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26 頭が良い人達の会話って化かされそう……まぁ私は余裕で化かされますけど(胸を張りつつ)

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「それは――街の中で住む場所を探すよりはありね」

 そう言って頷くのは、レートヴァ教のこの地域での最高責任者たる聖導師長ラルエル。

 昨日の話し合いの中での私・八重垣やえがき紫苑しおんの発想は、正直未知数で私達では判断がつかなかった。
 それゆえにその是非を問うべく、一夜明けた今日の朝。ラルを訪れたのです。
 ――ちなみに鍛錬先のスカード師匠には、今も同行している堅砂かたすなはじめくんの【思考通話《テレパシートーク》】で事情を説明してもらっている。

 【思考通話テレパシートーク】の対象条件は、明確にお互いが見知っている存在である事なので、しっかり顔見知りになった時点で師匠にも使えるようになったそうだ。
 ラルに対しても使用可能な状態であったらしいけど、堅砂くん的にそれで話し合いを進めるのは失礼との事。
 こういうところ、堅砂くん真面目だなぁ。

 そんな経緯を経て私は堅砂くん、レーラちゃんと共に神殿に訪れていた。

 本当は朝も早くなるからレーラちゃんは心苦しいけど今日も面倒を見てもらうつもりだった。
 だけど私が起きて準備を進めている時にレーラちゃんも起きてきて、一緒が良い、と強く訴えられたので連れてきたのだ。
 ふふふ、頼られるというか、必要とされるのっていいですよね……生きて良い資格を得られてる感じで、ふふふふ、ふへへへへ。

 ……そうして嬉しさのあまり思わず気持ち笑みを零していたので、またも堅砂くんに突っ込まれました――お手数おかけしてすみません……やはり生きる資格がないのでは?(定期的ネガティブ)

 う、うーん、何か堅砂くんに恩返し出来る事ってないかなぁ……今度改めて聞いてみよう、うん。
 
 閑話休題それはさておき
 ラルの予定は大丈夫なのかは気に掛かったので、そこだけ思考通話テレパシートークで確認したところ、少しなら大丈夫との事で、無事に今の面会に至ったのです。

 現在私達がいるのは、個人面談を行った時の個室。
 そこで昨日の話し合いの諸々を伝えた上で意見を求めた所、ラルは少し驚いたという風情で目を瞬かせていた。  

「あぁ――流石紫苑ね。素敵な着眼点だわ」
「いや、そんなうっとり見てもらえるほどじゃないから。
 皆との意見交換があればこそだし」
「そういうところもよ、紫苑――あぁ……いいわぁ――ふふふ」
「うんうん、シオンおねえちゃん、すてきだよね」

 何処か艶っぽい――何故に?――ラルの言葉に、私の膝の上に乗るレーラちゃんが深く頷く。
 そんなレーラちゃんに、ラルがキュピーン!と擬音が聴こえてきそうな様子で反応する。
 
「――! わかりますか?」
「うん、わかるよ。わたしたち、シオンおねえちゃんだいすきなかまだよね?」
「ええ!! 仲間ですとも、レーラ――ちゃんっ」

 いや、あの、本人がいる所で言うのは――すごく嬉しいけれど照れ臭いのですが。
 というか、私へのだだ甘対応に堅砂くんがちょっと引いてる感じです。
 でも、握手する2人が満足そうなので何も言えない私だったり。
 ふひひ、ふへ――っといけないいけない。
 堅砂くんに突っ込まれそうだったので私は口元を隠した。

