51 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
再会 10
しおりを挟む宏哉にズルズルと引き摺られるようにして部屋を出て行った二人の背中を眺め「さて」と榛伊も腰を上げる。
宏哉に貸しを作ってしまったようなので、その内に綾吾を懐柔する手助けをさせられるのだろう。
察しのいい男には助けられはするものの面倒事も多い。
仕事は出来るのに何故ああも変態なのか。
「浜本君、粟冠家で甥に会えるかもしれないから、少し話してみたらどうだい? 俺にはよく解らない感覚だが。互いに何かしら掴めるかもしれないし」
隣の男に声を掛けると、謎を抱える後輩は満面の笑みで頷いてみせた。
「坂中先輩の甥御さんは、思い出すことを望んでるんすか?」
葉月が椅子から立ち上がる音に混じり、無邪気な問いが聞こえてくる。
「……どうだろうね。頭痛が自己防衛だとするならば、思い出さない方がチユにとっては良いことなのかもしれない。この件についてはちゃんと話したことがないんだ」
ふんへー、と独特な相槌を打つ葉月と肩を並べて会議室を後にした。
* * * * * *
閑静な住宅街の一角に、その古ぼけた一軒家はある。
榛伊の自宅からそう離れていない距離だった。
インターホンを押して出て来た女性は、粟冠事件の被告人、粟冠 昇貴(サツカ ショウキ)の妻で倶利の母でもある京(ミヤコ)だ。
普段は看護師の仕事をしており、シフト時間も日によって昼だったり夜だったりと安定していない。
この日は休みで家にいることは確認済だった。
彼女に警察手帳を示してみせると、表情が強張る。
「突然申し訳御座いません。倶利君と話をしたいのですが、取り次いで貰えますか?」
頭を下げ伺いを立ててみるが戸惑いをみせたまま彼女は眉を顰(ひそ)めた。
「……難しいと思います。あの子は殆ど部屋から出ては来ないですし、人とも会おうとはしないんです。況してや警察の方とは……」
途中で言葉を止めた京の瞳が見開かれ、一点を見詰めて動かない。
怪訝に思い振り向いた榛伊の目に映し出されたのは、数m先から歩いてくるランドセルを背負う知有と、そんな彼の隣をかったるそうに歩く安津の姿だった。
「ハルー! お疲れ様! ……っ、こっ、こん、にちは」
ぶんぶん、と手を振り安津を置き去りにして走ってくる知有に榛伊は自然と微笑んでしまう。
榛伊の前で立ち止まった知有は京に気付き、赤面した顔を隠すかの如く頭を下げた。
「昨日は有り難う。刑事さんとお知り合いなのね。忠樹君も倶利に用事かしら?」
榛伊の背中に隠れ顔を半分だけ出す知有に京が玄関から出て来た。
知有の横に並ぶと目線を合わせ、ふわり、と微笑む。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
特別編からはお昼の12時10分に更新します。
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる