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一章:出逢イハ突然ニ
再会 09
しおりを挟む綾吾が「おい、浜本」と葉月の肩を掴んで前後に揺らした。
「お前さ。火種の残っている煙草の吸殻見て、前にパニック起こしたよな? 大きな音には全力でビビるし、ハサミもカッターも触れない。煙を見れば吐気を訴える。暴行事件の被害者を直視出来ない。前々から変だとは思ってたけどよ、お前、虐待受けてたのか?」
目を見開き「んんんぇええぇ、と、ですね」と困り顔の葉月は俯いて首を左右させる。
「わっかんないんすよ。14歳以前の記憶が、それこそ断片的でして。曖昧モコモコちゃんなんすね。別に困ったことないし、気にしたこともないんすけど。甥御さんの話を聞いて、僕もそういうのなのかなあ、とか思ったりして? ふはは、どうなんすかねー?」
むふふんふー、と訳の解らない笑い声を上げる葉月の頭を小突き綾吾が眉尻を吊り上げた時だった。
「あー、ねえねえ、ちょっと君達。そろそろさ、解散しようよ。興味深い話を聞けて楽しかったけど、あんまり厄介事には首とか足とか手とか、突っ込んだら嫌だよ? それから、佐津井君。後輩には優しくしてあげて? 浜本君はうら若き貴重な若者なんだからさ。仲良くしてね。じゃっ、解散ってことで」
何ともゆるゆるな口調の部長は、ぼけぼけ、と笑って部屋を出ていく。
毒気をごっそりと吸い取っていく男だった。
嫌いではないがシリアスな場面には相応しくない。
「浜本。何か困ったことがあったら、いつでも相談しろよ。叩いてる分ぐらいは話聞いてやる。もれなく中谷もプレゼントだ。コイツはスペック高いぞ。使えるだけ使い倒せ」
したり顔で葉月の肩をポンポンと叩いて綾吾は宏哉に視線を配らせた。
宏哉は意味深に口端を引き上げると綾吾の尻を片手で鷲掴みにする。
「先輩が奉仕してくれるなら何でも調べますよ? 俺はいつでも先輩次第です」
へいへい、と慣れた手付きで宏哉の手を叩き落とし、綾吾の目が榛伊を捉えた。
「坂中も、知有のことならいつでも相談してこい。知有以外のことで悩むことなんてどうせないんだろ、この叔父バカめ」
くはは、と不安を誤魔化すように笑う彼に首を柔く左右させる。
「俺にだって悩みぐらいありますよ、佐津井先輩。でもまあ、誰にも相談はしませんがね」
「あ? 知有以外に何の悩みがあるんだよ? 女か? 男か? 仕事のことか?」
意外そうに首を捻りブツブツと零す綾吾の肩に立ち上がった宏哉の腕が回された。
「先輩。珈琲奢るんで、坂中のことなんか忘れて下さい」
「は? 珈琲は嬉しいけど。知有しか懐に入れない坂中の悩みだぞ? 気になるだろ!」
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