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銀ランククエスト・両断蟷螂蹂躙

〜緊急クエスト・激昂する天才少女を宥めよ〜

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~緊急クエスト・激昂する天才少女をなだめよ~
 
 晴れ渡る青空、透き通った空気。

 冒険者協会内に漂う木材の香り……

 木漏れ日が差し込む窓からの日光を浴びながら、私は穏やかな昼下がりを過ごしていた。

 しかし、そんな穏やかな昼下がりは急に妨害される。

 「おい! 足手まといのべりっちょべりーさんよぉ! どぉなんだ? 自分のせいで仲間二人が昇級できねぇ気分は! なんでてめぇは恥ずかしげもなく一緒に居られんだよ?」

 カフェエリアから物騒な声が聞こえてくる。

 あれは確か銅ランク冒険者で、いつも他の冒険者とトラブルを起こしている『どらどっど』さんか?

 第四世代の落ちこぼれと言われていて、いつもああやって自分より弱そうな冒険者に八つ当たりしている。

 いわゆる小物だ。

 「……えっと、その」

 しかしべりっちょべりーさんはどらどっどさんの言葉を間に受けて、悔しそうに俯いている。

 べりっちょべりーさんは回復士だ、真っ向勝負じゃ勝てないかもしれないけどあんな小物の言葉、間に受けなくていいのに。

 私はこれ以上見てるのは不快だと思い、どらどっどの野郎に物申しに行こうとした。

 「俺だったら恥ずかしくて外も歩けねぇ! 仲間二人におんぶにだっこ! あの二人がいねぇと何にもできねぇ役立たずのくせに! なんで堂々と一緒に冒険できんだぁ? なぁ! 教えてくれよ! 鋼ランクのべりっちょべりーさんよぉ!」

 私は今の一言でプチンと来た。 あいつ、なんも知らないくせにふざけんな!