「……いや、口元を隠さなくても、というか、別に笑うのを禁じている訳じゃないんだが」
「ふひっ!? で、ではどうしろと!?」
「普通に笑えばいいと思うんだが……何故君は基本引きつらせ気味に笑うんだ?
 普通に笑えないというわけでもあるまいに。
 ごく自然に笑ってるの、前に見た事があるぞ」
「そ、そうなの? う、うーん……その、前向きに善処させていただきますんで、いまはご勘弁を」
「政治家か、君は。
 その返しだと善処する気がないように聞こえるが……まぁ、君だから嘘という事もないだろう。
 是非善処してくれ。
 ……で、ラルエル様」
「ふふふふふ……」
「――。
 もし可能であれば、具体的にはどういう手順で進めればいいのでしょう?
 そして、その場合領主その他の横やりは起こらないのでしょうか?」

 私と堅砂くんのやりとり、というか私を見てラルがすごく良い笑顔してるのに、堅砂くんは改めて引いておりました。
 基本のラル本当に凄まじく滅茶苦茶に綺麗だからなぁ――違いに動揺する気持ちはすごくわかる、うん。

「そうでしたね。失礼いたしました」(キリッ)

 そしてこれである。
 冷静になった、普通の時とのギャップがホント凄い。

「そもそも街の中で新たな土地を持つ、という事は貴方達が思う以上に難しい事なのです。
 町や村、それらを繋ぐ街道には魔物を拒絶する結界や魔石などの仕組みが施されていて、安全を求める人がそういう場所を利用するのは当然の事。
 もし実際に購入しようとしたら、貴方達は資金の問題だけでなく、他の問題にも遭遇する事になるでしょう。
 しかし町の外であれば話は全く変わってきます」
「つまり、そういう仕様が施されていない町の外は、価値が低い、と?」
「ありていに言えばそうです。
 ですが、当然魔物が跋扈するような場所に住めるはずもない――その部分を解決できる問題がない以上は」

 そこで私達は思わず顔を見合わせていた。
 私達のクラスメートの中には、その問題を解決し得る『贈り物』を持つ人がいる。
 そうでなくても、今からそういう用途に使える魔術や道具を探し出せれば――少なくとも可能性が限りなく低い街中の物件よりはぐっと現実味がある。

「そして領主様の横槍ですが――正直、多少はあるでしょう。
 異世界人に対して……なんというか、複雑な思いを抱く方なので。
 ですが不用意に値段を吊り上げてしまえば、後々自分が土地を開発する時などに不便が生じます。
 それゆえに、貴方達が異世界人であるという事を差し引いても、街中ほど無茶な値段の吊り上げは実質不可能です」
「なるほど、そういう事なら――可能性は見えてきたな。
 新しく建てる物件をどうするかとかの問題はあるが、持ち帰って皆で検討する価値は十二分にある」
「う、うん、あぁ、よかった――」

 私は思わず安堵の息を吐いた。

 本来今日は、朝から師匠の元で鍛錬して、魔物退治の依頼を引き受けて、という予定を考えていた。

 さらに言えば、徒歩でここまで来るつもりだったんだけど、出発の直前神官さんに出会って、折角だからと早朝のお祈りをする人達の為の馬車に一緒に乗せてもらったのだ。

 その上ラルにもこうして時間を割いてもらった――なので、ここに来た事が、言い方が悪くて気が進まないけど、骨折り損にならずに済んだ事はありがたかった。
 なにせ私の発案だからね!
 世の中に無駄なものはないと思うけど、それはそれ。
 私のせいで時間を取らせちゃった上で『ダメでした☆』は心苦し過ぎるので、ええ。

 勿論結果が分からない以上、骨折り損になったとしても来る他なかったんだけど。

「よくわからないけど、よかったね、シオンおねえちゃんっ」
「ふふ、うん、ありがとう」

 少しネガティブになりかけた所をレーラちゃんの笑顔に元気をもらう。
 なんというか、こういう時、やっぱり私達は一人で生きてるわけじゃないんだなと強く思います。

 だから私はラルにもお礼を言いたくて、声を上げた。
 
「ラル、改めてありがとう――ラル?」
「あ、いえ」

 レーラちゃんの方を見て、僅かに目を細めていたラルは私の呼びかけにハッと顔を上げた。
 ――なるほど。
 
「うんうん、わかるわかる。レーラちゃんかわいいものね」
「ええ、それも勿論。しお――」
「ところでラルエル様」

 ラルが私の名を呼ぼうとした瞬間に堅砂くんが声を上げた。
 多分堅砂くん的に訊きたい事があったから、またラルがだだ甘の状態になって、訊ね辛くなるのを避けたかったんだろうなぁと察しました。

