堕天使は天使となって生きる ~若き天使の子育て論~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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第一章 転移とこれから

一節 堕天使、強制転移を食らう

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 親を亡くし、しばらくして妹を亡くす。妹を亡くした直後に悲しみと恨みは強力な起爆材となって怒りが爆発、奇しくも怒りの爆発により彼の能力は開花することになった。
 その能力は、一般人はもとい、軍人をはるかに凌駕するに至り、齢十五にして軍に囲い込まれ戦略兵士となり、十六で精霊にその力を認められ最強に名を連ねることになった。
 それと引き換えに、彼は著しい感情抑制状態、生きた屍とまで形容されるに至る。
 彼は少女の押しに負け、自分に負けて彼女ができた。彼女に空感情を察知されフォローされるうちに多少の感情が戻り自分に負けてしまった。
 軍としては生きた屍である方が都合はよかったのだが、衆人の目の手前、それを許容せざるを得なかった。そもそも、そのような少年を生んでしまったのは軍の失態であり、少年に暴露されればたまったものではなかったのだ。
 気づいた頃には遅かったのだ。
 一人の少年として見た場合、感情の回復は喜ばしいことである。
 しかし、戦略兵士として見ればどうしようもなく扱い辛い。
 感情の回復の経過を見た場合、それはあまりにも中途半端、予測ができない。時代が進んだ今、人権は無視できない。しかも軍の透明化要求は激しく、監査が入っている時に、暗部は増やせない。
 だから軍は、少年の感情回復に貢献し彼女を作れるに至ったとし、人権を認め、少女の功績を認めるスタンスを取るに至るのだった。
 その後に妹は他国の戦略によるクローンを用いた偽造死が判明し鬱を患いつつも、彼は妹と感情を取り戻すのだった。
 軍はこれに多大な貢献をしたことを彼に発表させ、彼のように身内を亡くした世論を真っ二つに割りながらも、軍の中で戦略兵士として彼の立場を確立した。
 真っ二つに割れた世論の批判から彼と彼のように身内を取り戻した人たちを守るというスタンスを確立することで、軍としての体面を保つのだった。
 思い返してみれば、立ち回りが下手だ。
 まぁ、囲ったら監査が入って動き難かった上に、その少年が監査対象に入れられてしまったのだ、仕方がない。
 この軍の取った戦略は、寧ろ監査員が取らせたと本人達から聞いたのだ。
 自身は割と真面目に『余計なことを』と思っている。
 機械的に業務をこなしていた方が楽だからに他ならない。無論、監査員は戦略兵士としての立場を確立させてしまったことを悔しがっていた。
 『やりきれないんなら手を出すな』と怒れるだけの感情を取り戻してしまったことにも、煩わしさを感じた。
 とは言えだ。
 こうなってしまっては、それらすべてがどうでもよく思えてしまう。
 次元の狭間、異なる次元を繋ぐ空洞、もし、これが別次元の世界に接続されていて異世界に出た時、生きているという保証はない。
 助かったと言えるのかどうか別として、こうしていろいろ考えられるのも、魔法が使えるおかげである。
 空洞に入れられた瞬間、周囲の空気が霧散したが、苦しくなってとっさに起動した魔法によって空気を得られたのだ。
 で、空洞の行き付く先の世界、宇宙に出るのか、液体の中に出るのか、物質に埋まってしまうのか、はたまた重力で物質に叩きつけられるのか、待つのはほぼ確実な死だ。
 無論、そこには拾う事のある生もあるが、考えるだけ無駄だ。
 バカバカしい。
 両親が死んでから自身の存在意義は一重に妹と言う存在に尽きる。
 その先までは考えてはなかったのだが、妹が独り立ちするまでは何をしてでも不自由させるつもりはなかった。
 基礎教育が終了する十六までは生活が国によって保障されていたし、遺産もあった。ある意味では、両親の親も早くに亡くなって、兄弟姉妹がいなかったことに感謝してすらいる。
 妹がいる時は基礎教育が終了すると同時に軍に入隊するつもり満々だったのだ。力は覚醒し、得たものは大きかったが失ったものはそれ以上に大きかった。
 とはいえ、その力で妹を取り戻し、ようやく彼女も基礎教育が終了し、自分のやりたいことの為に応用教育に進もう、選び放題の状態で進ませてあげられるとなった時にこれである。
 もし、戻ることができるのなら、その可能性は露ばかりではあるが、あるにはある。
 絶対に殺してやる。たとえ世界がなくなってしまおうとも。
 彼は言ったのだ。『俺の計画を台無しにしやがって』と恨みがましく。
 戦略兵士同士まともにやり合えば、都市どころか国が一つ、あるいは惑星を滅ぼしかねない。だからこそ、不意を突いた上で穏便に済む『次元境界送り』を使われた。
 無論多少抵抗はした。
 無駄だという言葉通り、勝利を確信していたのか、ここぞとばかりにべらべらと喋ってくれた。
 戦略兵士に感情はいらない。淡々と業務をこなす、国としての良心の下にしか存在しない方がよっぽどましだ。それが当人の、個人の欲望で悲しみと傷を背負わされるなど、ましてそれが戦略兵士となれば抵抗のしようがない。
 同時に自身の経験不足に怒りを覚える。どうしようもないからこそだ。
 ああ、自分の感情が煩わしい。
 今頃、妹は泣いているのだろうか。元々ではあるが、再会の時あれだけ泣いて喜んだ彼女は大丈夫だろうか。
 何とも言えぬ、適当な表現のできない空洞の景色を見つめていると、慣性のままに動いていた自身の体が何かに引かれるように、運動方向を変えた。