 どらどっどの野郎に飛び蹴りを食らわせてやろうとした瞬間、私の髪がふぁさりと風に揺れた。

 私の横をものすごい速さで人影が横切る。

 そして、通った人物を見て、とてもまずいことになると直感した。

 「てめぇ、今なんつった?」

 カフェエリアの空気は一瞬で凍りつく。

 桃色の髪の華奢な少女が、全身鎧の大男の首を片手で締め上げ、軽々と持ち上げている。

 戦闘経験のない私でもわかる。

 ……殺気がやばい。

 おバカな冒険者が、怒らせてはいけない人を怒らせた。

 あいつが言ったことは決して彼女たちの前で言ってはいけない言葉だった。

 今、ガチギレしているのは鋼ランク冒険者のぺろぺろめろんさん。

 超有名な女の子三人パーティーのリーダーで、その実力は金ランク冒険者にも匹敵すると言われている。

 そんな彼女を怒らせた冒険者の横には涙目のベリっちょベリーさん。

 なんだこの急展開。

 どらどっどさん……死んでしまうかもしれない。
 
 
☆ 
 数分前、お昼過ぎに早めに帰ってきたぺろぺろめろんさんたち。

 「セリナちゃ~ん! 今日のクエストは楽勝だったよ~! もしかしてうちら、一番乗りなんじゃな~い?」

 そんな陽気な声で私の元にやってくるぺろぺろめろんさん。

 「ぺろり~ん! 今日の晩御飯は奮闘しちゃおうよ~!」

 「報酬はハック村特産の新鮮な野菜詰め合わせだし! 栄養満点だし!」

 ハックの村は野菜をたくさん作っている、かなり大きな農村だ。

 今回ぺろぺろめろんさんたちが受けたクエストは、ハック村近くに現れた剣怪鳥エピュクレティル三体討伐という鋼ランククエスト。

 剣怪鳥は動きが早く、羽は剣のように硬い。

 空も飛ぶから厄介だ、しかし一体だけなら討伐難易度は銅ランク程度、剣怪鳥の殺傷力は中級モンスターの中でも低めなのだ。

 油断すれば足元をすくわれるが、この三人が苦戦する相手ではない。

 そんな彼女達がこのクエストを受けた理由は単純。

 今日の朝、私が斡旋できるクエストを見せた際、すいかくろみどさんがこう言った。

 『ねぇぺろり~ん、今日はあたし野菜の気分なんだけど~』

 『あ! 私も野菜食べたいし!』

 『え~、うちは肉食べたいんだけど~、まいっか! 肉はクエスト終わったら買いに行こ~!』

 こうして三人は迷うことなく、剣怪鳥三体討伐のクエスト用紙を持っていった。 結局肉は食うらしい。

 私は帰ってきた三人のクエスト達成手続きを始める。

 手続きしている間、彼女たちはいつものように楽しそうな雰囲気で話していた。

 「じゃああたしお肉買ってきとくね~、三百グラムでいい?」

 手続きには五分くらいかかるため、すいかくろみどさんは先に買い出しに行こうとしている。

 「いや! 五百でお願い!」

 めっちゃ食うやん、なんでこの子こんな華奢なの?

 「じゃあ私はカフェエリアで席取っておくし!」

 そうしてぺろぺろめろんさんはクエストの完了手続きを。 すいかくろみどさんが買い出し。

 べりっちょべりーさんは席を取っておくということになった、手続きがある程度済んだので、あとは冷蔵庫に保管してある報酬。 ハック産の新鮮な野菜を渡すだけ。

 案内役の職員に連れられ、ぺろぺろめろんさんが冷蔵庫に野菜を取りに行ったのを見送り、暇になった私はいつものポジションで日向ぼっこをする。

 事件はそんなタイミングで起きた。

 「てめぇ、今なんつった?」

 あ、どらどっどさん死ぬなこれ。

 そう直感する程の殺気を振りまく、般若面はんにゃめんのぺろぺろめろんさん。

 「選べ、ここでぴよぴよぷりんつして頭かち割られるか、無様に逃げてさよならスラッシュかまされるか。 三秒で選べ、選べねぇならこのまま首をへし折る」

 説明しよう!

 さよならスラッシュとは、ぺろぺろめろんさんがよくモンスターの上半身と下半身を真っ二つにする技!

 上半身と下半身がさようなら!という意味を込めて、彼女たちはさよならスラッシュと呼んでいるのだ。

 って、今は解説してる場合ではない。

 どうにかしないとどらどっどさんは三秒後に無惨な姿になってしまう……

 「ちょっ! ぺろぺろめろんさん! 殺してはダメです!」

 彼女の気持ちはわかるし、私もこのクソ冒険者にはムカついている。 しかし殺してしまってはダメだ。

 慌てて仲裁に入る私。

 「なんで? うち、こいつに生きてる価値ないと思うけど?」

 ぺろぺろめろんさんのアイアンクローは、どらどっどさんの鎧にめり込み、みしみしと音を上げている。

 あの鎧、鋼鉄兵器アシルジュエの素材で作られてるから、めっちゃ硬いはずなんだけど。

 「ごべっ、ごべっなさっ、あやまる! あやまるがらぁ!」

 「喋っていいなんて許可してないけど?」

 無様に泣きながら謝罪するどらどっど、しかしぺろぺろめろんさんの腕は血管を浮き上がらせ、さらに怒りをあらわにする。

 「殺してはいけません! そんな冒険者を殺してしまったせいでぺろぺろめろんさんが冒険者を続けられなくなるなんて嫌です! 無論その冒険者は二度とあなたたちには近づかせません! ですからここで殺してはダメです!」

 「だけどこいつ……何も知らないくせに!」

 歯をギシリと鳴らし、悔しそうな表情のぺろぺろめろんさん。

 どらどっどさんの鎧はメキリと悲鳴をあげ、クシャりと歪む、このままじゃ本気でまずい! 首が折れる五秒前!

 首を絞められているどらどっどさんはすでに泡を吹いて白目を剥いていた。

 「ぺろぺろめろん殿、そこまでだ! 私もその男を許すことはできない! だが、ここでその物を殺す事を、べりっちょべりー殿は望んでいない。 無論、私もだ!」

 救世主のようにぺろぺろめろんさんを止めに入ったのは香芳美若こうほうびわかさん。

 いや、言い直そう。 香芳美若様だった!

