55 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
再会 14
しおりを挟むそれは突然のことだった。
だんっ、と扉に何かがぶつかり、がこん、と床に落ちる音がした。
「帰って下さい。ボクは会いたくない。大体、どうして叔父と一緒に来るんです? 保護者は関係ないでしょう?」
感情を押し殺すような、揺さぶられている想いを隠すかのような、震えた声が聞こえる。
「本題は叔父の方だ。泣き虫知有はおまけ。つぅかな、倶利。知有のこと泣かせたんなら保護者が出てきても文句は言えねぇぞ? コイツ、とんでもない叔父バカだからな。可愛い甥が泣かされたって、それはもうお怒りなんだよ。なあ、坂中」
同意を求められ咄嗟に安津を睨んでいた。
いきなり巻き込まれても、どうしていいものか見当もつかない。
警察と言うよりは知有の保護者としての方が会って貰える確率は高いのだろう。
彼の魂胆は解るが唐突過ぎるのだ。
「勝手に泣いたんですよ。ボクは泣かせていない」
硬い声で返す倶利を、安津が追い詰めていく。
普段のふざけた態度が嘘みたいに思える程に教師じみていた。
「いや、お前が悪い。七と間違えた上に比べるようなことを言ったんだってな? それは、知有には酷だ。誰にだって触れて欲しくない傷がある。倶利、お前はその傷を無断で踏み付けたんだ。正論なら何を言っても許されるだなんて勘違いするなよ、餓鬼が」
冷たく言い放つ安津に返事は返って来ない。
暫時、間を空けてから息を吐き出す重々しい音が聞こえてきた。
「解りました。謝ればいいんでしょ? 本人に謝りますから、叔父さんにはお引き取り願って下さい。保護者であれ当人同士の問題に口出しをする権利などありません」
小学生に思えない返しをする倶利に安津がニヤリと笑う。
人の悪い笑みを浮かべ、安津の腕が知有を呼び寄せる。
「残念だったな、倶利。坂中は叔父バカだが、知有はもっと甥バカでな。叔父さん大好き、叔父さんがいないと死んじゃう、叔父さんが一緒じゃないと怖くて会えない、って泣くんだよ。何たって知有は、ハル依存症だ」
困り顔で「あ、安ちゃん」と呟いた知有の顔は真っ赤だ。
怒りたくても事実と言えば事実で、否定することも出来ずに固まる知有に安津がウインクを投げる。
「……そうですね。確かに、ハルハルと煩く喚いていましたが。毎日会いに来ると言っていたのに、叔父さんと一緒でないと会えないとか、とんだ間抜けの腰抜けですね」
何故か納得してみせる倶利に、昨日の倶利と知有の会話が気になってしまう。
後に続いた馬鹿にする響きに知有の唇が尖っていく。
「家に帰って思い返してみたら怖くなったんだろ。お前がイジメるから」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
特別編からはお昼の12時10分に更新します。
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる