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一章:出逢イハ突然ニ
再会 16
しおりを挟む男の意味深な言葉に倶利の顔が強張っていくのが見て取れるが、少年は何も言い返さず、ただ長袖の上から左腕を掴むだけだった。
「で、坂中。倶利に話しがあるんだろ?」
入口に立ち尽くして動けずにいる榛伊に顔を向ける安津に手招きされ、漸く足が動く。
部屋の雰囲気に呑まれていた榛伊の固い動きに苦笑する安津を睨みながら、彼の隣まで歩いていく。
後ろから知有が、とことことこ、と着いて来るが、倶利の顔を見ては榛伊の背に隠れ、を繰り返していた。
それを始終不機嫌そうな表情で見ている倶利の唇は噛み締められている。
葉月は扉を押さえたまま動こうとせず、ただ倶利だけを見詰めていた。
特に何の感情も窺えないが、逆にそれが後輩らしくないようにも思える。
「浜本君?」
微動だにせず、倶利だけを凝視する葉月に思わず声を掛けていた。
彼の視線がゆっくりと榛伊に向く。
「何すか?」
きょとんとした顔で首を傾ぐ後輩は、もういつもの後輩だった。
否、と首を横に振り視線を倶利にと戻していくと、鋭い目付きで睨まれていた。
「……貴方がハルさんですか」
ぼそり、と呟かれた倶利の言葉には若干の戸惑いが混じっていたように感じられるが、それが何を意味しているのかは解らない。
「……先日は甥がお世話になったようで」
刑事だとバレた訳ではなさそうなので、保護者としての辞令的な挨拶を口にした。
なんだそりゃ、と噴き出す安津を無視し、倶利の前で立ち止まる。
連動するかのように背中に隠れている知有も止まったのが、不謹慎ながらも面白い。
「……いえ、勝手に泣いて喚いて帰って行っただけで、ボクは何もしていませんから」
ふい、と顔を背ける倶利に友好的な態度など微塵もなく、寧ろ拒絶されているのが解る。
その姿は、まるで昔の自分を見ているようでもあり、榛伊の胸にやるせなさが、じんわり、と広がっていく。
この世の何もかも、自分でさえも、彼の中では信じられなくなっているのだろう。
寧ろ、敵としてしか認識できなくなっている。
その一端を担いだのは、恐らく警察なのだ。
「……ありがとう。チユは、滅多に泣いたりしない。君のことが特別になったんだろう」
背後にくっついたまま離れない知有の頭を撫でると、知有が頬を膨らませる。
怒った顔で榛伊を睨んでくるが、うううう、と唸るだけで言葉にはなっていない。
「いい迷惑です。ボクに構わないで貰いたい」
心底嫌そうに告げた倶利の視線が榛伊の顔を捉え、思案気に双眸を細めた。
榛伊も少年を真っ直ぐに見据える。
「何処かでお会いしたことがありますよね? 警察署か?」
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