 急遽現れた救世主、香芳美若様の声を聞いてぺろぺろめろんさんは少し落ち着いたのか、昏倒したどらどっどさんを乱暴に放り投げた。

 どらどっどさんは力なく横たわり、脚をぴくぴくと痙攣させている。

 「セリナ殿! 私から一つお願いしたい!」

 ぐったりと横たわるどらどっどさんを睨んだ香芳美若様は、私に向けて声を上げた。

 「二度とその不快な男に、この協会の扉を跨がせることを禁じていただきたい! 私は一度、べりっちょべりー殿と共に仕事をしたことがある。 共に仕事をしたのはたった一度だけだが、私は彼女を尊敬しているし、あの戦いを共に乗り越えた仲間を侮辱されたのは断じて許せん! 不快だ、今すぐ叩き出してもらおう!」

 私はすぐにどらどっどを外に放り出そうとした。 しかし重すぎてピクリとも動かない。

 嘘でしょ?

 ぺろぺろめろんさんはこんな重い人を片手で、しかもあんな長時間持ち上げてたの?

 結局、香芳美若様が運ぶのを手伝ってくれた。
 
 
☆ 
 冒険者協会の奥にある応接室で、私たちはクルルちゃんにお説教されていた。

 しかしぺろぺろめろんさんはずっとそっぽを向いている。

 「クルル殿、失礼ながらぺろぺろめろん殿が注意される言われはないかと思われる」

 「そ、それはそうなんだけどね、冒険者協会の決まりで一応注意はしないといけないの……」

 クルルちゃんもぺろぺろめろんさんの気持ちをわかっているのだろう、困った顔で香芳美若さんに対応する。

 「また、『そういう決まりだから』で片付けるんっしょ? あんたらのやり口は知ってんだよ」

 ぺろぺろめろんさんの一言に、俯いて黙り込むクルルちゃん。

 なぜならクルルちゃんもぺろぺろめろんさんが激怒した理由を知っているから。

 「……角雷馬コルシュトネール討伐の際のことを言っているのですよね? 協会本部の対応は、私自身も納得していません。 無論、ここで働く受付嬢は全員私と同じ気持ちかと思います」

 「別にうちはあなたに対して怒ってるんじゃない、あいつらのあの発言がっ! ……何よりも許せないだけ」

 クルルさんは申し訳なさそうな顔をした。

 角雷馬【コルシュトネール】数週間前、平原エリアに突如出現した上級モンスター。

 上級モンスターとは言ってもピンキリだ。

 このモンスターは割と討伐しやすい方で、討伐難易度は金ランク程度。

 しかし能力はかなり強力だ。

 常に高圧電流を纏っていて触れば感電する、触っただけで麻痺して動けなくなってしまう上に動きも早い。

 麻痺して動けなくなればすかさず角雷馬の鋭いツノで串刺しにされる。

 鋼鉄兵器の素材で作った鎧なら串刺しは免れるが、電流は防げない。

 討伐するには感電覚悟の一撃必殺を食らわせるか、遠距離攻撃で触らないように倒す必要がある。

 だが、当時まだ冒険者になって四十八日しかたっていなかったぺろぺろめろんさんたちは、たった三人でこのモンスターを討伐した。

 銅ランク冒険者三人のパーティーが、金ランク相当のモンスターを討伐してしまったのだ。

 瀕死の重傷を負ってしまったが、討伐した事実は変わらない。

 この事実に協会本部も困惑したらしい。

 角雷馬は本当は弱いのではないか? ぺろぺろめろんさん達が強すぎるだけなのか?

 そして協会本部は彼女たちに、特例で金ランク冒険者に上がらないかと話を持ちかけた。

 ——ぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんの二人だけに。

 そうすれば角雷馬が弱いという矛盾も無くなるし、ぺろぺろめろんさん達が強すぎたと言うことで丸く収まると思ったのだろう。

 無論、彼女たちは納得しなかった。

 私も、その決定を聞いた瞬間怒りで周りが見えなくなった。

 そして私はぺろぺろめろんさんと、怒りに身を任せて本部に殴り込んだ。

 しかし、どれだけ抗議しても本部の言い分は変わらなかった。

 べりっちょべりーさんは回復士だ、回復しか取り柄がない冒険者が金ランクになるのは、他の冒険者からの反感を買う。

 そんな理由で二人だけにランクアップの話を持ちかけた。

 だからぺろぺろめろんさんは協会本部に「私たち! ズッ友だから! べりちょんが金に上がんないとうちらも金にならないし! これ、決定事項だから! そう言うことでよろ!」と言い残し、本部の扉を蹴り壊して出て行った。

 だからこそ彼女たちは協会本部の決まりに対し忌避きひ感を表すのだ。

 
☆ 
 応接室を後にした私たちは、すいかくろみどさんと鉢合わせる。

 紙袋を大事そうに抱えたすいかくろみどさんは、不思議そうな顔で私たちを見る。

 「え? ……何? 何事? なんで応接室からでてきたん? つーかなんでびわみんとセリナさんもいんの?」

 全く状況が把握できてないすいかくろみどさんは動揺している。 びわみんって香芳美若さんのことかな?

