが乗ってきて挑発してくる分回復が出来ると踏んで。
でも、普通の会話でも十分時間は稼げたと思うし、わざわざ冷気の魔法で『恐怖で震えている』演出までしなくてもよかったような。
『念には念だ。それにこの場の打開のための策を色々と考えておきたかった』
思考通話で堅砂くんが呟く。
こうして皆と相談の上で、堅砂くんは演技していたのである。
タイムラグなしに皆と相談できる思考通話の便利さを改めて理解した。
そして、それを複数同時進行できる堅砂くんの凄さも――いや、ホントすごいなぁ。
『さすが堅砂くん』
『余計な世辞は言わなくていい』
『本音なんだけどなぁ』
『――なら、賛辞と受け取っておこう』
少し面倒臭そうに思考通話での会話を終えて、あたたかな風の魔法で冷えた身体を回復した堅砂くんは、やれやれとばかりに肩を竦めて見せた。
「その為にそんな道化芝居を打つなんて――ますますらしくないですね、堅砂くん。
貴方はもっと――」
「前に言ったはずだぞ、阿久夜。
必要があれば戦い、勝つために手を尽くす、それだけだとな」
堅砂くんがそう言うと、彼女はあからさまに不愉快そうな表情を浮かべ――
「堅砂くんの変化……あなたのせいですね、八重垣紫苑――!!」
「……ふひゃっ!? わ、私ぃっ!?」
何故かその怒りを私にぶつけてきたのであった。
いや、ホントに何故に?
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