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一章:出逢イハ突然ニ
再会 18
しおりを挟む払われた自分の手を眺めている安津の表情は、何故か楽し気であった。
「俺は京さんに恩がある。お前が今のままでいいって言うんなら、それでもいいぜ? 口も挟むつもりはないさ。お前のしたいようにすりゃあいい。だがな、京さんが望まない結末なら、問答無用でぶち壊すまでだ。例え誰に恨まれたとしても、だ。なあ、倶利。俺とお前は親戚だが、それだけの他人だ。俺にとっちゃあ、京さんありきの関係なんだよ。お前も親戚ゴッコは嫌いだろ? 俺もそんなものには反吐が出る。俺とお前の関係なんざ、紙切れ一枚よりも薄っぺらいもんだ。だがな、だからこそ大事にすべき関係でもあるんだよ」
自嘲気味に言い募った安津は、けっ、と悪態を吐き、我が物顔でベッドにと腰掛ける。
やる気のない欠伸を零し、ぼふん、と背中から倒れ込んだ。
「後は好きにやってくれや。俺の役目は終わっただろ」
ひらり、と片腕を上げたかと思えば、寝るわ、と言って目を瞑ってしまう。
やれやれ、と肩を竦ませ、榛伊は倶利と向き合った。
「……安津にとって君は、家族、なんだろうな」
無意識に口を出ていた言葉に、倶利が息を呑む。
唇を噛んで俯いていくのは、反論したくとも言葉にならないからなのか。
榛伊には、倶利の気持ちが嫌になる程に解る気がした。
勝手な想像ではあっても、榛伊にも絆を受け入れられない時期が長いこと存在していた。
知有と出逢うまで、榛伊にとって家族とは、不必要なものでしかなかったのだ。
自分には要らないものだった。
愛も絆も、信じられるだけの土台が存在していなかった。
「……忠樹さんがどう思おうと、それは勝手ですが。ボクには関係のないことだ。話はそれで終わりですか? それならどうぞお帰り下さい」
冷めた目に扉を示される。
扉に寄り掛かったままの後輩は、相変わらずに倶利だけを凝視していた。
「そうだな。今日のところは帰るよ。気が変わるのを待つことにする」
後輩の顔色が優れない。
帰ろうと踵を返そうとして、ずっと背中にくっついていた知有が倶利に近付いて行く。
「チユ?」
声を掛けると甥は榛伊に笑みを向けた。
無理に貼り付けた笑みではあるが、逆にそれが彼の常ではある。
「先、帰ってて」
何か覚悟を決めた強い眼差しだった。
本来ならば、一緒に連れて帰りたい。
恐らく、今の倶利にはどんな言葉も届かないのだ。
無駄に甥が傷付くと解っていて、頷きたくはなかった。
「解った。遅くならない内に帰っておいで。待ってる」
だが、他と一線を引いていた知有の覚悟を同時に嬉しくも感じていた。
保護者としての正解は解らない。
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