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一章:出逢イハ突然ニ
再会 17
しおりを挟む記憶を探っている倶利に榛伊は頷きを返した。
幼い頃の記憶は鮮明ではないのだろう。
恐らく、彼の中では主に聴取を行った刑事の印象が色濃く残っていて、後ろに控えていた榛伊はほぼ記憶にないと思われた。
それでも、記憶の端には残っているのだから、天才と呼ぶに相応しいのかもしれない。
「君の事情聴取をしたことがある。あの頃はまだ新人で、主に聴取したのは先輩だったが」
瞬く倶利が何を考えているのか、榛伊には解らない。
安津は呆れ顔を榛伊に向けてきたが無視した。
「あの傍若無人な刑事のことは覚えています。確かに、その後ろに新人がいましたね」
傍若無人とは、榛伊の先輩だった男を形容するのにまさに相応しい言葉である。
「思い出して貰えたようで助かるよ。……粟冠 倶利君。俺は君に聞きたいことがある。だが、これは職務外の行為にあたる。強制力は勿論ない。一人の刑事として真実を知りたい。七年前、何があったのか、もう一度聞かせて欲しい。勝手なお願いだと解ってはいるが、君にしか頼めないんだ」
榛伊は安津のように器用な言葉を並べ立てることなど出来ない。
実直に真正面からぶつかることしか出来なかった。
衣服の背中部分が突っ張る感覚がし、知有が強く握り締めているのだと知れる。
「因みにだが。チユが君と知り合ったことは、本当にただの偶然だ。安津とは高校でクラスメイトだった。君と従兄弟だとさっき聞かされて未だに半信半疑な状態なんだが。騙すような形になったことを、先ずは謝らせて貰えないだろうか?」
背中に張り付いている知有の体躯が震えているのが伝わってきた。
ぐりぐり、と額を押し付けてくるのは不安の現れなのだろう。
「……どうせ忠樹さんの判断なのでしょう? 責める気はありませんよ。ただ、警察の方にお話することは、何もありません」
ふっ、と短く息を吐いて倶利の目が安津にと向く。
当の本人は気にした風もなく、ニヤニヤと笑っているだけだった。
キッパリと拒絶を示す倶利の頭に安津の手が伸びていく。
「別にいいじゃねぇか、倶利。減るもんでもなし、話してやれよ。それともお前、このままでいいと、本気で思ってんのか? あ?」
ぐしゃぐしゃ、と少年の短髪を掻き混ぜる男は、とても教師とは思えない凄みをきかせている。
苦々しく歪む倶利の顔に手を移し、頬を引っ張る安津の口元は笑っているが目付きは真剣だ。
「このままで何がいけないんですか? 強制力はないのだから、話す義務はありませんよ。だいたい忠樹さんは関係ないじゃないですか。口を挟まないで下さい」
倶利の手が安津の手を払い除ける。
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