「なっ?!」

 いくら冷静であったとしてもこれには驚かざるをなかった。その上、自身と同じ何かに引かれてきた人間達がいるではないか。その時、攻性魔法防壁が起動したことも、驚きを助長していた。
 何かをはじいたのだが、攻性部分は迷走し霧散した。
 これにより分かったことが二つある。

 一つ、引っ張る何かは、自身を害する何かをしようとした。

 この何かを解析する特殊攻性防壁は物理攻撃にも反応し、斥候でもよほどの場所を行動をしない限り使わない代物だ。防壁と解析は相性が悪く、魔力消費が重すぎるので常用していない。
 なお、引っ張ることに関しては明確な害が認められないので反応はしない。引っ張る力自体は強くなく、慣性移動しかできない空間だから影響を受けるのだが、普段なら歯牙にもかけないような力である。だから反応しないのだ。それだけ防壁魔法は割と不便さを感じる魔法である。ないよりましだが。

 一つ、引っ張る何かはこの空洞空間にいないか、物体に特定の物質に対する吸引力を付与している。

 攻性部分は変異魔素を追っかけて変異魔素のたまり場でショックダウンを発生させるものだ。ショックダウンは電気ショックで気絶させるだけなのだが、場合によっては死をもたらすし、気絶しない場合もある。不発はないので、追いかけきれずに消滅したのだ。
 変異魔素というのは、魔力によって操られる魔素が、様々な魔法的現象を引き起こした後に、エネルギーを失っている状態を指す。エネルギー保存則上、失うという表現がまず間違っているのだが、研究が進んでいないのでひとまず失っているという事になっている。また、変異魔素はゆっくりと元の状態に戻ることも起因している。
 面倒なことになった。
 こうなるとここでできる事はほぼない。
 無論爆発等によって自分の慣性運動を制御することはできる。ただ、あてのない出口を探す為に、やみくもにそうやって魔力を消費することに意味を見いだせない。
 ほぼ無限の魔力を持つ自身であれば意味はあるが、それは魔力だけを見た時の話である。生体活動の話になれば、あの不意を突かれたときに持っていたものは、常用武装のみで携帯飲食糧はなかった。持っていたとしても四から五日を食いつなげる程度なので、たとえそうだとしてもそれまでに見つからなければ飢えで死ぬ。
 本来武装は軍の本部や支部に置いておくものだが、彼の場合は持っていても問題ない上に持っていないといけない部類なのだ。しかし、携帯飲食糧は必要な時に必要な分しか支給されないので持ち合わせなどない。
 そう簡単に出口は見つからないのだ。万に一つの可能性もないと言えるほど。
 まぁ、何かに引かれている二人と同じ方向に向かっているのだ。万に一つの可能性はあるのかもしれない。
 なるようになれ、と身を任せて数分、また運動方向が変わったかと思えば、床に降り立った。
 運動神経は良くて損はないと、しりもちをつく二人を見て思う。周りを見るに石造りの城だが、古城というほど年数は見て取れない。
 鉄製の防具を身に着け、さほど長さは見て取れない槍、腰に下げられた剣、いつの時代の兵士だろうか。
 ローブを身に着けているのは魔法使いだろうか、それが十数人、全員へとへとでぐったりしかけているところを見ると、あの空間で起こったことは彼らの仕業だろう。
 ローブの魔法使いが一人、気を失ったかのように倒れた時、両開きのドアが開いた。
 身なりを見ると、王と王妃、王子に姫だろう。
 そして、王に見える彼は開口一番こういった。