「なんでしょう、一《はじめ》様」
「いえ、ちょっとした疑問なんですが――確か貴方方レートヴァ教の方々は、俺達異世界人の最終的な動向について口出しできなかったのでは?」

 堅砂くんの言葉にハッとする。確かにそういう話だったはずだ。
 もしかしたら私達はラルに無理をさせてしまったのではないだろうか――そう思っていると。

「……ふふふ」

 ラルは至極楽しそうに微笑んで見せた。――どことなく意地悪気な雰囲気を漂わせながら。

「ら、ラル?」
「心配は無用ですよ、一様。紫苑。
 確かに、貴方達異世界人の先々の――保護期間後の事については確かに私達は口出しできません。
 でも、保護期間中の事であれば話は違うでしょう?
 貴方達が保護期間中に新たな住居に移るというのであれば、普通に口出しもしますし、協力もします。
 それについて領主様に何を言われても知った事ではありませんね」
「――なるほど」

 そんなラルの笑みを受けて、堅砂くんも同じベクトルの笑顔を表情に形作った。
 ……実に楽しそうだなぁ、2人とも。

「どうやらラルさん、ただの聖人君子ってわけじゃなさそうだな」
「ええ、曲がりなりにもこの歳で聖導師長をやってませんから。
 化かし合いもそれなりにはできるんですよ、一《はじめ》くん」

 ラルはそう言った後、私に対してはただお茶目な雰囲気で笑って見せたのでした。
  
 


「に、似てるんだね、堅砂くんとラル」

 帰りの馬車――今回も信者さんと一緒に乗せてもらっていた――の幌の中で、他の人の迷惑にならないように私は話しかけた。
 堅砂くんはどこかつまらなそうな表情で答える。

「似てるわけじゃない。ただ思考の傾向が近いだけだ」
「そういうものかなぁ」
「ソウイウモノカナー」

 私の膝の上で、私の真似をして楽し気に呟くレーラちゃんを撫でる。
 馬車の中の信者の方々――おじいちゃんおばあちゃんが多い――がその様子に微笑みかけてくれるので、それが嬉しくて私も微笑みを返した。
 うっかりキモい笑みになってて、若干引かせちゃいましたが……すみません、ホントすみません。

 そんな私達の方を一瞥して堅砂くんは小さく息を吐いた。

「そういうものだ。
 だが、曲者具合で言えば、俺よりも遥かに彼女が上だと思うぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ。
 だが、だからこそ気にかかる――その彼女が、寺虎の件で何故俺達にあれだけ不利な条件を呑んだのか」
「そ、それは、確かにそうだね」
「何か先を見越してあえてなのか、あるいはあの彼女をして呑まざるを得ない何かしらの理由があるのか――」

 さらに何かを堅砂くんが口にしようとした、その時だった。

「っ!?」
「きゃぁっ!?」
「あわわっ!?」

 いきなり馬車がガクン、と揺れて、急激にスピードを増した。

「ど、どどどど、どうかしたんですか?!」

 一体どうしたのだろうと、私は揺れのタイミングを見計らって幌から御者席へと顔を出した。
 そこには、御者の人が必死に馬を走らせる姿と、その隣に座る神官さんが真剣な表情で進行方向を見据えていた。

 そんな中で私の問いに気付いた神官さんは、苦い表情で状況を伝えてくれた。

「少し先の方で、街から来たと思しき馬車が道を外れて横転――魔物に襲われているようです……!!」
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