 「あ~、えっと~、先にご飯の準備お願いしていい? うち、ちょっと散歩してくるわ~」

 そう言ってぺろぺろめろんさんは足早に去って行ってしまった。


☆ 
 「以前も何度か同じような事があってな、その場に居合わせた私が止めた事がある、今回も止めようとしたのだが、止めに入る前にぺろぺろめろん殿がきてしまった」

 「びわみん……」

 カフェエリアに移動した私たちは、すいかくろみどさんに事情を説明していた。

 香芳美若さんは正義感がかなり強い、以前も同じような嫌がらせがあり、それを止めていたらしい。

 彼らしいなと思った。

 するとべりっちょべりーさんはおずおずと口を開いた。

 「くろみっち、黙っててごめん。 迷惑かけたくなかったの。 私があんなふうに言われてるって知ったら、ぺろりんきっと……苦しんじゃうって思って」

 べりっちょべりーさんはずっと浮かない顔をしている。

 「ねぇ、べりちょん。 ぺろりんがランクを上げない本当の理由……知ってる?」

 すいかくろみどさんは、急に昔の事を語り出した。
 
 
☆ 
 冒険者育成学校にいた時から、ぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんはかなり有名だった

 千年に一人の逸材だとか、冒険者の期待の新星だとか……

 王城からも騎士団へのスカウトが来たらしい。

 二人はそのスカウトを蹴って冒険者の道を選んだのだ。

 しかし、べりっちょべりーさんも能力は間違いなく逸材だった。

 二種類の回復魔法を両方使える回復士など、片手で数えられる程度しかない。

 その上彼女は強力な浄化魔法や支援魔法まで使うことができる。

 にも関わらず世間の注目は二人に集中した。

 それもそのはずだ、理解はできる。

 すごい強いモンスターを倒せる冒険者と、すごい怪我をしても短時間で治せる冒険者。

 どちらがすごいかと聞かれれば大半の人間はモンスターを倒せる冒険者と答えるだろう。

 その事に二人は不満を持っていた。

 評価されるべきは自分達ではなく、ただ強いだけの冒険者なんかより仲間の命を守れる冒険者こそ評価されるべきだと。
 
 「ぺろりんがあんなに無茶な特攻を仕掛けられるのはね、べりちょんが後ろにいるからなんだよ? 『自分よりもすごい冒険者が、自分が戦いやすいようにサポートしてくれるから』って言ってね。 角雷馬を倒せたのも『べりちょんがいたから迷わず全力で無茶できた』って。 っつーかあたしら、べりちょんいなかったら確実に死んでたくね? ちょ!なんで二人が泣いてんのさ?」

 すいかくろみどさんの話を一緒に聞いていた私と香芳美若さんは、すでに号泣していた。

 感動してしまって涙が止まらない。

 すいかくろみどさんは号泣する私達を半分呆れ顔で見つつも話を続ける。

 「だから、あの子はずっと言ってるよ。 『うちよりすごいはずのべりちょんがランク下になるとか矛盾してんじゃん! うち認めないから! 認めちゃったらみんな感覚おかしくなるっしょ! どんなモンスターを倒したか考えるより、何人助けたかを評価した方がいいに決まってっから!』ってね」

 「ぺろぺろめろん殿っ! なんてとうといお方なのだぁ!」

 香芳美若さんがとうとう泣き崩れた。

 いや、私も同時に泣き崩れていた。

 そんな私たちをチラリと見たべりっちょべりーさんは、少しだけ微笑んだ。

 「私ね、ずっと二人に憧れてたんだ、いっぱい強いモンスター倒せてかっこいいなって。 私にはそんなすごいことできないけど、二人が戦う姿が輝いて見えたから、もっと輝いて欲しいって思っていっぱい勉強してたの」

 べりっちょべりーさんが昔のことを思い返し、嬉しそうな顔で話し続ける。

 「だから私、セリナさんにニックネームつけてもらった後、二人はきっといつもの場所にいると思ってね、仲間に入れてもらいたくてお願いしに行ったんだ。 すごい回復士になって、私が二人をもっともっと輝かせてみせる! って思って」