「よくぞ召喚に応じてくれた。勇者達よ」

 何が起こっているのか分からず怯えて縮こまっている少女、対象に口を開けて呆けている少年、まぁ、察せと言う方が無理な話だ。実験がてら、彼らを調べるために秘匿状態で魔法を使った。
 彼は誰に向かって勇者達と言ったのか、その真意は何なのか。更に問題があるとするなら言語だ。国が違えば言語は違うのに、世界が変われば言語も違って当然なのに、なぜ分かるのか。
 分かればそれはそれでいい。そんな考察は後ですることだ。

「今、我が国は未曽有の危機にある。故に、他世界の住人である君達勇者を召喚した。我が国を救ってくれないだろうか?」

 目は口以上の正直者だ、と誰かが言っていた。

「勝手に、そして強制だろ?」
「そ、それは・・・」

 王として、為政者としての器もないのかと思うと呆れるしかない。

「あなたは、この国の王で間違いないのですね」
「そうだ」
「はぁ?」

 呆れから一転、その声に怒気が混じった。それに兵士は反応したのか、それぞれの得物を構え、王はその怒気に狼狽えた。

「王は、この国の王は、人さらいを指示する犯罪者という事ですか。で、俺たちに隷属の魔法をかけて従わせ、勇者という響きの良い言葉で煽て、問題を解決させようと、そういう事ですか」

 声高らかに、大げさにそう言って見せると、王も含め四人は顔をそむけた。これらは、そばにいる二人に秘匿状態で使用した解析魔法で分かった事を踏まえ、彼の目から推察したものだ。
 隷属魔法にかまけて確認を怠ったばかりか、確認をすり抜けられることも想定できていなかったわけだ。お粗末にも程がある上に、国が傾くのもうなずけると言うものだ。寧ろ、それだけ逼迫ひっぱくしているということなのかもしれない。

「例え王でも、人を馬鹿にするのはどうかと思いますが?」
「ふっ、不敬な、奴を殺せ!」

 沸点も低いとなると、この国の民や貴族、兵士に同情したくなる。

「勇者とか甘美な言葉を使いつつ!」

 襲い掛かる一人目の兵士をいなし、気絶させる。全身を覆うフルプレートではないので楽なものだが。

「その実は俺たちを見下し!」

 二人は突き出した槍を捕まえ、突き出された勢いを利用し、顎に膝蹴りをあて骨を砕く。彼については正直やりすぎたと思う。

「痛いところを突かれれば、殺せと命令する!いささか民がかわいそうだと思うがいかがでしょうか?!」

 六人目の頭を床にたたきつけたところで面倒になり、彼はメガネを外して残り全員を睨み付けた。無論、本当に召喚された二人は睨み付けていない。目を閉じた状態で笑顔を向けただけだ。
 睨み付けられた全員が膝を折った。
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