CHILDREN CRIME

一章：出逢イハ突然ニ

再会 08

いつもよりも何処か真剣な顔付きの葉月に首を傾ぐ。
いつもチャラチャラとした雰囲気が、今この時ばかりは重々しい。
切羽詰まった顔で尋ねてくる葉月に違和感を覚えた。

「浜本君にはチユのことを詳しく話したことがなかったね」

疑問に感じながらも彼の持つ独特な雰囲気は今に始まったことでもないため、気にするでもなく頭を掻く。
言葉を探るように「あー、んー、そうだね」と呟いた。

「甥の家族は、彼一人を遺して飛び降り自殺を図ったとされている。状況的に見て一家心中だと思われると正式な報告を受けたのは、事件の数ヶ月後だったかな。遺書がある訳でも、目撃証言がある訳でもなかったけど、事件があった時から心中だろうとは言われていてね。勿論、最初は他殺の可能性も検討されて、自殺他殺と両方の線を視野に捜査をしていたらしい。ただ、他殺だとして、何故犯人は一人だけ無傷で生かし、全員を始末しなかったのか、説明が出来なかった。遺体にも部屋にも争った形跡はなく、自殺という結果に落ち着いた感じだな。……虐待に関しては、証拠がある訳ではないんだ。児相が一度調査に入った事実は確かにある。客観的な証拠はなく厳重注意に留まったのが現実のようだ。ただ、甥が自閉的症状をみせていることから、恐らくは虐待があったのだろうと警察でも判断していて、チユが生き残ったのはその辺りの事情だと思うと言われたよ。チユ自身は、事件後数年の間はまともに言葉を話せなかった。片言を喋るようになるのに一年と少し、意味のある言葉を口にするのにもう一年。その時になって、幼少期の記憶が断片的にしかないと解ったんだ。小さい頃の記憶なんてそんなものかもしれないけどね。甥は、家族に虐げられていたことは何となく憶えているんだよ。それでも、家族が子供部屋から落ちたことは覚えていないと言う。児相の調査報告には、自発的に動くことはなく、子供部屋から出ることは殆どなかったとあることから、警察は目撃している筈だと言うんだけどね。当の本人は、覚えていない、の一点張りだ。警察としても、あまりのショックに記憶障害を起こしているんだろうと結論付けたようだ。今もまだ、甥の記憶は戻らない」

心臓の辺りを押さえた葉月の息は荒い。
天井を仰ぐとゆっくりと口唇を動かしていく彼の瞳は何処か暗い。

「記憶障害って言うのは。虫が食い荒らしたかのように点々と、一部分だけがくっきりと見えて。怖くなると何も見えなくなる。スポットライトがいきなり消えて真っ暗闇に落ちていく、ような感じ、っすかね？」

具体的なことを聞いてくる葉月に違和感が最高潮に達する。