 べりっちょべりーさんの話が終わったかと思われた瞬間、私たちのテーブルに大きな鍋が勢いよく置かれた。

 全員が何事かと思い、鍋を持ってきた人物に視線を集める。

 「だったらさ! 今度はうちらがべりちょんを輝かせる番だから! そう言うわけで、気合い入れるために鍋食べよっか!」

 ぺろぺろめろんさんはニコリと歯を見せ、子供のように笑う。

 その愛くるしい笑顔を見た私たちも、自然と笑顔になる。

 「うち、散歩しながらうるせえクソ野郎どもにどう仕返ししてやろうか考えたんだけどね! 頭悪いからなんも思いつかなかった! つーことで、結果で黙らせるしかなくね?」

 私はこの三人がいつも言っている冒険のコンセプトが好きだ。
 
 『名誉やお金なんかよりも、楽しく冒険!』
 
 そのコンセプトが大好きだからこそ、私はぺろぺろめろんさんたちにこう答える。

 「楽しく冒険するのがコンセプトなんでしょう? 楽しくないことに思考裂いちゃダメですよ! それに、そのうるさい人たちに圧倒的な結果見せつけて、何も言えなくさせたら絶対楽しそうじゃないですか?」

 ニヤリと笑う私の顔を見たすいかくろみどさんが、笑いながら騒ぐ。

 「うっわ! 腹黒セリナさん発動したよ! 怖っ! マジ、怖っ!」

 「ちょ! すいかくろみどさん! 私のことを腹黒セリナさんとか言い出した人について詳しく!」

 辛気臭かった雰囲気は吹き飛んで、ワイワイ話し出す私達だった。
 
 
☆ 
 初めて彼女たちに会った時は、口調とか見た目を見て『調子に乗ってんな』とか『クソギャルじゃん!』とか思った。

 ギャルとかパリピ系は異世界に来る前の私とは相入れない人種だったからね。

 冒険者なめんなよ?と思いながら、せめてもの嫌がらせにこんなふざけた名前を付けたのだが……

 彼女たちはネックネームをつけたその日に三人でパーティーを組んで、瞬く間に快挙を上げて行った。

 泥だらけになって帰ってきた時も、クエストに失敗して帰ってきた時も、傷だらけになって帰ってきた時も、私の所にクエストの報告をしに来る彼女たちはいつも笑顔で楽しそうにしていた。

 私はそんな楽しそうな三人の姿を見ていて……

 いつの間にか、『——羨ましいな』って思っていた。

 この三人と友達になれたら、絶対楽しいんだろうなって思うようになっていた。

 だから私は、この三人の冒険譚が大好きだ。

 これからきっと、歴史に名前を残すような快挙を上げるかもしれない。

 例えば、回復士で初めて金ランクまで上がった冒険者! とか。

 「さっきは迷惑かけてごめんねびわみん! これ、お詫びに奢るから! セリナさんも一緒に食べよ!」

 「よ、よろしいのですか? 私などがご一緒しても?」

 急に開かれた鍋パーティーに誘われて慌てる香芳美若さん。

 「さっきも助けてもらいましたし、私からもお礼をさせて欲しいんだし!」

 慌てる香芳美若さんに、頬を朱に染めたべりっちょべりーさんが声をかけた。

 そんなべりっちょべりーさんの顔をじっと見つめるすいかくろみどさん。

 「——ねぇ、なんかべりちょん、いつもより顔赤くね? もしかして! びわみんの事が……」

 「はぁ? ちょ! くろみっちぃ! 急にいみふーなこと口走んなし!」

 口元を手で隠し、ニシシッと笑うすいかくろみどさんに対し、べりっちょべりーさんは勢いよく立ち上がりながら抗議する。

 「ええっ! べりちょん初恋しちゃった感じ?」

 「してないし! お腹すいたから早く食べろし!」

 ぺろぺろめろんさんまでもがべりっちょべりーさんをいじり始める。

 この子たちはいつも通り、楽しそうに鍋をつついている。

 いつの間にかハーレムになってる香芳美若さんは、耳まで真っ赤になって挙動不審だった……

 まぁ、面白いからそっとしておこう。
 
 それにしても今日は、この三人を変なニックネームにした事をさらに深く反省した一日だった。
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