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一章:出逢イハ突然ニ
再会 15
しおりを挟むケッ、と悪態を吐く安津に即座に冷静な反論が返ってくる。
「イジメてはいません」
憮然とした語調でキッパリと言い切る倶利に、安津は尚も言い募る。
「お前にイジメた気がなくても、本人がイジメられたと感じたなら、それは本人にとっては苛めだろ? 倶利の主観と知有の主観は別物だ」
正直、口下手な榛伊では倶利を言い負かすことなど出来ないだろう。
次から次に上手いこと言葉を連ねていく男の口八丁に感心してしまう。
「……わ、かり、ました。会えば満足して下さるのなら、それで構いません」
反論を続けても勝てないと思ったのか、倶利から降参の言葉が放たれる。
「無理言って悪いな」
散々追い詰め自分の思い通りに事を運んだ癖に、倶利を気遣う安津は最大級に狡い大人に思えた。
敵に回したくはないな、と頭を掻きながら扉にと歩み寄っていく。
知有の首に腕を回している安津の隣に並ぶと、知有の手が榛伊のスーツを握り締めてくる。
視線を向けた先には不安そうな表情で榛伊を窺う知有がいた。
「大丈夫だ、チユ」
ふっ、と口元を弛め微笑を向ける。
僅かに頷いた知有の髪を撫でた後、扉に手を伸ばす。
ぎぎぃーー。
重たい木製の扉は重厚な音を上げて開いていく。
暗い部屋の中で、ぼんやり、とした人の気配を感じる。
廊下から入る僅かな光で薄っすらと見える室内に、何故か胸が締め付けられた。
「たく、電気ぐらい点けろや」
「お、い、安津」
入口で立ち止まる榛伊の背後から、ぬっ、と顔を出し、安津は壁際のスイッチを押す。
カチカチ、と音が鳴り、何度か点滅した後で暗い部屋に光源が灯る。
部屋の真ん中に立つ少年が見えた。
切れ長のシャープな面立ちに生気の感じられない瞳が印象的だった。
大人びた容貌と雰囲気で小学生には見えない。
「よお、倶利。元気してたか?」
少年の冷めた眼差しに射抜かれ動けずにいる榛伊を置き去りに、安津は慣れた素振りで倶利に笑い掛け彼の隣まで近付いていく。
「生きていると言うことは、元気なんでしょう」
嫌そうに眉間を寄せて答える倶利は、まるで生きていることが堪えられないことかのようだ。
12歳になるかならないかと言う子供が発していい台詞では決してない。
生に抱いている少年の絶望は図り知れず、その絶望の在り処が何であるのか、察している榛伊の胸中は複雑さで埋め尽くされる。
「そうかい。元気なら言うことはねぇわな。……京さんを、悲しませなきゃそれでいいさ、俺はな」
にっ、と笑った安津の掌が倶利の頭を撫で回す。
笑っていながらも彼の瞳は何処か怖いように思えた。
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